勇者の仲間ですが魔王の協力者です   作:rocyan

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仲間

 

 

 

「そっかそっか。君が、ふーん」

 

 いきなり現れ大声で挨拶してきたその人物は、シアンの周りをくるくると回りながら身体の様々な場所を見てきた。その様は宝を鑑定する商人のようで、その糸のような目からは見えないはずな瞳が光っているような気がした。

 一頻り回った後、少年(少女とも見えるが)は満足そうに頷き、首を傾げる。

 

「うんうん、魔力は申し分ないね。でも垂れ流してる、勿体無いな。それに、魔法使いとは言え接近戦を好むって聞いてるけど……全然鍛えられてないね、駄目駄目。毎日筋トレしてる?」

 

 してるわけないだろ、と悪態を吐くも、その観察眼にシアンは驚いた。筋肉云々は置いといて、魔力の方だ。

 人の魔力の有無や、多さを見るには解析魔法しかないと言われている。他の地では鑑定魔法と呼ばれるこれだが、その習得の難しさ故に使える者が少ない。シアンは使える者を知ってはいるが、この国に来てからは一度も知り得てはいない。それ程に、少ないのだ。

 因みに魔法を妨害する魔法はあるが、解析魔法は発動するのには詠唱がいらないので、いつされたかどうかもわからないのが利点であり、そんな魔法を妨害しようとする方が無茶だ。

 なので、これを止めさせる方法はなく、また相手が話すまで個人情報が漏れた事に気づく事もない。見方次第では凶悪な魔法である。

 

「あ、今、解析魔法使ったな? とか思ったろ?」

 

 考えている事を読まれたことに慌てず、こくりと頷く。

 

「使ってないよ。種族特有の能力って言うのかな。相手の力とかが何となくわかるんだよ」

 

 へらりと笑った少年は、薄黄緑色の髪揺らしながら距離をとった。くるりとシアンの横を通り過ぎ、向かい側の席へ座る。その仕草は何とも軽やかで、隙もない。多分だが今シアンが攻撃しても、躱されるだろう。それか去なされるか。

 敵意もないし害意もない。良く分からないその少年をどう扱えば良いのか判らず、シアンは仕方なくと言っ風に座り直した。いつの間にか立ち上がっていたらしい。

 けど、種族特有の能力か、と先程の言葉を脳内で復唱した。よくよく少年を見てみれば、その顔の横についてある耳が尖っている。つまりは人種ではないと言う事で、人型の別の生物だ。

 その耳は横に伸びてるわけでも、下に垂れ下がっているわけでもない。人の耳の上部分が尖り、伸びたような形状だ。つまり。

 

「(エルフ、か)」

 

 人とは違う日に焼ける事のない白い肌、緑の髪、そして上方向に尖る耳。伝わるエルフの容姿と同じだ。

妖精人種エルフ。人の形をしていながら、精霊種に近い存在であることからそう名付けられた亜人種である。もっとも、妖精人種と呼ぶのは人種だけとされているが。

 しかし本来エルフとは、森の奥地に住んでいる。人が踏み入れられない精霊達の領域の中にだ。

 人や他の種族と関わらず、ひっそりと暮らす種族。そう言い伝えられているが……目の前にそれがいる。案外当てにならないのかもしれない。

 

「で、そのエルフ様がどうしてここに。というより、名乗ったらどうだ?」

 

 笑みを崩さず此方を見つめてくるエルフ。糸目であるからか視線はわからないが、顔の向きからして此方を見ているのは明白だった。

 そんなエルフに肩を竦めながら、そう問いかけるとその少年はきょとんとした顔をして、何やら苦笑した。確かにそうだね、と。

 

「僕の名前はカクタス。姓はないよ。それでカーマイン皇国で騎士達に剣を教えてた。剣士が来るって知らされてたでしょ? それ僕ね」

「成る程、それでもう一人のパーティの一員であるオレを見に来たのか?」

 

 くすくす、と笑う。

 

「まぁね。これから旅をするんだ。長い付き合いになる相手を気にならないわけがないでしょ?」

 

 それはまぁ、確かに。

 シアンとて気になっていた訳なので否定はしない。第一、先程まで目の前にいる彼について話していたのだから。彼方から来てくれた、それだけでも良しとしようか。

 

「じゃぁ、オレも自己紹介を。シアン・アシード。得意な魔法は補助魔法で、攻撃魔法はできない。接近戦闘型魔法使いだ」

「話に聞いてたけど本当なんだね。実際に見るまでは確実にそうだと言えないけど、少なくともこうして君が言うんだからそうなんでしょう?」

 

 こくりと頷く。遠距離は弓などを使えばできるかもしれないが、本職には少し劣るだろう。やはり接近戦の方が少し得意だ。しかし、それでも本職に劣る。魔法職以外でのオールラウンダーでもあるので、それは仕方ないと言えるが。

 

「本当は勇者を交えて言った方が良いんだろうが、オレはオールラウンダーだ。攻撃魔法以外ならそつなくこなせる。まぁ、一点特化ではないから他には劣って見えるだろうな」

 

 補助魔法を全て使えるのと、魔力の多さだけがシアンの強みである。

 

「僕はそうだね。接近戦型なのは君と一緒だ。けれど、武器は大剣を使う。こう見えて攻撃特化なんだよ」

 

 今、彼の背には大剣はない。何処かに置いてきているんだろう。自分の得物をそんな不用心に置いてくるのもどうかと思うが、問題はないのだろう。

 シアンよりも背の低い彼では大剣などと、到底扱えないと思えるが、そこはエルフだ。大剣を操ることなど造作もないのだろう。

 彼らは人種よりも素の身体能力は上である。亜人種より人種の方が繁殖能力は高いく、逆に人種より亜人種の方が生物として強い。繁殖能力は低い、寿命が人より大分長いのも関係あるのだろう。

 しかし、幾ら人種より強いからと言って、決してエルフは大剣を使い力で捩じ伏せる様なタイプではない。寧ろ、魔法や弓といった遠距離か、小手先でちょこまかと戦うタイプだ。

 

「……似合わないな」

「えへへ、よく言われるよ」

 

 へらりと笑ったカクタス。その表情は、諦めがあった。本人が言う様に、よく言われているのだろう。

 エルフという種族という事もあるが、そのシアンよりも低い背と見た目、華奢な身体からでは想像しにくいと思われる。よくよく見てみれば、その身体はちゃんと鍛え上げられているが。

 しかし、この和やかな雰囲気とは裏腹に、彼は王国の騎士達に剣を教えられる程の実力を持っている。

 人は見た目八割などと、言うかもしれないが、これは見た目詐欺だろう、と悪態を吐いた。

 因みに、魔法使い様々な格好をしているのに攻撃魔法が使えないシアンもその中に該当する。本人は全く気づいてはいないが。

 

 その時、ガタンと音が鳴る。音の方向を向いてみると、閉じられていた扉は開かれ、そこには一人の少年がいた。

 

「ハァ、ハァ……っ。速すぎっ、ひゅっ……スー、ハァ」

 

 軽く呼吸困難に陥っているのか、膝を折って胸に手を当てて息を整えている。途中で、息をしっかりと吸えない音がしたが、その後の深呼吸で何とか落ち着いた様だ。

 額に滴る汗を拭い、少年は全ての元凶であるカクタスを見た。完全に怒りの目である。

 

「師匠速すぎる! 一回見失ったじゃないですか!」

「おー、勇者君じゃない! 意外と早いね。疲れたでしょ? 紅茶はどうだい?」

「誰のせいだと……! あーもう!いただきます!!」

 

 ズカズカと行き場の無い怒りを表しながら、シアンとカクタスの間にある椅子に少年は座った。

その間にティーカップを用意し、紅茶を入れる。その動作は様になっており、背格好を直せば彼が給仕係だとしても違和感はない。

 ゆらりと湯気が揺れる。こくりと喉が上下して、紅茶は少年の胃の中へと注がれる。体の奥から温かくなった気がした。汗を掻いている今では、不愉快に思えるが、とにかく落ち着いたので、良しとしよう。

 改めて少年を見る。勇者と呼ばれていた彼は、やはりというか雄城英二だった。

 短い黒髪に、黒目。日本人特有の童顔は、この世界ではあまり見ない人種である。

 

「落ち着いた? とにかく君は騒がしいからね。シアン君に迷惑だよ?」

「初対面の人を大声で驚かす人に言われたくないんですが!!」

 

 彼もカクタスの大声にやられた人間だったらしい。

 どうやら話によると、カクタスは初対面の人に会う度に大声で挨拶をする習慣があるらしい。それに合わせて、ボケているのか昼夜逆の挨拶をする。

 先程、シアンに挨拶した時は昼なので、普通は“こんにちは”だが、彼は何故かこんばんはと挨拶していた。

 ツッコミ辛い、微妙なボケであるため、殆どの人が驚くことあれど、困惑し苦笑する。どう扱えば良いのかわからないのだろう。カクタスの容姿からして、子供の悪戯とされる事もあるみたいだが、まぁ何とも色々と傍迷惑な話だろうか。

 何方にせよ、シアンの様に驚きすぎて声が出ないという反応をした人はいなかったらしい。面白かったよ、とカクタスは笑った。

 ……どう返せば良いのだろう。

 

「じゃぁ、皆揃ったことだし。改めて自己紹介をしよう! 僕の名前はカクタス。ここじゃ珍しいエルフっていう種族さ。よろしく頼むよ」

 

 この中で一番背の低い少年が笑う。

 少年と言っても、エルフは長寿なので外見よりは歳をとってはいるだろう。三人の中では、年長ということになる。

 

「俺は雄城英二。気軽にエイジって呼んでくれ。勇者はちょっと照れくさいから」

「わかったよ! 勇者君!」

「わかってない! 絶対わかってない!」

 

 大層な肩書きはあまり好きではないらしい。照れくさい、と言いながら困ったような笑みを浮かべていた。多分だが、未だ自分に合っていないと思っているのだろうか。

 シアンも見た限りでは、素養は確かに勇者と呼べるほどの物なので、そう卑屈にならなくてもとも思う。だが、彼は日本人だ。彼の国では、何かと謙遜する癖がある。彼もまた、それを受け継いでいるのだろう。

 

「シアン・アシード。魔法使いとして三流以下、前衛も後衛もこなせるが、魔法にだけは当てにしないでくれ。けど、教える分には問題ない。勇者様には是非とも早く覚えて貰って、オレの代わりの魔法使いになれ」

「命令形!?」

「まぁ適材適所ってやつかな。君は実力はあるから、王様も切れに切れなかったんだろうけど、僕は大歓迎だけどね、君みたいな子。傲慢で馬鹿なやつよりは良い」

 

 シアンの小さな横暴に驚いている英二を放っておくことにしたカクタスは、パンと軽く手を叩いてニコリと笑う。視線はシアンの方へと向いていた。

 

「さて、これで相手の名前がわかった事だし、行こうか。扉の向こうでメイドさんが、戸惑っている。慌ててる様子でもあるから、多分呼び出しだろうね」

 

 先程から慌てたように右往左往する気配は、カクタスの言葉でビクリと跳ねる。

 英二は驚きからは復活したが、気づいていなかったのか困惑した表情をしてみせた。気配を読むなんて事、彼にはできないのだろう。

 

「遅かったな。勇者様が来る前には、呼び出されるかと思ってたんだが」

「まぁね。王様にも何か事情があるんだろう。そこは一市民である僕らにはわからない事だし、考えても仕方ないよ」

 

 くすくすと笑う彼は、スッと立ち上がった。

 それを見たシアンも立ち上がり、謁見の為に身嗜みを整える。と言っても、ジャボの位置を整え、プラム王国立魔法学園の制服であるマントを羽織るだけだが。

 

「エルフはどの国にも所属してないだろ」

「それもそうだったね」

 

 長いこと居たから忘れてたよ、なんて微笑む。冗談なのか否なのか、よく分からない。

 やり難い相手だ。シアンは本気でそう思った。

 

「さて、行くよ勇者君。君が主役なんだから、そう呆けてないで、立ち上がって」

 

 ふわりとした優しい言葉とは裏腹に、英二の腕を掴み無理やり引っ張った。

 うわっ!? という声を上げた英二は、カクタスの身長を超えて持ち上げられ、そして絨毯の上に立たされる。何が起きたのかをわかっていない彼を満足そうに見たカクタスは、歩き出し扉を開けた。

 勢い良く肩が跳ねたメイドに優しく微笑み、彼は此方を手招きする。

 年長者だからか、それとも職業柄からなのかリーダーシップとしての姿を見せるカクタスを見て、英二は憧れるような表情をしてみせた。

 それを見てため息を吐くシアンの事など気づいていないようで、彼は陽気にはーい! なんて返事をしながら駆け出して行く。

 

「廊下は走らない」

 

 だが、走り出した途端に襟首をシアンに掴まれ、強制的に歩かされることになる英二であった。ぐへっ。

 

 




華がないね。
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