勇者の仲間ですが魔王の協力者です 作:rocyan
「地に根を張る木々よ、その隣人達よ。契約に誓い、この身に宿る魔の力を糧として、力を貸したま---」
それ以上は言葉が続かなかった。
〝バルト、それ以上はよせ〟
何せ、シアンから念話が送られてきたからだ。
魔法の制限はなし。という事は使う者が限られている魔法だってオーケーだということ。だからこそ、この学園で使ったことのない一番得意で、唯一の魔法を使おうと思ったのに、詠唱の終わりかけに声を掛けてきたシアンにバルトは不満を持った。
明らかに不満そうな顔をしているバルトに苦笑しながらも、シアンはうーんと背筋を伸ばし思念を送る。
〝何故、止めた? いくらシアンでも、これは許されないよ〟
〝不満大有りって顔だな、バルト。気づいてないみたいだから教えてやる〟
バルトからの鋭い視線を軽く躱しながら、シアンはニヤリと笑い人差し指を立てる。
気づいてないこと? バルトは首を捻った。そんな事あっただろうか? 少なくとも記憶にはない気がする。
〝? 何のことだい?〟
こてん、と首を傾げたバルトにやはり理解してなかったな、と呆れる。シアンはポジティブだが、鈍感だ。だからこその、その性格だと思うがどうにかしてほしいと思う今日この頃である。
〝オレ達が何故最初の実戦に選ばれたかわかるか?〟
〝いや〟
〝実技において、このクラスで底辺だからだ。下から数えてワースト一位と二位〟
因みにワースト一位がシアンである。
〝それに加えて、この一週間後、何がある?〟
〝一週間後? 選抜大会があるに決まっ……あ〟
そこまで言って気づいたようだ。なるほど、とバルトは思案顔で頷いている。どうやら理解したようだ。
シアンとしては手の内は明かしたくない。奥の手とは最後の最後に見せるものだ。だからこそ、この大会とは関係のない戦いではあまり力を使いたくないのだが……シアンはそう願うが、どうにも相手は受け入れてくれそうにないようだ。
〝だから? お生憎様、僕には関係のない事だね〟
そう来たか。
バルトにとって、それはどうでもいい。バルトは大会には実力を試すために出るのだから。
授業ではいつも全力を出せぬもどかしさがあった。実習課題はいつも
だから、シアンの提案を受け入れない。全力で行く。例えそれが、相手の命を容易く奪い去りそうな魔法でも。
「もういいね? シアン。僕は全力で行かせてもらうよ」
全力も何も、相手を傷つける事すら出来ないだろう。とクラスメイト達は笑うが、バルトの急激に上がった魔力によって笑うのを止めた。否、止めざる終えなかったのだ。何せ全員がだらしなく口を開けて、惚けていたのだから。
その魔力はここにいる教師も含め生徒達の平均値の保有量を容易く超えており、これには教師も目を見張る。そして同時に、今までの成績は何の冗談だと前任者へと悪態をついた。
「地に根を張る木々よ、その隣人達よ。契約に誓い、この身に宿る魔の力を糧として、力を貸したまえ」
バルトはシアンによって遮られた詠唱をもう一度繰り返す。魔力は徐々に澄んだモノへと変わり、バルトの周りを舞う。暫くするとクスクスクスという小さな笑い声が聞こえてきた。
シアンはこの笑い声の主を知っている。シアンも会った事のある者。
『バルー、あの人と遊ぶのー?』
妖精だ。
妖精とは、精霊の一種であり木々達の隣人として有名だ。森に住んでいる妖精達はあまり人間に近寄らず、森を護っているという。妖精達が住んでいる森は神聖な森として、刺激しないように国が立ち入りを禁止するほどだ。
その妖精と契約を結んでいるバルトは一体何者なのだろうか。シアンはまさかの強敵に驚き、目を見開いていた。
「そうだね。久々によろしく頼むよ、フーリ」
『わかったー!』
クスクスと笑う妖精、フーリはバルトの周りをくるくると飛ぶ。何処か楽しそうであるそれは、微笑ましく思える光景だが、その小さな体の中にある力を考えるとあまり微笑ましく思えなくなってくる。
妖精を含む精霊達の力は強大だ。人間に貸す力は精霊達のほんの少しの力。それだけで宮廷魔術師に並ぶ程なのだから、その強大さはわかりやすかろう。
厄介な、シアンは舌打ちをした。これでは少々力を出さないといけなくなる。劣化魔法だけじゃ、勝てない。
……いや、逆に縛りがある方が楽しめそうか?
ニヤリと口角を上げ、瞬時に戦略を組み立てていく。実技は下から数えて一位だが、座学は上から数えて一位だ。これくらいお茶の子さいさいである。
「行くよ、フーリ」
『おーけー』
周りを飛んでいたフーリはバルトの呼びかけに応じて、バルトの肩へとちょこんと座った。バルトも気にしてないところから、そこが定位置なのだろう。側から見てもしっくりくる図である。
「精霊魔法“
精霊魔法とは精霊と契約して初めてできる魔法だ。
バルトの場合、妖精と契約しているので使える魔法は一つ。“妖精達の戯れ”。それがバルトが唯一使える魔法であり、得意な魔法だ。
“妖精達の戯れ”とは、大地に根を張る木々達の力を借りる技だ。分かりやすく言うと、植物を操る魔法。
魔法とは自身の魔力を用いて超常現象を起こすことであり、精霊魔法もそれは変わりがないが精霊の魔力を使える分強力だ。先程も言った通り、精霊自身の力は人間を容易く超える。まぁ精霊も魔族の一員なのだから、当たり前なのだが。
「第一曲調」
『ー♪ーー♪ーーー♪』
バルトは杖を掲げ、目を閉じそして振る。その動作はまるで指揮者のようで、杖の形も相まって似合っていた。
一方、フーリはその指揮者のタクトに合わせるように、体の前で手を合わせ歌っていた。その歌声は、到底人間には出せないであろう澄んだ声であり、耳の奥にスッと入ってくる程の洗練された綺麗な歌だ。
しかし、その歌はシアンに災いをもたらす歌である。
「---ッ!」
ボコリ。シアンの足下の土が押し上げたと思うと、そこから植物が勢い良く生えてきた。シアンは紙一重で避けようとするが、躱しきれなかったのか頬に赤い一筋の線を作ってしまった。そのままバックステップで距離を取る。
距離を取ったシアンの前には、植物の根のようなモノが地面から生え、うねうねと動いている。ただそれだけだと思うと、シアンに向かって猛スピードでその鋭利な先端を突き刺して来るのだから、厄介な事この上ない。
「(第一曲調でこれかよッ!)」
精霊魔法は精霊を呼び出す詠唱以外は、殆ど省略できるようになっている。
第一、第二曲調と分類されたそれは、第十曲調まであり、人間が精霊に頼んでできる芸当だ。まぁ、精霊の機嫌を損ねてしまったら魔法は使えないとも思ってくれてもいいだろう。
精霊次第とも言えるこの魔法だが、バルトはどうやら妖精とは上手くいっているようだ。魔法の威力が強い。
「くっそ〈強化魔法“身体強化”〉」
小声で補助魔法の一つ、強化魔法の魔法名を言うシアン。詠唱は行っていないが、元より補助魔法の大半は詠唱無しである。そこが唯一の補助魔法の強みと言っていいが、強化魔法は魔法使いでもない剣士でも使える魔法だ。しかし、魔法使いとしては誇れるモノでもないのが一般常識だ。
「〈創造魔法“武器製造”〉」
懐に手を突っ込み、そこから短剣を取り出す。今まで持っていなかったそれは、今し方魔法で作った物だ。懐に忍ばせていたように見せかける為に、手を突っ込んだのだ。
「第二曲調」
『〜♪〜〜♪〜♪』
曲調が変わった!
今までうねうねと動いては、突撃してきた木の根達は急に地面に帰り始めた。しかし、曲調が変わったという事は攻撃手段も変わったという事。ただ帰ったわけではないだろう。
そう判断し、シアンは油断せずに短剣を構え、バルトへ向かって身体強化で爆速的に強くなった脚力で地面を蹴る。二秒、後二秒あればバルトに届いて攻撃できたかもしれないが、それも虚しく先制攻撃を食らってしまった。
「なっ……!」
ドドドドンという風に続け様に地響きが鳴る。そしてそれと同時に、シアンの周りの地面から木飛び出し急成長した。すぐに生い茂ったそれは、陽の光を嬉しそうに浴びる。シアンを囲うように閉じ込めるように生えてきた木々達。どうやら、第二曲調は対象を閉じ込める魔法のようだ。
上げていたスピードを落とし、完全に止まる。木々達のお陰で昼だというのに暗いこの空間で、シアンはふむ、と顎に手をやり考えた。
第一曲調や他で攻撃を仕掛けてこないという事は、勝ったと油断しているのだろう。
木々達に近づき、手を当てた。とくり、と脈動が伝わってくる。しかし、伝わる感触はそれだけ。シアンは、ニヤリと口角を上げて笑った。
「時空間魔法“瞬間移動”」
一言、たった一言だけ唱える。それだけでその場からシアンが消え、次に現れたのはバルトの頭上であった。
「何……ッ!」
『バル!』
ドン、とバルトの胴体を地面に押し付け、その上に跨り、左手でバルトの両手首を押さえ、右手の短剣でその首へと突きつけた。短剣が添えられた首からちいさな一筋の赤が滴り落ちる。
くっ、とバルトは悔しそうに顔を歪ます。魔法を使うための杖はもう手放しているし、手も抑えられている。精霊魔法は精霊の召喚者が曲の指揮を執り、精霊が歌って初めて成り立つ魔法だ。杖は最悪無くても指揮を執る事は可能だが、こうも腕を封じられていては何もできない。
魔力を詠唱に乗せるだけで発動できる他の魔法とは違う、精霊魔法にとって痛い所を突かれた。
「オレの勝ち……だろ」
「あぁ、そうだね。流石シアンだ」
シアンがニヤリと笑うと、バルトは仕方が無いという様に笑った。
「参った。僕の負けだ」
その言葉を聞いたシアンはバルトの上から退き、バルトは立ち上がって服についた砂を落としてから、シアンに握手を求める。バルトの行動に驚いた様に目を見張ったシアンだが、やがて苦笑してそれに応じた。
互いに満足気に笑い合う。全力じゃ無いとはいえ、戦ったのは二人とも久し振りだったのだから、これ程舞い上がる事はない。
「また、戦ってくれると嬉しいよ」
「……遠慮する」
「ははっ、手厳しいね」
一言二言、言葉を交わした二人の耳にパチパチパチという拍手の音が聞こえた。規則的にゆっくりと叩かれたそれは、実技の教師から放たれたものだった。
「良い戦いぶりだった! 良くやったな二人共!」
ガシリとシアンとバルトの頭を掴み、そこからガシガシと豪快に撫でた。シアンは鬱陶しそうに、バルトは嬉しそうに表情を変える。
「にしてもお前ら、ちゃんと魔法使えるじゃねぇか。一、二年次の成績はどういう事だ?」
ガッハッハ! と笑い、自分の事のように嬉しがっていた教師だが、やがて真剣な表情へと変えた。
あぁ、その事か。とシアンとバルトは同時に思う。
教師が言いたいことはこうだろう。何故、しっかりと魔法が使えるのに一年次と二年次の成績が悪かったのか、と。戦闘はちゃんとできているし、詠唱も申し分ない。ならば、何故。
そんな事を聞かれては、シアン達はこう答えるしかなくなる。
「「実習課題が全部攻撃魔法だった」」
と。
シアンは攻撃魔法は使えないし、使えたとしても攻撃魔法の劣化バージョンである、劣化攻撃魔法だけ。得意分野は補助魔法なのである。
バルトも誰でも使える劣化攻撃魔法しか使えず、普通の攻撃魔法は使えない。同じく得意分野は別にあり、バルトの場合、それは精霊魔法であった。
「なるほどなぁ……」
ふむ、と思案顔になる教師。
何やら考えているようだが、それはシアンにとって都合の悪い事ではなかろうか。
教師は暫く考えて込んだ後、よし! と言うように掌に拳を打ち付けた。
「俺が上に掛け合ってやろう」
バルトは首を傾げ、シアンはやはりかと言うように顔に手を当てた。懸念していた事が事実となったのだ。
シアンとしては、自分が戦える事をなるべく隠しておきたかった。その方が大会で有利になるし、相手は嘗めてかかってくる。そうなれば楽に倒せるのだが……情報が漏れた今、そうもいかない。
久しぶりの戦闘に少し興奮して手の内を見せたのがいけなかった。数分前の自分を殴りたい。
「お前ら二人の実習課題は、共通のではなく別のにして貰うよう頼んでみよう」
「本当ですか!?」
仕方ない。
「あぁ、精霊魔法等を使う魔法使いは貴重だ。優秀な人材を育てるのもこの魔法学園の役目だからな」
あまり、使いたくはなかったのだが。
「それに、お前らを嘗めていた生徒達も見直すだろう。戦闘に事おいては、お前らの方が上だと。俺も見直したしな!」
「先生……!」
何故かバルトが教師を敬うようにして、手を前で組み合わせている。それに呆れながらも、シアンは魔法をを発動させた。
せめて、バルトだけでも報われるようにするか。
常に明るくポジティブなウザい友人は、唯一シアンと一緒に居てくれた人間だ。実力も、その話のウザさを除けば性格も良い奴。周りに嫌悪される対象ではないはずだ。ちょっぴり、馬鹿なだけである。
元々顔も良いし、宮廷魔術師並の実力もあればモテるだろうなぁ、とシアンは思いながらも、言葉を紡ぐ。
「〈干渉魔法“深層心理”〉」
小声でそう呟く。
バルト、教師、生徒達の胸から錠のような物が浮き出る。それと同時に皆が皆、意識を失ったように言葉を話さなくなり、虚ろな目で突っ立っていた。
「“開錠”」
シアンが右腕を前にしボールを掴むような形にすると、先程の言葉を口にしながらクルリと手首を回した。
ガシャン、という音が聞こえたと同時に皆の胸の前に現れた錠が外れた。
シアンはニヤリと笑う。何回も行なっている事だが、多数を相手するのは初めてな為、上手くいくと笑いたくなるものだ。
開いた錠の奥。その記憶を司る部分を弄り、改変する。シアンにとって今は都合の悪い記憶を削除し、そして新たな都合の良い記憶を付け足していく。まるで、シアンの掌に転がされていくように、コロコロと変わっていった。
「“施錠”」
鍵を掛ける言葉をシアンが口にした瞬間、虚ろな目をしていた者たちは意識をハッキリさせ始めた。
そして、
バルトは相変わらず目をキラキラさせ、教師にお礼を言っているし、教師もそのバルトの反応に大笑いをする。生徒達はバルトを見てバツの悪そうな、そして憧れの様な視線を送っていた。
「よぉし! これぐらいにして次へ行こうか!」
バルトの礼を受け取った教師は手を数回叩き、興味を散漫していた生徒達の注目を集める。授業時間はまだまだある。次からは教師が対戦カードを組み、模擬戦をさせる。バルトとシアンはもう戦い終わったので悠々と観戦し、他の生徒たちは今か今かと待つことになるだろう。
「お疲れ、二人とも!」
そう言って、二人の背中をドン! と叩いた。それぞれから悲鳴が上がる。その事にバルトは苦笑しながら、シアンは不服そうに観戦席へと戻っていく。
その時、何を思ったのか教師はふと、シアンの肩を叩き、耳の近くに顔を寄せ小声で話しかけてきた。
「〈アシード、惜しかったな。
あぁ、上手くいった。
シアンは内心ほくそ笑みながら、ハイと返事して歩き出す。シアンのかけた魔法が上手くいった証が本人の口から手に入ったのだ。
シアンが使った魔法、干渉魔法“深層心理”。この魔法はその名の通り、深層心理に干渉する魔法だ。
心の鍵を暴き、記憶や性格など、ありとあらゆるモノを変えられる干渉魔法の中で最上級の魔法だ。他の干渉魔法である、洗脳や記憶改変とは違う。魔法をかけられても
誰にも気づかれず、その事実記憶を捻じ曲げれたのだから、嗤うしかないだろう。
クツクツと表に出さず嗤いながら、ぼんやりとシアンは他の生徒の試合を眺めていた。
此方を伺う視線に気付かぬまま。
因みに“深層心理”は禁忌魔法に指定されてるよ。