クロスアンジュ 天使と黒い鳥の輪舞   作:砂岩改(やや復活)

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N-WGⅨ/V

 

 

「ふぅ…疲れた」

 

 誰もいない浴場にJは息を吐きながら一休みする。大分遅い時間帯だけあって誰もいなくて久々のお一人タイム。本来ならタスクとかいう男が連絡をくれたといってメンバーは指令室にあつまっているがどうせろくな話をしないと踏んでパスした。

 

「部屋とデッキに居ないかと思ったらやっぱりここね」

 

「おう、アンジュ。ようやく俺の女になる気になったのか?」

 

「そっちの方が好み?」

 

「お前みたいなじゃじゃ馬はキツいわ」

 

 Jの冗談に対してアンジュも冗談で返す。アンジュはどこかで仕入れて来た水着を着て一緒の湯船に入る。

 

「モモカは外で待機させてあるわ」

 

「そんなに人に聞かれたくないことか?」

 

 アンジュの言葉にJは閉じた目を少しだけ開ける。

 

「私は別に良いのだけれど。一応、貴方に配慮したのよ」

 

「これは驚いた、お前から配慮という言葉が出てくるとはな。明日は弾丸の雨だ」

 

「貴方とゆっくりお風呂を楽しむつもりはないわ」

 

「冷たいね」

 

 全く気にしていない様子のJは話の続きを促す。

 

「私が無人島で遭難していたのは知っているわよね」

 

「あぁ、あの故障に関しては俺は関知してないぞ。出撃前のチェックを怠ったのはお前だ」

 

「それに関しても色々と言いたいけれど。私は寛大だから許して上げるわ」

 

「……」

 

「なによ」

 

「笑った方がいい?それともスルーが懸命?」

 

「アンタ、本気でぶっ飛ばすわよ」

 

 握りこぶしを震わせながらもアンジュは深呼吸で息を整える。

 

「話を進めるわよ、私はその時に小型のドラゴンに襲われた」

 

「それで?」

 

「それで助けられたのよ。ヴィルキスの二倍はあるだろうロボットに」

 

「ロボット?パラメイルじゃなくて?」

 

「あれは既存の機体じゃないわよ。根本的に違った」

 

「ふーん」

 

 あくまでとぼける姿勢を取るJ。彼女の言っている機体は間違いなくN-WGⅨ/Vのことだろう。あの時、意図せずだが接触したのは間違いだったか。

 

「あの気配、あの圧迫感。一度感じたことがあるわ…」

 

 初めてヴィルキスに搭乗してドラゴンを倒したあの戦闘。ドラゴンを一撃で殺した漆黒の機体《レイヴン》あの時の気配にそっくりだった。

 

「J、貴方なんでしょ?」

 

「なぜ?」

 

「貴方がライダーから整備士に転向したのは気紛れでも何でもない。あの機体を見つけたからじゃないの?」

 

「ほう…」

 

 Jの雰囲気が変わるのを感じたアンジュはほんの少しの恐れと予想が当たった確信を得ていた。

 

「あの機体は一体何?貴方は…「アンジュ…」」

 

 Jは彼女の言葉を遮り目を合わせる。蛇に睨まれた蛙のように動けなくなるアンジュ。

 

「お前の度胸は認めるが線引きを見誤ると長生きできないぞ…」

 

「……」

 

 忠告か警告か。そのどちらとも取れる彼の言葉に彼女は戦慄する。アンジュが何もできずに固まっているとJは静かに立ち上がる。

 

「着いてこい」

 

ーーーー

 

「アルゼナルにこんなところが…」

 

「俺含め、ごく一部の人間しか許されていない秘密区画だ」

 

 アルゼナル最深部。そこに連れてこられたアンジュは黙って彼の後を着いていく。

 

「昔話をしてやろう」

 

「?」

 

 ノーマもなにもない、平和な世界が存在していました。その世界は平凡でありゆったりとした進化の中。比較的平和に世界が存在していました。そこで生きていた少年は不幸な事故で死んでしまいました。

 

 彼は何もない死の世界をさ迷っていた時。黒い穴に落ちてしまいました。その時に彼は見たのです果てなき闘争を求める怨念と。彼はそれを知っていました。そこで彼はその怨念と混ざってしまったのです。

 

「そして魂が一個と少しになった彼は世界の滅びに直面しました」

 

 Jは手を上げるとアンジュの頭を掴む。

 

「なにを!?」

 

「見ろ。その方が早い」

 

「っ!?」

 

 アンジュの眼前に広がった光景は先程までいたアルゼナルではない。眼下に広がるのは廃墟。遥かに文明レベルが高い建物たちが無造作に転がっている。

 

 そして目の前には戦闘を繰り広げている黒い機体たち。

 

「あれは、ヴィルキス?」

 

《同型機だ。お前の機体には姉妹機が存在するからな》

 

 するとアンジュの背後から巨大な機体が姿を表す。

 

「あの機体は!」

 

 無人島で見た機体。それが空高く舞い、ヴィルキスたちを叩き落としていた。

 

《ここまで来ると記憶が曖昧だったが。お前と無人島で会ったときに頭が切り替わったんだよ。俺はヴィルキスたちと戦ったことがあるってな》

 

 恐ろしく強いN-WGⅨ/Vは次々とヴィルキスたちを落としていく。

 

 ー歌え…歌え…今二つの願いは…ー

 

「これは…永久語り?」

 

 男性の声が響くと同時に謎の力の渦がN-WGⅨ/Vを包む。その攻撃力に耐えきれず緑色の障壁は粉砕し機体は黒煙を上げながら墜落していくのだった。

 

《この時、俺の意識は皆無に等しかった。そして次に目覚めたのがミスルギだったんだよ》

 

 N-WGⅨ/Vを撃破した機体。六枚の羽を持つツインアイの機体がこちらを静かに見下ろしている。

 

「っ!?」

 

 映像が終わるとアンジュは意識を取り戻して目の前に立つJを見つめる。

 

「貴方はいったい…」

 

「残念ながらその答えを俺は持ち合わせていない。そしてお前の見たがっていた機体はこいつだ」

 

 Jは壁のボタンを押すと真っ暗な部屋が一気に明るくなる。その明転に耐えれずに目を塞ぐ彼女だがすぐに目を開ける。するとそこにはこちらを睨み付けるN-WGⅨ/Vの姿があった。

 

「機体名はN-WGⅨ/V。かつて世界を滅ぼした力として産み出された機体はこの世界を滅ぼすためにやって来た。この世界を滅ぼせる力、それがこれだ」

 

「この機体が……」

 

「アンジュ。アンジュリーゼ・斑鳩・ミスルギという名を捨て、この世界や他の者たちに自分を好き勝手させたくなければ全てを知り、力を持て。貴様の正義を俺に見せてみろ」

 

「私の正義?」

 

「全ての世界を焼き尽くす鳥を従えさせたいなら全ての屈辱を受け入れて知れ。でなければその鳥がお前を食い尽くすだろう」

 

 その時、アンジュはなにも言えなかった、なにも動けなかった。

 自分の肩に真っ黒な鳥が喉笛に嘴を突き立てんとしている幻覚だけがハッキリと記憶されていた。

 

 

 

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