「ほ~ん、良かったじゃないの。別に興味ないけどね」
「まぁ、ヘタレマスターの作者には9コス礼装は高嶺の花っスよね、フフン」
「そ、そういうことだな。あー残念残念(ログボで引けて超嬉しかったとか絶対言わない)」
”彼”は正義の味方になりたかった。
そういう者になることが大きな災害で一人生き残った自分の義務だと思ったのだ。
死んでいった人達の為に。
もう悲劇を二度と繰り返さない為に。
世界を脅かす敵がいるのなら、力無き者の代わりにこれを討つ。
そんな全ての人を助ける正義の味方になろうと彼は誓った。
だがそんなものは所詮絵空事。叶うはずもない子供の夢だ。
時には貧困に喘ぎながらやむなく窃盗を働く集団がいた。
時には危険なウィルスが蔓延した旅客機の中でそれでも必死に生きようとする人達がいた。
そんな者達を彼は『悪』として容赦なく殺し、切り捨てなければならなかった。
私情を捨て、身の丈に合わぬ魔術に身体を削りながら、
『正義の味方』という理想を追いかけて殺して、殺して、殺し続ける日々。
そんな彼が敵からはもちろん味方からも恐れられるようになるのにそう時間はかからなかった。
結局、彼を殺したのは敵である悪ではなく味方であるはずの友人だった。
彼の生き方を恐れた友人によって処刑台へ送られ『正義』の為に切り捨てられるその刹那。
それでも後の人々を救わんと彼は自らを世界に売り渡した。
名も記憶も剥奪された守護者に堕ちても彼は胸に抱いた理想を追い続ける。
たとえその先が地獄であったとしても、
たとえその未来が報われないものであったとしても、
彼は『正義の味方』で在り続けるのだ。
”全ての人を助けたい” その想いは決して間違いなんかじゃないのだから。
◆ ◆ ◆
まず目に入ったのは赤銅色の空だった。
そこには雲の代わりに大小の歯車が噛み合いながら無数に浮いており音を立てながらゆっくりと回っている。
大地は見渡す限りの砂漠。
そして何より異様なのはその地面にまるで墓標のように突き立つ無数の剣だった。
「ちょっ……ここはどこっスかカルナ!? いつのまにアタシ達は決戦場からこんな変な砂漠に移動したんスか?」
「違うぞジナコ、俺達が移動したのではない。世界の方が”変異”したのだ」
「……はい? 理解不能なんスけど」
「落ち着け。お前は一度これと同じものを経験しているはずだ」
いやいやいやこんなアンビリバボーな経験したことないから。
周りの景色が一瞬で変わってまるで別世界に放り出されたような……あ。
「もしかしてキャスターの宝具っスか?」
「そうだ、キャスターも宝具によって本の中に物語の世界やお前の記憶の世界を創り出していただろう。これは『固有結界』と呼ばれる己の心象風景で世界を塗りつぶす大魔術。魔法に近い魔術の到達点のひとつだ。どうやらこの魔術がアーチャーの宝具のようだな」
カルナの話を聞いてアタシは「あれ?」と思った。
「それっておかしくないっスか? キャスターならともかく、なんでアーチャーの宝具が弓じゃなくて魔術なんスか?」
「クラスがアーチャーだからといって弓兵とは限らない、ということか。この魔術を見るにあのサーヴァントは
カルナはそう言ってアーチャーを見据える。
この世界を創った主は少し離れた小高い丘からこちらを見下ろしていた。
「その通り、生前のこの身は弓兵でも剣士でもなく魔術師だったというわけだ。この心象世界そのものが特に逸話を持たない私に許された唯一の宝具なのだよ」
アーチャーはそう言うと地面に刺さっていた剣に向かって手をかざす。
すると地面に突き刺さっていた剣の2本がひとりでに引き抜かれ、射出された。
一変した周囲に警戒しながらもカルナはこれを弾き落とす。
「まだまだ、これよりお前が挑むのは無限の剣。剣撃の極地をその身で味わうがいい」
今度は4本の剣が同じように射出される。
カルナはこれも弾くが、射出される剣の数は弾くたびにその数を増やしていく。
今までとは投影される剣の数が違いすぎる。
しかもこの世界の性質なのか引き抜かれたそばから地面に新しい剣が生成され、ストック切れを起こす気配もない。
無数の剣を相手にカルナはたった1本の槍で相対していた。
次々に飛来する剣を弾き、砕き、躱す。
終わりの見えない剣の雨を太陽のサーヴァントは耐え続ける。
「さすがだなランサー。その存在、武器、どれをとってもお前は”本物”なのだろう。私はどこの誰かも分からない守護者であり、手にする武器は所詮オリジナルのコピー。どちらもいわゆる”偽物”だ。だが侮るなよ。偽物が本物にかなわないなどということはないのだからな」、
射出される剣がさらに増える。
剣の雨が勢いを増して嵐と化し、その暴風がカルナに襲い掛かった。
「ぐっ!」
ついに捌ききれなくなったカルナを身体を無数の剣が切り裂く。
カルナは一瞬よろめくが、すぐに踏みとどまった。
「カルナ!」
「大丈夫だ、急所は外している」
「でも……」
あの無限の剣撃に晒され続ければいくらカルナでもいずれ致命の一撃を受けるだろう。
この固有結界をどうにかしなければ負け確なのは明らかだが、アタシはもちろんカルナも結界破りなどというスキルは持ち合わせていない。
「今は耐えるしかない。固有結界は世界の修正力を強く受けるがゆえに長い時間は維持できないはずだ。ましてやアーチャーのクラスであれば残りの時間は多くないだろう。次の一波を凌ぎ切れば、まだ勝機はある」
「次の攻撃を乗り切ればこの結界は自然消滅するってことっスね。よっしゃ、スキルも大盤振る舞いして亀になるッスよカルナさん」
アタシの指示を汲み取ったカルナが《
耳輪の加護とカルナの槍捌きで再び無限の剣撃に挑む。
「防御力を上げての持久戦か狙いか、少々厄介だな。ではこちらも少し趣向を変えるとしよう」
アーチャーの言葉と同時に投影された無数の剣がカルナの頭上に降り注いだ。
「くおっ!」
まるで絨毯爆撃のような剣の雨をカルナは手にした槍で打ち払う。
それでも捌ききれない剣撃が身体を傷つけるが耳輪の加護のおかげで致命傷には至らない。
これなら……。
「《
アタシの安堵はアーチャーの発した詠唱によって打ち消される。
その手にはいつのまにか奇妙な剣が握られていた。
刀身がまるでドリルのように捻じれたその剣をアーチャーは弓につがえて引き絞る。
直感する。「あの剣はヤバい」と。
アタシは間に合うことを祈りながら自身に宿る加護に呼びかける。
「《
次の瞬間凄まじい魔力の込められた一矢が放たれた。
矢は周囲の空間を螺旋状に歪めながらカルナ目がけて突き進む。
だがカルナは無数の剣に対処しながらもアーチャーへの警戒を疎かにしてはいなかった。
降り注ぐ剣を払いながらもさすがの体捌きで矢の軌道から身をかわす。
アーチャーの放った矢は不発に終わるかと思われた、が。
「ぐっ!?」
カルナの身体が矢が纏う捻じれた空間に巻き込まれる。
あの矢の本質は矢本体ではなく周囲の空間にこそあったのだ。
このままではカルナは空間の捻じれに引き裂かれて深刻なダメージを負うだろう。
自分の直感が正しかったことを恨みながらアタシは術式を解き放つ。
「《
呼びかけに応えて黄金の光がカルナの身体を包む。
2回戦と同様にアタシの意思で黄金の鎧の加護を一時的にカルナへ戻したのだ。
カルナの身体を飲み込もうとしていた空間の捻じれはかろうじて間に合った鎧の加護によってせき止められる。
弾かれた螺旋の魔剣は口惜しそうに身をよじりながら赤銅の空へと消えた。
「マジやばかったっス。自動追尾弾の次は空間振動弾とか、あのサーヴァントは未来に生きてるっスね」
「この固有結界はアーチャーが記憶するあらゆる聖剣・魔剣を内包しているようだな。この世界でアーチャーはそれらを無限に生成できるというわけだ。厄介な宝具もあったものだな」
「でも凌ぎ切ったっス。これで固有結界は消滅するはず。ここから一転攻勢っスよ」
そう言いながらアタシは周囲の見回す。
もうすぐ赤銅色の空は元の蒼色に、砂漠の大地は元の闘技場へと世界が修正される。
……そのはずだった。
「勝機が見えたという顔だな。だが現実というものはいつだって非情なものだ。実際それを数多く味わってきた私が言うのだから間違いはないよ。いつだって一筋の希望は世界によってたやすく裏切られる。……このようにな」
アーチャーの言葉と同時に再び無数の剣が虚空に生成される。
固有結界が消滅していない。
世界は未だアーチャーの心象風景によって塗りつぶされたままだった。
「どういうことっスかカルナ! アーチャーの固有結界は世界の修正力でいい感じにアボンするんじゃなかったんスか!?」
「ありえない。たとえサーヴァントであっても世界の修正力は無視できないはずだ」
アタシの問いかけに応えるカルナの声にも少なくない動揺が見える。
それほどに不可解なことが起きているのだ。
「固有結界がどうして消滅しないのか不思議ですか?」
とまどうアタシ達に対して口を開いたのは桜さんだった。
「無用なおしゃべりは控えろマスター。このまま押し切って……」
「黙ってアーチャー。これは必要なことなの」
抗議の声を上げるアーチャーを制すると桜さんは手のひらを返した右手をアタシに向かって突き出す。
こちらから見えるのは桜さんの右手の甲に刻まれたマスターの証、令呪だ。
それ自体は特に驚くことでもなんでもない。アタシにだって刻まれているのだから。
だが桜さんの令呪を見たアタシは奇妙な違和感を覚えた。
桜さんの令呪は三画のうち二画が花弁のような形で残り一画は羽のような形をしていた。
令呪は三画で一つの形になるように刻まれるものだが、この花弁と羽はまったくかみ合っていないように見えたのだ。まるでそれぞれが別の令呪であるかのように。
ん……? 別の令呪? それってまさか……。
「気が付きましたか? 私は協力関係にあるマスターからキャスターを借りる過程でお互いの令呪の一画を交換しているんです。そうでなければ私のアリーナにキャスターを連れていけませんからね。つまり今、私の右手には『アーチャークラスの令呪』と『キャスタークラスの令呪』が刻まれているということです。そしてそれは当然サーヴァントにも影響を及ぼしています。もうお分かりでしょう? 私のサーヴァントはアーチャークラスとキャスタークラス両方の力を獲得しているということです」
そうか、そういうことっスか。
なんつー反則技。もうこれチートってレベルじゃないっスよ。
「なるほど、俺が戦っていたのはアーチャーとキャスターの二重属性『マルチクラス』のサーヴァントだったというわけか。固有結界が未だ健在なのはキャスタークラスによって魔術の行使力が強化されているからだな?」
カルナがアーチャー(キャスターでもあるけどこっちで呼ぶことにする)に向かって問う。
「そういうことだ。組み合わせによってはサーヴァントの力を損ねることもあるようだが、幸いなことに私はキャスターのクラスとも相性が良くてね。おかげでこうして超級のサーヴァントとも互角以上の戦いができるというわけだ。固有結界もしばらくは保つだろう」
「だが魔力はどうなっている。いくら結界の強度が高くても魔力がなくては維持できまい。キャスタークラスだからといって内臓魔力にそれほどの違いはないはずだ」
相手からできるだけ情報を引き出そうと更に問うカルナ。
「ええ、ですからその為の私です」
応えたのは桜さんだった。
それと同時に彼女から膨大な魔力が立ち上る。
嘘っ!? コードキャストも使えないアタシ以上の素人だったんじゃ!?
「長い間強力な呪いに浸され続けた結果、この身体には強力な魔術回路が備わっていたんです。私はコードキャストも使えない素人ですが、魔力量だけなら一級の魔術師以上だと言われましたよ」
なんてことだ。
アーチャーとキャスター両方の力を持つサーヴァントと膨大な魔力量を持つマスター。
おまけにここは相手にとって有利なことだらけの固有結界の中ときた。
そしてもう一つ桜さんの魔力量の話を聞いて自覚してしまったことがある。
正直、アタシにはもう魔力がほとんど残っていないのだ。
元々魔力量が少ないところに早く勝負を決めようとスキルを使いすぎた。
一方、桜さんはその全てを防いだ上であれだけの余力を残している。
頼みのサーヴァントの性能差もマルチクラスという反則技で互角以上に持ち込まれている状況。
はっきり言ってここからアタシ達が勝利するビジョンが見えない。
現状を把握するごとに増す絶望感。
もう何も考えられず、身体から力が抜けていく。
「降伏してくださいジナコさん」
そんなアタシに投げかけられたのは桜さんによる降伏勧告だった。
かつてこれほどTUEEEしてる紅茶さんがいただろうか……。