勇者の仲間ですが魔王の協力者です   作:rocyan

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閑話 魔法道具

 

 

 

 これは、送別会が行われた数日後の出来事である。

 

 

 

 

 

「勝負で約束したとは言え、本当に守ってくれるとはな……」

「最初からそのつもりだった」

 

 王への謁見を済ませ、勇者の仲間とした活動するまでの間である最後の休息日。シアンは選抜大会の決勝相手であったタン・カーキーと、貴族街を歩いていた。

 ここは爵位を王から貰い貴族となった者達の街。周りを見渡せば、豪邸ばかりである。

 タン・カーキーと会ったのは、選抜大会の決勝で賭けた事を守って貰うため。シアンとしては守らないと思っていたのだが、律儀なのかタンは守るつもりであったようだ。

 淡々と答え、胴より長い脚を動かし前を歩くタン。身長はシアンより、大きく百七十程はある。見た限り、踵の高い靴を履いているわけではなさそうだ。少し、悔しい。

 

「ここ」

 

 タン・カーキーが止まったのは、一つの豪邸。他のよりも一回り大きく、権力の高さが伺える。流石、代々宮廷魔術師を輩出してきた家というだけある。

 タンは門の隣にある魔法石に手を当て、魔力を流し込む。この魔法石には、念話の魔法が込められており、中との会話が可能になるという便利な代物だ。但し、魔力が無い者には使えないというデメリットがある。

 

「帰ってきた」

《タンお嬢様でございますね。お帰りなさいませ》

 

 やはり貴族だ。お嬢様とは。

 そう言えば、お坊ちゃまとは一度も呼ばれた事がなかったような。そうシアンは頭の隅でどうでも良い事を考えながら、開いた門を潜っていったタンの後姿を追いかける。

 足の長さが違うと、足の速さも違ってくる。速いな、と感じながらも小走りでついて行く。

 平民には広すぎると感じるであろう庭を渡り、玄関先へとたどり着く。人には大きすぎる扉は、此方が手を出さずとも自然に開いた。

 

「「「お帰りなさいませ、タンお嬢様」」」

 

 何十人ものメイドや執事達が一斉に頭を下げ、タンを出迎えた。

 只々、圧巻の一言。庶民には心臓に悪いものだ。先程から心臓が五月蝿いし、冷や汗が止まらない。これがジェネレーションギャップか、なんて見当違いな事を考えながら、タンの後ろに自然につくように歩き出す。

 周りからの好奇の視線や、妬みや怒りの視線が浴びせられるが、一心に無視して足を動かす。

 

「(いや、前者は分かるが、誰だ後者)」

 

 帽子が欲しい。タンと会うため、シアンの装備である上着ととんがり帽子は仕舞ってあり、今日は友人という設定できているため制服のマントを上から羽織っている。フードはついてはいるが、室内で被るのは失礼だ……今はこの習慣が嫉ましく思う。

 

「ごめん。皆、貴方が勝ったから気が立ってる。良い人達、でも心配性」

「そ、そうか」

 

 自分が勝ったから悪いという言い方をされて、シアンは困惑する。何か事情があるのだろう。そしてそれが、シアンに飛び火しているという事。厄介な。

 

「それに……」

 

 まだ何か続けようとタンは口を開くが、暫く考え込んだ後首を振った。首を傾げるシアンに、何でもないと言って歩き出す。

 

「ここ」

 

 つい数分前にも同じように声を発したタンが止まったのは、とある扉の前。

 他の扉は木製の茶色いものに対して、この扉だけは銀色である。よく見れば金属でできており、解析魔法を掛けようとしても掛からない。成る程、魔法の干渉を防ぐ金属のようだ。

 

「(防ぐと言うより、吸収してただの魔力として放出している……まさか、ミスリルか?)」

 

 防具や武器に使われる事が多いミスリルは、耐久力が強い事で評判だ。アダマンタイトや、オリハルコンの様な発見された例が少ない鉱石より、発見されやすい高級品として知られる。

 そしてミスリルで作った剣は魔法を斬る事ができるという噂があった。本当だったとは思いも寄らなかったが、こういう仕組みか、と一人納得する。

 因みに第一級冒険者は、皆ミスリル製の武具だとか。

 

「(流石貴族。金持ちだな)」

 

 けれど、その高級品であるミスリルをふんだんに使った扉。この奥には、自分が求める物があると確信できた。重要なものではなくては、ミスリルなど使わないだろう。

 何と無くで賭けをしたシアンだったが、思わぬ儲けになりそうで頬が緩みそうである。

 タンが扉の手形のような場所に掌を嵌め、魔力を流す。どうやら、一部分だけミスリルでできておらず、魔力が流れるような仕組みになっている。特定の魔力を感知し、開くタイプの扉。現に、地面を引きずる様な音と共に、扉が開かれた。

 他の場所に金をかけ過ぎていると感じるが、自分の家では無いのでシアンは思考を放棄し、中へ入っていくタンへと続いた。

 扉を潜れば、そこは楽園である。金銀財宝の山。流石に金貨や銀貨など直接なものはないが、魔法使いが見れば価値あるものばかり。どれもこれもに、魔力が宿っている魔法道具だ。

 

「(この中から一つだけ、選び放題か……これは、思わぬ当たりだ! 過去のオレ、グッジョブすぎる)」

 

 心の中でガッツポーズをしながら、周りを見渡す。その目はもう宝石を鑑定している宝石商の様に、怪しく光っている。

 タンが何も言わずに前に出て、振り返った。目は合わない。

 

「約束通り一つだけ。それ以上は無理」

「わかっている。触っていいんだよな?」

 

 こくりと頷くタンを横目に、シアンは鑑定に移った。

 すぅと息を吐き、解析魔法を発動させる。これより、眼に映る全ての物の情報が羅列される。

 余計な事は考えず、全て目の前の魔法道具達に集中する。脳内に浮かぶのは、魔法道具達の製作者や効果、それその物の価値。

 

「(遊びでだけ作った、なんて物が多いか。しかし……)」

 

 目蓋を開ける。歩き出し、魔法道具を二つ程取り出す。シアンにとって重要性は無いが、この二つだけが、この中で最も価値があるものだと思われた。

 一つは、箱の中に入ったアクセサリー。一見普通のブレスレットに見えるが、れっきとした魔法道具だ。効果は溢れ出た魔力を貯められるという物。貯めた後で使えば砕ける代物だが、その恩恵は大きい。容量の限りが無いのだ。それだけで、価値はぐんと跳ね上がる。

 本来、魔力という物は睡眠を取ると回復するという性質がある。精神力とも言われるこれは、人それぞれの許容量を超えると溢れ出す。溢れ出した魔力は周りに滞空し、周囲に影響を出す事がある。器が小さく、魔力を生成する力が大きいものには、このブレスレットは救世主になるのでは無いだろうか。

 

「(この製作者は砕けない物を作りたかったんだろうが、これだけでも価値はある。生産量は少ないが、オレなら複製できるしな……)」

 

 ま、世に出す気は無いが。

 さて、次の魔法道具だ。もう一つは、チョーカー型の魔法道具。先程と同じく身につける物であるからか、人体に作用するものだ。このチョーカー型の効果は、純粋な身体能力向上。装備者の身体能力を二倍にするもの。しかも恒常効果。強い。

 因みに強化魔法の一つである身体強化は同じく二倍であるが、一時的であるためこのチョーカー型魔法道具の方が強いと言える。

 

「(強化魔法を使わなくて良いという利点があるが、慣れてからこの魔法道具が壊れた時の反動が怖いな。それが戦闘中なら余計に)」

 

 利点は先程言ったように強化魔法を使わなくて良い点と、身体の弱い者が身につければ普通に生活できるなんていう点もある。まぁつまりは使い方次第という事だ。

 シアンは悩む。持っていけるのは一点だけ。ブレスレットか、それともチョーカーか……それとも。

 長い静寂が訪れる。

 

「決めた」

 

 数秒か、数分か、はたまた数時間か。体感時間では長く感じた時を過ごした後、シアンは納得したように頷き、手元にあるブレスレットとチョーカーを元の位置に戻した。

 そして、視線を滑らせ目にしたのは、一つのケース。中に入っているのは勿論魔法道具だが、ただの魔法道具ではない。この世界にとって価値のあるものだと思われにくいが、ごく一部に限ればそうではない。これは先程の二つよりも、貴重性が高い。

 蓋を開けずに持ち上げる。後のお楽しみ、というわけではないが、解析魔法で中身は二つ入っているという事がわかるので、貰えるのは一つだけという約束の元、文句でも付けられたら片方を持っていけないかも知れないため、あくまで一ケースで一つという事にする。

 実際、この魔法道具は二つで一つな様だし、嘘はついていない。

 

「これを貰って良いか?」

 

 この宝の山の持ち主の娘であるタン・カーキーへと確認を取ろうと立ち上がって振り返ってみれば、彼女はシアンの目を見た瞬間びくりと震えた。まるで何かに怯えている様に。

 

「……これを貰って良いか?」

 

 再度同じ事を繰り返して聞くと、タンは申し訳なさそうにしてからシアンの手元を確認し、そしてこくりと頷いた。

 そうか、と呟き懐に入れるフリをして時空間魔法で収納すると少しだけ思案した後、タンの前に歩き出し目を合わせようとする。案の定タンは目を合わせようとせず、右へ左へ、上へ下へと目線を逃すが、痺れを切らしたシアンはタンの顔を掴み無理矢理にでも視線を交差させる。

 

 びくり。また肩が震えた。

 

 正直、シアンはここまで怯えさせる様な事をした覚えはない。選抜大会だって、相手は果敢に向かってきたし、騙したとはいえ勝敗はついた。試合直後の彼女はまだ、瞳に怯えを含ませてはいない。

 ならどうして。その心当たりなら、ある。

 

「タン・カーキー、正直に答えて貰おう。お前は、草臥れた翼を持った天使に戦いを挑まれたな?」

「っ!?」

「そして、敗れた。トラウマを植え付けられる程に、性格を歪める程に。オレと同じ顔をした奴に」

 

 確信を持って告げた言葉にタンは固まったが、暫くして目を伏せた。

 手を離したシアンは一歩二歩と下がり、少しだけ高い彼女の顔を見上げる。

 

「分からないと思ったか? 同じ顔をした奴だ、知っているに決まってるだろ。オレの顔を見て驚き、怯える奴に何があったのか、オレにはわかるからな」

 

 人間であるために唯一良識的な方であるシアンは、こうして何もした覚えのない人間に怯えられる事が多かった。

 最初は意味がわからず、仲良かった者達に急に怖がられる羽目になったりもした。そんな彼らに問い詰めて得た答えは、お前に勝負を挑まれ負けた、ボコボコにされた、友を殺されたなど等。

 身に覚えのない事。だが、彼ら・・に出会って理解した。此奴らの仕業だと。

 

「(ま、その一人があのクソ天使のイエローだけど。何でこう身近な人間に手を出すんだよ……軽く問い詰めたい)……で、どうなんだ?」

「…………そう、貴方の言う通り。貴方と同じ顔の金髪の天使に戦いを挑まれた。君は強いからって」

「(やっぱりか……)」

 

 彼女も被害者の一人になったわけである。可哀想などと感想を抱くわけもなく、ただ湧き出るのは面倒だと言う感情のみ。恐らく先程の執事達の態度も、選抜大会だけでなくイエローの事情も混じっているのだろう。

 同じ顔をしているというだけでとばっちりが来るのだから、迷惑なものだ。早く死んでくれないだろうか。

 

「それは災難だったな。だがまぁ、そのクソ天使で良かったよ。そいつを相手にして死ぬ事はないからな」

「……? それだと、もう一人いるって事に聞こえる」

 

 今度はシアンが視線を逸らす番だった。伏し目がちに、溜息を吐いたシアンは頭を掻いた後タンの横を横切り宝物庫から出て行く。

 その態度は肯定なのだろうか。首を傾げたタンは、帰り道がわからず足を止めていたシアンの下へと駆け出した。

 

「そういや、送別会の時イエロー見て震えてただろ。天使見えない奴には、只の頭の可笑しな奴にしか見えないから気をつけろよ」

「……………………うん」

「(若干凹んだな、今)」

 

 前と違って性格変わりすぎているタンだが、感情がわかりやすいのは変わってはいなかった様だ。

 

 




これで、第1章は終わりですね

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