Fate/EXTRA NEET   作:あけろん

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大丈夫だ。アタシは問題ないっス。
嘘だッ!!



そんなマスターで大丈夫か?

 初戦にしてはなかなか面白い見世物でした。

 

 最強のサーヴァントをもって敵を蹴散らす生まれながらの王。

 

 それを打倒せんと勝ち進む中東のレジスタンス。

 

 自らの性能を証明するべく参加したアトラスの人造人間。

 

 エリートを破り大番狂わせを演じてみせたイレギュラー。

 

 そしてようやく歩き出した怠け者のメス豚。

 

 今回の聖杯戦争はいい役者がそろっていて嬉しい限りです。

 

 私は試練にてヒトを見極める者。

 

 彼らの苦痛こそが私にとっての至上の愉悦。

 

 敗れた者には安息の死を。

 

 勝利した者にはさらなる試練(しゅくふく)を。

 

 さぁ、聖杯戦争の第二幕を始めましょう。

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 聖杯戦争の1回戦が終わり、2回戦の猶予期間(モラトリアム)が始まった。

 アタシは最低限の身支度をすませるとマイルームの外に出る。

 

「ふぁ~あ、朝日が目にしみるっス。おっさんのおかげで早い時間に目が覚めるようになっちゃったっスよ。エリートニートのジナコさんが健康的になったもんっスね」

「マスターが健康的になるのは俺にとっても喜ばしい。次は夜のお菓子を控えてその皮下脂肪を減らすというのはどうだろうか」

「夜のお菓子だけはやめられないっス!」

 

 カルナの提案を一蹴してアタシは歩き出す。

 

「ところで1回戦でやられた傷の具合はどうっスか?」

「問題ないと言いたいところだが難しいな。他の傷はともかく両腕は完全に破壊されている。猶予期間の7日で回復させるのは絶望的だろう」

 

 やっぱりか。

 これはまいったっスね。

 

 アルクェイドの宝具に破壊されたカルナの両腕は

 1回戦から一夜明けても治ることはなかった。

 このままでは決戦に臨むどころかアリーナで戦うことすらできない。

 

 これどう考えてもアタシのせいっスよね。

 アタシにもっと魔術師としての力があれば傷を治せたかもしれないし

 そもそもこんな傷をサーヴァントに負わせることもなかったっス。

 まぁ、カルナは絶対そうは言わないだろうけど。

 

 まず考えたのは右手に残った令呪を使うことだ。

 令呪の魔力をもって『両腕を治せ』と命じればおそらくカルナの両腕は治るだろう。

 しかし全ての令呪を失えばマスターとしての資格は剥奪されることを考えると

 マスターが自由に使える令呪は2つ。

 その内の一つをアタシは1回戦で使ってしまっている。

 ここでもう一つ使うとなると令呪という切り札を使い切ってしまうことになるのだ。

 

 さすがにそれはまずいっスよね。

 そうなるともう一つの方法しかなくなるんだけど……。

 

 これははっきり言ってやりたくない。

 これをやるくらいなら2回戦を諦めて死んだほうがマシかもしれない。

 ゲームなら選んだ瞬間Badendまっしぐら。

 どうやっても絶望である。

 

 しかし、しかしだ。

 アタシの未熟さのツケはアタシが払わなければならない。

 覚悟を決めたアタシは一気にその部屋の前にたどりつくと

 迷いを振り切るように扉を開け放った。

 

「たのもー、カレンいるっスか? ぽんぽん痛いので診てほしいっスー(嘘)」

「あら、1回戦で自分を鍛えてくれたガトーさんをぶっ殺して生き残った恩知らずさんじゃありませんか。お腹が痛いのなら死ねば楽になりますよ?」

 

 アタシが訪れたのは保健室。

 目の前にいるのは紅茶を飲みながら息をするように毒舌を吐くカレンの姿。

 やばい、早くも帰りたい。

 だから来たくなかったんだよコンチクショー!

 誰だよ保健室にいるカレンにサーヴァント治してもらおうとか考えたヤツは、馬鹿なの!?

 ……アタシだよすみませんでした。

 

「アタシのサーヴァントの傷を治してほしいっス。あんたも健康管理AIならサーヴァントの傷くらい治せるっスよね?」

「もちろんできますが、なるほどあなたは浅ましくも自分ができないことを私に押し付けようというわけですか。さすがの私もドン引きです。生きていて恥ずかしくないんですかこのポルカ・ミゼーリア」

 

 ポルカ・ミゼーリアってどういう意味っスかね?

 意味はわからないけどなんか滅茶苦茶ひどいこと言われた気がするっス。

 

「それに何か勘違いをしていませんか? 私は確かに健康管理AIですがその対象はあくまでマスターです。サーヴァントの傷を治すのはマスターの役割でしょう。あなたは自分のペットの世話もできないのですか?」

 

 相変わらず殺意が湧いてくる物言いだが言ってることは正論だ。

 どう考えても虫のいいことを言っているのはアタシの方である。

 

 はぁ……ダメ元だったんだけどやっぱりダメか。

 こうなったらもう令呪で治すしかないっスかね。

 

「……と言いたいところですが、いいでしょう」

「……は?」

「治してさしあげると言っているんです」

 

 なん……だと……。

 これはどういうことっスか?

 1回戦のアタシの戦いぶりを見て感動した?(ないない)

 2回戦にして早くもデレ期に入った?(もっとない)

 うまいこと言ってアタシをはめようとしている?(これだ!)

 

「何をたくらんでるんスか。正直に言うっス」

「失礼な。あなた私をなんだと思っているんですか?」

「鬼畜外道ドS銀髪鬼」

「気が変わりました。そこの死にぞこないサーヴァントにとどめをくれてやるとしましょう」

 

 やめてぇ! カルナちゃんを死なせないで!

 

「ともかくこれから治療に入りますので役立たずのマスターは外に出ていてください。昼ごろには終わりますから」

 

 そう言われてアタシは保健室を追い出される。

 なんだかうまくいきすぎているような気がしたが今はカレンに任せるしかない。

 

「そうだ対戦相手……」

 

 カルナの傷のことで頭が一杯で忘れていたがまだ2回戦の対戦相手を確認していなかった。

 この時間ならもう掲示板に張り出されているはずだ。

 

 できれば弱くて……そして嫌なヤツでありますように。

 

 そう願いながらアタシは掲示板の前にたどりつく。

 そこには1回戦と同様に1枚の白い紙が張り出されていた。

 アタシはその紙を覗き込む。

 

 マスター:ランルーくん

  決戦場:二の月想海

 

 ランルーくんってあのランルーくんっスかね。

 ハンバーガーチェーン店『レンレンバーガー』のマスコットキャラの?

 え、アタシ一体何と戦うの?

 

「何よアレが次の対戦相手? どんな子リスかと思ったらトドじゃないの。ホント興ざめだわ。サーヴァントもいないみたいだしここで殺っちゃわないマスター?」

 

 背後から聞こえた声にアタシは振り向いた。

 そこにはアタシを見つめる1組のマスターとサーヴァント。

 片方は硬質の角と鱗のついた尻尾を持つ少女。

 こちらがおそらくサーヴァントだろう。

 そしてもう片方は。

 

「ダメダヨ……ココジャオイシクタベラレナイカラ……」

 

 甘く透き通ったサーヴァントの声とは対照的な低くかすれた声が響く。

 ピエロを模したような服装に、顔には白と赤のコミカルな化粧が施されている。

 まさにレンレンバーガーのマスコット

 『ランルーくん』のコスプレをしたマスターがそこにいた。

 格好だけを見れば愉快なコスプレイヤーなのだが、

 感情が抜け落ちたかのような無表情と血走った両目が怖すぎる。

 というかコレが店にいたら子供は絶対に泣くだろう。

 

「本当に1回戦に続いてジナコさんの対戦相手はどうしてこう、キワモノ揃いなんスかね」

「オーディエンスにもなれないトドがアイドルにダメ出しとか100万年早いわね。血もなんだかドロドロでのりが悪そうだし、やっぱりここで殺しましょうよマスター」

「……カエルヨ、ランサー。コノコ、アマリオイシソウジャナイ……」

 

 サーヴァントの言葉を無視し、ランルーくんがふらふらと歩き出す。

 

「あ~あ、ストレスが溜まるったらないわね。お肌が荒れたらどうしてくれるのかしら」

 

 残されたサーヴァントの少女も苛立たしげにつぶやくと姿を消す。

 そして掲示板の前にはアタシだけが残された。

 

 今度の対戦相手はまた別の意味でやばそうっスね。

 あのマスター、アタシを見て『おいしそうじゃない』とか『たべる』とか言ってなかった?

 一体何を食べる気なんですかねぇ……。

 嫌な予感しかしないっス。

 

 だがこの時のアタシはまだ知らなかった。

 アタシの苦難はまだ始まってもいなかったことを。

 それをもたらすのは対戦相手ではなく保健室のあの女だということを。

 その結果アタシが致命的な ”敗北” を味わうのだということを。

 

『うふふふ……』

 

 掲示版の前から立ち去るその刹那。

 あの女の笑い声が聞こえた気がしてアタシはぶるりと身を震わせた。




2回戦始まりました。
話の都合上ランルーくんはここでの登場になります。
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