勇者の仲間ですが魔王の協力者です   作:rocyan

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第一章 勇者召喚
勇者


 

 

 燃え盛る炎の中、彼は言った。

 

「よろしくお願いするぞ、人間」

 

 白と黒のコントラストが、緋色の光を受けてどこか幻想的だ。彼は屈託のない笑顔で、オレの前から消えていった。

 それが彼との最初の出会いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝、一人の少年が目を覚ます。何気ない朝、いつもと変わらない朝だ。ふわぁ~、と欠伸をかき、眠たい目を擦る。むくりと起き上がった少年は身支度を始めた。

 カッターシャツに黒のスラックス、同じく黒のベストを着て、丸い宝石のような装飾がついたシンプルなジャボを付ける。その上に学園指定の制服である、金の装飾があしらわれた黒いローブを、そして透明な水晶と青いリボンが付いたとんがり帽子を被れば完璧だ。

 昨日作り置きをした朝ご飯を食べ、机の上に置いてあった指定鞄であるシンプルなショルダーバッグを持って、玄関で靴を履いた。

 

「……いってきます」

 

 誰もいない部屋。賃貸であるこの部屋は少年以外に住んでいない。小さく呟いたその言葉がやけに響いた。

 扉から出てすぐに転移の魔法を唱える。行く場所は浮遊島。文字通り浮かんでいる島だ。少年の職業は学生である。その浮遊島の上にこそ、学校の校舎がある。

 魔導師を目指す者が集まる場所、それが少年が通っている魔法学園だ。

 

 魔法使い。これは魔法を操れる全ての者を指す、総称のようなものである。

 

 しかし、魔法使いにはランクがある。

 

 魔法師。これは、魔法使いの中でも一番下の者を指し、大半の魔法使いはこれに当たる。

 だが、それより上の者を魔術師という。大変優れた者で、王族の護衛として雇われる者が大半である。宮廷魔術師がそれだ。魔術師は魔力が多く、多彩な者が多い。しかし魔術師と呼ばれるほどの実力を持つ者は十年に一人と言われ、数が少ない。だが、それだけの才に見舞われた者がなる優秀な者の称号でもあった。

 しかしそれよりも上、百年に一人の確立。所謂、天賦の才を持つ者がいる。その者一人だけで一国の勢力と匹敵するほどの実力の持ち主。人は彼らを魔導師と呼んだ。

 

 この国の王はその魔導師である。故に、他国から恐れられこの世界最強と言えるこの国。名を、プラム王国と言った。

 このプラム王国は、魔法学園を作り、他国からの入学も認めた。そうすることで、優秀な魔法使いを育て、世界勢力を均衡に保ち、他国との友好関係を築く。まさに一石二鳥。

 そんな学園に少年は通っていた。今は春。まさに入学時であり、少年にとっては新たな学年に上がる時でもある。十四から入学できるこの学園で少年は今年十七になる。つまりは、三年生。六年制であるここでは、ちょうど中間地点。低学年で一番上の立場である三年生。少しずつ本格的な授業になっていき、ちょっぴり偉くなり天狗になる時期である。

 しかし少年の気は晴れない。少年は世に言う、落ちこぼれだった。何故か攻撃魔法だけ(・・・・・・)が使えず、使えたとしても精々蝋燭に火を灯すぐらいである。今年一年になる、ひよっこより弱い魔法使いのたまご達にも勝てない、周囲の嘲笑の的であった。故にぼっち。友達ゼロ。入学したての頃、友達百人できるかなー? と陽気と歌っていたあの頃の馬鹿を殴りたい。少年は自分の頬を殴った。

 

「いって……」

 

 そりゃ痛い。

 魔法学園に登校する沢山の生徒が歩く中、そんな奇行に走った少年を見た周りの生徒はひそひそと話し合う。中にはドン引きしている者もいた。そのことに少年は肩を落とすが、自業自得である。ざまぁ。

 

 

 

 

 

 張り紙に書かれた自分の名前を探し出し、指定された席に座った。クラスが変わるのも、席が名前順なのももう慣れたものだ。

とんがり帽子を脱ぎ、鞄へとしまう。魔法使い達は好んで、とんがり帽子を被る事が多い。その帽子が、魔法使いの象徴でもあるからだ。皆が皆、魔法使いであることに誇りを持っている。たが、それとマナーは別だ。室内に入れば帽子を脱ぐ。万国共通のマナーである。

 少年は教室の端で友達と同じクラスだったのか、キャーキャー喜んでいる女子達を煩わしく思いながら、ちらりと前の席を盗み見た。そして、小さくゲッ……と言葉を漏らす。よりによってこいつとは。

 

「おや、誰かと思えばシアン・アシードじゃないか」

「バルト・ピーコック……」

 

 バルト・ピーコック。何かと少年、シアンに絡んでくるやつである。

 シアンの唯一の話し相手(と言っても一方的にバルトが話をするのだが)と言っても過言でもない相手である。悪いやつではないのだが、如何せんシアンが苦手な人種であった。嫌いではないのだけれど、ずっといると疲れるっていうやつである。

 そして、バルトもまた“ぼっち”であった。最初は気のいい友人たちに囲まれていたが、次第にいなくなっていった。バルトってうざいよな、一緒だと疲れるのよね、などと言われバルトは一人になった。そのことを知っているからこそ、シアンは無下にできないでいた。

 

「三年間同じクラスだなんて、運命を感じるね」

「男相手に運命とか、願い下げだ」

「だろう? やっぱり僕たちは導かれるして出会ったんだよ」

「話聞けよ」

 

 だから、こいつは。と悪態を吐く。バルト・ピーコックはどこまでもポジティブな人間であった。だからこそ、ここまで明るいのだが。

 シアンははぁーとため息を吐き、鞄から本を取り出す。これ以上こいつの話を聞いていると疲れる、そう思っての行動だ。しかしバルトは“魔物や魔族の生態”というタイトルに興味を持ち、一旦閉じていた口を開く。

 

「……マニアックな本だね」

「ん? あぁ、面白いぞこれ。人間の魔族嫌いが嫌って言うほどわかる」

 

 随分と皮肉れた発言だ。バルトは顔を引きつる。

 

「そ、そうかい」

「あぁ」

 

 シアンは短くそう答えると、栞を挟んでいたページを開き読み始めた。どうやら彼は本を読み始めると、そっけない返事をしてしまうようだ。本人は無自覚だが。

 その行動を見ていたバルトだったが、このままでは暇になってしまう。いけない、何か話をしないと。この前、自慢話はいいと言われたばかりだ。そういえば、最近ビックニュースがあった気がする。

 バルトはできるだけ明るく話し始めた。相手が本を読んでいてもお構いなしだ。だからこそ、空気が読めないと嫌われたのだが、本人は全く理解していなかった。

 

「そういえば、隣国のカーマイン皇国が勇者を召喚したらしいよ」

「あぁ、そういえばそんなこと言ってたな」

 

 本に目を通しながらも反応したシアンに、バルトは嬉しくなって話を続けた。

 

「本格的に魔族に喧嘩を売る気だね、あれは」

「だろうな。この国も加担するだろうし」

「もしかしたら、パーティの魔法使い枠がこの学園から選ばれるかもね」

「……もしかしたら、じゃなくそうみたいだな」

 

 パタリ、と突如本を閉じたシアンは前を向く。

 バルトのえ……? という疑問の声は、教室の前に現れた今年の担任であろう男性と甲冑を着た男性の声によって遮られた。

 まだ始業式が始まる時間にしては早い。どういう事だ? とこの場にいる生徒たちが疑問に思う。

 

「えー、国王様からの命により始業式を早める。そのあと、重大な話を国王様自らしてくださるということだ。皆、心して聞くように。さぁ! 移動するぞ!」

 

 教師である男性は声を張り上げてそう言った後、立ち去った。甲冑の騎士と思わしき人物もそれに続く。暫く呆けた後、皆が皆、急いで並び集会所へ向かった。

 

 

 

 

 

 どういうこと? 何があるの? と皆が口々に話している。それは集会所に集まっても止むことなく、この学園の理事長が壇上で咳をして、やがてピタリと止んだ。

 シアンはというと、教室に騎士が来たことから検討はついているが、他の生徒達はそうでもない。ソワソワと、冷静な者がいたらため息を吐きそうなぐらい、忙しなかった。

 

「連絡した通り、国王様がいらっしゃってます。話があるようなので、心して聞くように」

 

 それ、聞くの二回目。シアンはジト目になる。

 理事長がサッと壇上から降りると、数人の男女を連れた厳つい中年男性が上がってくる。プラム国王だ。ざわりと、また沸き立つ。

 国王はその見た目から戦士と間違えられることがあるが、バリバリの魔法使いである。魔導師の称号を持つ彼に敵う魔法使いは未だ出ていない。この世界一番の魔法使いと言われている。しかし、魔族は除く。

 プラム国王は生徒全員を見渡すと、やがてマイクのような形をした魔法変声機で話を始めた。

 

「諸君、集まって頂き感謝する」

 

 その言葉から始めた国王は、近年魔族というより魔物の量が増えていることを話し始めた。

 作物目当てに人間を襲ったり、また人間を食べるために街へ来たり。魔物達のその行動は目に余り余ることから、カーマイン皇国が勇者を召喚したこと。

 さらに、各国から勇者のパーティを選抜すると。この国からは魔法使いを派遣することになったと。

 チラリと前にいたバルトがシアンを見るが、シアンは気づかないふりをして国王の話を聞いた。

 

「さて、遅くなったが紹介するとしよう。この者が勇者として異世界から呼ばれた、雄城英二ゆうきえいじ殿だ」

「紹介に預かりました。勇者の雄城英二です。雄城が名字で、英二が名前です」

 

 国王の斜め後ろから出てきたのは勇者と名乗る青年。黒髪黒眼の珍しい配色を持った少年だ。年齢は丁度シアン達と同じぐらいだろう。

 ここでは珍しい、名前が後に来るということに周囲は驚きと共にひそひそと話しだす。名前の珍しさ、あまり見たことのない黒髪黒眼、彼が異世界人だということを物語っていた。

 

「彼はまだまだ戦いに関しては素人だ。だが、素養は高い。カーマイン皇国からは剣士を選抜し、彼に剣術を教えるそうだ。そして、この国からは魔法使いを出すことになっている。そこで」

 

 そう区切ったプラム国王は生徒達を一瞥して、たっぷりと間をとってから口を開けた。

 

「この国立魔法学園から、その魔法使いを選抜したいと思う」

 

 ざわり。本日何度目かわからないが、生徒達が沸き立った。しかし今までと違うのは、教師達もその一員であったことか。

 理事長以外は予想外な……いや、ある程度予想していたが、あり得ない出来事に目を丸くしていた。

 プラム国王はそんな者達の反応を当たり前のように受け流し、話を続けた。

 

「そこで、来週末に選抜大会を行いたい。勇者の仲間である魔法使いが弱い、だなんて無様な事はしたくないんでな」

 

 プラム国王曰く、単純に実技での、実力での勝負だそうだ。座学でトップを取ろうが、座学が無に等しかろうが関係ない。要は実力次第。戦闘が必須なこれは、魔法の知識だけがあっても使えないからだ。

 出るか否かは、個人の自由。自分こそは勇者の仲間に相応しいと思うものならば、誰でも歓迎。その中で一番になった者がパーティの仲間入りだ。

 

「優勝者には、勇者の仲間になってもらう。仲間になった暁には、英雄の仲間の称号を、そして爵位を与え一生遊んで暮らせる大金を授与しようではないか」

 

 うぉおおおおおお、と血気盛んな者達が吼えた。

 英雄の仲間になれ、そして爵位を与えられ、遊んで暮らせるほどの大金をくれると言ったこと。これほどに嬉しい報酬はない。……ないが、唯一シアンは顔を顰めた。

 理由は、この国に生きて帰ってこれる保証がないのと、もし生きて帰ってこれてもそれを王から本当に与えられるのかが謎だから。もし後者が本当でも、前者は自身の実力次第。もし、この学園で一位となっても、素養が高いと言えどど素人な勇者と、その他の者達と旅しても、魔物が増えてきている原因と言われている魔王は討てないだろう。

 

「(あの化け物を倒せとか、カーマイン皇国も酷なことをする)」

 

 勇者として召喚されたあの雄城英二とかいう少年は、何処にでもいる平々凡々な顔をしている。恐らく、平和に暮らしていたところをいきなり召喚されたのだろう。シアンはそう結論付ける。

 盛り上がる生徒達の中、シアンは独りでにため息を吐いた。どうやら、面倒くさいことになりそうだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この世界の物語は何も勇者が召喚された時から始まったのではなく、約十年前……とある落ちこぼれ魔法使いが、とある最強の悪魔の主人となった時からもう既に始まっていた。

 

 あぁ、憐れな勇者よ……君は物語の主人公ではないようだ。

 

 




ハーメルンでははじめまして。rocyan(ろしあん)と申します。匿名での投稿ですが、なろうに関してはこの名前がユーザーネームです。
なろうの方が進んでいるので良かったらそちらを。なろう分が投稿し終わりましたら週一から隔月更新に変わります。よろしくお願いしまーす。
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