許せ。あのサーヴァントがかわいすぎるのが悪い。
アタシは岸波白野と名乗った少年の顔を凝視していた。
一度見たら忘れないほどのイケメンてわけでもないっスよね。
声も……声フェチのアタシからして60点てところだし。
どこからどう見てもアタシと同じノーマル人なんだけど……。
でもアタシは間違いなくこの少年を知っている。
この顔と『岸波白野』という名前は確かにアタシの記憶にあるのだ。
それが『いつ』『どこで』のものなのかは分からないが。
「アタシはジナコ・カリギリっス。もしかしてどこかで会ったことないっスか?」
たずねたアタシに岸波少年も考えるそぶりをする。
「ジナコ……カリギリ……うん、俺もどこかで会ったことがあるような……」
アタシと岸波少年は顔を見合わせる。
その瞳の奥に互いの記憶を見つけようと顔が近づきかけたその時。
『ストォーップ! ストップです! それ以上はお天道様が許してもこの
響く声と共に少年の傍らに人影が現れる。
現れ方から察するに岸波白野のサーヴァントなのだろう。
まず目を引くのは頭に生えた三角のケモ耳と背中越しに見える尻尾。
背は低いがスタイルの良い体。
身につけている大胆にアレンジされた着物がそれをさらに際立たせている。
「やっべぇ~。さすがにコイツはないだろうと思ってたらそんなことはなかったゼ。ご主人様のフラグ建築技術はすでに女を捨てた生物まで引き寄せるレベルにあるというのか。しかぁ~し! この私の目の黒い内はご主人様に立つ恋愛フラグは即・撲・滅☆ というわけでそこの肉布団はご主人様からただちに離れなさい。燃やしますよ?」
「はい、肉布団頂きました~。ってどいつもこいつもいい加減にするっス! 誰が女を捨ててる肉布団っスか! こうなったらもう屋上! 屋上しかないっスね! 久々にキレちまったよ!」
「落ち着けジナコ。疲れきった今のお前に屋上までの階段が登れるとは思えん」
ネタにマジレスカコワルイよカルナさん。
「失礼なことを言うなよキャスター。ジナコさんは慎二に絡まれてるところを助けてくれたんだから」
白野クンはいい子っスね~。
もっと言ってやれ! このケモ耳娘を教育してやるっス!
「いいえ! それがこの女の策略かもしれません! 見てくれは女を捨てていますが、心には狼を飼っているとみました。『どこかで会ったか?』なんて捻りのないテンプレでだまくらかしてご主人様を食う気なのです! 私がまだ味見もしていないというのに!」
白野クン、サーヴァントは選んだほうがいいっスよ。
そのケモ耳言ってることが限りなくアウトに近いアウトだよ。
「あのワカメとのことにしたって助けなど必要なかったのです! 次に会った時には細切れにして味噌汁の具にした上で食べずに月の海にまいてやる予定だったのですから。まぁそうでなくても4日後にはご主人様に成敗されているんですけどね」
どうやらこの少年の1回戦の相手はあの間桐慎二らしい。
「ああ見えてシンジさんクン腕は確かっスからね。厳しい戦いになるんじゃないっスか?」
「そう思うよ。今もアリーナで戦いを仕掛けられて歯が立たなかったところさ」
そう言った白野クンを見てアタシは驚いていた。
その言葉とは裏腹に彼の目には諦めの色がなかったからだ。
立ち振る舞いを見ても
実力だけならアタシとどっこいではないだろうか。
もしもアタシならアリーナでフルボッコにされた時点でもう布団から出ない自信がある。
「なんの、魂のイケメン度ではご主人様の圧勝です。最後に勝つのはご主人様と決まっているのです!」
なぜかサーヴァントまで自信たっぷりに胸を張っている。
なんだか不思議なコンビっスね。
「おっと、こんなところで無駄に時間を食っている場合ではないのです。ご主人様は予定外の戦闘でお疲れのはず。早く2人の愛の巣に帰ってお休みするべきです。あのワカメにやられたところが痛むなら一晩中さすって差し上げますよご主人様♪」
キャスターがポンと手を打ちながら白野クンの背を押した。
「お、押さないでくれキャスター。じゃあジナコさんまた……」
「ジナコでいいっスよ。なんだか君に『さん』付けされると変な違和感があるっス」
「俺もそう思ってた。俺のことも『白野』でいいよ。じゃあジナコ、お互い勝てるといいな」
「むぅ~……。あの赤いのだけでも頭が痛いのに思わぬ伏兵が……」
白野クンはアタシを睨むキャスターに押されながら遠ざかっていく。
雰囲気はアタシと同じノーマル人なのに戦いにのぞむ姿勢は天と地の差だ。
彼が特別じゃないというのなら、あの心をアタシも手に入れることができるのだろうか。
「ねぇカルナ。アタシがもし『勝ちたい』って言ったら笑う?」
「ジナコ俺は……」
「あはは、冗談っスよ。ちょっと言ってみただけっス」
アタシは何かを言いかけるカルナをさえぎった。
彼とアタシは違う。
15年もどこにも行けなかった心と体で『勝利』を掴もうなんておこがましいにも程がある。
危ない危ない白野クンにあてられて変な希望を持っちゃうとこだったっスよ。
今度白野クンを見かけたら後ろから膝カックンでもしてやるっスかね。
「帰ろうカルナ。マイルームの布団がアタシを待ってるっス」
まだ何かを言いたそうにしているカルナを無視しながらアタシはマイルームへと歩き出した。
◆ ◆ ◆
気が付くとアタシは夕暮れの校舎に立っていた。
アタシはあの後マイルームの布団で眠りについたはずだ。
ならばこれは夢?
月の電脳空間にいるアタシが夢を見ることなどあるのだろうか。
「まさかまたカレンに転移させられたなんてオチじゃないっスよね」
場所は月海原学園で間違いないようだ。
下校する生徒達が昇降口に向かって歩いている。
その中の一人がアタシにぶつかりそうになり、
そのままアタシの体をすり抜けた。
「うん、こりゃ夢だわ。しかしなんで夢の中までここなんスか。どうせならかわいい男の子のハーレムの夢でも見たかったっスよ」
とりあえず歩いてみることにしたアタシは人の流れに沿って昇降口にたどりつく。
そこに立っている人物を見てアタシは思わず足を止めた。
「あれってアタシじゃないっスか?」
周囲の生徒が制服を着ている中一人だけ私服な為その姿は嫌でも目立っている。
ワイルドに伸びた髪(ボサボサとは言わないっス)
全体的に少し太めのフォルム(デブじゃないっス。ぽっちゃりっス!)
カーディガンにジーンズという唯我独尊のファッション(流行? 何それおいしいの?)
それは間違いなくアタシ、ジナコ・カリギリだった。
自分の姿を傍から見せられるとかどんなバツゲームっスか。
やっぱりカレンの仕業のような気がしてきたっス。
どこかに頭でもぶつけてこの夢を強制終了させられないものかとアタシが考え始めたその時。
『そこで何してるっスか。そんなとこにしゃがんでると邪魔っスよ』
しゃべっているのはアタシではない。
向こうに立っている「ジナコ」だった。
校舎の出口にいる ”誰か” に向かって「ジナコ」は話しかけているようだ。
『女の子が倒れてる? 貧血でも起こしたんスかね。保健室に運んであげればいいっスよ』
話し相手は下駄箱に隠れていてよく見えない上に何を言っているかよく聞こえない。
聞こえるのはもう一人の「ジナコ」の声だけだ。
『うええ!? 嫌っスよ。どうしてボクも付き添わないといけないんスか。面倒事はゴメンっス』
まぁ、アタシならこう言うよね。
さすがジナコさん夢の中まで歪みねぇっス。
『……分かったっスよ! 分かったからそんな目で見ないでほしいっス。君には鍵をもらった恩があるっスからね。でも運ぶのは君っスよ。ボクは付いていくだけっスからね』
驚いたことに話し相手はあの「ジナコ」に面倒事を頼むことに成功したらしい。
一体どんなヤツなのかとアタシが下駄箱に近づこうとすると視界がぐにゃりと歪んだ。
辺りの風景がだんだん曖昧になっていく。
ああ、夢から醒めるんスね。
なんのオチもない変な夢だったっス。
歪む視界の向こうで「ジナコ」と並んで歩く人影が見える。
しかし、目を凝らしてもそれが誰なのかは分からなかった。
『思い出す必要はありませんよメス豚さん。あなたはずっと忘れていればいいんです。そう、ずっとね……』
聞いたことのある声が頭の中に響いたのを最後にアタシの意識は再び眠りに落ちていった。
主人公のサーヴァントはキャスターにさせて頂きました。