Fate/EXTRA NEET   作:あけろん

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「あけましておめでとうございます。今年もこの小説と気長にお付き合いくださいませ」
「デュフ、デュフフフフフフハハハハハハハハハハハハァ!!」
「どうしたジナコ。お前もどこかの六つ子のようにメンタルな腐りが身体にまでまわったか?」
「違うっスよ! ほらカルナさんがついにGOに参戦したじゃん? 台詞を聞く限りじゃアタシの存在も認知されてるみたいだし、これはもうジナコさんのGO参戦待ったなし的な展開にwktkがとまらないワケっスよ!!」
「☆1の概念武装としてならワンチャンあるかもなぁ。効果はテム=レイの回路みたいに『装備したサーヴァントの性能が3倍になる(笑)』みたいな」
「ネタ枠は嫌ぁ!!」


記憶喰い(メモリーイーター)

 ――――ある少女の話をしましょう。

 少女は一命は取り留めたものの7日に1度、記憶の補充をしなくてはなりませんでした。

 そして新しい記憶を入れられる度に別の人格と名前が与えられるのです。

 少女にとってそれは苦痛でしかありませんでした。

 そんな少女に僧服の女は言いました。

 

『安心なさい。私が聖杯で願いを叶えた暁にはあなたはその苦しみから解放されるでしょう』

 

 陶酔したような顔でそう言う女の言葉を少女は素直に信じることはできませんでした。

 もう自分を救うことができるのは自分以外にはいないのです。

 聖杯が全ての願いを叶えるものならば少女の願いも叶えてくれるはず。

 あの日突然に奪われた故郷、家族、友人、そして自分自身。

 その全てを取り戻す。

 少女はこの時そう心に誓ったのです。

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

「ゼーハー……ゼーハー……」

 

 聖杯戦争3回戦6日目の朝。

 アタシは校舎裏で荒い息をついていた。

 もう神回後のアニメスタッフばりに色々使い果たしたっス。

 キャスターの世界から戻ってきた後アリーナで2つ目の起動鍵を取り、それからこの校舎裏でカーマインブレイジを発動させるべく同調の特訓をしていたのだ。そう徹夜で。

 なんというハード、いやブラックスケジュール。

 ゲームなら徹夜で経験値稼ぎとか当たり前だったけど、リアルでやるもんじゃないよね。

 

「でも、おかげで成し遂げたぜ」

 

 そう言ったアタシの右腕では赤い腕輪が眩い光を放っている。

 カルナと例のポーズを合わせること幾星霜。

 ついにカーマインブレイジの発動に成功したのだ。やったぜ。

 

「よくやったジナコ。正直途中で諦めて布団で自虐に耽るものと思っていたのだがな。魔術師としてよりその人間的な成長が俺にとっては喜ばしい」

「うへへ。もっと言っていいのよ?」

 

 珍しく褒めてくれるカルナの周囲では礼装に強化された魔力が炎となって荒れ狂っている。

 お願いだからその状態でアタシに近づかないでね。

 

「これでひとまず決戦の準備は整ったな」

「そうっスね。まぁ相手はあのキャスターだし殴り合いなら負けないっしょ」

「確かに決戦場でならばそうそう遅れは取らないとは思うが、俺が気になっているのはマスターの方だ。できればもう少し情報がほしいところだったのだが」

「やっぱりカルナさんはああいう黒髪ロングなボインちゃんが好きだったんスね。気になるのはスリーサイズっスか? 恋愛遍歴っスか?」

「お前は俺をなんだと思っている。俺が気にしているのはあの少女からどうにも作り物めいたものを感じるからだ。初めはホムンクルスなのかと思ったが、それにしては人間味がありすぎる。どうにも不気味だ」

 

 不気味ねぇ。アタシはそれより懐かしい感じがしたんスけどね。

 まるでどこかで会ったことがあるような。

 

「でも情報が欲しいって言っても集める時間がないっスよ。彼女を知ってる人に話でも聞ければ簡単なんスけど……あ」

 

 その時アタシに電流走る。

 そういえば桜さんと初めて会った時に意味深なことを言って去って行った人がいたっスね。

 彼女なら桜さんについて何か知っているかもしれない。

 教えてくれるかは分からないけどダメ元で凸してみるかな。

 そう思ったアタシは朝日に照らされた校舎を見上げる。

 おそらく彼女ならあそこにいるはずだ。

 

 

 

「お断りよ。私からあなたに教えることは何もないわ」

 

 そう言って屋上にいたウッカリンこと遠坂凛はアタシの問いかけをバッサリ切り捨てた。

 

「そりゃないっスよ。あの時は桜さんのことを『誰でもあって誰でもない』って教えてくれたじゃないっスか。彼女について他にも何か知ってるなら教えてほしいっス」

「あのねぇ……あなたと私は敵同士なのよ? あの時はもらった情報の対価として教えてあげただけ。私フェアじゃないのは嫌いだけど、敵に塩を送るほどお人好しじゃないわ。分かったら私に頼ったりせずに自分で……」

「ところでここに大粒のエメラルドがあるんスけど」

「あのマスターに関する情報ね。オーケー何が知りたいの?」

 

 恐ろしく速い掌返し。アタシじゃなきゃ見逃しちゃうね。

 さすが一流の魔術師っていうのは手首の柔らかさも一流ですなぁ。

 白野クンから聞いてたけど本当に凛さんてこの手の光り物に弱かったんスね。

 売店から巻き上げたエメラルドが思わぬところで役に立ったっス。

 

「ウチのサーヴァントが桜さんのことを『作り物っぽい』って言うんスよ。でもホムンクルスでもないみたいで、その辺のところ凛さんなら何か知ってるんじゃないっスか?」

「なるほど、随分と目の利くサーヴァントを連れてるのね。いいわ、話してあげる。今は間桐桜を名乗る”彼女”のことをね」

 

 そしてアタシから取り上げたエメラルドをスカートのポケットに仕舞いながら凛さんは一人の少女のことを話し始めた。

 

「聖杯戦争が始まる少し前にある街で大規模な爆破テロがあったの。

 狙われたのは西欧財閥の勢力圏の隅っこにある小さな田舎町。

 やったのは西欧財閥に反発するレジスタンスの過激派だったわ。

 思想の違いで早々に袂を分かった私の元お仲間よ。

 なかなかうまくいかない反抗作戦に業を煮やした馬鹿共が、財閥への影響も小さい街でのんびりと暮らす住人達の頭上に無意味な爆弾の雨を降らせたわけ。

 住人の大半は爆死。でも本当に恐ろしいのはここからだったの。

 連中は爆弾に“いかれた”仕掛けをしていたのよ。

 『忘却』の起源を持つ魔術師一人を丸ごと解体してその骨をすり潰したものをを爆弾に埋め込んでいたの。

 元は同業者殺しを得意としたどこかの魔術師の技術だったらしいんだけど、『起源爆弾』ともいうべきそれは爆発の影響下にあった全ての住人にその忘却の起源を振り撒いたわ。

 結果ひと昔前のバイオテロで発生したアムネジアシンドロームと同じ症状が住人達を襲ったの。

 今は根絶された病気だけど、今度のはウィルスによるものじゃないからワクチンなんて効くはずがない。かろうじて生き残った住人達も忘却の起源に脳の機能を侵されて死んでいったらしいわ。

 でもそんな地獄のなかで一人だけ生き残った少女がいたのよ。

 彼女は失った記憶を他者の記憶を取り込む術を何者かにほどこされて一命を取り留めたの。

 私に言わせれば狂気の沙汰ね。他者の記憶を取り込むということは、それはもう自分ではない別人になるということだもの。

 しかも記憶を提供する側はよくて廃人、ほとんどは死ぬわ。

 その施術をした奴はきっと人を人とも思わない外道だったんでしょうね。

 と、ここまでが全てが終わって彼女がいなくなった病院で私が調査した内容よ。

 もちろん過激派連中は潰して起源爆弾も製造方法ごと破棄してやったわよ。

 その後聖杯戦争に参加した私は、そこで潰したはずの起源爆弾の魔力を匂わせる少女を見つけて思わず後をつけたの。

 そうしたらそれがあなたの対戦相手『間桐桜』だったというわけ。

 あなたの話を聞いて間違いないと思ったわ。あの爆破テロにおける唯一の生存者。他者の記憶を取り込まなければ存在できない『記憶喰い(メモリーイーター)』。それがあのマスターの正体よ」

 

 思ったよりキツイ内容だったっス……。

 うわぁ聞くんじゃなかった。

 家族を全員亡くしてその上引き籠る家すらも無いとかもう詰んでるじゃないっスか。

 

「なるほど『記憶喰い(メモリーイーター)』か。俺が感じていた違和感もこれで説明がつく。あのマスターの人格は他者から取り込んだ記憶で作られたものだが、同時に本物の人間の人格でもあるわけか。なんとも哀れな存在だな」

 

 「哀れな存在だな(トオイメ)」じゃないよカルナさん!

 アタシ明日その哀れな存在さんと戦うんスけど!

 やりにくくてしょうがないんスけど!

 

「あら、気にすることないわよ。相手が幸せだろうと不幸だろうと、ここで会った以上等しく倒すべき敵なんだから、遠慮なく全力で叩き潰せばいいの。それとも可哀そうだから負けてあげるの? その代償はあなたの命なんだけど」

 

 凛さん容赦ないっス。

 容赦なくアタシの心を追い込んでくれるっス。

 

「わ、分かってるっスよ。アタシだって最近は自分のことを少しはマシだって思えるようになってきたんス。そう簡単に自分を差し出すようなマネはしないっスよ」

「よろしい。ちなみに私もあなたと戦う時は遠慮しないから。せいぜい私と当たるまでは命は大切にしなさい」

 

 鬼だ。血も涙もない赤い鬼がおる。

 でもなんだか凛さんの言葉で少し気分が軽くなったかも。

 もしかして今のは彼女なりの励ましだったのかもしれない。

 

「それからこれは返すわ」

 

 そう言うと凛さんはスカートのポケットから取り出したものをアタシに投げて寄こす。

 慌てて受け止めたそれは渡したはずのエメラルドだった。

 

「あなたにとっては有益な情報じゃなかったみたいだし、私も人に話したら少し気分が楽になったしね。元身内がやらかしたことだけに自分が思ってた以上に気にしてたみたい。魔術師の取引は等価交換じゃないとね。だからこれは受け取れないわ」

 

 「私はお人好しじゃない」とか言ってたけど凛さんて実は相当お人好しなんじゃないだろうか。

 でも言うと怒りそうだから言わないでおくっス。

 

「じゃあこれはありがたく貰って……」

 

 あれ? アタシが渡したエメラルドってこんな形だったっけ?

 しかもなんだかすごい魔力を感じるんだけど。

 明らかにアタシが渡したものじゃないよコレ。

 

「凛さんこのエメラルド……」

「話は終わりよ。用が済んだならさっさと明日の準備でもしてきたらどう?」

 

 エメラルドが渡したものと違うことを言おうとするも、凛さんは聞く耳を持たない様子で後ろを向いてしまった。

 これは気づいてないっスね。ウッカリンの名は伊達じゃないッス。

 

「これどうしようカルナさん」

「おそらく遠坂凛の魔術がかけられた品なのだろうが。とりあえず今は預かっておくしかないのではないか?」

 

 まぁ、いいか。ほとぼりが冷めたところで返すことにしよう。

 確かに明日の準備もしなくちゃいけないしね。

 

「話してくれてありがとうっス。これは借りだと思っておくっスよ」

 

 アタシは凛さんの背中に向かって感謝の言葉をつぶやくと屋上を後にした。

 

 

 

 聖杯戦争聖杯戦争3回戦7日目。三度目の決戦日がやってきた。

 校舎の1階へと移動すると決戦場へのエレベーターの前に立つ言峰がアタシを見つけて薄く笑った。

 

「ようこそ決戦の地へ。身支度は全て整えてきたかね? まさかこの台詞を三度もお前に言うことになるとは思わなかった。神の奇跡か悪魔のいたずらを目の当たりにしている気分だよ。岸波白野とはまた違った意味でお前は私を愉しませてくれる」

「それはよかったっスね。今日もばっちり戻ってくるから四度目はもう少し気の利いた台詞をお願いするっス」

 

 嫌味を華麗に受け流したアタシの顔を見て言峰が「ほう」と声を漏らす。

 

「2回戦とは面構えが違って見えるな。自分自身と向き合い、壁を一つ乗り越えたといったところか。未熟であることの強みだな。短い時間の中でこうも変わるものか」

「なんか見てきたように言うっスね。アタシをストーキングでもしてたんスか?」

「私にも自分が何者なのかを自身に問い続けていた時期があったのでね。経験者ゆえの直感というやつだ」

 

 NPCのモデルになった人間にそういう時期があったってことっスかね。

 この神父が自分探しの旅とか想像できないんスけど。

 

「まぁ碌な答えは得られなかったがね。私の話はここまでにしておこうか。では、扉はひとつ、再びこの校舎に戻るのも一組。覚悟を決めたのなら、闘技場への扉を開こう」

 

 アタシはうなずくと2つの起動鍵を差し出す。

 今度の対戦相手は他者の記憶を取り込み別人にならなければ生きられない『記憶喰い(メモリーイーター)』だ。

 可哀そうだとは思うけど、負けてやるわけにはいかない。

 

「いいだろう、腐った豚士よ。決戦の扉は今、開かれた。お前も自身の本質を知って絶望するがいい。はははは、ザマァ」

「だんだんディスり具合がひどくなってきてませんかねぇ?!」

 

 ついに闘士でもなくなったよ! しかも腐ってるよ! そこは反論できないけど!

 クッ! 今は堪えるっスよアタシ。大事な決戦の前に余計な体力を使うわけにはいかないっス。

 絶対勝って4回戦の校舎で闇討ちしてやる(カルナさんが)

 ウェヒヒヒ、月の無い夜には気を付けるんスね。あ、ここが月だった。

 

「ささやかながら幸運を祈ろう。再びこの校舎に戻れることを。そして――――存分に、殺し合い給え」

 

 決戦場へのエレベーターが開き、含み笑いをしながら言峰はいつもの台詞を吐く。

 ささやかな抵抗としてその顔に向かって中指を立てながらアタシはエレベーターへと乗り込んだ。




謎のサーヴァント(バレバレ)の登場は次回!
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