勇者の仲間ですが魔王の協力者です   作:rocyan

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友達

 

 

 実戦の授業から一週間。いよいよ勇者パーティの魔法使い枠、選抜大会が始まる。

 通常授業を全て無しにし、丸一日を使って行われるこの大会は参加する全ての魔法使いの神経をピリピリとさせていた。

 そんな日の朝、ふわぁあと欠伸をする少年が今日も目覚めた。深い緑色をした髪は朝日を受けてキラキラと輝いていた。癖のないストレートな髪は僅かな空気の流れでもサラリと揺れる。

 

「……よく寝た」

 

 そう言いながらも布団を持ち上げ、眠たい目を擦る。本音を言うのならばもう少し寝ていたいが、迫り来る時間がそうはさせてくれない。

 ベットから立ち上がり、着替えるためにクローゼットを開ける。そこに並んだ同じ制服の一つを手にして、今着ている寝間着を脱ぎ始めた。

 

『バルー! おはよう!』

「あぁ、おはよう。フーリ」

 

 着替え終わると自身に飛びついてきた小さな妖精を受け止める。いつものやり取りだ。

 少年、バルトは自身にギュッと抱きつく妖精の頭を撫でて、朝食の準備を始めた。勿論、フーリの分も忘れずに。

 バルトの使い魔、フーリはバルトの家に住んでいる。無論、学校などにはついていかないが、バルトの住んでいる所こそがフーリの住処だとフーリ自身はそう認識している。バルトも別に困ってはいないので放置しているが、本来妖精は森に棲む者。人間が立ち入らない場所にいるものだが、フーリは所謂はぐれ妖精だった。記憶はなく、妖精としてまだまだ未熟だった頃にバルトに出会い、契約を結んだ。フーリにとってバルトは恩人であり大好きな人だから。

 だからこそフーリは後悔していないし、森に帰らないフーリを見てもバルトは何も言わないし、少し嬉しいと思っていた。

 

 閑話休題それはともかく。

 

 朝食を食べ終わり、準備を終えたバルトは靴を履き、玄関の前に立った。いってらっしゃい、と手を振るフーリに微笑み手を振り返す。

 

「今日は頼むよ、フーリ」

『うん!』

 

 今日は選抜大会がある日。魔法で戦い、競う日だ。

 精霊魔法しかちゃんとした魔法を使えないバルトにとって、フーリは欠かせない存在である。フーリの体調が良ければ良いほど、その分魔法の威力が上がるというもの。だからこそ、彼はフーリに頼む、と言った。

 フーリは天然な性格である。何をしでかすかわからないから、こうして念を押す。体調が悪くなってしまっては、堪らないからだ。まぁ、ほぼ十中八九無駄になってしまうのだが。

 

「いってきます」

 

 その事をわかっているバルトは、今日も念には念をとフーリに色々小言を言ったが、分かっていないようにいつもの笑顔で手を振るフーリにため息をつきたくなった。それを我慢し、扉へと手を掛け外へ出る。

 学校から支給された魔法が封じ込められたペンダントに触れ、時空間魔法“空間転移”を発動させる。このペンダントは生徒証の役割も担っているが、第一はこうして学校へと通う為の転移の魔法を込められた、魔法道具マジックアイテムだ。魔法道具は高価ではあるが、プラム王国や他国の支援金もある魔法学園にかかれば造作もない事。しかし、時空間魔法は使い手が少ない。ともなれば、その魔法道具の数は限られてくるもの。卒業すれば、魔法学園へ返却するのが決まりであった。

 

 

 

 

 

 教室へと着いたバルトは、今やもう慣れた自身の席へと腰掛ける。前の席は空白であり、その主はまだ登校していない事が伺えた。

 周りを見る。皆が皆、精神を集中させ魔力を上げている。その効果は微々たるものだが、やらないよりはマシなのだろう。必死な形相だった。

 バルトは鞄から杖と上質な布を使って取り出した。どうやら、手入れをするようだ。バルトの魔法の命綱は杖である。いざとなれば、杖無くても問題はないがやはり、安定感が欲しい。杖はそれを担ってくれる。

キュッキュと、少し複雑な形をしている杖を丁寧に拭く。事細かな埃などもないように、優しい手付きで拭くその様は、自分の杖を大事にしている事が伺えた。

 暫くし、拭き終わったバルトは光に照らされ光沢を放つ杖に頷く。うん、綺麗に拭けた。

 ふと、前を向く。そこには見慣れた後頭部があり、バルトは嬉しくなって声をかけた。バルトにとって友人とは彼だけであった。

 

「おはよう、シアン。君は今日も気怠げだね」

「あぁ、おはよう、人気者さん。眠いから話しかけないでくれるか?」

「寝不足かい? それはいけない」

「うるさい……」

 

 眠たげな表情で此方を一瞥したシアンは、ふわりと小さな欠伸をした。なんとも可愛らしい欠伸であろうか。その整った容姿と相まって、女の子にでもモテそうなのだが、彼のクラスでの地位が邪魔をしてくる。

今やシアンは嫌われ者であった。この前までは劣化攻撃魔法しかできないクズだったが、今はそれさえ(・・・・)活かしきれないバカ(・・・・・・・・・)へと評価が下がったのだ。原因はただ一つしかない。

 この前の決闘である。

 あの日、あの時、バルトは自身の秘術と言っても過言ではない精霊魔法を使ってまで戦った。相手に敬意を表して、そうしたのだ。バルトは、彼からは底の知れないナニカを感じ取っていた。だからこそ、全力で行ったし、第二曲調までしか使わなかったが、フーリにも出てきてもらった。しかし、対してシアンは何のいつも通りだったのだ。

 バルトが第一曲調である魔法を放っても、魔法で防ぐ事はせず、ひたすら避けた。第二曲調で囲った時も、何もせず、ただ降参を宣言した。その時、クラス中からブーイングの嵐が舞い込んだのは言うまでもない。バルトもそれが一生懸命戦った相手には失礼な事だとは思うが、バルト自身も少し肩透かしを食らった気分だった。彼からはナニカを感じ取っていたと言うのに。

 その日から、シアンとバルトの評価は一変した。バルトは妖精と契約し精霊魔法を使える天才へと、シアンは劣化魔法しか使えず活かせない魔法使いの恥晒しへと。

 そんな評価へ変わったからか、クラスメイトはバルトを囲うようになっていった。クラス一の天才だ、盛り上がらないわけでもなく、決闘以来注目の的となった。もしかすれば、勇者のパーティの一員になるかもしれない、という期待や嫉妬も込みで。

 バルトは嬉しかった。ぼっちになってから今まで話しかけられた事がなかったからだ。讃え尊敬されるのは誰だって嫌ではない。ただ、バルトは良くも悪くも調子に乗りやすい人物だった。フーリのお陰とは言え、貴重な精霊魔法を使える天才。その裏に隠された嫉みに気付かぬまま、バルトは自慢話に近い話をクラスメイトにし続けた。後はお察しである。

 そんなこんなで結局ぼっちになったバルトは、いつも通りにシアンに話しかけていた。例え、今日が大会の日だったとしても、あまり気にしていない。逆にピリピリして、本番に緊張する方が駄目だとさえ思っている。その点に関してはシアンも同意なのか、いつもの様に眠たそうに目を擦りながら、本を鞄から取り出していた。

 

「またその本かい? 好きだね……」

「まぁな。けど、まだ読み終わっていないというのもある」

 

 シアンが取り出した本は、二週間前に取り出し読んでいた本だ。タイトルは“魔物や魔族の生態”。生態の本にしては、あまり分厚くなく小さな本である。

 ふーん、とバルトは相打ちをしてその本を見る。以前はマニアックだと思っていたが、些か面白そうだ。思い出してみれば、フーリの種族も森に住んでいて人間に会わない事以外あまり知らないし、他の野生の魔物の事も常識の範囲でしか知らない。勇者の仲間になるだけでなく、これから生きていくには魔物と向き合わなくてはならず、そう考えればそのマニアックな本も興味がある。今度、買ってみようか、と思案するバルトであった。

 そんなシアンとバルトを余所に、クラスメイト達の中で大会に出場する者は必死に自分のできる魔法を再確認したり、自身で調査した出場者のリストを見て自分が上位に行けるかどうかを調べていた。

 そんな中、三人ほど余裕そうな人物がいた。このクラスの問題児と言って過言ではない三人。シアンとバルトが実技の成績においてワースト2な問題児に対して、彼らは所謂素行不良な者達である。

 その三人の中で中央にいて、他の二人と違い自身の席にドカリと座っている人物が、一緒に本の内容を見ている二人を睨み、まるで気に入らないかの様に舌打ちをした。

 

「彼奴ら、何であんな仲良いんだよ……」

 

 楽しそうに話すバルトに対して、頷きだけを返すシアン。側から見れば、バルトが積極的にかつ一方的に話しかけている様にも見えるが、彼には仲良くしている様に見えているらしい。

 眉に皺を寄せ、まるで鬼の形相で睨む彼に他の二人は慌てたように身振り手振りを大きくし、大丈夫ですよ! と言う。

 

「ダリアさんだって、彼奴らと仲良くなれますよ!」

「そうっす! 元気だしてくだせぇ!」

「五月蝿ぇぞ! てめぇら!! 誰が彼奴らと仲良くなんかッ!」

 

 ダリアと呼ばれた彼、ダリア・フランボワーズは自身を鼓舞する取り巻き達に怒鳴った。詰まる所、図星である。

 

「だってダリアさん、毎日彼らを見てますよね?」

「そうっす。まるでストーカーっす」

「ストーカー言うなッ!!」

 

 自分のテリトリーに入ってきた侵入者を威嚇する動物の様に、ダリアはグルルルル! と取り巻き達を睨みつける。元々からの鋭い目もあってか、その迫力は半端なく、思わず仰け反ってしまう程だ。

 その様子を見た取り巻きの片割れは、もう一人の取り巻きを睨みつけた。自分もそうだが、少しダリアを弄び過ぎたかもしれない。

 

「ちょっと、チョーク黙って」

「け、けど、ヨットだって……わかったっす」

 

 チョークと呼ばれた少年は、ヨットの有無を言わせない目線に押し黙る。理不尽だ……と呟くチョークを余所に、ヨットはふぅと息を吐いて、未だ威嚇していたダリアに微笑んだ。

 

「とにかく、ダリアさんは彼らに話しかけてください」

「…………はぁ!?」

 

 急に訳のわからない事を言い出すヨット。ダリアは怪訝な表情を作りながら、彼を睨んだ。

 ダリアの視線に冷や汗を流しながらも、ヨットは笑顔で続きの言葉を紡ぐ。

 

「話しかける事は友達作りの基本ですよ! 何事も話しかけなければ始まらない!」

「そうっす! ダリアさんにならできるっす!」

 

 ヨットの言葉にチョークも賛同し、二人してダリアさんなら大丈夫! と連呼する。板挾みにされたダリアは、うがぁー! と頭を掻き乱し唸った。ヨットの言う事は一理あるからだ。

 

「(というか、友達になるんじゃねぇし! 仲良くなりたいだけだし!)」

 

 それが友達というものなのだとは、ダリアは気付かない。そもそも友達という定義が曖昧なので、その線引きは個人に寄るだろう。ダリアにとって友達とは、仲良くなった後になるものだと思っているにちがいない。彼はコミュ障であった。

 取り巻き達しか友達がおらず、頑張って人と接しようとしてもその鋭い眼光で相手を怯えさせてしまう。先程、この三人を素行不良だと言ったが、それを決め付けているのは教師とクラスメイトだけである。彼を知らなければ、成績は良い無遅刻無欠席な生徒など、唯の優秀な生徒だ。そもそもの話、彼の親が厳しいのもあったが、彼自身休む事や遅刻する勇気がないだけである。

 本当はヘタレな彼は、仲良くならないと話す事もできないコミュ障。他人からは見た目で勘違いされ、話す相手もいないので、それを直す事もできず、何故か慕ってくれているヨットとチョークとしか過ごす事がない。

 そんな彼が、シアンやバルトと仲良くなりたいのは同じような雰囲気を感じ取ったからである。彼らもまた、コミュ障……ではなく人とは何処か壁を隔てる者達。だからこそ、仲良くなれる気がした。

 

「(話しかける……話しかけるだけ……だけど、話題は?突然話しかけたら不自然だろ! どうする俺!? いや! でもここで話しかけないと後悔とかするんじゃねぇか!? ってかしそう!!)」

 

 自身を鼓舞するヨットとチョークの為にも、ここは行かなければならない。ダリアにとっては勇者の仲間選抜大会よりも、此方の方が大切な事。

 

 さぁ! 立ち上がれ! 君の勇気は力となり、やがて形となる! そう、友達ができる!

 

 良し! と強く呟いたダリアは、椅子から立ち上がった。

 

 ---ピンポンパンポーン。

 

 独特な電子音が流れる。

 教室に備え付けられた、補助魔法である念話を簡易的に発動できる魔石から聞こえた音だった。純粋な魔法ではないからか、所々ザザザッという砂の音が響いた。

 

「〝もう直ぐ選抜大会が始まります。大会に出場する選手は控え室へ、出場しない生徒達は観客席へ移動をしてください。場所は第一闘技場です。繰り返します---〟」

 

 闘技場とはこの学園に備え付けられた運動場の様なものである。雨天決行が可能な天井完備であり、観客席は一年生から六年生まで全員の生徒が座れ、更にスペースが余るほどの大きさだ。ただ、とてつもなく広いと言っておこう。

 放送を聞いた生徒達は一斉に歩き出し、教室から出ていく。勿論シアンとバルトはも例外ではなく、スタスタとダリアがいる横を通り過ぎて行く。それを見届けたダリアは、ストンッと椅子に腰をかけた。

 

「…………また今度にする」

 

 暫くしてダリアの口から弱々しく告げられたその言葉に、ヨットとチョークは涙を静かに流すのだった。

 

 




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