百夜の吸血鬼 -パプティマス・シロッコ異聞ー   作:臣 史郎

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ゲーセンが営業自粛でショボンぬ


V road to theⅤ 第3話

「単刀直入に言わせてもらっていいかしら」

 そう言った女技師は既に、瞳の内に刃を潜ませていると思えた。

 クリスカ・ミハイロヴィチ・ブラダ技術少佐と名乗った彼女の名は、ユニのアポイント予定表に記されてはいなかった。

「シロッコ特尉のトライアル参加の件で来たの。話次第では特尉の予定は全て白紙になる。だから、私との面談を優先しなさい」

 何様だこいつは、と最初に対応したユニ伍長は思ったものの、門前払いとせず、取り次ぐことにした。今の上司なら間違いなく面白がることだろうと考えたからであった。

 そしてその考えは正鵠を得ていた。

「大いに結構だ、技術少佐。単刀直入は嫌いではない」

「許可を頂きありがとう、特尉。では申し上げます。対MS兵器トライアル、降りて下さるかしら」

「参加を取りやめよ、と」

「そうよ。取りやめて欲しいの」

「ふむ」

 この時のシロッコの笑みときたら、彼の上司のゴップ兵站本部長のチェシャ猫笑いにそっくりなものだった。あとで絶対指摘してやろうとユニは心に定める。さぞかし嫌な顔をするに違いあるまい。

「そうは言われても、この私も命令によって参加を余儀なくされたのであって、好き好んでのものではないのだ。私の参加を取り下げたいのなら私ではなく、私の上司のゴップ本部長に掛け合ってはくれんかね」

「出来ないわ」

「それは何故かな?」

「第一に生理的に無理だからよ。第二にああ言えばこう言うし、説き伏せられそうもないからよ。だから貴方のところに来たの」

「要するに、私の方が与しやすそうだから私のところに来たのか、君は」

「そうね」

「成程。賢明だ。私とあの古狸を同列にしなかったという点ではな」

「命令であるから仕方ない、という貴方の立場は分からなくもありません。ですがこれは簡単に解決します」

「ほう。その解決方法とは?」

「何のアイデアも浮かばなかったと貴方が言えば、本部長閣下もそれ以上のことを強いることはないでしょう」

「このシロッコに阿呆のふりをせよと?」

「ふり、でもなんでもないわ。貴方の経歴を見た限り、MS開発に役立ちそうなキャリアは何一つない。そのような人間が地球連邦軍発のMS開発に携わる方がおかしいわ」

「…成程。理屈だが、今それは解決を見た」

「解決? 今? どんな風に?」

「私の問題は、MS開発の専門的な知識を補うブレーンが居ない、ということだった」

「よく分かってるじゃない。貴方は専門家じゃないし、専門分野で顔が効くわけでもない。土台MS構想なんて不可能よ」

「だがそれは解決した」

「どんな風によ」

「君だ」

「…は?」

「君をブレーンとして迎えれば良い。これで私の問題は解決する」

「貴方何を言ってるの? 人の話を聞いてなかったの!? 私は貴方のトライアル参加を辞めさせに来たのよ!?」

「それについては何とかしよう。このパプティマス・シロッコ、女人(にょにん)の頼みを断る訳にはいかない。しかし君にその気が無くなるならば話は別だな」

「ちょ、ちょっと! 何する気なの!」

 クリスカは後ずさりする。

 シロッコがデスクを立って、歩み寄ってきたからだ。

「先ほど私の経歴を調べたというようなことを言っていたが、私についての噂までは耳に入っていないようだな。入っていれば、女一人でこのシロッコの許まで来るはずはない」

「な…」

「私の事を吸血鬼などと呼ぶものが居る。女の生き血を啜るからだそうだ…」

「はいそこまでです」

 これは、クリスカでもシロッコでもない。

 シロッコのデスクの横に控えていたユニ・マリエ伍長である。

「はい特尉。両手を上げて、バックです。おかしなこと考えないで下さいね。変なそぶりを見せたらケツの穴を二つにするぜ! です」

 ハンドガンの遊底をコックする乾いた音が、ユニの声の方からする。

 笑顔が怖かった。

「そういえば今夜は護衛が居たのだったな。すっかり忘れていたよ」

「護衛って、貴方の護衛じゃないの!?」

「私から、私の犠牲者を守る為の護衛、ということであるらしい。少なくとも今はな」

 万歳の姿勢を保ったまま、シロッコは執務の椅子まで戻る。

「ちなみにそこの護衛には、脅しではなく本当に撃たれたことがある。お陰で未だに週に2度ほど整形外科に通うハメになっているのだ」

「はあ…」

 流石にクリスカには、二の句が次げない。

「さて、では技術少佐。護衛の逆鱗に触れぬ範囲での交渉を行おう」

「え、ええ」

「提案だが、君のプランを私に開陳してはくれないかね?」

「私のプランを? どうしてそんなことしなければならないの? 今貴方がそれを聞けば、貴方は対策してトライアルに臨むことが出来る。不利だわ」

「出来る範囲で構わない。もちろん、公平を期す為私のプランも君に伝えよう。そしてその結果、もし君のプランが私のものよりも素晴らしいと思えば、私はトライアルで君の案を推そう」

「もし貴方がそう思わなかったなら?」

「本トライアルの主催に、優劣を問う。それでどうかね? 君は君に考え得る至高必勝のプランをもってここに臨んでいるとお見受けする。三週間の後、トライアルで私に勝つか、今ここで私に勝つかの違いしかないと存ずるが」

「…面白い」

 クリスカ技術少佐は、シロッコの執務室を訪れた時の不敵さを取り戻していた。

「私は連邦の勝利の為にここに来た。私以上のプランは存在し得ないけど、万一にも他の有象無象のプランが通過してしまうとも限らない。そうなれば連邦は勝利から遠のくわ。勝利を確たるものにする為に、貴方には退いてもらいます」

「とはいえ箸にも棒にも掛からぬプランならば推すわけにはいかない。相応のモノを期待しよう」

「その期待には沿えると思うわ。今概略を送ったから、そちらの端末で確認出来るはずよ」

「では、検(あらた)めてみるとしよう」

 デスクの端末に指を滑らせ、シロッコは送られてきたファイルを画面に開く。

「…大砲?」

 覗き込んだユニが、声に出して呟く。

「240ミリ多目的砲。直接照準も間接照準も可能。榴弾、徹甲弾、何でもござれの優れものよ。使用可能な榴弾には、間接照準でザクを撃破可能なものもあるわ」

「君はMSに砲を搭載するつもりなのか」

「降下兵器としてのザクは素晴らしい。装甲されているし、強力なミサイルは降下中に自力で迎撃出来るし、着地してすぐに戦闘が可能。そんなものが何処から降ってくるか分からないんじゃ戦線を構築しようが無い。我が軍がザクの前に撤退を重ねているのはそういうことよ」

「異論はない」

「だけど、ジオンは地上に降りた。今や地球の半分もの地域を、戦線を引いて守っている。今ならばザクを打ち破ることは可能だわ。私のプランは、間接火力でザクを漸減し、直接戦闘で殲滅する為のもの」

「ミノフスキー粒子の干渉下で、間接火力に過度の期待は禁物ではないか?」

「そうね。だけど今や彼らは基地を築き、陣地に籠っている。地形が分かれば、MS運用の適地も割り出せる。そこに火力を集中すれば打撃を与えることは可能だわ。曲射砲を搭載しているのはその為」

「なるほど」

「もちろん、ザクの持つ120ミリ砲に抗弾可能な装甲もザクの装甲を貫通可能な機関砲も与える。来たるべきレビル将軍の反攻作戦に要求されるすべての性能を与えるつもりよ」

「兵器とは戦術面の要求に沿って開発されるもの。確かに優れたプランだ、クリスカ・ミハイロヴィチ・ブラダ技術少佐」

「納得頂けたなら、トライアル不参加を確約してもらえるかしら」

「いいだろう」

「ちょ、特尉!」

 ユニが悲鳴に近い声を上げる。

「いや、伍長。クリスカ技術少佐の言には一定の理がある。それに私はクリスカ少佐という女人と約束を交わした。女人との約束であるからにはこのシロッコ、命に代えても約定を果たさねばならん」

「物分かりが良くて助かるわ」

「物分かりついで、と言っては何だが技術少佐に頼みがある」

「何かしら。まさか自分のプランに手を貸してくれって言うんじゃないでしょうね?」

「そのまさかだ。今君の端末に送付しておいたよ。それが私のプランだ」

「貴方の?」

 MS開発どころか、設計の経験すらもない、図面を引いたこともない貴方の?

 クリスカの「貴方の?」には言外に右のような言葉が省略されていた。

 言う必要もないから省略したのだ。

「ご指導ご鞭撻、と言えば見てくれるかね? クリスカ技術少佐」

「分かったわ。見ましょう」

 開いたファイルを一瞥したクリスカの嘲弄混じりの笑みが、みるみる強張っていく。

「これは…」

 ファイルの図案は、飛行機であった。

 それも紙を折りたたんだ、紙飛行機だ。

「それが私のプランだよ、技術少佐。どうかね。私に手を貸してくれる気になったかね?」

 




ジ・O実装されて暫く経つけど使いこなせません、ってそもそも格闘機に乗れないから当然ですがw
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