勇者の仲間ですが魔王の協力者です   作:rocyan

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決勝

 

 

「魔法使い枠選抜大会。さて、残るは決勝だけとなりましたー!!」

 

 司会の声が会場中に響く。

 大会が始まった頃は固まった様な声音だったのに、良くこの短時間で成長したものだ。司会はもうこの学園では彼女にしか務まらないだろう。

 

「ここまで数多の激戦、攻防がありました。どれも見所のある試合ばかり! それがもうすぐ終わるとなれば寂しいものですが……ですが! 私はこの時を待っていたのではないかというぐらい、昂ぶっておりまーす!!」

 

 いやもう誰だ、というぐらいの変わりようだ。大会などの司会は常にテンションが高く、盛り上げ役にならなくてはならないが、たった一日でここまでだ。彼女はきっと、魔法使いより司会の職に就いたほうが良いのかも知れない。

 

「……ふぅ」

 

 薄暗い廊下の中、そっと深呼吸をする。

 決勝だ。遂に決勝なのだ。あと一試合、勝てば良いだけ。そう自分を元気付け、いつも通りに振る舞うことに務める。心の乱れは一瞬の隙を生む。魔法使いなのに接近戦をしてくる相手に油断していては負けるだろう、なるべく平常心に戻す努力をしていた。

 少女、タン・カーキーは自身の杖をしっかりの握りしめて、瞑っていた目を開けた。暗闇に一筋の光が走る。

 

「それでは! 選手に入場してもらいましょう! まずは、第六回生タン・カーキー選手! バルト・ピーコック選手との試合では圧倒的な実力を見せて勝利せしめた強者でございます! またあの派手な上級魔法を見せてくれるのかー! 楽しみです!」

 

 司会がそう紹介する間に、舞台へ歩み出る。光が溢れ目が遮られるが、それよりも耳をつんざく声援の数々が聞こえてきた。それだけタンを期待しているのだろうか。その士気に当てられてか、気分が高揚する。

 絶対勝つと、タンは改めて力強く決心した。

 

「次に、第三回生シアン・アシード選手! 攻撃魔法ができない落ちこぼれとして有名だった彼が、ここまで勝ち上がってくる事を誰が予想したでしょうか!! その短剣の腕と身体強化魔法を駆使した攻撃は、目に見張るものがあります! 寧ろなんで、魔法使いになったのー!」

 

 確かに、と会場中が頷く。

 魔法使いとしてよりも剣士としての方が才能があったのではないだろうか、というぐらいにはシアンの戦闘スタイルは確立されている。何故、魔法学園に来て魔法使いになろうとしたのだろうか。気になるところである。しかしそれは、彼自身しか知る由ない事だろう。

 プラム王国立魔法学園の制服とも言える、黒く短いローブを羽織った少年が反対側の通路から出てくる。青みがかった黒色の髪に太陽光が照らされ、彼は鬱陶しそうに目を細めている。

 見れば見るほど、普通の少年と言えよう。彼が攻撃魔法を使えない落ちこぼれでなく、普通の実力を持っていたとすれば、まるで目立たない容姿だ。

 顔は整っているし、背は平均身長。性格も今までの試合からして、そこまで歪んでいるようには見えない。これで高位の貴族子息ならば、令嬢達にとって優良物件とも言える。タンは興味ないが。

 しかしその見た目とは裏腹にどこか、捉えがたいものがある。本人がのらりくらりとしているからだろうか、芯がはっきりとしない。ぶれて見える。

 どうしてか、タンには相手が油断ならない人物に見えた。

 

「(見た目が、周りの批評がどうであれ……決勝で手を抜く馬鹿はしない)」

 

 寧ろ、徹底的に叩きのめし勝つ。それぐらいの気兼ねでいかなければ、タンの希望は途絶える。やりたくも無い宮廷魔術師などをしなければなくなる。

 他者から聞けば贅沢な悩みだろう。宮廷魔術師は言わば勝ち組だ。それをしたく無いというのだから、贅沢な悩みと言わず何と言う。しかし、タンにとっては死活問題である。王都の市民を守る、それがタンの夢。後方より、前線で皆を守りたいのだ。自分が慕う兄のように。

 自身の愛杖を握りしめ、目の前の人物を睨みつける。ぶつけるのは敵意。お前を絶対に倒す、という決意の意だ。相手は何でも無いように振舞っているが。

 タンは杖を掲げお辞儀をする。相手選手であるシアンも同じ事を繰り返し、そしてそれを審判が確認するといよいよ試合開始だ。

 

「両者、前へ! 試合開始です!!」

 

 瞬間、素早く杖を振るい言葉を紡ぐ。

 属性初級魔法は効かないと先の試合で分かっている。小賢しい、ちまちまとした攻撃は避けやすいのだろう。魔法使いからすればそんな事はないのだが、相手は例外。寧ろ魔法使いらしからぬ、戦い方をする。

 ならば! 避けられない程の魔法を使えば良い。

 タンは試合前にそう考え、試合開始と同時に詠唱を開始した。これなら詠唱までの時間のロスは無くなったと言って良い、それにもう既に発動準備は終わった。後は、放つだけである。

 

「上級爆炎魔法……エクスプローズ・フレイム!!」

 

 ドォン! と腹の底に響く音が鳴る。空気が揺れているのを肌で感じながら、タンはもう一度詠唱を開始する。魔力はまだ完治していないが、詠唱が終わる頃には魔法を発動するぐらい足りているだろう。

 先程放つ瞬間、相手が察知していたのはわかっていた。恐らく避けようとしたのだろう、重心が少し傾いていたが避けられてはいまい。手応えは少しあるし、クレーターができる程の爆発だ。爆風によって後ろに吹き飛ばされているかもしれない。

 しかし、油断は禁物だ。だからこそ、もう一発撃ち込もうとしているし、こうして周りを見ている。

 

「----凄まじいな……やっぱり」

「--っ!? がっ!」

 

 ……見ていたのだが、誰が後ろから来ると予想しただろうか。

 背中を蹴られ、前のめりに倒れる。砂埃が舞い上がり、地面に転がる石達によって擦り傷ができた。

 

「解析魔法の結果によれば、魔力は魔法師並み。本来なら、上級魔法一発で倒れるはずなんだが……どうなってるんだか」

 

 解析魔法? 解析魔法だって? どうして、三回生の此奴が使える? 六回生ですら使える者がいないと言うのに。

 解析魔法はありとあらゆる物の情報を引き出せる魔法であり、使える者が少ない魔法として知られる。その理由は、初めて使うと魔法をコントロールできずに、自身を中心とした数十メートル範囲の物を全て解析してしまうからだ。

 一つ一つの情報量は少なくとも、数十メートル範囲ともなると膨大になる。しかもコントロールできずにいると、その範囲に入った人や動物の身体的情報まで脳に入ってくるため、数分発動するだけで脳がショートを起こし、意識を失うという。

 ある意味危険視されている魔法であり、習得には魔法協会が定めた条件をクリアしなければならないと言われている。その条件が思いの外厳しいらしく、習得しようとする者は少ない。なので、習得者が少ないというわけだ。

 そんな魔法を目の前の三回生は使った。少しプライドが傷ついた気がしたが、精霊魔法を使う三回生と戦った時点で慣れた事だ。今年の三回生は優秀な人間が多いのかもしれない。

 

「それは……秘密」

 

 立ち上がりながら不敵に笑う。どうやら、魔力回復という体質については気づいていないらしい。そこは、幸運ともいえよう。

 つまり、相手に脅しをかけられるという事で、自分はあと何発も打てるんだという脅迫。相手はどれだけの魔力量をタンが回復できるかは知らない。ならば、付け入る隙はある。

そ う確信して杖を再度構えるが、相手は困ったように後頭部を掻いた。なんだというのだろうか。

 

「あー、どうなってるのかなんて言ったが、原因はわかっている。大方、スキルだろう」

「すき……る?」

 

 スキル。スキルとは何だろうか。聞いた事もない単語だ。

 内心首を傾げ、復唱する。少しでも魔力回復の時間稼ぎができればなんて考えてはいるが、それ抜きでも気になる言葉でもあった。

 

「知らない、か。この学校では習わないのか? ……まぁいっか、今は関係ないし」

 

 それよりも勝敗だよな。そう彼は一人で結論を出した。……いや、出したというより面倒になったのだろう。スキルの事を知らないタンに教える事を。

 タンは歯噛みする。彼は知っているのだ、この魔力回復が何なのかを。魔法とも違う力、体質かと思っていたが、どうやらそうではないらしい。

 シアンは懐から準決勝で使っていたのと同じ短剣を取り出す。相手は倒れている。あとは、この刃を首に当てたら降参するだろう。そう考え、構えたが。

 

「……一つ、私も賭けをしても良いかな」

 

 ため息を吐く。お前もか。

 

「賭け? お前も友達になりたいのか? 人脈は持っていて損はない、大歓迎だが」

「そう。その言葉、あの赤い髪の子に聞かせたいな。けど違う……私が勝ったら、そのスキルとやらを教えて欲しいの」

「あぁ、そういう事。お前、見かけと違わず貪欲だな。さすが貴族様か」

「そう言うって事は、貴方は貴族じゃないの?」

 

 聞いてからハッとする。何て馬鹿な質問だったのだろうと。

 貴族じゃないのならどうやってこの学園に入学したのだろう。ここの学園は世界各国の貴族達が集う場所。勿論、他の国にも魔法学園はあるが、ここプラム王国立程大規模ではない。それにプラム王国のは貴族御用達の学園。魔法は勿論の事、宮廷作法や基本経営等も習う。普通の学校では教えられない事まで学ぶので、入るのは簡単だが卒業するのが難しいと言われる。

 ただ、頭が悪くても意外とお金次第で何とか上へ行く者もおり、ここを卒業したからと言って頭が良いというわけでもない。

 しかし、しかしだ。貴族御用達という事は、それなりに学費がかかるという事。それは平民には到底払えない額であり、この学校に通うという事は保護者が裕福な家庭である事を証明している。

 だから、同じ生徒であるシアンに対し、貴族ではないのかという質問は、普通はあまり意味のないものだった。

 

「……そう、なるかな。まぁだった・・・、という方が正しいけど」

「え……?」

 

 そう、普通では。

 もうこの話は終わりと言うように、シアンは短剣をタンに振るう。剣筋を見たわけではないが危機感だけで避け、素早く距離を取った。

 もう魔力は回復している。離れた瞬間にタンは詠唱を始めたが、それを止めるわけでもなく、シアンは詠唱をしているタンを眺めながら口を開いた。

 

「じゃぁオレが勝った時の報酬は……そうだな、魔法道具でも貰おう。家にあるんじゃないか?」

 

 確かにある。カーキー家は代々宮廷魔術師を輩出している名家だ。なので、魔法道具など幾らでもある。

スキルとかいう未知の情報と魔法道具。魔法道具は平民達が安易に入手できるものではなく、冒険者であれば偶に手に入るぐらいの物だ。この二つならば、釣り合っていないようで釣り合っている。ならば、賭け成立だろう。

 オーケーだと答える代わりに、タンは詠唱を済ませた魔法を発動する。

 

「上級氷晶魔法……」

 

 杖を軽く振ると魔力が体内から杖の先へと流れ、そして空中に人の腕程はある氷の塊を生み出す。冷気が漂っているのか、普段よりも数段寒く感じる。

 上級攻撃魔法には何かしら欠点がある。それは、人の範疇を超えた力であり扱いきれていないからと言われている。タンが使った上級爆炎魔法は、その威力と引き換えに事細やかなコントロールが効かないところであり、今し方放った上級氷晶魔法はコントロールは効くが、周りの温度が急激に下がる。

 つまり、とても寒く感じるのだ。この魔法に慣れているタンは少しだけに止まっているが、他ではそうもいかない。対戦相手である、シアンは寒そうに両腕を摩っていた。

 

「行け」

 

 杖を前に振り、宙に浮かぶ結晶達に命令する。あの対戦相手を攻撃しろと、貫けと。結晶達は一斉に飛び出し、シアンに迫る。

 シアンは慌てたような素振りは見せず、地面を蹴って走り出した。横に逸れたなら、結晶達は地に激突しそこで壊れると思ったのだろう。結晶達が壊れれば、魔法の発動は終わった事になり反撃に出れる。魔法使いよりは素早さに自信のあるシアンならば、これぐらい躱すのはなんて事なかった。

 

「っ! ……これは少し予想外だな」

 

 しかし結晶達は地面にぶつからず、ギリギリのところで方向転換しシアンに迫ってきたのだ。これには彼も予想していなかったらしく、再び走り出した。

 このまま結晶達を連れてタンに攻撃するのもありだが、良く見るとタンの周りには小さな掌サイズの結晶達が漂っている。接近した途端にあれで攻撃する腹積もりだろう。

 

「(後先考えている奴は、これだから……!)」

 

 相手にすると面倒臭い。

 シアンは身体強化の魔法を更にかけ、結晶達から逃げるように走り続ける。

 

 




わ す れ て た。

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