勇者の仲間ですが魔王の協力者です   作:rocyan

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友人

 

 

 目の前でブーイングの嵐を浴びている人物を見る。

 プラム王国立魔法学園の制服を着たその者は、気だるげにそれでいて隙を見せずに此方に向かって歩いてきていた。所定の位置につくつもりだったのだろう、お互いがはっきりと見える位置に来る頃にはその足を止めていた。

 同じくプラム王国立魔法学園の制服を着ている第三回戦進出者の四人目である、ダリア・フランボワーズは暴言を浴びさせてくる観客を鬱陶しげに見ている相手に油断せず、懐から杖を取り出した。

 学園からの支給品である杖だが、そこらの一般的な武器屋では中位に入るほどの性能を持つ。小さな枝を加工しただけに見えるこの杖は、見た目とは裏腹に材料が低級冒険者では取れないような場所にあると聞く。少なくとも中級冒険者ぐらいでないと、無理だ。

 だが、その材料も手に入りにくいというわけでもなく、大量生産が可能な程には取れる。初心者冒険者には高くて手を出せない杖だが、王国が何事もないように量産させれる程の価値でもある。

 そんなお高い量産品の杖だが、貴族の御子息、御息女である魔法学園の生徒達はあまり使わないものだ。何せ、自分達の親がオーダーメイドで作ってくれるのだから、量産品など要らないだろう。

 では何故、ダリアは使っているのか。それはひとえに、彼の家が他と比べ貧乏であるからである。いくら貴族とは言え、辺境貴族という者が存在し、辺境の土地を管理する彼らは王都の貴族と比べ遥かに貧乏である。そんな貧乏貴族であるダリアがオーダーメイドの杖を作るお金など持っているはずもなく、こうして利用しているのだ。幸い、平民達が使う杖よりは少しだけ高価なので、品質という点では問題ない。

 ともかく、今は試合だ。目の前の人物を見据え、ダリアは口を開いた。試合開始の合図まではまだ、余裕がある。

 

「…………てめぇがシアン・アシードか? 劣化攻撃魔法しかできないって言われてる」

「……そうだけど、それがどうした」

 

 ちゃんと此方を見ていなかった瞳が、ダリアを射抜く。怒っている様子でもなく、その事実を受け止めているようだった。その事にダリアは別段驚きもしなかったが、少しだけ怯みながら続きの言葉を紡ぐ。声が震えるように聞こえるのは気のせいだろう。

 

「いや、ただの確認だ。俺はダリア。フランボワーズ家が三男、ダリア・フランボワーズだ」

 

 いや、知ってる。という言葉を吐かずに呑み込んだシアンは、大人しく続きを待つ事にした。

 

「で、だ。シアン・アシード。てめぇと俺とで、賭けをしねぇか?」

 

 悪どい笑みを浮かべて、シアンを指差す。

 側から見れば、その鋭い目付きも相まって凶悪そうな戦いが好きそうな子供に見えるが、内心では冷や汗がだらだらと流れている。それを表に出さない時点で大したものだが、そもそもシアンとは敵対したいわけではなく、仲良くなりたいのだ。何故こうして、挑発するような笑みを浮かべて相手を目線で射抜いているのか……ダリア自身もよくわかっていない。

 とにかく彼は今、とても必死である。

 

「賭け……?」

「そう、賭け。しかも単純なもの……負けた方が何でも一つ言う事を聞く、っていうやつだ」

「……そりゃまた、何の捻りもない」

 

 軽薄な笑みを浮かべたシアンは、いいぞと返した。シアンにとってはどうでもいい事だ、断る理由も無い。ただ、相手が何を要求してくるのかわからない事だけが懸念材料だが、まぁ大丈夫だろう。よく分からない自信がシアンにはあった。

 シアンの肯定の返事にダリアは小さく、よしっと呟きながら、忘れるなよとシアンに言い残して定位置に戻った。

 

「さぁ! 両選手が出揃いました! それでは、選手紹介をさせていただきます!」

 

 方や、ダリア・フランボワーズ。

 その力は未知数。ある意味注目されていない選手であり、わかっている事は学園の成績が優秀な生徒である事。第三学年の特待生の一人だ。

 優秀な事は座学もさる事ながら、実技の成績が良いという事。それ即ち、彼の実力が高い事にも繋がる。

ただし、シアンが付け入る隙があるならば、ダリアは実戦経験が少ないという事だろうか。ダリアは勝つ気でいるが、いくら成績が優秀であろうと、それだけでは絶対に勝てるとは言い難い。

 

 もう方やは、シアン・アシード。

 劣化攻撃魔法しか使えない落ちこぼれ魔法使い。

 第一試合を何故か一番に勝ち抜いた者だが、果たして準決勝でも運よく勝ち上がれるのか。

ただ、彼は攻撃魔法は劣化しか使えないが、補助魔法に関してはそうではない。ほぼ全てを使えると言っていい。しかし、それを知っているのは彼自身と彼の使い魔、そして違う大陸の王だけだ。

 

 観客からの負け確定声援を受けながら、シアンは杖を胸の前へ掲げ、軽くお辞儀をする。ダリアもそれに倣うように頭を下げた。

 

「両者前へ!」

 

 審判役だと思われる男は、シアンとダリアが一歩ずつ前に進んだ事を確認すると司会進行役に合図するように手を挙げた。

 それを確認した司会は、拡張魔法を込めた魔石が使われている魔道具を手に取ったあと、腕を上げる。観衆に向けての試合開始の合図だ。

 

「両者共に準備は大丈夫ですね?」

 

 目線と声で問われた二人はこくりと同時に頷く。

 

「では……試合、開始ですっ!!」

 

 最初に動き出したのはダリアだった。杖を前に構え、詠唱を紡ぐ。いきなり長い詠唱の魔法を使う事もなく、一、二秒でそれは終わる。

 軽く塵を払うかのように腕を振るうと、その持っていた杖先から両手で抱える程の大きさを持つ火の球が発射される。基本的な魔法である、火属性初級魔法の火の球(ファイヤーボール)

 基礎とも言われる初級魔法。初級なのでそこまで威力もなく、相手も同じ初級魔法を唱えれば相殺でき、対処も簡単な魔法だ。しかし、ダリアの目の前にいるのはその初級魔法すらできない落ちこぼれと言われる魔法学院生。魔法を魔法で打ち消すのならまだしも、彼はそれすらできず生身である。いくら初級魔法とは言え、火傷する程の威力はあった。シアンが相手だからこそ通じる手でもあるだろう。

 けれど、その当人であるシアンは風を切って迫る火球をするりと避けて、此方へ走ってきていた。その速度は一般的な魔法使いよりは優れていて、彼が剣を持っていれば魔法剣士だと思わざるを得ない速さ。

 思わずダリアは驚くが、手を休める事なく火球を打ち続ける。

 しかし。

 

「(なんで! なんで、当たらねぇ!?)」

 

 最初の一発目よりも火球の速度は二倍以上に上がっている。なのに、相手には当たらなかった。

 元々魔法使いとは直立不動を貫き、その杖先から威力のある魔法を放つ者たちの事である。断じて、目の前の彼のように走りながら躱すなんて芸当ができる者達ではない。それができたとなれば、それはもう魔法使いではない、と言えよう。

 火球を当てようと杖を振るうダリアに迫ったシアンは懐に手を突っ込み、バルト戦で創造魔法である武器製造を使って造った短剣を取り出す。

 一度作れば壊れるまでその場に残り続ける創造魔法は、無から有を生み出しているからか魔力消費量が大きい。この小さな短剣でさえ、何度も造れる事は出来ない。一度造り出した物を運用する方が良いだろう。それに、試合とはいえ無駄な魔力は使いたくはないものだ。

 ダリアに近づいたシアンは短剣を逆手に持った右手を大きく振りかぶり、その首を貰い受けるとばかりに素早く振り下ろす。

 

「ッ!!」

 

 キィン! という金属音が擦れる音がした。ダリアは間一髪の所で、自身の得物である杖をその軌道上に滑り込ませ、剣先をずらしたのだ。ほぼ反射神経で行われたそれは、完全に躱すことはできず服を引き裂き小さな切り傷を残す。

 意味のない事だとわかるが一旦離れ、傷がついた左腕を見る。日常生活においてできる切り傷よりは深く、血はタラタラと流れている。袖口まで染みたその薄い赤に溜息を吐きたくなりながらも、目の前の敵を睨む。

 今はまだ、洗濯やら縫合やらを考えている暇はない。どうしてか相手は攻めてくる気は無いようだ。今が攻め時。杖を振るい、短い詠唱をもって魔法を発動させる。

 

水の球(ウォーターボール)っ!」

 

 火の球は威力重視の魔法。水の球は素早さ重視の魔法と言われる。

 火球よりも二回り程小さいそれを約十個展開させたダリアは、一個ずつシアンに向けて放つ。そのスピードは先程の火球の約三倍程度。常人であれば、躱すのが難しい程の速さだ。

 しかしシアンは、するりとそれを避けた。何てことない、少し身体を捻っただけ。

 

「(ねぇわ! こりゃねぇよ!!)」

 

 二個連続放っても躱され、三個四個と増やしていき、偶にはタイミングをずらしたり、合わせたり。何をやっても避けられる。

 段々と近づいてくる敵、命の取り合いをしない筈の試合だとわかっていても、ダリアはシアンの初撃で完全に慄いていた。当たり前だろう、最初から首を狙われたのだから。あれが当たっていた時なんて、考えたくもない事だ。

 再びダリアに接近したシアンは、腕を振るう。迫ってくる短剣を杖で防ぎつつ、ダリアは後退していく。

 接近戦では確実にダリアの方が実力が下だ。杖で完璧に防ぐ事はできず、小さな傷が無視できない程に刻まれていった。

 

「つっ……!」

 

 何度も防ぐ事によって腕が痺れてくる。一撃一撃がダリアには重いのだ。剣士にとってはなんて事ない軽い攻撃だとしても、ダリアは魔法使い。防御には向かない職業である。

 もはや何度目かわからない防御。綺麗な一撃が決まったのか、腕が痺れたダリアは杖を離しかけた。それをシアンが逃す訳もなく、逆手に持った手をくるりと返し、短剣の柄の先端でダリアの右手をドッ! と打ち付ける。握ろうとしていた手は、シアンの攻撃によって再び開き、杖を落とした。

 そしてカランと杖が落ちた音がしたと思えば、シアンはすかさず回し蹴りを鳩尾に打ち込み、ダリアをぶっ飛ばす。

 

「ぐふっ」

 

 三メートル程地面と平行に飛んだかと思うと、重力に従い地面に落ちた。ゴロゴロと土煙を当てながら転がったダリアは、壁に打ち付けられて制止する。詰まった空気が口から這い出た。

 

「典型的な魔法使い相手には、接近戦を。常識だよな」

 

 そっと地面に落ちた支給品である杖を持ち上げたシアンは、ペン回しの容量でクルクルと杖を回す。軽薄な笑みが見えた。

 嘔吐くダリアの目の前に立ったシアンはペン回しを止め、まるで指し棒の様に扱い出す。教師の真似事だろうか。

 

「確かにオレは攻撃魔法は劣化版しか使えない。けどさ、補助魔法は使えない、なんて一言も言ってない」

 

 シアンは言う。

 先程の身体能力も補助魔法で強化していたと。普段はあんな動きはできず、火の球も躱せないだろうと。

 人によって得意、不得意は必ずもあるもの。シアンの場合、ただ不得意なものが世間一般の魔法使いができないと可笑しいものだっただけだ。たった、それだけの話なのである。

 

「まぁ、魔法使いって名乗るのには少し可笑しいのはわかるけどな。魔法剣士にでもなろうか?」

 

 本職には敵わないだろうけど。

 ケラケラと笑うシアンを尻目にダリアは立ち上がる。切り傷だらけの腕や強烈な打撃を受けた胴体から悲鳴が上がるのを無視して、目の前の敵を見据えた。

 そんなダリアにシアンは驚く様に目を見開きながら、薄く笑う。まだやるのか? そう目が語っていた。

 

「いや……俺の負けだ。杖を取られた時点で、相手にならねぇし」

 

 ダリアが自分の負けを認めた瞬間、張り詰めていた空気が散っていき、代わりに拍手と司会者の試合終了の合図が響き渡る。

 そんな音の嵐を聞き逃しながら、シアンはダリアの方を向き杖を差し出した。戦力を奪う事だけに取っただけなので、別に返しても問題はない。そもそも同じ杖を持っているし、自分専用の杖もあるのだ。ずっと持っていても、邪魔なだけだ。

 

「杖、返す」

「あ、あぁ。どうも……」

 

 先程までとは違い、急に大人しくなったダリアにシアンは首を傾げる。

 

「なんだ? さっきまでの威勢はどうしたんだ。ただの虚勢だったのかよ」

「んなんじゃねぇ!! 賭けの事だ!」

 

 怒鳴る様に言ったダリアの言葉によって、納得がいった様に手をポンと叩いた。すっかり忘れていたのだ。ダリアとの試合に夢中だったからか、試合前の言葉なんて何処かへ行ってしまっていた。こうして、彼が言わなければ、そのまま忘れていたかもしれない。

 

「因みに、お前が勝ったら何を言うつもりで?」

「そ! そりゃぁ……」

「そりゃ?」

「お、俺と、とっ、とと友達になって、くれ……と」

 

 辛うじて聞き取れる音量で呟いた後に目を泳がす。

 予想だにしない言葉に惚けた表情を浮かべたシアンは、ダリアの言葉を反復して心の中で呟く。友達になってくれ。そう言ったのだ、彼は。シアンとしては断る事でもない。そもそも、シアンは友達が少ないのだ。この学校では一人だけだし、遠く離れた親友の使い魔はこの頃会ってないし、試合前まで話していた天使は友達と言えるか謎な関係だしで、寧ろその命令は大歓迎である。人脈は増えた方が良い。

 それに、此方としては命令する事なんて何も考えていなかった。その賭け事を忘れていたぐらいだ。シアンにはどうでも良いことになっていた。

 では、勝者の命令権はどうするか。ここまでくれば簡単だろう。

 

「じゃぁ、それで」

「……は?」

 

 ニヤリ、と笑みを浮かべる。

 

「オレのお前への命令は、オレと友達になる事だ」

 

 今度は反対にダリアが惚ける番になると、シアンは口角を上げながらもくるりと踵を翻した。

 

「じゃぁな、ダリア」

 

 選手入場口へと歩いていくシアンを眺めながら、ダリアは人生初の友達ができたことに歓喜の笑みを浮かべるのだった。

 

 ただ、その笑みは迎えに来た取り巻き達を怖がらせる事になるのだが……それを今の彼が知る由もないだろう。

 

 




キンキンキンキン!
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