百夜の吸血鬼 -パプティマス・シロッコ異聞ー   作:臣 史郎

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お久しぶりです、准将首になって佐官に落ちてしまった臣です。さすがに、もう歳ですなあ…

戦場の絆もついにⅡを冠するようになるようで、そうなるとまた高価なゲームにならないかと心配です。また500円に戻ったらどうしよう(;^_^A

それでは、本編をお楽しみください。


V road to theⅤ 第1話

 ふと立ち止まったパプティマス・シロッコの、見上げる先に、青空は無い。

 あるのは湿った岩盤であり、そこにぶら下げられた構造物である。

 連邦軍統合参謀本部、ジャブロー。宇宙のジオンに見つからぬよう、連邦軍の領袖たちの息を顰めるこの穴倉に、シロッコは一つの共通点を見出す。

 人工の宇宙島との共通点、それは空が無いことだ。

 宇宙島の住人達がシロッコと同じく空を仰げば、見えるのは陸地であった。

(思えば、ジオンと我ら連邦は、同じ天を仰いでいるのか)

 天を争い戦う者同士、通性を備えるのは当然と言えるのかも知れぬと、思いを致したその時、空無き空を、白い何かが無音で舞った。

(あれは…)

 紙である。

 航空を考慮した構造に折り畳まれた紙。即ち紙飛行機だ。

 上空の地上より発進したと思われるそれは地面で見上げるシロッコに対し驚くほど素直な軌道で飛来する。

 一度も曲折することなく、遥か遠隔より足元に舞い落ちたそれを拾い上げたシロッコは、その軌道を追って、それが投擲された地点を見出す。

 上空の地上、そこの構造物のキャットウォークより発進したものらしい。というのも、投擲したと思しき人物が、遠目に見て取れたからであった。

 肉眼で人間であるとは分かる。

 老若男女の区別は付かない。

 但しこれは分かった。

 飛行機の主は衣服らしいものを身に付けていないように見えた。

 軍服は愚か、肌着すらである。

(…む)

 視力は、シロッコと対等であったらしい。そうと認めた飛行機の主は直ちに構造物の中へと身を隠して消えた。どうやらシロッコを目掛けて投じたものではなく、偶然にシロッコが着地点に歩んできたものであるようだ。

 シロッコには、手元の紙飛行機のみが残った。

 あそこからここまでものを飛ばすには、炸薬を使用した銃が必要であろう。弓やスリングでは射程に及ぶまい。

(これは…製図に用いられるもの)

 広げてシロッコは、そう見て取った。

 解いて見れば、弾丸にも匹敵する飛行を見せた飛行機の前身は、5ミリ方眼の製図紙であった。

 何も書かれてはいない。

 無記入の白紙であった。

(紙切れに過ぎぬものが、在り方を変えただけでここまでの飛翔をするものか)

 折り方に相応の工夫があるものであろう。運動エネルギーと揚力の循環を、熟慮された形状に折られているのだ。

(あの住人…)

 地上の施設と直接繋がっている構造物であり、居住スペースではなかったと記憶している。

 使用する者は限られる。

(さて、何者かな)

 暫しの間、シロッコは空の無い空を見上げ、独り立ち尽くしていた。

 

*** 

 

「こうしてみると、痩せたなあ大将。ジオンの食い物はそんなに不味かったか」

「そういうお前は、一層太りおったな。ずっとジャブローの穴倉のなかで運動不足じゃないのか」

 連邦軍兵站本部長ゴップ大将は、ジャブローにおいて最上位の階級に有り、実質、ジャブロー基地司令も兼任する。

 そのジャブローで、その主ゴップと対等の口を利ける人間は極々限られている。

「本当に、よく戻ってきたな」

「こうしてこの身があるのは、貴様が色々と手を回してくれたお陰よ。先ずは礼を言わせてもらおうか」

「なに、貴様に居てもらわねば、この先儂が忙しくて敵わんからな」

「忙しくなるか」

「ああ。忙しくなる」

 ヨハン・エイブラムス・レビル大将。

 本来地球連邦軍に存在する二軍、宇宙軍司令長官と地球軍司令長官を兼任し、今や名実連邦軍の大元帥たるこの男の前のデスクには、赤と青で塗り分けられた地球圏の実効支配地図が広げられている。

 青が3に対し、赤は7であった。

「何というか、儂はここまでの敗勢を初めて見たわい」

「言うと思ったわ」

「思ったわ、ではないわい。今や地球のだいたいはインベーダー共の領土になっちまったぞ。おいレビル。やりたいようにやらせておけば貴様、こんなざまで本当によいのか」

「よい。というより、他にやりようもない。我が方の既存対空システムでザクに有効な打撃を与えられるオプションはない。ザクの降下は、防げんのだ」

 超音速で突入してくる大気圏突入ポッドを撃墜するべき高高度迎撃ミサイルはミノフスキー粒子干渉により照準すら不可能でありまた、従来型の空対空ミサイルは装甲目標であるザクに対し威力が足りなかった。空中のザクを撃墜する術は、地球連邦軍には全くもって乏しかった。

「空中撃破に成功したのは、いずれもそこそこの口径の砲を、ザクの急所に命中させた例だ。ビックトレー級の高角砲が、ザク撃墜を報じている。あとはたまたま軌道を逸れて海に降りて来たのを、たまたま近海に居た護衛艦が主砲でやったくらいだ。大昔の高射砲がまだ残っていれば、ここまで好きにはさせなかったがな」

 空中撃破が不首尾な以上、陸戦で撃破するより他にない。

 しかしそれも、対地ミサイルや戦車砲であれば辛くも破壊出来たが、それを搭載する攻撃ヘリや主力戦車は悉く、ザクの単眼を目視すると同時に返り討ちにされた。ザク頭部に集中するミノフスキー粒子干渉に対応した光学センサーは、危険な装備を搭載した連邦軍兵器を光学照準でアウトレンジすることが可能であったのである。

「水際撃破も陸上撃破も困難。しかも奴ら、地上の何処に落ちてくるか分からん。となれば、取り得る方針は限られてくるさ」

 空挺降下作戦の歴史は前世界大戦にまで遡る。

 航空機が主兵となった第二次世界大戦では、敵戦線の裏側に爆弾ではなく兵士を落下傘降下させるということが多々行われた。所謂エアボーン作戦である。ベトナム戦争のころにはヘリボーン作戦に姿を変えて、宇宙世紀に至るも有効な作戦として訓練されていた。

 戦車を始めとする装甲車両を空挺降下させようという試みは、空挺作戦草創期からあった。しかしこれほどの質量を伴う機甲勢力を空挺降下させた作戦は、古今東西に渡り類例がない。人類史上初の大気圏外からの降下作戦は、人類史上最大の空挺作戦であった。

 無類の敵に対抗するにあたって、レビルは無類の方針を定めた。

 戦わないことである。

 土地は与える。破壊したいならさせる。それらを犠牲にして、反攻の為の戦力を温存する。早い話が、地球連邦軍は守るべき土地も人々も捨てて逃げだしたのである。

「物理的にジオン共は、占領を長期にわたって維持出来ん。奴らに可能なのは我らの生産設備や生産資源を掠め取り、それが出来なけば破壊して、彼我の国力の差を可能な限り埋めて退くことだ。ならば常識的に対抗し得る選択肢は限られてくる」

「我らの反撃が本格化すれば奴らは地球から退去する。そう言いたいんだな」

「元より地球の占領が目的ではないからな。我々の今為すべきことは、ちりじりの敗残兵となった各地の連邦軍をいち早く…可能なら1年以内に纏め、本格的な反攻作戦を地球のどこかで行うことだよ」

「それだけで地球の戦争は1年でケリがつく、か。後の歴史家に「レビルの1年戦争」と揶揄されることが無いようにしたいものだな」

「全くだ」

 レビル将軍は嘆息する。

 平均以上の偉丈夫、白髭を蓄え、目深に被った軍帽より覗く眼光は鋭く、口数は少なく、如何なる戦況にも動じることのないその姿は正に誰もが思い描く絵に描いたような「将軍」であり、旗艦アナンタ艦橋に坐する姿を兵士たちは「レビル将軍像」などと囁いたとされる。

 そのレビルが肩をすくめて嘆息する姿など滅多に見られるものではない。

「そういえば、また従卒を変えたのか。相変わらず美男美女を侍らせとるようだな」

「ああ、これは紹介が遅れた。従卒ではないよ。彼が前に言っていたシロッコ。パプティマス・シロッコだ」

 ゴップの背後に控えていた男女二名が、敬礼する。

「君が噂の吸血鬼か」

「パプティマス・シロッコ特尉であります。こちらは私の補佐を担当するユニ・マリエ伍長です。何卒よしなに」

「まあ確かに、貴様の言う通りの美男美女ではあるが…シロッコ。発言を許す」

「発言致します、兵站本部長。レビル総司令の仰る通り、ジオンはこちらの反攻開始とともに速やかに地球の戦線を引き払うでしょう…新たな形の戦争を置き土産として」

「…ふむ」

「連邦軍の国力の基盤となる経済力、生産力の破壊という目的が果たされた後、ジオンは引き払った地球上に、経済基盤の回復を妨げるべく工作部隊を潜伏させるでありましょう」

「確かにそれは予想される」

「通常、敵地後方での攪乱は訓練を受けた特殊部隊が行います。特殊部隊は往々にして非武装または軽武装ですがジオンの場合は異なります」

「どのように異なるのかね」

「ジオン兵は全てザクの操縦訓練を受けています。よってザクがあれば即座に大規模な破壊活動が行え、容易に排除は出来ません。また潜伏するジオン工作兵は、決して一枚岩とは言えぬ地球連邦の、特にジオンに協力的な者たちにザクを供与し、生産法と操縦法を教えるでしょう。ジオンを順調に地球から追ったとしても、超兵器ザクで武装した反連邦武装組織、即ちジオン残党軍との闘いが始まり、それは決して一年で終わることはないと愚考します」

「ジオンは敗走することを織り込んでいる、と言うのかね? 君は」

「は」

「ジオンが奪った土地を、ジオン残党という毒素を浸透させた上で我らに返却すると」

「そうです」

「成程、考え得ることだ。もしジオンがそれに成功したなら、「一年」戦争どころか、「十年」戦争になってしまうな」

「確かに、ジオン法王デキンは、早期の講和を思い描いているでしょう。ドズル、キシリアら諸将も常識的に、それを目的として考えているでしょう。だが、ジオン戦争指導部の中枢、ギレン・ザビは違う」

「有利な条件で講和を結ぶのが目的ではないと?」

「はい」

「ジオン公国の独立を勝ち取ること以上の勝利を目指しているというのか」

「その通りです」

「では君は、ギレンが思う勝利を何と見る?」

「スペースノイドによる新地球圏総括」

「…むう」

 レビルを唸らせた者は、地球圏において十指に余る程しかおらず、シロッコはそのうちの最も新しい一指に序列されることとなった。ちなみにシロッコの前位は、ギレン・ザビその人である。

「おいゴップ。お前の秘蔵っ子は作戦課の所属だったか? そのような話は聞いておらんが」

「儂の直卒さ、今まではな。これから先は異なるがね」

「…は?」

 これはシロッコである。

 ゴップ兵站本部長の言葉の意味を図りかねたのだ。

「シロッコ。お前は今から技術部兵器開発局に転属だ。辞令はおって出す」

「…全く聞いておりませんが、何時からそのような話に?」

「そりゃそうだ。さっき思いついたばかりだからな」

 流石に眉を寄せるシロッコに、ニンマリと、ゴップは例の笑みを浮かべた。

「シロッコ。お前一つ、ギレンのMS構想と勝負してみろ」

 




次話に続きます。
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