勇者の仲間ですが魔王の協力者です   作:rocyan

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第二章 見習い勇者の旅
宿屋


 

 

 プラム王国のとある街、モスモ。

 王都から幾ばくか離れたその街の宿に勇者御一行は泊まっていた。

 ただまだ勇者として旅だったわけではなく、あくまで勇者見習いとして旅に出た雄城英二は約一年程、見習い期間としてプラム王国内とカーマイン皇国内を旅する事となった。

 お膝元での旅はいささか不満はあるけれど、それでも異世界を堪能できると初日は機嫌が良かった彼であるが、今はどうもそうは思っていないらしい。

 目の前の問題用紙と睨めっこするこの時間は、好きにはなれなかった。

 

「(わからん……)」

 

 食堂だからか漂ってくる匂いに思考を邪魔される。そう言えばお腹が空いた。よだれが垂れそうになる。

 そもそも何故この世界の言語を覚えなくてはならないのだろうか。確かに不便であろうが、こうして話せているのだから良いのでは? なんて言い訳を述べるけれど、それではいつまで経っても目の前の問題は解けはしない。

 雄城英二は召喚された者である。

 勇者召喚は異世界から適正者を呼ぶ為、もしも使用言語が違っていたら話にすらならない。その為、召喚術式には此方側の言葉を話すことができるようにしてある。

 なので、話す分には不自由はないのだ。問題は筆記である。書けない、読めない。宿屋すら見つけられない。不自由だ。

 

「(当てはめろって言われてもなぁ。次の日には忘れてるから……ううっ、先生にど突かれる……)」

 

 あの魔法使いは何故か雄城英二にだけは手を出すのが早い。元々何かを言うより手を出しそうな印象であったが、そうであったとは。

 けれど、カクタスについてはど突くなんて事をした所を見たことがない。年上は敬うタイプなのだろうか。にしても、一個違いでしかないのだけど。

理不尽だよなぁと愚痴りながら、とりあえず何とか覚えている単語の意味を書き出す。書き出した言語は日本語。何故かあの魔法使いは日本語が読めるらしく、こうして訳す問題を出されていた。

 この世界の言語は一つの言語しかない。獣に近い魔物を抜いた全種族がこの世界の言葉、ティリア語を使っている。なので、このティリア語をマスターすれば、この世界での言葉に不自由はない。

 そもそも、英二は英語の点数は低い方である。何故日本人なのに他国の言葉を習わなければならないのだ、なんだの言い訳を述べてやらない典型的なタイプである。

 そんな彼の思う事は一つ。

 

「話せるから別に良いんじゃね」

「ダメだ」

「いった!」

 

 木の棒のようなもので頭を小突かれた。

 小突いた本人は軽くしたつもりらしいが、英二にとってはそうではなく、涙目になりながら頭を抱えている。

 木の棒のようなものであるそれは杖であり、先端が中央に浮く赤い魔石を囲むように変形した、青いリボンが付いた魔杖。主に魔法使いが使う武器である。

 特殊な木でできたそれは、見た目より頑丈でありまるで金属のような硬さを持つ。そんな物で殴られたのだ。痛くないはずがなかった。

 コツンと、杖を床で支える。英二の前から紙を取り上げ、内容を見た。全然進んでいないそれは、彼を呆れさせるのには充分だった。はぁとため息が聞こえる。

 

「間違ってるぞ」

 

 再び紙を机の上に置き、指を指す。痛みから復活した英二はその部分を見る。最初の問題、何とか無い頭を捻って出した答えなのだが、間違えているらしい。

 うーん? と首を傾げる。わからないらしい。

 

「ここまでくると、いっそ賞賛できる。日本語とは違ってこの世界の言語は簡単だ。単語を組み合わせるだけ。接続詞が無い分、英語より簡単なんだがな」

 

 そんな事を言われてもと思う。わからないものはわからない。生まれてからずっと聞いている日本語ならまだしも、異世界の言葉だ。しかも、文字が少々特殊だ。これで分かれと言う方が酷だ。

 

「…………気づいていない様だから、良い事を言ってやろう」

「え! 何々!?」

 

 良い事とはなんだろうか。この勉強の切り上げだろうか。流石の魔法使い様も、英二の頭の無さに呆れ返り、諦めてしまったのだろうか。

 振り返った英二に魔法使い、シアンはにっと笑い、人差し指を立てた。

 

「今、オレが使っている言語はティリア語だ。けど、お前の耳に聞こえてくる言語は?」

「日本語……だけど、それがどうかしたのか?」

 

 先程も言ったように、英二の耳には全ての言語が日本語として聞こえてくる。これは勇者召喚術式に、翻訳機能が組み込まれているからなのだが……シアンは一体何が言いたいのだろうと英二は首を傾げた。

 また、ため息を吐く。

 シアンは元に戻した紙をもう一度持ち上げ、そしてその内容を読んだ。

 

「私はプラム王国民です」

 

 今度はその紙の内容を英二に見えるようにしてから、文字を指差していく。

 

「私、プラム王国、住民」

 

 そしてシアンはニヒルに笑う。わかったか? と言外に述べていた。

 その言葉の意味を英二は心の中で反芻し、咀嚼してようやく理解する。つまりは、この自動翻訳機で当てはめて覚えていけという事なのだろう。辞書が傍にあり、それを使わずに覚えようとしていた英二にとっては思いつかなかった事だ。

 しかしながら結局は頭に意味を叩き込まなくてはならないので、行き着く先は一緒であるために、また明日になって同じ所で躓く可能性がある。

 そう考えた英二は、成る程と理解はしてもちっとも納得はしていない。

 英二の考えをシアンに述べると、彼は溜息を吐き目を逸らした。思う所があるのだろう。画期的な事を教えたは良いが、まさかその教えられた奴がポンコツだとは思いたくもなかった。

 

「ま、お前の頑張り次第だ」

「結局投げやり!?」

「何を言う。これを見てやってるのは、問題を作ってるのは誰だ? オレだろ?」

 

 投げやりだなんて言わせねぇと言わんばかりの言葉に英二は黙り、もう一度机にかじりついた。

 そんな英二にシアンは踵を翻しながら、昼飯を作ってくると言う。その意味はつまり、その問題を解かなければ昼飯抜きという意味である。

 実際に数日前に問題を解かずに昼ご飯を待っていた事があったが、いつまで経っても出されずにいたことがある。その日は結局、空腹のまま剣の鍛錬へと移る事になり、力が入らなかった英二はカクタスに怒られた事があった。

 普段怒らないタイプであるカクタスの怒りは静かなものだったが、内に秘めている炎は凄かったと英二は思う。何せ、目線で人を殺せそうだなと感じたからだ。

 もうあんな事はごめんだ。怖い事は避けたいのは自然の心理である。

 あの時のことを思い出し身震いする英二は、昼ご飯が出来上がるまでに終わらせておこうと気合を入れて、ペンを握った。

 

 

 

 

 

「ただいまーっと……(お? やってるなー)」

 

 宿屋の扉を開けたカクタスは視界の端に勉強に勤しんでいる英二を見つけ、感心する。勉強があまり好きではないタイプなのは知っていたので、ああやって机に齧り付き頭を悩ます姿を見ていると褒めてやりたくなる。

 ちょっと甘過ぎるかな? なんて考えながら、いい匂いのする厨房へと歩き出した。

 

「シアン、昼ご飯何かな?」

 

 ちょこっと入口の角から顔を出したカクタスはシアンを視界に収めるとそう言った。

 お腹が空いたのだろう。彼の目は昼ご飯の事しか考えていない目だった。

 

「お早いお帰りで。カレーだが、残念ながら今作りだしたところだ、できるのはまだだな」

「えー! そうなのー!? せっかく良い収入があったのになぁ」

「我慢しろ。それで、今日は何のクエストをして来たんだ?」

 

 手元を止めないでそう聞いて来たシアンにカクタスは依頼報酬の金銭と、その証明書を見せて来た。題名には“グリズリーボアの討伐”と書いてある。

 チラリとカクタスの出した紙を見たシアンは、少し驚いたような顔をした。

 

「グリズリーボア? また珍しい魔物を狩ってきたな。あまりいないだろ、それ」

 

 グリズリーボアとは名の通り、クマとイノシシが混ざった魔物の総称だ。このクマとイノシシの特徴さえあれば、どんな姿でもグリズリーボアとされる。例えば、イノシシの頭をしたクマ、クマの頭をしたイノシシという風にだ。

 だが、何かと何かの動物が混ざったような魔物はそうはいない。動物から魔物になる際に近くにその二種類がいなくては成立しないからだ。

 唯一例外なのが、一年中いる牛と豚と鳥が混ざった魔物であるが、あれは生命力が強く更に美味しい食材となるために一般市民にも知られている魔物である。

 けれど、グリズリーボアはそうではない。彼らは繁殖力が低い。そもそも絶対数が少ないのが原因だろう。だからこそ、その討伐というクエストは珍しい物である。

 

「でしょ? 報酬も良かったし、一回見て見たかったんだよね、グリズリーボア。僕が見たのはクマの手足を持ったイノシシだったんだけど……想像と違ったのがなぁ」

「動物が混ざった魔物はどう変化するか分からんからな……そういう奇抜なのもいるだろうさ」

 

 運が良かったのか、悪かったのか分からないよ。

 そう笑うカクタスに苦笑しながら、シアンは鍋に火を付けた後、包丁を手際よく具材を切るために動かした。

 さくさく、とんとんとん。小刻みにリズム良く音がなる。不愉快になる事のない音だ。

 だが、ずっと続くかと思われたその音は突如として止み、それを生み出していたシアンは考えているように目を瞑った後、口を開いた。

 

「彼奴はどうした」

 

 そしてまた手を動かし始めた。ぐつぐつと煮え湯が湯気を漂わせる。

 カクタスはシアンの言った彼奴という人物に誰なのか訊くこともなく、理解する。彼が名前を呼ばないのはせめてもの抵抗だろう。呼びたくない気持ちもわかるが、一応このパーティのリーダーを任されているカクタスとしては仲良くして欲しいとも思う。

 ただ戦闘には響いていないので、今のところ助かってはいた。

 そっと小さく溜息を吐いてから、カクタスは居場所を告げる為に口を開いた。

 

「彼女なら街の魔法道具(マジックアイテム)屋だね。新しいのが欲しいって」

「またか……」

 

 不愉快だと言うように眉を寄せる。

 このパーティで生活費のやりくりをしているのはシアンだ。宿代から食事代、その他出費まで全てを管理している。ただ一人一人にはちゃんと一ヶ月に一回のお小遣いをやっており、その金額分だけ好きにして良いという約束を最初にした。だが一人だけそれを守らず、プラム王国、カーマイン皇国から送られて来る資金を勝手に使う者がいる。それが四番目の勇者パーティの一員である。

 名はドラジェ。職業は魔法技師。魔法道具を作る職人であり、魔法使いでもある人物だ。

 彼女はかのカメリア帝国から送られてきた人材である。

 

「仲良くはできないの?」

「これでも最初はしようとしていた。けど、彼方からそれを足蹴にした……ならもう無理だろう」

「そっか」

 

 そして、軍事国家の出身であるかのように主張する彼女の戦闘好きや、他人を見下す性格、唯我独尊を行く上から物を申す態度、その全てがあまり好きになれなかった。彼女自身、カメリア帝国にて天才と持て囃されていた人物だからこそ性質が悪い。

 はぁと何度目かの溜息が出る。カクタスは鼻に入ってくる良い匂いにお腹を空かせながら、どうにかならないもんかと悩んだ。

 まぁどうにもならず、三ヶ月も経っているのだが。

 その時、カランコロンと宿屋の扉が開く知らせがなる。完全貸切のこの宿に入ってくるのは勇者パーティの一員か、宿屋の主人のみ。だが宿屋の主人は今日休むと言っていた……つまりは。

 

「ただいま……何? 出迎えもないの?」

「…………」

「…………」

 

 噂をすれば何とやら、だった。

 

 




週一とか良いながら第一章投稿した後で途絶えてしまった更新!マジですみません!!

男鹿父にスライディング土下座習いに行こうかな……!
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