これからもがんばって書いていきますので読んでもらえると嬉しいです。
突然の闖入者に驚くアタシの目の前で、ランルーくんはシークレットライブ会場(ランサー曰く)に降り立った。
突然現れた己がマスターの姿にランサーも一瞬驚きの表情を見せたが、すぐに冷静になると目の前の道化師に向かって問いかける。
「何しにきたのよマスター。ライブならもう終わりよ。飛び入りには少し遅かったみたいね」
アタシへの止めを邪魔されたからか、ランサーの口調には隠し切れない苛立ちがこもっている。
一方ランルーくんはそんなサーヴァントの機嫌を全く気にしていない様子で気だるげに周囲を見回すと、頭を右にかくりとかしげた。
「ランサー……コレハドウイウコト?」
ランルーくんの言葉には感情の読めない普段の様子とは違い、明らかな非難の色がある。
「コレハヤッチャダメダッテ、ランルークン言ッタヨネ?」
「私は自分の欲望を抑えるなんてまっぴらなの。好きに狩って、好きに絞って、好きに殺すわ。邪魔しないでもらえるかしら」
みなぎる魔力は霧散したがランサーは攻撃体勢を解いていない。
ランサーがその気になればアタシは為すすべもなく彼女の槍に貫かれるだろう。
「なんなら殺した後は好きにしていいわよ。愛した人間の肉でしかその飢えを満たせない異常者。それがあなたの本性だものね。串刺しにする? それともミンチにしてハンバーグがいいかしら。お好みにあわせて下ごしらえをしてあげるわよ」
ランルーくんが背中越しに一瞬アタシを見る。
その血走った目は満たされない
人間の血を求めるサーヴァントと人間の肉を食らうマスター。
それが2回戦で戦う相手の本性だったのだ。
状況が悪化してるじゃないっスか!
このままじゃジナコさんの魅惑ボディがランルーくんのお夜食になっちゃうっス!
煮て良し、焼いて良し、でもタタキは嫌ッ!
錯乱気味にどこかの島の手足が生えたお魚ネタが頭をよぎる。
しかしランサーの言葉を受けてもランルーくんは動かなかった。
アタシとランサーの間に立ちはだかったまま己がサーヴァントを見つめると静かに首を振る。
「ウウン、ランルークンハ我慢スルンダ。目ノ前ニゴチソウガアッテモ我慢スルンダ。ソノ為ニ、オ別レシテキタノ。大好キナ、パパ。大好ナ、ママ。大好キナ、ミンナ。イチバン大好キナ、ランルークンノベイビー。トッテモ美味シソウダッタケド我慢シテミンナトサヨナラシテキタンダ」
相変わらずひび割れた声だったがその言葉には今までにない熱が感じられた。
「ランルークンハ聖杯ニオ願イスルノ。世界ガランルークンノ好キナ物デイッパイニナリマスヨウニッテ。ソウシタラモウオ腹ハ減ラナイヨ。大好キナベイビーヲ食ベナクテモイインダ」
「呆れたわ。まだそんなことを言ってるのね。人間なんて元々お互いを食い物にしているじゃない。私の周りの人間も暇さえあれば他者の金や土地を奪い合っている奴らばかりだったわよ。それが人の血肉になったところでたいした違いはないわ」
己が願望を告白するマスターにランサーはこともなげに言う。
人間はそもそもが互いを食い合う『怪物』なのだと。
たいした違いっスよ!
ここがジナコさんが食べられるかどうかの瀬戸際っス!
がんばれランルーくん!
ここでバックに『論破!』の文字を背負いながら「それは違うよ!」と言ってやるっス!
だがそんなアタシの心の声が聞こえるはずもなく、ランルーくんは黙ったままだ。
「それに愛する者を糧に生きるのはそんなに罪深いことかしら? 触れ合うだけでは足りない。愛する者の血も肉も全て自分のなかに取り込んで一つになりたい。それは何もおかしなことではないわ。それが愛ってものでしょう?」
ランサーの構えた槍に再び魔力が集まる。
「後ろのトド女を殺した後で教えてあげる。愛する者を貪る快感をね!」
今度こそアタシをその槍で貫かんとランサーが地を蹴ろうとしたその時。
「ランサー――――君ノ愛ハ美味シクナイ」
そう言ったランルーくんの右手からまばゆいの光が放たれた。
それはアタシとランサーを飲み込み一瞬にして部屋全体を覆い尽くす。
「うおっ! まぶしっ!!」
「これは!? 何するのよやめ――――!!」
思わず目を覆ったアタシの耳にランサーの焦った声が聞こえる。
しばらくして光がおさまり周囲を見回したアタシは部屋の様子が変わっているのに気が付いた。
壁にびっしりと描きこまれていた人型が消えている。
あの人型は神隠しにあい、壁に埋め込まれていたマスター達だったはずだ。
それが一つ残らず消えていた。
「なんてことするのよ! せっかく捕まえたマスター達を逃がしちゃうなんて! しかも全員を通常空間に転移させるために令呪まで使ったわね。そこまでして私の邪魔をしたいの!?」
「ランサー……モウ一度言ウヨ。コレハヤッチャダメ。ランルークンハ『怪物』ニナルワケニハイカナインダ。ベイビーニ会イニ行ケナクナッチャウ」
硬質の尻尾を逆立てながら怒りの声を上げるランサーにランルーくんは静かに告げた。
その言葉を聞いたランサーは一瞬信じられないものを見るように己がマスターを見つめ、そして肩を震わせながらうつむく。
「そう……あなたまでそんなことを言うの……。あなたは、あなただけは私のことを分かってくれると思っていたのに……」
ランサーの声が一段低くなる。
そして再び顔を上げたランサーは凶悪な笑みを浮かべた。
「本当なら後ろのトド女共々殺してやりたいところだけど、それじゃあ私も消えちゃうしつまらないわ。だから奥の手を使わせてもらうわよ。カモン、スポンサー!」
そう言ったランサーが槍の持っていない左手の指をパチリと鳴らすと、虚空からにじみ出るように一つのシルエットが浮かび上がった。
「全く……私は裏方に徹すると言ったはずですが」
そう言ったシルエットは次第に丸みを帯びていき僧服と頭巾をまとった女の姿になる。
その女は服装こそ地味な僧服だったが、それを豊かなボディラインが蠱惑的に押し上げており、おまけにその僧服にはなぜか腰までスリットが入っている。
そこから見え隠れする肉感的な太ももも手伝ってその女からは尼にはあるまじき妖艶な雰囲気が放たれていた。
彼女は優雅な仕草で降り立つとランサーを見る。
「私を呼んだということは、マスターの考えは変わらなかったということですかランサー?」
「ええ、どうしようもない頑固者だったわ。後は任せるからやってちょうだい。見返りはここでマスター達から搾取したリソースの半分でどう?」
「いいでしょう。交渉成立です」
女はランサーとの会話を終えると前に出る。
「初めまして殺生院キアラと申します。以後お見知りおきを」
そう言って殺生院キアラと名乗った女はアタシとランルーくんに向かって微笑んだ。
ゾクリとした。
その微笑みはとても慈愛に満ちたものだったのにアタシは冷や汗が止まらなかった。
何がそう思わせるのかも分からないままアタシは動けなくなる。
「自己紹介もそこそこに申し訳ないのですが時間がありません。失礼して『はじめさせて』もらいましょう」
キアラはそう言うと右手を持ち上げた。
その手のひらをランルーに向けるとそこに薄紅色の光が灯る。
「人に三魂七魄あり。すなわち十種の神宝なり。汝、己が仏性を悟らんとするなら、内なる悪を見据え、もって涅槃に至るべし。オン バザラ ダキニ ウン ハッタ ソワカ」
え、なに?
何してるのあの女?
キアラがよくわからない呪文を唱える間にも右手の光はどんどん強くなっていく。
「ア、アアァァァ……!」
その時アタシの耳に苦しげにうめく声が聞こえた。
そちらへ目を向けると、そこには胸の中央から同じく薄紅色の光を放っているランルーくんの姿があった。
「『五停心観』に感あり。あなたの心の淀み、取り除かせて頂きます」
「イ、嫌ダ……。嫌ダァァァァァァァァ!!」
叫ぶランルーくんの胸で薄紅色の光が収束し、光の玉になったかと思うとそれは引きちぎられるように抜き取られ、キアラの右手に収まっていた。
「これがあなたの
「返シテ……ランルークンノ……」
ランルーくんの声が小さく震える。
キアラは右手の光にしばし見入っていたが、やがて手の中の光をこともなげに握りつぶした。
同時にランルーくんの身体が糸の切れた人形のようにドサリと倒れる。
キアラはその様子を見届けると今度はこちらを見た。
アタシの背筋にランサーに殺されかけた時以上の緊張が走る。
「さて、彼女はどうしますかランサー?」
「そうね。邪魔者がいなくなったから改めて殺したいところなんだけど……」
「ええ、どうやら時間切れのようですね」
その直後空間に激しい警告音が鳴り響く。
《警告。警告。不正に改竄された空間を感知。ただちに通常空間へと修復します》
アナウンスと共に周囲の景色が歪み始めた。
細工されていた空間が元の月海原学園の教室に戻り始めているのだ。
ランサーは倒れているランルーくんに近づくとその身体を抱え上げる。
「殺せなかったのは残念だけど。楽しみは先にとっておくわ。運がよかったわね」
そう言うとランサーとランルーくんの姿が空間に溶けていく。
その最中一瞬ランサーがアタシを見た。
「それとも運が悪かったのかしら。『怪物』が増えてしまったんだものね」
そう言い残して2人の姿が完全に消える。
その横でキアラが優雅に腰を折った。
「それでは私も失礼いたします。またお会いしましょう ”ジナコ先生” 」
そう言ってキアラの姿も空間に溶けた。
一人残されたアタシはペタリとその場に座り込む。
周囲の景色はもう元の月海原学園の教室に戻っていた。
た、助かった~。
今度ばかりはもうダメかと思ったっス。
あ……なんか気が抜けたら意識が……。
駆け寄ってくる人影の「大丈夫かジナコ!」という声が聞こえる。
それをを最後にアタシは意識を手放した。
ランルーくんの設定は半ば作者の妄想です。
彼女が家族を食べてしまったのかどうかは原作中でははっきり書かれていません。
ですがこの小説では食べていないものとして書いていこうと思います。