人差し指からゆっくりと曲げ、力を込めていく。
親指まで曲げ終えたそれは拳の形となり、力を溜める。
拳銃の撃鉄を起こすように、拳を掲げ、弓を引くように構える。
腕を曲げる事で上腕二頭筋が膨張し、力を凝縮させていく。
肩幅に足を開き、左足を半歩前に踏み出す。
その動作だけで、言い知れぬ高揚感と血が沸き立つような錯覚を覚える。
口角が吊り上がり、犬歯がむき出しになる。
それを感じ、俺は漸く自分が笑っている事に気がつく。
目の前には、獲物が牙を持って待ち構えている。
鉄パイプ、木刀、金属バット...どれも、人を殺傷する能力を有するものばかりだ。
だが、それがどうした?
そんなもの、此所では関係ない。
強い奴が立ち、弱い奴は倒れる。
此所は、そんな世界だ。
獲物の一人が、鉄パイプを振りかぶって向かってきた。
血が、筋肉が、本能が暴れる。
喰らえ、潰せ、叩きのめせと五月蝿く囃し立てる。
まだだ、まだ早い。
まだ獲物とは距離が離れている。
あと五歩。
四
三
二
一
零。
獲物が射程距離に入った瞬間、俺は力を解き放つ。
足から腰、胸...そして腕へと力が伝達され、溜め込まれていた力が増す。
此の瞬間が、何とも言えない感覚を与えてくれる。
絶頂にも似た高揚感に包まれながら
「オラァッ!」
俺は、拳を振り抜いた。
俺、兵藤一誠には二人の幼馴染みが居る。
一人は幼い頃に遠い国に行ったけど、もう一人はずっと一緒につるんでいた。
幼稚園から小学校、中学校。
高校はそれぞれ別の学校に入ったけど、関係は全く変わらない。
俺が何かしようと言えば、面倒くさそうについてくる。
俺とアイツの関係は、周りから見れば俺に振り回されている、と言われるだろう。
俺も一度はそう思って、アイツに聞いた事が有る。
そのとき、アイツは俺にこう言ってきた。
『俺が居なかったら誰が馬鹿どもを止めるんだ?それに、俺は自分の意思でお前に付き合ってるだけだ』
馬鹿呼ばわりされたのにはムカついたけど、アイツは今まで一度も嫌だとは言っていなかった。
それが嬉しくて、俺達は未だに仲良くつるんでいる。
俺達が騒ぐ後ろを、アイツがついてくる。
ばか騒ぎしすぎれば、実力行使で止めに入る。
アイツの拳はすげぇ痛いけど、それも含めて毎日が楽しい。
それが、俺とアイツの関係で。
「お」
そんな事を考えていると、件のアイツが前を歩いていた。
黒い学ランに教科書の入ってないだろうぺたんこの鞄。
逆立って夕日の色に染まる髪は、生まれつきの銀色。
所々についた傷は、アイツが少し前に喧嘩していただろう事を如実に現している。
俺を見てくる瞳は黒く、気怠げに開かれた瞼が仏頂面を更に強調させる。
でも、一緒に居て息苦しさを微塵にも感じさせない。
「よぉ、イッセー」
「また喧嘩したのかよ、真人?」
それが、俺...兵藤一誠の幼馴染み、大神真人だ。