ザナルディー・ブラッドがこの屋敷に来た。
その情報だけで憂鬱になれるのはある意味凄いとさえ思える。
ザナルディー・ブラッドとフラウがテーブルを挟んで向かい合うように座っており、フラウに雇われた俺は着のみ着のままの状態でフラウの斜め後ろに控えている。流石に着替えるべきでは?と思ったが、なんせ今日突然に雇われたばかりの身だ。俺に合うサイズの服がこの屋敷にあるとは思えない。
そもそも俺は執事の業務など丸っきり分からない。
雇い主の元で何度か見かけたことはあるものの、自分には関係ない相手だと割りきってしまっていた為にその業務内容を見てはいないからだ。
とりあえずは護衛としての役目を全うしていく事にしたい。フラウに許されるのならばだが。
「やあザナルディー。態々こんなところまで足を運んできて、今日は何の用かな?」
「何の用かだって?そんなこと聞かずとも君ならよく分かってるだろう?フラウ、僕と結婚しよう」
「相変わらず面白い冗談を言うな君は。しかし残念ながら君の冗談に付き合っている暇も余り無いんだ。次のデザインが浮かんできててね、すぐにでも取り掛かりたい」
「やれやれ、フラウもつれないね。この僕のどこが不満なんだい?経歴良し、実力もあり、自慢じゃないが容姿だってそこらの有象無象よりも自信はある。何より僕と君の相性はとても良い筈だよ。何せ天才同士だからね」
「……ふむ。この紅茶は旨いな。ネリーにも覚えさせてみるか」
「何故そこで俺が出てくる?」
ザナルディー・ブラッドはドヤ顔でフラウを言いくるめようとしているが、肝心のフラウはザナルディー・ブラッドの話に興味無さげにしながら紅茶を楽しんでいた。
端から見ても全く相手にされてないのが分かる。それにしたって此方にヘイトが向くような発言は止してほしい。現に今ザナルディー・ブラッドの厳しい視線が俺に突き刺さっている。
まぁそれも仕方ない。何せ意中の相手の側に見知らぬ男が立っていれば気が気ではないだろう。
「……ところでフラウ。その小汚ない男はなんだい?僕と君がいるこの場には相応しくない奴がいるんだが」
「……」
「彼はネリー、私が雇った執事兼血袋さ。それと彼はこの場に相応しい人物だよ。私が目をつけた人物だからね」
「へぇ……とてもそうには見えないな。確かにそこそこの実力はあるようだけど、その程度なら見つけようと思えば沢山見つけられるさ。そんな奴にフラウの身を守らせるつもりなら止めておいた方が良い。良ければ僕の方から君に相応しい護衛を送らせてもらうよ?なんなら僕自身が君の身を守ろうか」
ザナルディー・ブラッドは俺を見て鼻で笑いながらそんな事を言い始めた。俺としては別に侮辱されようが鼻で笑われようがどうでもいいのだが、フラウはそうではなかったようだ。先程までとは違い、その端正な顔を少し歪ませている。自分が気に入ったものを他人から貶されれば怒りもするだろう。
その原因が俺にあると言えばそれで終わりだが。
「口が過ぎるな、ザナルディー。君は私に喧嘩を売りに来たのかな?」
「いやいや、決して君に喧嘩を売るつもりなんてないさ。でも事実を言わなければいけない事もあるとは思わないかい?いわば親切心ってやつさ。たかだかBランク相当の実力でフラウの護衛に付こうなんておこがましいにも程がある」
そう。ザナルディー・ブラッドが俺を舐めている理由は俺の魔力量を見てのことである。今の俺は余り目立たないように出力を抑えているため、結果ザナルディー・ブラッドよりも実力は下だと思われているのだ。
まぁ実際のところ実力差など戦ってみないことには分からないので、所詮は予想に過ぎない。フラウには既にバレているようだが。いやはや彼女の目は本当に良いらしい。
「……はぁ、これ以上は平行線だな。兎に角私はネリーを手放す気はないし、君と結婚もしない。今日は大人しく帰りたまえ」
「やれやれ。既に君のご両親も認めて下さっていると言うのに。とりあえず今日は君の言う通り帰る事にしよう。また来るよ、フラウ」
「もう来なくて結構だ。何度言えばわかるのかな?」
「そんな照れ隠しをしても、よりいっそう君が愛おしくなるだけだよ。それじゃあね」
ザナルディー・ブラッドは以外にも優雅に立ち上がると、フラウにニッコリと笑いかけて部屋を出ていこうとする。俺は特にアクションを起こすことはなく、ただフラウの側に立っているとザナルディー・ブラッドから再び厳しい視線を送られてしまった。
最早完全に目の敵にされてしまっただろう。
早くこの仕事を終わらせてしまいたいものだ。