勢いで書いたので続けるかどうかは決めていません。
”こうなる” 前のアタシはそれなりに幸せだったと思う。
ドイツ人のパパと日本人のママの間にアタシは生まれた。
そこそこ裕福な家庭と仲のいい両親。
平凡すぎるパパにイラっとくることはあったけど、アタシはパパとママが大好きだった。
でもアタシが14歳の時パパとママは突然死んだ。
交通事故だった。
アイスバーンで滑ったトラックに撥ねられて2人とも即死だった。
アタシの手には2人が残してくれた一生食べていけるだけの遺産が残った。
そしてアタシの人生はイージーモードに。
どうせ終わりが来るのなら現実世界に意味なんてない。
高校になんて行かなくていい。
外に出る必要すらない。
一生布団の中で過ごせるのならそれが一番幸せでしょう?
それでも、もし。
アタシにも別の人生があったのなら。
進学して、結婚して、子供ができて、そんな普通の人生があったのなら。
そんな ”幻想” を見てみたいと思うじゃない?
それがアタシがここに来た理由。
月の霊子虚構世界「
「―――だったんだけど、もう正直ジナコさんは帰りたいッス」
アタシはたどり着いた校舎の片隅で頭を抱えていた。
だってここって参加してるのは天才ばっかじゃん!
アタシみたいな凡人が勝ちあがれるわけないよ!
むりむりむりむぅーりぃー!
15年間引き篭もってたニートなめんな。
どう考えても絶望です。本当にありがとうございました。
「どうしたジナコ。1回戦はもう始まっている。頭の中で一人祭りをやっている暇はないぞ」
「カーニバルでもファンタズムでもねぇー! 絶望に打ちひしがれるマスターを労わろうって気持ちがカルナさんにはないんスか!? ないんスね! やだ、私のサーヴァント冷たすぎ!?」
そう言いながらアタシは傍に立つ白髪の青年を睨む。
一見その姿は人間のようだが、そこからはアタシでも分かる強烈な神気が放たれている。
彼はこの
彼らは人間には到底扱えない神秘の技と無類の武勇を持っている。
聖杯戦争とは参加者である《マスター》が《サーヴァント》を用いて他の《マスター》と殺し合うことなのだ。
「『願いが叶う』なんて言葉にホイホイされてこんなとこに来るんじゃなかったっスよ! 殺すのも殺されるのもジナコさんはゴメンっス!」
「そうだな。今のお前を勝たせることは俺の力では難しい」
「じゃあ、もう死ぬしかないじゃない!? ああ……せめてゲットしたのがショタサーヴァントだったら成仏できたのに……」
泣き崩れるアタシとため息をつくカルナ。
サーヴァントにも見放された以上アタシに選択肢は一つしかない。
引き篭もるのだ。
全部投げ出して布団の中に逃げ込めば、ホラそこは安住の地。
すでにいい感じのアタシだけのマイルームはチェック済みっス!
アタシは行き交うマスター達の間を縫って目的地にたどりつく。
そこはちょうど用務員室の裏口に当たる場所だった。
どうやら奥まったところにあったため誰にも気づかれなかったようだ。
「マスターの為のマイルームが用意されているのだ。わざわざこんなところに来なくてもそっちに引き篭もればいいのではないか?」
アタシはカルナの言葉を鼻で笑いとばした。
「ワロス、あんなリア充共の巣窟で心健やかにニートができるわけないじゃないっスか。カルナさんは蝶を見る芋虫の気持ちが分かるんスか?」
自分もああなれるはずだと見せ付けられながら、なれない我が身を呪う気持ちはこの英霊には分からないだろう。
周囲が就職、結婚と楽しそうにイベントをクリアしていくのを見せ付けられる気持ちは。
「とにかく! ジナコさんはこの用務員室に篭ってもう絶対に外にでないことを誓うっス! 異議があるなら最高裁まで戦う覚悟っスよ!」
「異議はないがいいのかジナコ。戦いを放棄するのなら7日後にお前は死ぬことになるのだぞ」
カルナの言葉にアタシの動きは凍りついた。
聖杯戦争のマスターには相手と戦うために6日間の準備期間が設けられている。
そして7日目のマスターとの戦いに向かわなければ《ムーンセル》はアタシを不戦敗とし、
それはアタシが死ぬことに他ならない。
でも、もういいんだよカルナ。
アタシの願いは叶わない。
この願いに殉じて他のマスターと殺し合いをするなんてアタシにはできないよ。
「いいんだよカルナ。アタシの聖杯戦争は終わったんだ」
そう言いながらアタシは用務員室のドアに手をかける。
そこで違和感に気がついた。
「あ、開かない!?」
用務員室のドアは押しても引いてもビクともしなかった。
なんで!?
どうして!?
さっき来た時はすんなり開いたのに!
「カルナ!」
「俺にも無理だ。かなり強固に施錠、いや『封印』されている」
アタシはその場にへたりこんだ。
今この時決定的な ”何か” がずれ始めている気がしたのだ。
理由のない悪寒がアタシの体を走り抜ける。
「ふふ……残念でしたね。そこは閉めさせて頂きました」
その時突然響いた声と共に虚空から一人の少女が姿を現した。
黒い修道服に身を包んだその少女はスカートの裾をつまむと銀色の髪を揺らしながら優雅に一礼する。
「今回の聖杯戦争で皆様の健康管理AIを務めさせて頂きますカレン・オルテンシアと申します。以後お見知りおきを」
「あんたっスか。ここを封印したのは! ジナコさんの
「だまりなさい。このメス豚が」
優雅な態度としかしその口から出た暴言とのギャップにアタシの頭がフリーズする。
え? 今なんて言ったのあの子?
メス豚? メス豚って言ったよね?
えっとこっちにいるのはボクとカルナさんでー。
カルナさんは男だからー。
メス豚ってアタシのことかゴラァァァァァァァァァァァ!
「戦いもせずに安全な場所で怠惰に死を待つ。そんな生き物は人ではなく豚でしょう。ブヒーって鳴いてもいいんですよ?」
「ジナコさんをブヒらせたいならショタなサーヴァントでも連れてくるっス! 小娘がぁ、年上に対する口の利き方を教えてあげないといけないようっスね! カルナ先生やっちゃってください!」
「落ち着けジナコ。その女は聖杯戦争を司る上級AIだ。俺でも手出しはできん」
動かないカルナを見てカレンは微笑む。
「その通りです。豚にしてはいい犬を連れていますね。豚に真珠とはこのことかしら」
また豚って言ったよこの小娘。
ジナコさんはむっちりボディなだけなんスよ!
しかもまだピチピチの20代っス!
「ギリギリだがな」
シャラップ! ジナコさんは永遠の23歳っス!
「私に健康管理AIの役目が回ってきた以上怠惰に死を待つなど許しません。あなたにはきちんと ”戦って” 死んでもらいます」
「健康管理AIの言うことじゃないっスね。バグってるんスか?」
「あら、別におかしなことではないでしょう? 生かすも殺すも『管理』するという点では同じこと。あなたは特に念入りに管理して差し上げますわ。主に殺す方向で」
そう言ってカレンは嬉しそうに笑う。
こいつは絶対にサディストだ。
それも飛びっきりの。
呆然と地面にへたりこんでいるアタシの様に満足したのかカレンはこちらに背を向けた。
「では、ごきげんようジナ豚さん。くれぐれも戦いから逃げようなどと思わないことです。あなたは必ず戦いの中で ”殺して” 差し上げますから」
そう言うとカレンの姿は掻き消えた。
逃げられない。
漠然とだがそう確信できる。
戦う? アタシが? この聖杯戦争で?
「あのようなAIがいたとはな。戦いは避けられそうにないぞジナコ」
カルナの声が遠くに聞こえる。
アタシの聖杯戦争が今、始まったのだ。
書いてしまった。
もう1本あるのにどうしよう……。