咲き行く道に死戦あり   作:黒三葉サンダー

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強い力には何時だって代償が必要なのです。

そしてそれは彼も例外ではありません。


傭兵、魔剣の代償を知る

辺りは酷い有様だった。木々は燃え倒れ、生い茂っていた草花も今では焼け野原となっている。そして彼の目の前にはゴブリンだと思われる焼死体が幾つも転がっていた。幸い被害は彼の正面だけであり、彼の後ろにいたリュート達には一切の被害は出ていない。しかし彼の魔剣の力を、彼の実力を目の当たりにしたリュートとスノーは戦慄していた。

 

(こんなの……これがSS級の実力なのか……!)

 

リュートは体の震えを抑えるように己の体を抱き締める。彼等の目の前で起きたのは虐殺という言葉さえ生温い凄惨な場面だった。ネヴァンが赤黒い剣を振るっただけで8匹のゴブリン達が瞬時に焼死したのだ。その余波によって周りの木々は燃え倒れ、草花も残らず燃え尽きたのだ。

 

(エル先生が言ってた『魔王クラス』……もしもネヴァンが敵になったら、俺は勝てるのか……?)

 

ただ剣を振るう。たったそれだけで彼は敵を殺せるのだ。

 

(って俺は何を考えてるんだ!ネヴァンが敵になるなんてそんなこと……)

 

「……ガァァァッ!!」

 

「ネヴァンくん!?」

 

「っ!?」

 

しかしリュートの思考は彼の呻き声と側のスノーの悲痛な声によって遮られた。リュートは慌てて彼へと視線を戻すと、そこには剣を握っていた右腕が真っ黒に焼け焦げたネヴァンの姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

「……ガァァァッ!!」

 

ゴブリンとの戦闘を終え、役目を終えた魔剣は手の中で燃え尽きるかのように消えていった。しかし最後の残り火が俺の右腕に触れた瞬間、バチッという音と共にその残り火が急激に俺の右腕を焼いていく。

 

「ネヴァンくん!?」

 

「っ!?」

 

スノーの悲痛な声が聞こえたのと、俺の右腕が真っ黒に焼け焦げたのはほぼ同時だった。神経まで焼け焦げたせいか今は痛みを感じないものの、右腕は全く動かせない。

 

「手に灯れ癒しの光よ、治癒なる灯(ヒール)!」

 

スノーが青い顔をしながら俺の所へと走ってきて回復魔術を掛けてくれる。しかしまだ上手く出来ないのか右腕はまだ回復していない。俺が回復魔術を使えれば早いのだが、俺と回復魔術の相性は絶望的らしく正常に機能しないのだ。下手をすると年下達よりも駄目な可能性がある。

 

「スノー落ち着いて。取り乱す気持ちは分かるけど回復魔術に集中するんだ」

 

「り、リュートくん……うん。分かった!」

 

何やら子供達に指示を出していたリュートこちらへ来ると、スノーを落ち着かせてくれた。こういうときに冷静に対処出来るのは流石と言える。それに俺が言うよりもリュートの言葉の方がスノーを落ち着かせるには最適だと俺は判断した為、彼の助言は非常に助かる。

 

「すぅ……はぁ……手に灯れ癒しの光よ、治癒なる灯(ヒール)

 

先程よりも冷静になったスノーが再び治癒なる灯(ヒール)を発動する。すると先程とは違い焼け爛れた真っ黒な肌に少しだけ元の色が戻る。その際に右腕の感覚も多少戻るが、同時に痛みも走る。だが右腕が使えなくなるよりなら痛みが走る方がマシだろう。

 

「ありがとうスノー。お陰でだいぶマシになった」

 

「ほんと?痛くない?」

 

「あぁ。問題ない」

 

「……」

 

俺の言葉にスノーはホッと息をつくが、リュートだけは勘づいているのか顔をしかめている。しかしそれをスノーに伝える必要もないので、リュートに対してそっと首を横に振った。問題ないという言葉には嘘はない。痛みが無い訳ではないが使えない訳ではない。ならば何も問題はない。リュートは俺の意を汲んだのか静かに頷いた。

 

「お兄ちゃん!お姉ちゃん!エル先生連れてきたよ!」

 

「リュートくん!スノーちゃん!一体何が……!?ネヴァンくん!?その怪我はどうしたの!?それにこのゴブリン達は───」

 

子供達の声が聞こえたと思いきや、エル先生が子供達と共に走ってきた。どうやらリュートが子供達にエル先生を連れてくるようにお願いしたのだろう。中々の手回しである。

 

「エル先生!それよりもネヴァンの怪我が最優先です!周りは僕とスノーで警戒するので先生はネヴァンに回復を!」

 

「お願いします!」

 

「っ!分かったわ!」

 

こうして俺はエル先生の回復魔術によって完全に右腕の感覚を取り戻す事が出来た。その後はまだゴブリンがいるかもしれないという理由で急いで孤児院まで全員戻っていった。

 

 

 

 

 

孤児院に戻った後、俺達はエル先生に何が起こっていたのかを伝えた。幸い皆無事に帰れたものの、あの森にはゴブリンのようなモンスターは居なかったらしくエル先生は町の自警団と共に森の中を散策するらしい。エル先生と別れた俺はリュートとスノーに呼び止められ、感謝と謝罪を受けた。感謝は俺がリュート達を助けたこと、謝罪は俺が余計な怪我を負ってしまった事についてだ。

 

結果的に言えば右腕の感覚は確かに戻った。しかし完全に戻った訳ではなかったのだ。現在俺の右腕には肌を隠すように包帯が巻かれており、手には革手袋を嵌めている。無論包帯を巻いた腕など見ても気分は良いものでは無いだろうから、長袖を着て誤魔化している。今でも断続的に痛みが走っているが、前世でも似たような怪我は幾度も経験済みの為騒ぎ立てる程でもない。怪我を隠そうともしたが運悪くスノーに包帯を見られてしまい、泣き着かれてしまった時は本当に大変だった上に、流石にその時ばかりは自業自得だと言わんばかりにリュートからジト目を送られてしまったのだった。

 

(まぁ死人は出なかったんだ。上出来だろう……)

 

それにしても今回初めて作った魔剣が問題だ。強力なものが出来たと思ったが、その分の反動が大きかった。あの時、残り火に触れた瞬間に『拒絶』されたのだ。その結果右腕が焼かれたと考えている。何故拒絶されたのかは分からないが、まるであの魔剣には『感情』があるかのようだった。

 

焼き払う破滅の剣(レーヴァテイン)から感じた拒絶の感情……それに頭の中で導かれるように描かれた形状……本当にあれは魔術による結果なのか?これではまるで………)

 

深みに嵌まる前に思考を打ち切る。未だ情報が足りないのにあり得る可能性を模索する必要もあるまい。

 

(何にせよ、そうポンポンと使って良いものでは無さそうだ……ん?)

 

自分の部屋へと戻る道中、偶々大部屋の前を通ると中から数人の男女の声がした。何となく気になった為、気配を消して聞き耳を立てる。

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、聞いた?ネヴァンのこと」

 

「うん。リュートやスノーを助けようとして大怪我したんだって?」

 

「それだけじゃねぇよ。現場を見たガキ共の話じゃ辺り一面が焼け野原になっちまったってよ」

 

「何それ。そんな物騒な魔術使ったってこと?」

 

「何てったってSSクラスの魔術師様だからな、あいつ。どうせ敵に思いっきり魔術を打っ放せて楽しんでたんだろ」

 

「うわぁ……ヤバイじゃんそれ」

 

「やっぱ化け物だねぇ……」

 

 

 

 

 

 

(……ふむ。まぁ人と違えば違うほどこういう事が起きるのは仕方無い。俺が化け物であることも拍車を掛けているんだろうな)

 

音を立てないようにしていち早くその場を去る。彼等にしても本人に聞かれていたと知れば気不味いだろう。それくらいの気遣いは持ち合わせているつもりだ。

 

(早めに此処を去った方が子供達の為かもしれんな)

 

その為には、まだまだやらなければならない事が沢山残っている。このままでは彼等の身に要らぬ危険が訪れるかも知れない。なればこそ此処を去る前に驚異を取り除かねばならない。

 

「悪いな……リュート、スノー」

 

此処を去るということは、自分を慕ってくれたリュートとスノーを置いていくということだ。いずれは皆孤児院から出ていくが、俺は彼等よりも少しだけ早く去るだけだ。だが俺のいないうちに彼等はまた無茶をするかもしれない。せめて此処にいる者達には無事に孤児院から卒業してほしい。そのためにも驚異は消しておかなければならない。

 

(ふっ、何時から俺はこんな過保護になってしまったんだろうな)

 

前世では感じなかった己の変化に少しだけくすぐったくなるが、決して悪い気分ではなかった。

 

 

 




彼は他人からどんなに自分が悪く言われようが、傭兵時代にそれ以上のものを幾度も味わっているので全く堪えていません。むしろ軽くいなすレベルです。

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