百夜の吸血鬼 -パプティマス・シロッコ異聞ー   作:臣 史郎

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V road to theⅤ 最終話

 ぽつねんと、取り残されたように、ユニ・マリエは論壇に立っていた。

 先刻までエルラン技術中将を筆頭に、雲の上の階級の人たちが持論を展開した、その論壇である。

(高い、広い、みんなこっち見てる…)

 緊張も露わなユニの前には、思い思いに折って畳んだ用紙が集められている。

 ユニが即席で拵えた投票用紙だった。こんなものを作るハメになったのはジュニアスクールのクラス委員の選出以来のことである。

「さあ、開票したまえ、ユニ・マリエ君」

「は、はいっ!」

 思い思いに折りたたまれた用紙を、折られたのと逆に開けて行く。現れた名前ごとに、用紙を纏めて離して置く。

 時ならぬ、次期採用MS案ミニ総選挙、といいたいところだが、もちろん首位案となったところで正式採用が決まるわけではない。諸所の検討を経て、最終的にレビル総司令が判断するものだ。ここでの投票の結果はあくまで、参考にするていどのもの。

 その筈であった。

 それにしたとしても結果は、意外なものに過ぎた。

「ええと、首位、パプティマス・プラン!?」

「なにいい!」

 エルランは怒号した。

 そのような結果になる筈がない。

「そんなはずがあるか! もう一回数えなおせ!」

「そんなこと言われても…」

 小学生でも数え間違うことはあるまい。

 パプティマス・プラン得票3。

 テム・レイ・プラン得票2。

 ガイストハルト・プラン得票1。

 エルラン・プラン得票1。

 投票用紙を何度数えても、結果はそうだ。

 投票用紙は、ユニがコピー用紙をペーパーナイフで切り折りして作った即席の、粗末なものであるがそれは関わりがあるまい。

(得票1だと…?)

 エルランは当然ながら、己の案に投票した。

 他のプレゼンターもそうだろう。

 しかしエルランには、クリスカが追加する1票が乗る。

 他のプレゼンターの一票に対し己のみは二票。レビル、ゴップ両将の票が誰かに集中したなら三点を得る者が出るが、今のやり取りで、レビル軍司令がシロッコに入れるとは考えにくい。一方、ゴップ兵站本部長はシロッコに投票で間違いはないだろう。

 唯一の浮動票がレビル票。そのはずだった。

 首位二票を得る者が三人現れる可能性は高い。同率首位三名。エルラン。シロッコ。そしてもう一人、ガイストハルトかテム・レイか。しかし唯一浮動のレビル票が己の許へと来たなら、堂々の得票三票となり、単独得票首位となる。

 最悪でも同率首位。分の悪い賭けではない。その読みがあった。

 だが現実には、エルランの得票は己の1票のみ。

 これが指し示す事実がある。

 クリスカはエルランに投票しなかったのだ。

(クリスカ…! クリスカ貴様…!)

 この場にゴップとレビルが居なければ、首根っこを?まえて縦横に揺さぶり

何故裏切ったと怒鳴りつけていたろう。そのまま首をへし折ってしまうやもしれなかった。

 それは出来ぬから、物凄い目でクリスカを睨んだ。人が人を睨み殺せるものなら、していただろう。

(貴様裏切ったな! 裏切ったなクリスカ!)

 それを受けクリスカは、従容(しょうよう)と瞑目した。

(本当は、ちゃんと言いたかった)

(ちゃんと謝りたかった。今まで受けた恩義のお礼も言いたかった。本当に愛していたって言いたかった)

 けれどそれは出来ずにここまで来てしまったから…

 人知れず、瞑目したままにクリスカは深々と、頭を下げた。

 そうと見たエルランは、さらなる衝撃を受けたようであった。

 今は着座していたが、もし立っていたならよろめいていただろう。

「ほう。パプティマスお前、単独首位か」

 一方、シロッコをプレゼンに参加させた張本人は、そうでありながら意外そうであった。

「入れたのは誰と誰だ? んん?」

 人の悪そうに、横眼でレビルを見る。

 唯一浮動のレビル票がシロッコの許に行ったと、ゴップも考えているようであった。他の皆もそうであろう。

「推した儂が言うのもあれだが、まさかお前が連邦初のMS開発主任となるとは思わなかったぞ」

「その件ですが、ゴップ本部長」

「んん?」

「先刻の私の案、取り下げとすることを許可願いたく」

「なに?」

「先刻の案を破棄したい、と申し上げました」

「破棄…!?」

 ゴップのみではない。

 全員が目を剥いた。

 高みの見物のガイストハルト、打ちひしがれていたエルラン、テム・レイも傍らに控えるユニも。

 レビル将軍も、クリスカも。

「これにより、首位の案はテム・レイ技師のものになるかと思います」

「自案を捨ててテム君の案を推す、と?」

「そう解釈して頂いて構いません。どちらにせよ、私の設計案は現在の技術ではコストに見合ったものになりません」

「それは私の案も同様だと思うのだがな」

 首位を譲られたテム・レイの笑みは苦々しい。

「…私自身、製図のイロハのイの字程の知識しかない上での参加です。納得の行った図面ではないのです、テム・レイ技師。ですが、貴方のMSは違う」

「ふん」

「それに何より――」

「何より?」

「この投票の首位案が本採用となるなら、投票結果が尊重されたこととなり、後々禍根を残さぬでしょう」

 シロッコは、ユニの手元の即席の投票用紙をみやる。

 8通の紙片。

 その、三票まとめて置かれたシロッコ票と思しきものの一通のみが、幾重かに折りたたまれ、紙飛行機の形を現わしていた。

 

***

 

「ずっとここではない、何処かに行きたかったの」

「君はここで、技術者として求め得る全てを得ていたように思うが」

「空が無い」

 クリスカ・ミハイロヴィチ・プラダ技術大尉は、天空を見上げた。

 シロッコと共に立つジャブロー地底基地には、むろんクリスカの求めるものはない。

「空が無い。天が無い。ここには、神様が居ない。私を自由にしてくれる神様が」

「惜しいな。君ほどの者が、軍を去るとは」

「自分で選んだ道よ」

 クリスカが提唱した曲射砲搭載MSはV作戦主任開発者となったテム・レイの目に留まり、RXナンバー79を与えられ採用された。ガンキャノンと呼称されたその類型MSは、アクシズ・ショック以降となっても設計、開発され続け、その有用性を証明している。

「貴方が私のファンだったなんて知らなかったわ。だけど、何時から?」

「偶然だ」

 ジャブローの空無き空を紙飛行機が飛んだあの日、シロッコはその発進基地と思しき天井構造物のことを調べた。

 そして利用する人間が非常に限られていることを突き止めたのだ。しかも起居しているのはエルラン技術中将とその側近のみ。唯一の女性がクリスカであったのである。

「そうとも知らずに、のこのこと私は、貴方の許を訪ねたわけか」

「偶然も、出来過ぎればそれは運命だ。運命を感じたよ、私は」

 シロッコは、ジャブローの空無き空を仰ぐ。

「あの紙の航空機の設計に興味を持った。一片の紙片に過ぎぬものが、ヒトの創意を経て、大いなる飛翔を遂げる。君のあの飛行機に発想を得て、私は私のMSの図面を起こすことが出来たのだ」

「大げさね。紙飛行機なんて、誰でも折れるじゃない」

「そうだな。だが、あの飛行機が私に神の姿を教えてくれた。君こそは神の母たるものだよ、クリスカ・ミハイロヴィチ・プラダ」

「本当に、大げさなんだから」

 クリスカもまた、シロッコに倣った。

 かつて、地球人類が何処で暮らそうとも、天を仰げば必ず空があった。同じ一つの空であった。空を通じて人類は繋がっていたのだ。

 今は、そうではない。

 人工の空を仰ぐ者と、天然の空を仰ぐ者が争いを止める日は、来るのだろうか。

「何時か、二人で紙飛行機を飛ばしましょう」

「ああ。何時か、何処かで」

「護衛のあのコに宜しくね」

 それが別れの挨拶だった。

 この後のクリスカの足跡は詳らかではない。一説には、アナハイムに身を寄せ、MS開発に携わったと伝わる。ティターンズ側が採用したガブスレイやギャプランのみならず、エウーゴ側が運用したメタスやZガンダムには彼女の創意が残されていたと言う者もおり、そうであれば皮肉としかいいようがない。

 戦後から現在に至るまで、可変MSは多数が開発されるも、自力で大気圏離脱が可能と思われる性能を与えらえたものは、木星重力をものともせぬメッサーラのみであり、シロッコを失った宇宙世紀の人々が、可変MSの在るべき姿に辿り着く日は、来ないのかもしれなかった。

 

***

 

 時を置かず発令されたオペレーションVは、曲折を経て宇宙世紀を大きく動かしていく。

 ブイ作戦、と邦訳され、発音されることが多い。Vとはビクトリー、即ち勝利のVを意味すると一般には浸透している。

 ガンダムをはじめ、ガンキャノン、ガンタンク、後にGMと、Gの系譜を生み出したこのMS戦力化計画が、何故Gを冠してG作戦とせず、V作戦としたのか は明らかになっていない。

 俗説をここに引用するなら、このMS戦力整備計画によって、配備となったMSはガンダムを筆頭にガンタンク、ガンキャノン、GMそしてボールの5系列。5をアラビア数字で表記するならば「Ⅴ」であり、連邦軍の戦力整備計画の基幹となった5系列のMSを指すのではないかとも、囁かれる。 

「ジオンよ。教えてくれ。儂は何を見失っていたのだ」

「何故、俺に問う」

「儂の艦隊を破った貴様たちが一番知っているだろうと思ったからだ。儂が敗れたのは何故なのかを」

「貴様が原因ではない。地球連邦軍が弱かったわけではない。それは申し上げて置こう、エルラン技術中将」

「いいや弱かったのだ。その結果儂は失った。名声も、愛もなにもかも。仕方のないことだ、弱かったのだから」

「お前は敵対する人類を殺すために兵器を造った。ギレン総帥は人類を次のステップに押し上げる為にザクを造った。差があると言えばそこだろう。お前は正しいことを成していた。ただ古かった、差異と思われるものはそれだけだ」

「古かった…」

「弱かったのではない。間違っていたのでもない。ただ古かっただけのこと」

「ま、まてジオン!」

「まだ何かあるのか」

 立ち去ろうとするガイストハルトを、エルラン中将は懸命に呼び止める。

「貴様はどうするのだ、ジオン」

「知れたこと。ザク以外のMSは全て倒す。俺のこのザクによってな。それによって公国は外れた道から元に戻り、真の偉大さを取り戻すのだ」

「それは連邦のMSもか」

「ジオンの劣等MSを全て掃討した後は、連邦のMSが俺の次の敵となろう」

「いいだろう。この先の連邦のMS開発プランは、お前に伝えよう。開発されたMSの配備や動向もだ」

「ジオンであるこの俺にか?」

「その代わり、貴様は俺にジオンのMSの動向を知らせる。それでどうだ、ジオンよ」

「俺にスパイをせよと?」

 ガイストハルトは連邦にザクの兵器構想の全容を伝えた、スパイとしか言いようのないスパイであるが、完全に棚に上げていた。

「お前ばかりがスパイではなかろうが、ジオンよ」

「地球連邦軍の兵器開発局長であるお前が、本気でスパイをするのか」

「する。することにより、儂は連邦に貢献する。お前も祖国ジオンに貢献出来よう。悪い話ではあるまい」

「…エルランと言ったな、連邦の将よ」

「如何にも」

「確かに、悪い話ではないようだ」

 ガイストハルト亡命将校は、その口角を上げた。

「詳しく聞こう」

 エルラン技術中将は、応じて笑みを浮かべる。

 この後、オデッサ作戦の折、スパイ容疑でビックトレーのブリッジより連行されたのを最後に、エルラン中将がと公史に姿を現すことは無かった。

 ガイストハルトのその後もまた詳らかではない。戦死したとも、未だジオン残党軍を率いているとも伝わる。何れにせよ一年戦争の暗部の住人となった両者に光が当たるには、未だ宇宙世紀の混沌の霧は濃い。

 確たることを記するならエルラン中将が提唱したモビルポッド改装MSは採用され、運用されている。

 ボールと愛称されたそれは、GMの頭数が前線に揃うまでの間前線に大量配備され、ジオンを大いに手こずらせた。一月の間、ジオンの配備MS数よりボールの配備数が上回ったとされる時期があり、これはジオンの戦力統合整備計画やペズン計画を誘発した。

 ガンダムシリーズの三機はザクを圧倒しジオンに衝撃を与えたし、GMは質量共にザクを上回り、事実上連邦軍勝利の立役者となったが、ボールが果たした役割は決して小さくは無かった。

 ガンタンクを始め、南極条約後ジャブローで建艦されたマゼラン級、サラミス級の全てには最小限度のMS懸架能力が付与され、MS隊の戦略機動に大いに貢献した。

 今や誰もが口を閉ざし語られることも無い。しかしその足跡は覆い難く、確かに存在しているのである。

 

***

 

 投票用紙に肉筆で記入させたのは、シロッコの入れ知恵であった。

 投票用紙はユニの手の内に残り、誰が誰に投票したかが一目瞭然となったからであった。

「私はゼロ票か、運がよくても1票で終わるだろうと思っていたよ」

「レビル総司令閣下の1票ですか」

「ああ。何せ、私の1票は君に入れたんだからね、シロッコ特尉」

「はい。その1票の御陰で私は首位となりました」

「ところが、私のところには2票来た」

「一票は、レビル閣下の筆跡でした」

 結局レビルは、必勝の見込みのないエルランでもこれより勝利せねばならぬガイストハルトのプランでもない、そして決して選んではならないシロッコのプランでもない最後の一つを選んだのだ。

 消去法の結果ではあったが、この選択の正しさは歴史が証明することとなる。

「運は私に味方した。しかし、もう1票は誰のものだったのだろうね、シロッコ特尉」

「技術少佐殿はお人が悪い」

 シロッコは笑った。

 テム・レイがお見通しであることは明白であるからだ。

 テム・レイの1票は、棄権してテム・プランを推したシロッコのものであることを。

「気になることを仰っておいででした」

「とは?」

「私の案によって、貴殿の案は完成に近づくと」

「分かっておるだろうが」

「おそらくは。ただ、確認をしたいのです」

「何だ、答え合わせか?」

「そう仰るなら、そうでかまいません」

 シロッコは微笑む。

「そうか。そうだな…ではどうだ。今度会った時のお楽しみとするというなら」

「今度会った時?」

「宇宙に上がることになった。サイド7さ。そこのコロニーを一基、兵器開発局が徴用する。千人近いスタッフと、その類縁が移住する。オペレーションV合宿に強制参加、というわけだ」

「そう、ですか――」

「妻は残すが、息子を伴うことにしたよ。あれには、仕込んであるからね」

「仕込むとは?」

「ああ、ジオンの亡命将校が言っていた、ギレンがジオン市民にやっているような、操縦操作、航法に工作、エトセトラを突っ込んでいるのさ。といっても、もう息子本人の趣味になってるがね」

「有望そうなお子様だ。一度、会ってみたいものだ」

「何れは会うことになるだろうさ。お前さんがMSの図面を引き続ける限りはね」

 そう言って、テム・レイは手を振る。

 背中越しにだ。

 歩み去るその背にシロッコは敬礼し、侍従のユニもそれに倣う。

 それを限りに、テム・レイは、歩み去って行った。

「…行っちゃいましたね」

「ああ」

「また会えるといいですね、特尉」

「ん?」

 シロッコは、「何故そんなことを言うんだ」とでも言いたげである。 

「だって。あの人と会うと何時も楽しそうになさるから」

「楽しそう? 私がかね」

「はい♪ とってもよいお顔をされておいででしたよ、特尉」

「楽しそう。そうか。私は楽しそうだったか。そうだろう。そうかもしれない。確かに彼との語らいは心楽しかった」

「はい」

「宇宙を悉(し)る者は少ない。語れる軍人はさらに少ない。稀有な男だった」

 これを限りに、シロッコとテム・レイとの再会は叶うことはなかった。

 テム・レイは、彼の率いる技師団とサイド7においてV計画の中核として連邦軍発のMS開発を推進するも、完成となる直前にジオンのシャア・アズナブル少佐率いる巡洋艦ファルメルの襲撃を受け、行方知れずとなる。

 しかし彼の息子アムロ・レイは試作完成していたRX-78ガンダムに搭乗、これを運用しシャアの率いる精兵を再三撃退。エースとして一年戦争を戦い抜いた彼は人類を代表する「ニュータイプ」と一般的に認知されるようになった。

 テム・レイは初のガンダムタイプMSを開発したと同時に、人類最強のニュータイプ人類を養育した人物ともなったが、それをテム・レイが意図して行っていたかどうかは、ついに定かならぬこととなった。

 テムとシロッコの「答え合わせ」は為されることはなかったのである。

 ただ、後Zガンダムの後継として試作されたZZガンダムは、コアファイターのみならずAパーツ、Bパーツにも可変機能を備えていた。

 戦闘中換装したガンダムのパーツは、戦場に投棄されるより他にない。機密情報の塊であるガンダムを競合地域で投棄するなど不可能で、実際ガンダムよりガンキャノン、ガンタンクへと次々に換装した戦例はない。

 しかしZZガンダムは、大型化と引き換えにAパーツBパーツ共に可変機能を取り入れ、自立飛行を可能とした。これによりガンダムの上半身と下半身が戦場に投棄される、といった事態は無くなった。

 これをテム・レイの遺構とするならば、テムの言うガンダムの未完部分が何であったのか推測は可能であろう。

 後年、グリプス戦役においてシロッコは、反ティターンズ組織カラバの構成員となったテム・レイの息子アムロ・レイと対峙することとなる。論敵でなく、撃つべき敵として―

「どなたなんですか? テム・レイ技師は」

「どなたとは?」

「何時も例えるじゃないですか。歴史上の人物で」

「ああ」

 こう言っておけば暫くは上機嫌で話し続けるだろう、と思っていたユニだったか意外にもシロッコは考え込んだ。

「いない」

「いない? 偉大な技術者だったらたくさんいるでしょう? トマス・エジソンとか平賀源内とか」

「何れも該当せぬ。技師の創意は、史上の人物において比する者が居ない。ヒトの魂の在り方を図面に起こした技術者など存在せぬのだからな。ギレン・ザビが相当すると言えばするが、彼は未だ、歴史となってはいない」

 シロッコが人を語る時、ギレンを引き合いに出すことは少なく、ごく高い評価を与えている場合に限られる。

「…強いて言うなら、唯一神ヤハウェ・エロヒム、ということになるか」

「知ってます。創造主さまですよね、アダムとイブを造った。礼拝で習いました。でもその人、ヒトじゃなくて神様ですよね」

「強いて言えば、だ。それほどまでに彼は、歴史上比類ないものを創出しようとしている」

「じゃあ、特尉はテム・レイ技師より上ですね」

「私が?」

「だって特尉は、ヒトの魂以上の、神さまを図面に起こしたんですから」

「それは違う、ユニ・マリエ伍長」

「違うでしょうか」

「違うとも」

 ユニの上司が仰いだ天に、青空はない。

 あるのは湿った岩と、それに垂れ下がった人工の構造物。

 しかし、ユニは目を瞬いた。

 上司シロッコの視線の先にはその岩盤の外の、青空、さらなるその外にある宇宙をも、広がっているように思えたのである。

 

「何故なら神を造るものとは何時の世も、貧しき市井の人々だからね」

 

 自称欧州の預言者の再来は、何処か愛おしげにそう言った。

 




悪の吸血鬼パプティマス・シロッコのお話は、ここで一区切りです。

意外なことに、シロッコは可変MSの嚆矢メッサーラを設計した後は、可変MSを作ってないんですよね。その先のMSがだんだんと軽武装になっていったのは、シロッコがMSをどう捉えているかを示しているようで面白いです。

それでは、また機会がありましたら。

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