冷やかな地面に多くの死体が転がっている。その死体は大小様々で、その全てがモンスターだ。そしてそれを作ったのは齢9歳程の少年だ。最早そこに立っているのは少年と一匹のモンスターだけで、モンスターは切断された左腕の痛みに耐えながらも少年を射殺さんと睨み付ける。しかし少年はただただ無表情でその視線を受けていた。少年の視線には殺意や必死さ等の感情を感じず、むしろこの状況こそが『当たり前』であると少年は思っている。
「グ……コノばケモノが……」
「……」
憎しみと畏怖がない交ぜになった声でモンスターは少年を罵倒するものの、少年からすれば己が化け物であると誰よりも自覚しているので何も感じる事はない。むしろ今更だと鼻で笑ってもおかしくはない。それほどに己が化け物である事が当たり前だと理解していた。
故に少年は何も言わず、モンスターから奪い取った手斧で瞬時に敵の右足を斬り飛ばす。その速度にモンスターは反応することが出来ず、冷たい地面にうつ伏せで倒れ伏す。モンスターの手にも彼が持っている手斧と同じ武器が握られているものの、左腕と右足を失った今では満足に振るうことも出来ない。
「ワ、ワカッタ!ニンゲンのマチヲおソウノはヤメル!オマえノマエニモすガタヲアらワさナイ!タめテキタたカラもワタス!ダカライのチダケはタスケてクレ!」
「……悪いが俺が必要としてるのはお前の命だけなんでな……」
モンスターの必死の訴えも少年には届かず、少年はただ無表情で手斧をモンスターの首へと振り下ろした。
無惨に首を斬り落とされたモンスターは鬼の形相で少年を見つめるが、少年は既に興味が失せたのかもう1つの手斧を回収してその場を去るのだった。
後日、森の中を散策していた自警団が大量のモンスターの死体を発見して騒ぎになったのは言うまでもない。
謎の喋るオークとその群れを殺した俺は誰にも見つからないように孤児院へと戻った。今までのモンスターの活性化はどうやらそのオークが原因だったらしく、今では森も前のように静かになった。戦利品も手に入ったので選果は上々だろう。手斧二本を倉庫に隠し、なに食わぬ顔で部屋に戻ろうとすると、目の前にリュートが立ち塞がった。
「ネヴァン……一人で何処いってたんだ?」
「なに、ちょっとした散歩だ」
「嘘だろ。血の臭いがするぞ」
「気のせいだろう」
適当に会話を打ち切ってリュートの隣を通り抜けようとすると、腕をリュートに捕まれて止められてしまった。
「そんなにぼく達は頼りないのかよ」
「……」
リュートからの問いに敢えて沈黙で返す。頼りになるかならないかで行けば頼りにはなるだろう。だがそれはあくまでも成長したリュート達だ。今の段階では残酷だが頼りにはならない。彼はそれが分からない程愚かではない。しかし歯痒さは感じているのだろう。だからこそこんな行動に出たのではないだろうか。
俺自身似たような経験はある。まだ傭兵として半人前だった頃、師匠の仕事について行けず置いていかれた事があった。その時も今のリュートみたいに俺が師匠に「俺では足手まといか」などと言ったことがある。しかし返された言葉は優しさでも慰めでもなく、厳しい言葉だった。しかし俺はその言葉のお陰で傭兵として生きていく事が出来るようになった。
無駄に優しくするだけでは駄目だ。理想なんかに埋もれてはいけない。本当に見つめるべきは己と現実なのだ。
「今のお前達では足手まといだ」
「っ!」
だから俺も彼に厳しい現実を叩きつける。リュートが悔しそうに歯噛みするが、慰めの言葉をかけるつもりはない。
「リュート」
「……なんだよ」
「悔しかったら強くなってみせろ」
「……!」
リュートに発破を掛けてその場を去る。これで挫けるのなら彼には悪いがその程度だったということだ。早々に平穏に生きる道を探して生きていくだろう。
だがもし彼が強くなっていくのなら、彼の夢もきっと手が届くものになるだろう。その為ならば憎まれ役など買って出ようではないか。彼には俺と違いハッキリとした夢があるのだから。
「……頑張れよ」
俺の呟きは誰にも聞こえる事はなく、ただ静かに消えていった。
翌日、孤児院からネヴァンの姿が忽然と消えたのだった。