「先ず断っておきますが、私の考えはお歴々のプランに勝るものでも、超えるものでもありません」
もし誰にも指名されなければ、このまま沈黙していたかも知れない。
殊更にゆっくりと席を立つシロッコの様子には、そのような風にも思える。
「テム技術少佐以上のものを出すことは出来ませんし、ガイストハルト亡命将校やエルラン技術中将に比べられるものでもありません。ご覧の通りの若造でありますし、ご存じのようについ先日まで図面を引いたこともなかった。このようなものが紹介出来るのも、優れた技師の協力があったからに過ぎません」
演壇中央、テム・レイが譲ったそこに、ついにパプティマス・シロッコが立つ。
「しかし、たってと言われるならば開示しましょう。これが私のプランです」
プロジェクターによりスクリーンに映されたのはまたもや、航空機であった。
「…またか」
エルラン中将が吐き捨てる。
「ここは軍だ。新人類を語りたければ大学の人類科学研究室にでも行け」
「まあまあ。聞いてみようではないか」
フォローしたのは上司のゴップではなく、隣のレビル大将であった。
「地球連邦軍再編計画の為にここに来たが、思わぬ話を拝聴出来て幸甚だよ、諸君。この上は全て聞こう。だが手短に願おうか。我らは一刻も早く指針を定め、ジオンに対抗せねばならんのだ」
「お言葉に甘えます、軍総司令閣下。今新人類、と技術中将は言われたが、私も私なりに、ヒトの在り方を考えました」
シロッコは、航空機の俯瞰図にポインターを近づけ、一か所をクイックする。
推進装置と思しき部分であった。
そうするとそこが動いた。せり上がって、機体の上へと背負い込まれる。
その次に機首をクイックすると、それも推進器が動いたのと同じところに背負い込まれる。
「…これは…」
「はい。これが私の志す新たなMSの在り方です」
推進部と機首が背負い込まれた結果現れたのは、ヒトの姿、ヒトの四肢。
航空機である部分を背に負った、紛れもないMSの姿がそこにあった。
シロッコが手元を操作すると、MSに変形したのと逆のシーケンスを辿り、MSはまた航空機に戻る。
「今見ていただいているのは急展開型のMSとして考え出したものです」
「MSに可変機構を付与したのか…君は」
「はい、先のガイストハルト亡命将校の言にもあったように、ジオン軍は生産すれば生産しただけのザクを、簡単な訓練で即時戦闘に投入出来ます。国力においては三十倍とも言われる我が方ですが、正面に展開するMS機数においては当面の間、我が方ジオンを上回ることは出来ません。よって少数のMSで、東西南北に加え宇宙からも降下してくる立体多正面のザクと戦わねばなりません」
ジオンが宇宙から落とすものは、コロニーだけではない。
一年戦争序盤のジオン地上軍の快進撃の原動力こそは、MSによる成層圏からの大空挺作戦であった。ただでさえ撃墜困難なザクが戦線の内側に突如出現されては戦線を維持しようがない。いや、戦線の意味すらない。
従来の陸戦の概念の通用せぬジオンに、今の今まで連邦軍は敗走と続けて来たのだ。
「成程君のMSならば、ジオンの空挺作戦に対応可能だな」
「ご明察です、将軍。ザクの降下に対し、直ちに急行して対応することが可能です。防御的な運用としてはそうですが、もちろん航空戦力本来の、攻撃的な運用も可能です。例えばミノフスキー粒子に紛れて敵縦深陣地の中枢の急襲し、直ちに離脱、というようなことも可能となって来るでしょう」
「成程重力圏ならば非常に有効だろうな。戦略機動においても戦術機動においてもザクの優位に立てる。しかし宇宙でそれは、有効かね? ザクより大推力であるかもしれないが、それだけのことではないか?」
「重力圏ほどの優位性はないでしょう。推進部を集中することによってザクよりも推進力を得られますが、それだけです。但し、もしこのMSに独力での大気圏突入、並びに大気圏離脱能力を付与するとしたならば?」
「そのようなことが可能なのか?」
「完成時に可能となることを目指す、ということです。技術的課題はさておき、地上に産まれ、自在に宇宙へと翔び、求められればまた地上へと降り立つ。そうでなければ無意味です。そうでなければなりません」
「何故かね」
「解脱の為です、将軍」
預言者は、核心へと触れた。
「gedatu?」
「はい」
「…とは?」
「ヒトが神となることを指します、将軍」
「それは知っておるよ。東洋の思想に現れる言葉だが、西洋においても、聖人が天使として迎えられることがある。聖母マリアはもとはと言えばヒトだが、今や天使の長と見なす者もいるようだからな」
聖母マリア。中世欧州においてノートルダム。中世に最も高名な預言者の通名であり、密かにシロッコが我が身を重ねる者の名であった。
「ギレン総帥は、民全てをザクパイロットとする構想を現実のものとしつつあります。その結果、ジオンの民は程近い未来、万民がMSを操り、万民が自在に宇宙を闊歩するでしょう。私のプランはその一歩先を見据えたものです」
「エルラン技術中将の指摘通り、君の考えるMSはテム君のものと同様、万民が操れるような代物になるとは思えぬが」
「現時点では同意です。ですが何れ為さねば為らぬ時が来る、と私は考えています」
「為さねばならぬ、だと?」
「はい」
「この可変型MSを採用、開発せねばならぬと言っているのか? 将来的には、地球圏の万民がこの、大気圏突入離脱が可能な可変MSを操る時が来ねばならぬと?」
「そうです」
「…人の身の儂が、万民に代わって問おう」
レビル将軍は前置きした。
「そうなった時、地球圏が手にするものは一体何だ。人類が手にするものはなんだ」
「宇宙と地球の境界の消失。それに伴う、宇宙と地球の葛藤の消失。宇宙対地球の戦争原因、引いては戦争の消失。このMSは戦争勝利を目的としません。戦争根絶の為、設計されたMSです」
「…戦争、根絶?」
「戦争根絶です。ギレン・ザビは全人類が宇宙を闊歩できるザクという発明をもたらしました。私はその全てのザクに翼を与えようと思うのです。MSさえあれば人々は自在に宇宙と地球を行き来出来る。そのような未来には宇宙と地球との区別は無くなります。本次大戦は宇宙に住む者と地球に住む者との戦いです。しかしもし私の言ったような未来が訪れるならば、根本的な戦争理由が消失するのではないかと考えているのです」
そもそも地球連邦の構想された時点で、戦争根絶が基本目標として存在した。国家が一つしかなければ、国家間の軍事衝突である戦争はそもそも発生し得ない。
しかし戦争は生起した。
「人類が、地球連邦が滅ぼしたと思われた悪魔は蘇りました。新たな形の戦争となって」
連邦政府の棄民政策により宇宙へ移民を強いられた人々が、幾多の紛争の果てに宇宙に独立国家を建国宣言してしまった。「独立戦争」と銘打たれたこの紛争において当初はジオンはテロ組織であり、ジオン兵はテロリストであった。彼らは地球連邦の一公共公社の備品であったコロニーを領土と称して占拠した犯罪者集団であり、ジオンの民は犯罪者であった。
しかし宇宙での度重なる敗戦、コロニー落としの実行などにより連邦は戦時協定のテーブルに引きずり出された。地球圏統一国家を謳った地球連邦が、こともあろうに犯罪組織ジオンを主権国家と認めたのである。
ここに再び、戦争は蘇ったのだ。
「旧世紀には政体や主義の対立構造であった東西冷戦や、貧富の対立とされる南北問題、それを主因とする中東対西欧の幾多の紛争が生起したと聞き及びます。過去の東西、南北の問題に因み、私は宇宙対地球の一連の葛藤を天地問題、或いは天地戦争、と仮称しています」
「天地、戦争…」
「戦争は新たな姿となって蘇り、再び我々の前に立ち塞がっています。人類にとり、戦争とは人知では抗し得ぬ不倒の悪魔であることは証明されたと言えるのでしょう」
「故に人知を超えねばならぬ、と? 人類の解脱を為さねばならぬと?」
親子以上に年の離れたレビルとシロッコのやり取りを、一同は思い思いに眺めていた。
エルラン中将は小馬鹿にしているように見えた。
ガイストハルト亡命将校は両の腕を組み、悠々高みの見物を決め込むように見えた。
テム・レイ技師は楽しそうにだった。楽しさのあまり貧乏ゆすりをしていて、そのビートがどんどん上がって来ていた。
ゴップ大将も楽しそうであったが、視線はシロッコとレビルを行き来していて、半塲はレビル大将の反応を楽しんでいるようだった。
(そういえば、クリスカ大尉は…)
ふとユニは思った。
「私のプランは採用されるわよ。だって、貴方のプランの百倍現実的だもの」
過日そのようなことを言っていたクリスカは本日、未だに発言をしていない。黙ったままに己の端末に目を落とすその表情は、ユニには伺い知れなかった。
「問おう。君は、戦争根絶は人類の解脱による他為らぬと考えるのか。ヒトはヒトである限り戦争より逃れられぬと。神とならねば戦争より逃れられぬとそう考えるのか」
「答えになるかどうかは分かりませんが…ギレン・ザビは宇宙を歩む人類たるザクを生み出しました。テム技術少佐は宇宙人類の魂をデザインしました。私は…宇宙世紀の神の姿を図面に投影してみようと試みたのです」
「神を図面に落とした…それがこれであると言いたいのか君は」
「天地戦争を終結させるに相応しい姿を与えたつもりです」
「つまりザクがヒト型の思考機械とすれば、君のMSは、ヒトを超えた神の思考機械であると?」
「…もちろん、ヒトが翼を得たからと言って、それで神にはなれません。かのイカロスの如く翼を焼かれ墜落するのみでしょう。東西を問わず、徳を積み精進を重ねたヒトのみが聖者や神仙として神に列せられる」
「何れも死後の話であろうが!」
エルラン中将が割り込む。
「聖人が天使となるのは死後の話! 天に召されて後、神の御使いに列せられるのだ! 聖人でなければ操れぬというなら、ようするにこの世の者は、お前のMSを操ることは出来ない。先のテム・レイのものと同じ欠陥を、お前の案は抱えている!」
「異論はありません。私のMSは、私のMSを乗りこなしたものにのみ翼を与える。それでよいのです」
「…将軍!」
エルランは矛先を変えた。
「こやつらのMSを採用してはなりません! こやつらのMSはヒトに操縦出来るものではない! もし操縦出来る者が現れたとしたなら、さらに良くない! こやつらはMSでヒトを選別するつもりだ! ヒトであるものとそうでないものとに分けるつもりだ! こやつらは…」
なおも続くエルランの言葉を、レビル将軍は手の一振りで遮る。
「…君に問おう、パプティマス・シロッコ君」
「はい」
「もしこのMSが完成したとして、君はこのMSに乗るつもりかね?」
「…このMSの試作が終わったならば、私自らが搭乗し期待通りの効果が現れるかどうかを確認する所存」
「乗ってもし、期待通りの性能を現わしたとしたなら」
「汎用MSとして採用出来るかの検討を行うでしょう」
「それだけかね?」
幾重にも皺の刻まれたレビル大将の顔の奥で、瞳が光を放つかと見えた。
「本当にそれだけかね? 君の言葉を借りるなら、操れるならば君は聖者だ。いやそれを超えた、生きながらに天使の位に列せられる者だ。そうなったなら君はどうする」
「為したいことはありません。ただ、知りたいことならばあります」
「…それは何かね?」
「宇宙(コスモス)」
スペースでもうちゅう、でもなく、こうシロッコは発音した。
「コスモス…真理か。解脱の果てに在るものだな。だがそれを知ってどうする、パプティマス・シロッコ君」
「繰り返しますが為したいことは有りません。ただ知りたいのです。何時の頃からか、私の目の前にチラつき続けている何者かの正体を、私はこの目で見てみたい。ただそれだけです」
「真理は己の目の前にぶら下がっていると、そう言っているのか君は」
「はい。ですが辿り着くことは困難であろうと、今頃は思うようになりました」
「…とは」
「重いからです、私が。肉体が邪魔です。肉体を捨て重力より自由にならなければ行けない所に、それは置いてあるのです」
「肉体を捨てる…それを成すには死するか、或いは君の言うように、解脱するより他にないぞ」
「はい」
「東洋においては死を成仏といい、死した者は仏となる。仏が解脱したヒトのこととするなら、君は自身の死を望んでいるのか」
「最も有力な手段の一つと考えています」
「手段の一つ」
「はい」
「己の死がか」
「はい」
後年、パプティマス・シロッコは、木星の重力圏を離脱可能な可変MS、メッサーラを設計、試作する。その後多くの可変型MSを設計したシロッコは、究極的に可変構造のないMS、ジオを組み立てる。
THE-0と表記される。英訳でアブソルート(絶対)、『空』或いは『無』と邦語に約することも出来るこのMSは、ビームライフル一門の他にはビームサーベルを携えるのみであった。
このMSが単独無変形での大気圏突入、離脱能力を有していたという説がある。
そう設計されていた、というだけの話であり、テストされることも実戦で用いられることもついになかった。シロッコの究極としたMS、ジオは、アナハイムで独自に開発され組み立てられた同じシロッコの創意の可変MS、Zガンダムに破壊された。
アルファベットにおいてΩの座、究極を冠したZガンダムとの戦いには勝者は居なかったとされる。究極と究極の激突は、人知を超えた結末をもたらした。
Zガンダムのパイロット、カミーユ・ビダンは精神を失なった。
シロッコは死亡したとされるが、遺体は発見されていない。
「成程、吸血鬼(ノーライフキング)か。確かに君は、ヒトではないようだ」
「恐れ入ります」
そう言ったものの。本当にシロッコは恐れ入っていたのだ。
(何たる眼光…)
(流石は人類史上最大の大軍団を束ねる男…)
シロッコとレビル以外の一同は、余人には計り知れぬ交錯の瞬間を、思い思いに見守っている。
エルラン中将は小馬鹿にするように。
ガイストハルト亡命将校は両の腕を組み、悠々高みの見物を決め込むように。
テム・レイ技師は楽しそうに貧乏ゆすりしながら。
声を発する者は居ない。
シロッコもレビルも互いを見据えたままだ。
発言すべき両者が黙っている以上、発言するものは誰も居ない。
沈黙が落ちた。
「…どうだ」
長かったかも、短かったかもしれぬ沈黙を破るものが現れた。
「気に入った案はあったかな、レビル」
「ゴップお前、儂をハメたな?」
ゴップ兵站本部長は例の笑みを浮かべていた。ヒトの悪そうな、あのチェシャ猫笑いだ。
「ハメたとは人聞きが悪いな」
「そうであろうが、この因業爺が。お前、この悪魔っ子を儂にけしかける為にこの場を用意しおったろう?」
「まさか。だが、面白い奴であろう?」
「鬼面人を驚かす、という意味ではな」
「ルウムの時と、どっちが驚いた」
「なにい?」
「どっちが驚いたかと聞いとるんだ。ギレンにしてやられた、あのルウムのときと」
「ゴップ貴様…」
「大事なことだぞ、レビルよ。肌に感じてどうだ。ギレンより危険な存在はこの場に居たか。居たとしたならば誰だ。お前の目の前のシロッコか。そうではない別の誰かなのか。ルウムに居たお前にしか分からんことだ」
「…」
「どうなのだ、レビル。居るのか、居ないのか。居たとしたならど奴だ。居たとしたならば、そいつこそがギレンを打ち破れるかも知れぬ者なのだぞ」
「――」
「同じ将として問おう。どうだ、レビル軍総司令」
レビルが直接やりとりをしたのはシロッコであった。
その眼前のシロッコがそうだと言えば、レビルはシロッコを認めたこととなる。
それだけにこやつは避けるべきだ、と思った。この男はいかん。危険な男なのは明々白々だ。
では他の誰かか。
ジオンと同じくザクを造れと主張するジオンの亡命将校? それともさっきから猿のように貧乏ゆすりをしている、目の血走ったマッドサイエンティストか?
(…ゴップの腹黒爺めが)
レビルは内心毒づく。
どちらもシロッコに負けず劣らずではないか。
では最後に残ったエルラン技術中将は?
一番まともだ。MSを造らず対MS兵器で対抗するというのは理解出来る。しかし…
(この案で勝てるか)
ジオンに、ギレン・ザビに勝つことが出来るか。
(…出来ぬ)
そう思ってしまう己がいる。
エルランを指名するならば、そのような己を説き伏せねばならない。己に嘘を言わねばならない。
(…むうう)
声に出さず、呻くより他にない。
選択問題に、正解の選択肢がないのだ。
「…お待ちください」
レビルの内心を知ってか知らずかは分からない。
「プレゼンターはまだ一人残っています」
そう言ったのはレビルの眼前にあったシロッコであった。
「…そうか。クリスカ技師がまだであったな」
「その通りです、兵站本部長」
一同の視線が、隅に坐したままのクリスカ・ミハイロヴィチ・プラダ技術将校に集中する。
クリスカは、その白皙で真っ向から、それらを受けた。
(…釈迦の蜘蛛糸、といったところか)
レビルは苦笑する。
ゴップの4択意地悪クイズに、クリスカが正答を追加するかも知れないのだ。
本来、この場でゴップに回答する必要はレビルにはない。検討を重ねて結論を出す類の問題である。そのようなことは分かっている。この場でゴップに応えた案と、本採用は別案であっても問題視はされない。
とはいえ、このままでは少々しゃくであった。
(期待させてもらおうか)
ゴップに嵌められっぱなし、というのも腹立たしい限りだからな。
「では、クリスカ技師」
シロッコは慇懃に一礼し、檀上を譲る。
応じてクリスカが立つ。
そのまま、自席より歩んで檀上に登る、筈だと誰もが思った。
「辞退します」
だが、クリスカは自席を動かず簡潔に述べた。
「何だって?」
簡潔に過ぎ、ゴップが聞き返すほどであった。
「発表は辞退する、と申し上げました」
はっきりと、クリスカは繰り返す。ゴップが二の句が告げなくなるほどの、断固たる口調である。
ゴップのみならず、シロッコら皆が驚いた。
(何を…何を言っとるんだクリスカ…!)
一番驚倒していたのはエルランであったが、皆が驚いていたから、誰も気づくことは無かった。
そんなエルランを、クリスカは一瞥もしなかった。
以前シロッコとユニの許を訪れた時の、自負心に満ちた表情はそのままに、自案を発表しない、とクリスカは言っていた。
この場での発表がなければ、もちろんクリスカの案は採用されない。
(私の案は採用されるわよ)
(だって、貴方のプランの百倍現実的だもの)
ユニには思い出される。そう言っていた、気高いあの時のあの姿。
「代わりに、提案があります兵站本部長」
自席より起立したクリスカは、過日の姿をそのままに言った。
「聞こう、クリスカ君」
「では。この場に出た四案で、仮の投票を行っては如何でしょう」
「投票?」
「はい、投票です」
無意味だ、とユニは思った。
この場に居るのはプレゼンターだけだ。当然自分の案に投票するから、一票ずつを分け合って終わりではないか。
「投票の有権者はプレゼンターたるエルラン中将、ガイストハルト亡命将校、テム・レイ技術少佐、シロッコ特尉。それに加え、主催の両閣下」
「儂とレビルも加わると?」
「それに、棄権した私も投票に加えて欲しいのです」
「ふむ」
「もちろん、これで案の正式採用が決定されるものではありません。それはこの後、両閣下で検討して下さればと思います。その際、参考として投票結果を考慮して頂ければと思うのです」
(おお…)
この提案が示すことは明らかだ、とエルランは思った。
クリスカは、自案を放棄してエルランの案を推すつもりなのだ。
(分の悪い賭けではない)
(クリスカ…可愛い奴よ。目を掛けてやった甲斐があったわ)
エルランとクリスカの内々の事など誰も知ろうはずがない。
エルランとクリスカのみが、この結果を知り得るのだ。
「如何でしょう、レビル総司令」
「…軽々しくも多数決で、連邦軍作戦計画の根幹を決定する事は感心せぬ。しかし、何れの優劣付け難い案であるのもまた事実。投票結果は参考意見として、考慮しよう」
「では…」
「投票の方法は、どうするかね」
「ありがとうございます、将軍」
クリスカは一礼する。室内で着帽していない為、挙手礼でなく、お辞儀の方である。そうしておいて、
「お願いできるかしら。パプティマス特尉の用心棒さん」
「…へ?」
それは私の事か、とユニは、己の鼻先を己の人差し指で指して瞬きする。
シロッコとMSトライアルのお話は、次回で一区切りにしようと思っています。