勇者の仲間ですが魔王の協力者です   作:rocyan

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王城

 

 

〝では、優勝したのじゃな?〟

「あぁ、お陰様でな。意外と苦戦したけど」

 

 プラム王国。王都ヘリオトロープにある王城、その来客室にシアン・アシードはいた。

 先程までいた侍女が出した紅茶を飲みながら、シアンはクスリと笑う。

 思い出すのは数日前にした試合。時空間魔法を使わないというハンデを背負っているとは言え、経験豊富なシアンにあそこまで苦戦させたのだ。タン・カーキーは将来有望だろう。また戦いたい。

 しかし、彼女シアンに敗れた故に宮廷魔術師になるので、そこまで気軽に戦える事は無くなる。その点だけ、残念に思う。

 

〝何はともあれ、ご苦労様。ここからが肝心じゃがな〟

「あぁ。そこは遠いからな、人の足で何日かかるやら……」

〝竜車でも利用すればいいじゃろ〟

「貴族御用達の交通手段を一介の旅人が利用できると思うか? 値段がバカ高いんだよ、下げろ」

〝そこはほれ、勇者御一行と知れば無料で使えるじゃろう。何せ、かのプラム王国とカーマイン皇国が送り出す人類の救世主。貸し切りは容易いと思うぞ?〟

「証拠がなけりゃ、最悪豚箱行きだな」

〝確かにそうであろうな!〟

 

 はははは! と笑う自身の使い魔の声をジト目で聞き流しながら、出された紅茶をもう一口飲んだ。因みに毒味は済んでいるので、安心して飲める代物だ。

 今まで飲んだどの紅茶よりも美味しいそれを、一気に飲んでしまわないように努める。美味しいものはゆっくりと味わいたいものである。

 

〝で、これから王との謁見かの?〟

「あぁ。授賞式に一回会ったとは言え、正式にとなるとやはり謁見の間じゃないとな。あそこじゃ、大勢の目に触れ過ぎる」

〝なるほどの〟

 

 ペラリと紙の擦れる音がする。資料を読んでいるのだろう。人間界では高級品である白い紙を、ぐしゃりと丸めた音もした。何か、不都合でもあったのだろうか?舌打ちも聞こえたが。

 

「どうした?」

〝ん? あ、あぁ、いや。何でもない。いつもの事じゃ……それよりも、マスターや〟

「何だ?」

 

 明らかに話を逸らしたサタンに眉を顰めるが、なるべくいつも通りに答える。ここで不審がっても仕方がない。彼方は彼方で、何かがあったのだろう。そこに、人間である自分が関わる事もないだろうから。

 

〝雄城英二という人物はどういう奴なのじゃ? 送られた資料だけじゃわからんからの〟

 

 なるほど、と頷く。

 確かに前に送った資料では、雄城英二という人物がどいう理由でこの世界に来たのかぐらいしか載っておらず、大らかな人物像しかわからないだろう。

 仕方なし。この前に感じた感想を述べてみた。

 

「能天気家だな。授賞式の時、干渉魔法で心を読んでみたが、その時と全く関係ない事を考えていた。先の事を案じているようにも思えたが……まぁ、楽天家とも言えるな」

〝言いたい事はわかるぞ。良くて前向き思考、悪くて一般人的思考の持ち主。多分じゃが、集団の中に埋もれるか、孤立するタイプだろうよ。まぁ、何とも扱い辛いの〟

 

 結論、平凡な男子学生。

 勇者と言うからには、武や魔術には天才的な適性があるのだろう。しかし、その才はあちらの平和な世界では何ら役に立たない。武の才は、何か武術でも習っていたなら発揮されただろうが、見ていてもそういう何かを習う質でもなさそうだ。適当に生きて、適当に死ぬ。そういうタイプに見えた。

 

「とりあえず、第一印象はそれだ。詳しくはこれからわかる」

〝慌てても仕方がない、か……そういえば、他の仲間には会ったのかの? 確か、勇者の他に剣士もいたはずじゃろ?〟

 

 そのことか、とシアンは頷く。相手には見えていないだろうが、まぁそこは癖としか言いようがない。

 

「それなら、この国に来ると言っていた。オレと同じように王と謁見するんだろう。そうなると、此方もカーマイン皇国に行かなければならない事になるが」

〝それはどうじゃろうな。直ぐにこのまま追い出されるかも知れんぞ?〟

「……あり得るな」

 

 授賞式の時に英二が考えていた事をシアンは思い出す。確か、今し方サタンが言った言葉と同じ様な事を考えていたはずだ。

 カーマイン皇国とプラム王国は隣国だが、王都と皇都の距離は一日、二日では到達できない距離にある。それは、それぞれの国が三代大国の一つであるからで、国土が広すぎる所為だ。

 因みに三代大国最後の国は、カメリア帝国である。

 カーマイン皇国を挟んだ向こう側にある国であり、魔族が住むと言われる魔界から一番近く、近々魔界に戦争を仕掛けるのではないかと噂される物騒な国でもある。

 それを言うのなら、プラム王国もカーマイン皇国も勇者を送り出す以上変わらないかもしれないが、直接仕掛けるよりマシだ。腹黒さではカメリア帝国より数段上だが。

 それでも、カメリア帝国とプラム王国、カーマイン皇国は協定を結んでいるので、実質加担していると言っても過言ではない。

 

「(もしかしたら送り出される可能性もあるな。暫くは冒険者として活動する事になるだろうが……)」

 

 あり得ないことではない。協定を結んでいる以上、協力関係にある。勇者はプラム王国とカーマイン皇国の配下になるので、王達から命令されれば嫌でも戦線へ送られる可能性がある。

 カメリア帝国が戦争を仕掛けなければ済む話だが、望みは薄いだろう。脳筋は、どこまでいっても脳筋だ。

 

〝まぁとにかく頑張ってくれ、としか言いようがないの。魔界に入ったなら、できるだけサポートはできるんじゃが……む?〟

「? どうした?」

 

 話を遮り、サタンは黙り込んだ。シアンは首を傾げたが、“念話”を切られたではない。多分だが、通じたままで此方へ言葉を送るのをやめたのだろう。

 “念話”はこうして、発動していながらもオンオフを切り替えられる。使えれるのならば、便利な魔法だ。それ相応の魔力が必要だが。

 因みにこの“念話”を使うとき声を出す必要は無いが、シアンはこうして誰もいない場所でなら声に出して話している。頭に浮かべるよりも簡単だからだ。思考と会話を声に出さずにする事など、シアンにとっては朝飯前だが、楽できるのならしたい質である。

 数秒ほど静かになった部屋を見ていると、サタンから連絡が入る。

 

〝すまんの、マスター。ちょいと急用ができた〟

「ってと?」

〝クソ親父が逃げ出した〟

「あぁー……」

 

 ふと遠い目になる。

 あれは隙あれば怠け、逃げる奴だ。今回も、書類に追われるのが嫌になり逃げ出したのだろう。あの堕天使は、誰かが捕まえるまで逃げ続けるし、挙げ句の果てには別世界へ逃げたりする。そうなると追いかけられる奴は限られて来るから厄介だ。

 シアンもその捕獲作業に参加した事はあるが、“瞬間移動”を持ってしても捕まえられない。寧ろ此方の動きを予測し、移動した後にはそこにいない、なんてざらである。流石、腐っても実力は魔界一位であるという事か。

 今の所、彼を捕まえられたのはサタンだけである。

 

〝という訳じゃ。捕まえられるのは我だけみたいだからの、行って来る〟

「頑張れ」

〝うむ。お主もな〟

 

 プツリと“念話”の魔法が切れる。騒がしかった部屋は途端に静かになり、机の上の紅茶が入ったカップを傾けるが、すでにそれは冷めていた。

 冷たい紅茶はあまり好みではない。例えそれが高級な紅茶だとしても。

 カップを元に戻し、部屋を見渡す。広いそこは、一人でいるのには退屈に思えた。

 

「(さて、どうするか。学園は退学になる……のだろうが、まぁそれは良い。問題は……)」

 

 良い笑顔を浮かべる妖精と契約している少年を思い浮かべる。彼奴が言うには、明日はお別れ会などをすると言っていた。知人以上、友達未満だと思っていたのだが、どうやら相手はそうではなかったらしい。嬉しく思う反面、悲しく思う。

 

 ここへ帰ってくるなんて保証はないってのに。

 

 そもそも、ここプラム王国立魔法学園にはまだ自分の知らない魔法の知識があるのではないかと思って入った。結果は、無かったのだが……それでも、学校というものを堪能できたのだから良しとしよう。

 時間通りに起き、登校して、友と語らう。語らう事はあまりしてこなかったかもしれないが、程良いルールに縛られる生き方はまぁ面白かったといえよう。自分を侮る奴は何処にでも湧いてきたが。

 

「…………」

 

 劣化魔法を掌に発動させ、カップを温める。あったかく熱くない熱は、カップの中にある紅茶を程良く温めてくれた。一口。喉の奥に流し込む。

 思い浮かべるのは、この学園で過ごしてきた二年間。

 同年代と一緒に過ごし、同じ空間で勉学を学ぶ。それだけで心が踊り、入学した頃を思い出す。あわよくば、友達できないかなんとも思っていた。結果、一人……いや二人か、できた。

 百人はいかずとも、話せる同年代ができただけでも御の字だろう。まぁ何ともつっけんどんな態度を取っていたが、相手も愛想が尽かなかったものだ。ただのバカだったのだろうが、それでも嬉しく思う。

 

 だから、だからこそ。

 

 この気持ちを、捨てなければ。情は未だ、捨てきれていなかったらしい。

 ふぅと息を吐いた。

 

「(まぁでも、無理だと思うけどな)」

 

 人である限り、この感情を捨てる事はできないだろう。押し殺す事はできるかもしれないが、それは捨てたとは言えない。

 くつくつと笑う。まだ、人間であるらしい。魔界を抜け出し、人の世に身を置いたのは正解だったか。

 周りにいたのが、数百年以上生きている者達ばかりだったので感覚が狂っていたが、まだ自分は十数年しか生きていない。それを思い出させてくれた、平和なこの国には感謝しかない。勇者召喚に加担した国王は嫌いだが。

 うんうん、と頷き、微笑む。その一因となった人物が主催のお別れ会は、一体何をしてくれるのだろうか。少し、楽しみだ。

 お礼として次に会うときの為に、何か土産でも持って行こうかな、なんて考える。

 あぁ、でも。

 

「次……なんて、あるのかどうか」

 

 誰もいない部屋で、一人ごちる。

 音となってでた声が、寂しく反響した。

 

 

 

 

 

「こんばんわぁーーーー!!!!!」

 

 びっくぅうううう!

 勢いよく開かれたドアの音と、先程と比べ物ならない程の大きな声が響き、驚いたシアンは思わず空になったカップを落としそうになるが、持ち前の反射神経で事なきを得て、恐る恐る声の主を探して振り返る。

 そこには、ニコニコと笑う薄黄緑色の髪を持った少年とも少女とも言い難い人物がいた。

 一体、誰だろうか。取り敢えず声をかけようと口を開くが。

 

「……っ…………(どちら様だ?)」

 

 驚きすぎて、声が出なかった。

 

 




すでにキャラがぶれぶれだが、これから更にぶれる。
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