勇者の仲間ですが魔王の協力者です   作:rocyan

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選抜

 

 

 登校中に急に魔法陣が現れ、異世界へ召喚されてしまった雄城英二は、国賓としてプラム王国に歓迎されていた。カーマイン皇国でもそうだったが、世界を救うとされる勇者を持て成し、囃し立てている。国王自ら相手をし、時折自身の国の自慢も混ぜながらも、話を途切らせないようにしていた。

 厳格な王、そんな印象を抱いていた雄城英二は苦笑いしながらも、そのお気楽なおじさんのような見た目にすっかり絆されてしまう。別におじさんが好きではないが、厳しいのよりも優しい方を好きになるのは必然と言えた。

 目の前には豪華な食事、高級そうな家具たち。絨毯の質は流石に現代日本には劣るが、やはりふわふわであり寝転びたいぐらいである。食事も味は少し薄いが美味しく、英二は作法を忘れるぐらいにはご飯にがっついていた。

 

「どうですかな? 美味しいでしょう?」

「えぇ! とても!」

 

 ゴクリと口の中の物を呑み込んでから答える。花が咲きそうなぐらいの笑顔を見た国王は、微笑ましそうに笑った。

 

「(やはり、まだ子供か。これで勇者が務まるのかどうか……)」

 

 素養が高くとも、精神が熟していなければそれは宝の持ち腐れとなる。もし人型の魔物である魔族と出会い戦闘になったとして、彼は難なく倒せるのか。いや、否であろう。動物や異形である魔物を倒し殺せても、人型であり喋る魔族の命を奪えないと国王は判断した。

 勇者召喚は最上級魔法を超える魔法である。神の領域に指一本触れるほどであり、そうそう簡単に行えるものではない。何ヶ月、いや何年も年月をかけて準備をし、宮廷魔術師十人以上で呪文を同時に唱えて成功するものだ。

 勇者召喚をカーマイン皇国が決意した翌日に、準備は始まった。今から二年前ほどの出来事であり、勇者召喚に賛成だったプラム王国も支援した。国王自ら出向き、魔法使い最強の魔道師故の魔力をひたすら分けた。カーマイン皇国お抱えの宮廷魔術師達やプラム王国の宮廷魔術師達の協力もあり、予測していた年月より早く術式が完成し、実行できる事となった。二年という月日は、神の力の一端を使うには早い方である。

 そうして、完成して成功したのはつい数週間前。目の前の黒髪黒目の少年が魔法陣から出てきた日だ。

 はぁ。ひっそりと息を吐く。勇者召喚に賛成したとは言え、やはり目の前の子供を見ると不安でしかない。バクバクと豪華な料理に舌鼓を打っている少年から目を離し、国王は窓から見える闘技場へと目線をずらした。

 見えるのは、これから始まる大会を楽しみにしている者達の歓声。勇者パーティの魔法使い枠選抜大会。それが今日、目の前で開かれる。選ばれるのは、プラム王国が設立した国立魔法学園の生徒。たった一枠を賭けて勝負する大会だが、学園の生徒とあるように魔法使い枠もまた子供である予定だ。それは今城に使える優秀な者を失いたくないという気持ちと、この学園から勇者一行の一人が出たとなれば、王国の株があがるのと、もし死んでしまっても名誉の死となるため、という打算的思考。

 貴族の子供達が多い場所であるが故に貴族間での問題が発生するが、それについてはもう対処済みである。これはあくまで志願制。子供を利用するのは大人として少々心が痛むが、仕方がない。これも、国の為だ。

 聞こえてくる理事長の開会式の挨拶。それを聞き流しながら、黒い笑みを浮かべる。

 

 さて、何処のご子息、ご令嬢が選ばれるのやら。

 

 明日から忙しくなるなと呟きながら、プラム国王は赤ワインを一滴だけ口に含んだ。

 

 

 

 

 

 理事長の開会の宣言と挨拶を終えた後、司会進行役の生徒が拡張魔法が込められた魔石を手に取る。大勢の前で緊張しているのか、聞こえてきた声はどこか震えていた。

 

「まず、お手元の番号札をご確認ください」

 

 選抜大会に出場する選手の一人であるシアンは、事前に配られていた木の板をポケットから取り出した。六十六番。それが彼が持つ板に書かれていた番号だ。

 この大会に出場する選手は総勢百人。多いと思うのは仕方ない。何せ全校生徒の六分の一程。全校生徒六百人弱の魔法学園での一学年分になる。一つの教育機関としては多い方だろう。

 

「この選抜大会。勝敗を決めるのは勿論、実力。ですが、このままでは人数が多いので絞り込む事にしました」

 

 えっ!? という声がそこかしこから聞こえてくる。それらを聞き流しながら、シアンはどういう形式で戦うのかを考えていた。実力。そうなると、魔法の腕を見せ合う事になる。単に決闘なのか、それとも魔法の威力か。もし後者であれば、シアンの場合即刻落ちる。はぁ、とため息を吐いた。そうでなければいいが。

 

「ルールは簡単です。一から十、十一から二十という様に十区切りで分けていき、それぞれ戦ってもらいます。チーム戦はなし、その中で生き残った十人の方が次のステージへと進出できます」

 

 なるほど、つまりは十人程度でのバトルロイヤル。この大会は今日中に終わる様に言われているので、恐らく時間がないのだろう。バトルロイヤルというルールはそういう状況下では効果的だ。良い選択と言える。

 

「区切られた線の中で十人ずつそれぞれ、同時に戦ってもらいます。場外や、気絶した又は無力化した場合は失格となり敗退。もし、相手を殺してしまった場合は殺した側が失格、そして然るべき処罰が下されます。勇者パーティにそんな非人道的な人はいりません」

 

 少しずつ慣れてきたのか司会進行役の生徒は、バツと腕を交差させてポーズを取る。その姿は何処か楽しそうでもあった。

 

「では皆さん、指定の位置へ着いてください」

 

 誘導係であろう人達が番号を呼んで手招きしている。闘技場にはロープが張られており、どうやらその中で戦う様だ。

 

「六十一番から七十番の選手は此方です!」

 

 聞こえてきた声の方を向くと、少し禿げ散らかしているおっさんが手招きしている。シアンは手元の板へ視線を戻し、もう一度そのおっさんを見た。シアンの持ち番号は六十六番。彼処か。

 

「(怠いな……早く終わらせるか)」

 

 気絶はありという事なので、打つ手はある。ほぼ全ての補助魔法を使えるシアンにとって、手は幾つもあった。彼が苦手なのは、劣化魔法しかできない攻撃魔法と治癒魔法だけ。その他はこの国、いやこの世界の誰にも劣らない自信がある。まぁ、人間限定なのだが。

 皆が皆、所定の位置についてそれぞれの杖を構える。杖は補助的な存在だ。無くてもできる魔法だが、杖ありの方が発動が安定するので、この学園の生徒殆どが持っている。学園から支給されたもの、自分自身が持つもの。人それぞれだが、大小関係無く効力は同じ。魔法の発動を円滑にする為、これに尽きる。

 シアン自身も杖を取り出す。自分自身の杖は少々大きすぎて目立つので、学園から支給された小さな枝で出来た杖を懐から取り出した。明らかに安物だとわかるこれでも、ちゃんとした魔法を発動できるのだから不思議だ。

 

「それでは、第一回選! バトルロイヤル! 始めッ!!」

 

 ピューーー! という腑抜けた笛の音が聞こえた。あれが試合開始の合図なのだろう。辺りを見渡すと全員が詠唱を開始していた。

 しかし早く終わらせるとはいえ、余りにも早過ぎては疑問を持たれる。早過ぎず、それでいて遅過ぎず。考えれば考えるほど、良い案が浮かばない。戦略を組み立てる事は得意だが、こうした矛盾している案件を処理するのは苦手だ。なのでシアンは、近寄ってきた生徒から気絶させる事にした。その方が手っ取り早く、簡単だ。そして、その方法はというと。

 

「(一番無難なのは首筋トンだが、そんな技量も力もない。却下)」

 

 バトル漫画などに良くある、強者が弱者を一瞬で無力化する方法だ。しかし、その首筋をチョップして気絶させるなんて事は、それ相応の技量がなければできない。力が弱すぎれば、ただのイタズラになり、かと言って力を強くすれば、気絶だけでは済まされなくなる可能性もある。首トンは優れた技術力を持った強者でなければできない代物なのである。

 なので、却下。

 

「(やっぱ、“睡眠”か)」

 

 第二の案。それは、干渉魔法“睡眠”である。

 対象を眠らせる事ができるこの魔法は、比較的簡単でありこの学園にいる生徒たちでも使える魔法である。しかし、彼らの思考は攻撃のみ。気絶、無力化させる方法など、攻撃して気を失わせる事しか考えてなさそうだ。才能があるのに残念だと、常々シアンは思っていた。

 干渉魔法“睡眠”は、唱えれば直ぐに眠ってしまう優れもの。寝不足の時などに有効活用できれば、中々使い勝手の良い魔法である。しかしこの“睡眠”という魔法。眠りの深さは込められた魔力によって変わる。込められた魔力が多ければ多いほど、眠りから覚めない。まさに眠れる森の美女となれる。……眠っているのが美女とは限らないが。

 この場合、無力化させれば完了。ならば、少しの魔力だけで十分だ。そうシアンが判断し、学園支給品である杖をくるりと回して、発動する魔法の名を紡ぐ。

 

「広域魔法“円形”。んで、干渉魔法“睡眠”」

 

 一つに対して発動する干渉魔法“睡眠”を広域魔法で広める。シアンにしか見えない、水色のベールがふわりとシアンがいる場所に降り立つ。この辺り一帯を包んでいるので、ちゃんと発動したようだ。ホッと一安心する。

 杖を懐へ直し、効果が効くのを待つ。この“睡眠”はあのベールに触れた者から眠る魔法だ。先程は直ぐ効くと言ったのだが、それは間違っていない。目の前を見ると、バタバタと倒れていく人が多数いる。その者達は見えないベールに触れた者だ。指先でも、髪の先でも、身体の何処か必ず触れれば問答無用で眠らす事ができる。干渉魔法“睡眠”、簡単魔法でありそれでいて強力な魔法であった。

 先程、一人ずつ気絶させていくと言ったにも関わらず、戦っていた者達全員を気絶させていくシアン。争っていた者達が急に倒れていった事により動揺が会場中に走る。何が起きた?と疑問を口にする者が後を絶たず、皆が皆彼の方を向いていた。

 やがて、立っている者がシアンだけとなった時、審判である禿げ散らかしたおっさんが駆け寄ってきた。どうやら、場所ごとに審判が違うようだ。

 

「何をしたんです?」

 

 何が起きたのか見てなかったようだ。審判ならちゃんと見てろよ、と心の中で悪態を吐くシアンであったが、ここで嘘を吐く理由も無いので正直に答えた。

 

「“睡眠”でみんなを眠らしたんですよ。大変でした」

 

 そう言って頬を掻くシアンに怪訝そうな目線を向けながら、まるで仕方がないと言う様にため息を吐く。

 

「番号札を」

 

 六十六番と書かれた木板を禿げ散らかしたおっさんに渡した。するとおっさんはその木板を掲げて、笛をひと吹きした。ピュイッという音がなり、司会進行役の人が此方を向いた。笛の音は合図か。

 

「確認しました。第一回戦、最初の突破者は六十六番! シアン・アシード!!」

 

 ドンドン! パフパフ! ヒューヒュー! なんて歓迎もしてくれるわけもなく、皆が皆なんで彼奴が? という顔をしている。シアン・アシードの実技の悪さは学年を超えて全校生徒、いや生徒だけではない教師全員が周知の事実。何せ、学年ワースト一位ではなく、学園ワースト一位である。そんな奴が、最初の突破者? あり得ない。疑問を抱くのも当然だった。

 

「(最初……か。思ったより早くしてしまった)」

 

 しくったな。そう思いながら会場を後にしようとする。試合が終わった選手は選手室での待機が義務付けられている。ルールは守らなくてはいけない、人間社会で生きる者の務めだ。

 まぁ、誤差の範囲内。結果オーライという事にしておこう。何事も楽観的思考である。だからこうして、まぐれだ! とか叫んでいる観客達の声は聞こえていない様に立ち去るのだ。ある程度予想していた事。なので、石を殴られたって痛くはないのである。

 

 ---ゴン!

 

 頭に何かがぶつかり、思わず前のめりになる。体勢を整えて、当たった場所に手をやるとヌルリとした感触があった。確実に血だ。そして直ぐ脇には拳大の赤い液体をつけた石が転がっている。

 

「…………(治癒魔法“ヒール”)」

 

 さすがに、この大きさは痛かった。

 

 




がんば!
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