やってくれたっスね作者! この恨み忘れんぞぉぉぉぉ!
「ここが今日からあなたの職場になります」
保健室での虚しい抵抗の甲斐なく引きずられるように連れてこられたのは、
校舎の地下1Fにある学生食堂だった。
「あなたの仕事はここで食事にくるマスターの接客をすることです」
「てっきり花壇の手入れとかゴミの処理とかだと思ったんスけどね」
「コミュ障のブタコさんには花やゴミより人相手の方が苦痛かと思いまして」
「こ、この女……」
当たっているだけに腹が立つっス。
「責任者が厨房にいますので後のことはそちらに聞いてください。では私はこれで」
「ちょっ!? せめてそこまでついてきてくれても……」
アタシの抗議を無視してカレンは行ってしまう。
あの女の性格なら初めての職場にテンパるアタシを笑う為に付いてきそうなものなのだが、
厨房に会いたくない奴でもいるのだろうか。
一人残されたアタシは厨房に向かって声をかける。
「ちわーっス。今日からここで働くことになったジナコ=カリギリっスけどー」
「話は聞いている。ようこそ私の店へ、ここを取り仕切る料理長として歓迎しよう」
「……何やってるんスか神父さん?」
厨房の奥から出てきたのは監督役のNPC言峰綺礼だった。
清潔感のある白いコック衣装に頭にはご丁寧にコック帽まで乗せている。
壊滅的に似合ってないっスね。
そもそも料理できるんスかこの人。
「保健室のアレに監督役としての仕事はほとんど取られてしまっていてね。『あなた決戦日以外は暇でしょう』と言われてここにまわされたというわけだ。ああ、いつかアレの鳩尾に崩拳を叩き込みたい」
「それは……ご愁傷様っス……」
あの女同じNPCにも容赦ないな。
「とはいえ任された以上手を抜くつもりはない。私は潔癖症かつ凝り性でね。こうなった以上最強の料理人を目指すつもりだ。君もそのつもりで励みたまえ」
「『最高』じゃなくて『最強』なところが激しくズレてる気がするんスけど……」
元神父と元ニートの組み合わせとかどう考えてもうまくいく気がしないっス。
これどう考えても人選間違ってるよね?
「君の仕事着も用意してある。手早く着替えて仕事を始めてもらおう」
「研修もなしにいきなりっスか。しかも仕事着ってエプロン付けるだけかい!」
「急なことで服が間に合わなくてね。今日のところはそれで我慢しもらいたい」
「まぁ、いいっスけど」
アタシは渡された黄色のエプロンを服の上からかけた。
急いで用意した割には左胸に『カリギリ』という名札がちゃんと付いている。
『ちょっと~。誰かいないの~?』
その時カウンターの向こうから声が聞こえた。
「早速お客様がお呼びだ。くれぐれも失礼のないように対応したまえ。お客様は神様、お客様の幸せが私達の幸せなのだからな。はっはっは……全く反吐が出る」
「オイオイ最後に本音が駄々漏れてるっスよ……」
暗黒微笑を浮かべている神父(今は料理人)から離れ、アタシは声の主の元へ。
そこには券売機の前に立っている一人の少女がいた。
意志が強そうな瞳が印象的なかなりの美少女だが、その顔は不機嫌そのもの。
かなりイライラしているようで腕を組んだまましきりにつま先で床を叩いている。
身体中からリア充オーラが出まくってる娘っスね。
ジナコさんこういう娘苦手っス。
「遅いじゃない。この券売機さっきから何度やっても食券が買えないのよ。絶対に壊れてるわ」
そう言って少女は券売機をびしりと指差した。
少し長めの黒髪がふわりと揺れ、少女が着ていた赤い服にかかる。
うわー初めての接客がクレーム対応とか勘弁してほしいっス。
接客Lv1のジナコさんには荷が重すぎるモンスターっスよ。
「えーと、とりあえずもう1回やってみてもらえないっスかねオキャクサン」
若干キョドりながら言うアタシを不機嫌そうに見つめると少女は携帯端末を取り出す。
それを券売機にかざすことでPPTが引き落とされ食券が買える仕組みになっているのだ。
少女は券売機に向かって端末をかざしたが、券売機は無反応のままだった。
「ね? 壊れてるでしょう」
「うーん……」
見た目はレトロな券売機だがこれも一応ムーンセルが管理しているのだ。
だとすればそうそう壊れる代物ではないし、壊れたとしても即座に修理がされるはずである。
聖杯戦争に参加している以上そんなことはこの少女も分かっているはずなのだが……。
「壊れてるのよ壊れてるに決まっているわ。そうじゃなければこの私が券売機もロクに使えない機械オンチみたいじゃないの。そんなことはありえないわそうよね?」
「……ちょっとアタシがやってみてもいいっスかね?」
少女の携帯端末を受け取ると券売機にかざす。
「ご注文は?」
「……エビチリ定食」
ピーッというこれまたレトロな音を立てながら券売機から食券が吐き出された。
食券には間違いなく『エビチリ定食』の文字。
「……」
「まぁなんというか……ドンマイ?」
「キィィィィィ! NPCのくせに的確に心をえぐる一言を吐いてくれるじゃないの! あんたも後ろで笑うんじゃない!」
どうやら霊体化したサーヴァントも後ろで笑い転げているらしい。
完璧そうなリア充に見えるけど実はドジっ子なのかもしれない。
アタシをNPCだと思ってるみたいだし。
というかアタシもう行っていいっスか?
「あれ、ジナコと……遠坂?」
この場を離れる機会をうかがうアタシに後ろから声がかけられる。
振り返ると1回戦で出会った妙な懐かしさを覚える少年、岸波白野が立っていた。
相変わらず癒されるレベルの普通っぷりっス。
遠坂っていうのはこのリア充ドジっ子さんの名前っスかね。
「白野クンじゃないっスか。君も食事に来たんスか?」
「ああ、正直あまり食欲はないんだけどね……」
なんだか元気がないっスね。
当たり前か、ここにいるってことは1回戦でシンジさんクンを倒したってことなんだし。
アタシもその辺まだ完全に吹っ切れてないっスからね。
「明確な願いがない俺みたいなのがこの先勝ち残っていいのかなとか考えちゃってさ。さっきもその迷いを対戦相手に見破られちゃったし、ちょっと落ち込んでるんだ」
「気持ちがフラフラしてるのはアタシも同じっスよ。まぁこっちの対戦相手はアタシの気持ちなんか察する間もなく殺しにかかってくる感じっスけどね」
「あはは……お互い次も苦労しそうだね」
アタシと白野クンは顔を合わせてため息をつく。
なんだかアタシまで落ち込んできたっス。
「コホン! なんだか存在を忘れられてるようだから、岸波君の頭にガンドでも撃って自己主張しようと思うんだけどいいかしら?」
「待つんだ遠坂。忘れてないから人差し指をこちらに向けるのを今すぐにやめてほしい」
遠坂と呼ばれた少女は青い顔をしてぶるぶると首を振る白野から指を外すとこちらを見た。
「遠坂凛よ。あなたマスターだったのね。NPCにしては体型がだらしなかったからおかしいとは思ってたんだけど」
「……遠坂また間違えたの?」
「こ、今度はしょうがないじゃない! 食堂で働いてたら普通NPCだと思うでしょ!?」
白野の突っ込みに凛の顔が赤くなる。
どうやら彼女は前にも同じことをしたらしい。
これはもうドジっ子であることは確定的に明らかっスね。
「ジナコ=カリギリっス。色々あって2回戦の猶予期間の間だけここで働くことになったっスよ」
「記憶がないマスターにも驚いたけど、学食で働くマスターまで出てくるとは思わなかったわ。あなたにも言っておくけどこの先そんな半端な覚悟で生き残れると……」
「あ、そういえば食券渡してなかったっス。はい『エビチリ定食』毎度あり」
「聞きなさいよ!」
「そうだぞジナコ。遠坂は親切で言ってくれてるんだからちゃんと聞かないと」
「べべべ別に親切とかじゃないわよ! 私は誰とでもフェアに戦いたいだけなんだから! あなた達の為に言ってるわけじゃないんだからね!」
そう言って凛さんはアタシの手から食券をひったくるとカウンターの方へ行ってしまった。
いいモン見せてもらったぜ凛さんよ。
今日びあそこまでの様式美には滅多にお目にかかれねぇ。
ありがたやありがたや。
「何を拝んでるのか知らないけどいいのかジナコ?」
「え、何がっスか?」
「厨房の方からなんかすごい視線を感じるんだけど」
「あ……」
白野クンの言葉で我に返ったアタシが厨房を見ると暗黒微笑を浮かべた言峰シェフがいた。
彼は右手にリンゴを取り出すとその握力でグシャリと握りつぶす。
「勤務初日からお客と長話とはいい気なものだ。このリンゴのように頭蓋を砕かれたくなければさっさと溜まった注文をさばきたまえ」
「ひっひぃぃぃぃぃぃぃぃ! ただいま参りますぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」
第2回戦1日目。
アタシの
赤いツンデレさん登場です。
やっぱり白野君の次は彼女じゃないとね。