勇者の仲間ですが魔王の協力者です 作:rocyan
ここ、プラム王国の都心部である王都ヘリオトロープ、その一角にある貴族街。そこのとある屋敷の庭で自身の愛杖を振り、魔法を撃つ練習をしているタン・カーキーの姿があった。
今日は待ちに待った勇者パーティ魔法使い枠選抜大会の日。勇者の仲間へとなる気はないが、腕試しにはもってこいなこの大会へ彼女は出場する事になっている。その為にこうして日課の朝の鍛錬をいつもより気合を入れて行っていた。
大会前に魔力を使うなんて愚かな行為ではあるが、彼女の魔力回復は他に比べて優秀なので心配は無用だ。
普通、魔力を完全に回復するには一晩寝ないといけないのだが、タン・カーキーの場合は寝なくても回復する。原理はわからないが、生まれつきの才能の様なものなのだろう。代々宮廷魔術師を輩出するカーキー家にはぴったりの才能であった。勿論知ったときは彼女も喜んでおり、両親も歓喜していた。やはり、優秀な子供は嬉しいのだろう。実に黒い笑顔で頭を撫でていた。
そんな名家の生まれであるタン・カーキーは実に好戦的で、王を守る宮廷魔術師よりも魔物を殲滅したり街の人を守ったりする、所謂前線で戦う様な魔法使いが集まる部隊、魔法騎士団を好んで選ぶ程だ。
安全な後方である宮廷魔術師よりも、前線を選んだタン・カーキー。無論、両親は納得をしていなかった。
そもそも彼女の家は宮廷魔術師を輩出する家系だ。家は彼女の兄が継ぐ事になっており、その心配はないのだが、両親には思惑があったりする。それは彼女の人権を無視する様なものだが、貴族というのはそういうものであり、自身の家系の名前を残そうしたり、子供を使って出世しようとする者が大半だ。
つまり、カーキー家はタン・カーキーに宮廷魔術師となってもらい、あわよくば王族と結婚、それか同じ宮廷魔術師であり自分達より身分が高い者に嫁いで貰おうと考えていたという事である。所謂、玉の輿。
しかし、肝心のタン・カーキーが望んだのは宮廷魔術師では無く、前線で戦う魔法騎士団。魔術騎士団ではなく魔法と呼ばれているあたり、あまり優秀ではない魔法師が集まる場所。それを聞いたとき、娘の玉の輿を狙っていたカーキー夫妻が渋い顔をしたのは当然の事だろう。
彼女の魔力は魔術師に迫るものがあり、その特異な魔力回復により魔法師より秀でているのは明確。だからこそ、ランクは魔法師であろうと宮廷魔術師になれる才能を持っていながら魔法騎士団になる理由がカーキー夫妻にはわからなかったのだ。
だから反対した。宮廷魔術師になるべきだと言って。例え、彼女の志望所属場所を聞いて喜んだ魔法騎士団が熱烈なオファーを送って、彼女が快く頷いていたとしても、だ。
何度も考え直す様に娘に言ったが、彼女は頑なに首を縦に振らなかった。彼女が慕う兄が両親に頼まれて、彼女にお願いの様な懇願を言っても、首を横に振り続けた。
そうして断り続けていても、カーキー夫妻は諦めることもなく、ずっとタン・カーキーに言い続けた。それは一日、二日ではなく何週間も続き、流石に彼女も良い加減ストレスが溜まってきた様だ。遂にはキレて、自身の両親にこう宣言した。
今度の選抜大会で優勝できなかったら父上達の言う事を聞きます、と。
そう言われてしまっては、カーキー夫妻も頷かないわけにもいかず。彼女は両親の了承を得て、大会に出ることになった。
宣言してしまったからには負けるわけにはいかない。もし、負けてしまったら自分はやりたくもない職に就かされてしまうのだから。
タン・カーキーは朝日が庭を照らす中、一心不乱に的に攻撃魔法を当て続けた。
何が起きたのだろう。辺りは騒然としていた。
どういうことだ? 何があった? 観客達は今し方起きた事に理解が行き届かず、ただただ困惑していた。
「ひゅー。こりゃぁ凄い」
パチパチと隣の天使が拍手を贈り、相手を褒めていた。それ程まで凄まじい攻撃。これは将来有望だな、と嗤うイエローに怪訝そうな視線を送るシアン。
それより此奴は、いつまでここにいるのだろう。天使という生き物はここまで暇人であっただろうか。そんな疑問が湧くが、それよりも目の前の事だ。シアンは顎に手をやり考える。
先程起きたこと。それは、ダイジェストにまとめるとこうなる。
バルトが精霊魔法で木の根を操り攻撃。
↓
相手のタンは迫るそれをいつの間にか詠唱を終えていた火属性の攻撃魔法で撃破。
↓
バルト狼狽える。
↓
タンすかさず水属性の攻撃魔法でバルトを戦闘不能に。
「火属性の攻撃魔法も水属性のも、二つとも上級魔法。人間ってのはこんなのがゴロゴロいるのか?」
イエローの問いかけにシアンはゆるりと首を振る。
彼の言う通り、二つの攻撃魔法はどちらも上級魔法に匹敵する程の威力と技術が含まれていた。
火属性の攻撃魔法は爆炎魔法。その名の通り、火の爆発を起こす魔法だ。その規模は大から小と幅広くあるが、上級ともなると規模と威力が下級の比ではなく、危険度も跳ね上がる。
タンが立っている場所を見ると均等な間隔において、地面が円状に抉れていた。結構な凹みである。一度入ったら、中々出るのが難しい程。こうして見ると、爆炎魔法の威力がわかるだろう。
上級以上だと、位置は指定できるが威力を制御できない危険な攻撃魔法。仲間をも巻き込む魔法だからこそ、この一対一の試合で使ったのだろうが……実際に使う奴がいたとは。爆炎魔法は並の魔法使いでは魔力が足りず発動できない程のものなのに……彼女の魔力は相当なものだ。
それにもう一つの使った上級魔法。水属性の魔法なのだが、一見して水ではないそれ。バルトを囲むその透明な岩は、世間一般でいう氷だ。
氷晶魔法。氷の結晶を作り出す魔法であり、上級になると人一人囲める程の大きさになる魔法。それが、バルトを戦闘不能にした魔法だ。
「そんなにたくさんはいない。上級魔法を撃てるのは魔術師程のクラスだ。でも現役の宮廷魔術師でも上級魔法は続けて撃てないはずなんだが……」
「ふーん。あの子は訳ありって事か……」
にしても残念だ。シアンはゆるゆると眉間に皺を寄せた。バルト・ピーコックが勝つという事に期待していた分、この裏切られたようなこれは不愉快に感じる。
「(けど、どういう事だ?)」
シアンはつい一週間程前にしたバルトとの決闘を思い出す。今ではもうシアンだけしか覚えていない方の試合を。
あの時のバルトは最後の勝ったという確信をした時の油断以外は、冷静だった筈だ。戦いながら彼を見ていたが、此方が突撃してくる木の根を次々と躱そうとも焦らず、ただ次の魔法へと移っていた。その戦い方は戦いを知らない学生ではなく、冷戦沈着な指揮官の様なもの。称賛に値するほどの事だった。
けれど、今の試合はどうだろう。ただ、一つの魔法が破られただけなのに、狼狽えて負けてしまった。
可笑しい……何かが可笑しいのだ。
「にしても、あのバルトって奴が契約してる妖精。何処行ったんだか……主人放って逃げるって、契約精霊失格じゃねぇか」
イエローの言葉にハッとする。すかさずシアンは氷漬けからやっと解放されたバルトの周りを見た。
最後列から観戦していたので良くは見えないが、確かに戦闘中にはいたあの森の妖精が消えている。バルトもいなくなった精霊が気掛かりなのか、辺りを見渡しながら妖精の名前を呼んでいる。確か、名前はフーリだったか……近くにもあの精霊特有の独特な雰囲気は感じられないので、完全にこの場所から消えたという事になる。
そうか、とシアンは一人納得した。
森の妖精は気難しい性格で、本来は人にあまり懐く事はない。妖精の上位種である精霊の加護を受けているエルフだって滅多に会えないと聞く。ならば何故、バルトにはあんなに懐いているのか……それがずっと疑問だったが、答えの一端を垣間見た気がした。
精霊魔法“妖精達の戯れフェアリーズカプリス”、第一曲調。木の根を操り攻撃する魔法だが、タンはそれを爆炎魔法で吹き飛ばして対処した。多分だが、それがいけなかったのだろう。
森の妖精は森に住む事から火を恐れる傾向にある。だが、恐れると言っても成長するにつれて段々慣れて行き、やがては火を恐れる事はなくなる。だが、あの妖精フーリは恐れ、逃げた。それが意味するのは彼女はまだまだ子供という事と、何かしらのトラウマを抱えているという事、その何方かだが……。
「まぁ、考えても仕方がないか……」
結果的には彼が負けた、それだけだ。
自身の契約精霊の弱点を対処できていなかったバルトの落ち度。それが彼を敗北の道へと進めた。
残念だな、という気持ちはあるが、仕方がないと思い割り切る。第一、第三学年と第六学年では普通実力差がある、そう思えばバルトは善戦した方だろう。
此度の試合、攻めてやるつもりも、褒めるつもりもない。
「さて! 第三回戦、第一試合が終わりました! 結果はご覧の通り、タン・カーキー選手の圧倒的な勝利です!」
会場にいる観客全てが盛大な拍手を送る。
上級魔法という魔術師クラスでなければ撃てないものを見せてもらった事による、賞賛や憧れ。殆どがここ魔法学園の生徒である為、第六学年のタン・カーキーが勇ましく見えたのだろう。第一学年の生徒達は、目を輝かせながら拍手をしていた。
「では、次の試合へ移りたいと思いますが、その前に、タン・カーキー選手による強力な爆炎魔法でできてしまったクレーターを直したいので、少々お待ちください」
またもや休憩。確かにあのままでは戦いにくいだろう。しかし、魔法使い同士の戦いだ。遠距離攻撃を得意とする魔法使いにはあまりデメリットの無い事なのだが、理解はしているのだろうか。いや、シアンとしては有り難い事だが。
第二試合の相手は、ダリア・フランボワーズという者だ。名前は何処かで聞いたような気もするが、覚えていないので相手の情報は無いに等しい。この学園の生徒に遅れをとるつもりは無いが、先程のタン・カーキーの様に上級魔法を何発も撃たれてきては、対処がし難い。補助魔法を全て使える・・・・・からと言っても、やはり攻撃魔法には敵わないのだ。
「(やっぱ、接近戦か……)」
遠距離相手には接近戦で挑め。世の常識だ。
魔法は強力な力だが、その分その術者の魔力と詠唱の速さに依存する。魔力が無ければ攻撃ができないし、詠唱が遅ければその間に攻撃を食らってしまう。使い所が難しいものだが、パーティに一人は欲しい職業の一つでもある。
生憎、シアンは接近戦は得意だ。遠距離攻撃も、場合によっては出来ないことは無いが、補助魔法しか使えないという点ではどうしても武の方へ走ってしまうのは仕方の無いこと。魔法使いとしては邪道と言える、武との合わせ技。魔法剣士もそのカテゴリに入るが、彼らは魔法剣士という職業であり魔法使いではないのだ。ノーカウントだろう。
しかし、今回はその事に感謝して、早々に決着をつけてしまっても良いのではないだろうか。
まぁそもそもの話、攻撃魔法に敵わないからと言って負けるとは一ミリも思ってはいないのだが。補助魔法だって、使い方次第で攻撃魔法に勝てる。相手が未熟な奴ほど、余計に。
「さぁ! 会場の皆さん、グラウンドの整備が整いました。これより第三回戦第二試合を始めたいと思います!」
さて、どうやら出番のようだ。
隣でパタパタと草臥れた翼を開いたり閉じたりしている天使には別れを告げず、歩き出す。イエローの方もそれは気にしていないようで、特に気にかけずただグラウンドの方を見ていた。
第三回戦、第二試合。それは実質準決勝のようなもので、これに勝てば決勝へ上がれるという事。という事は、試合は多くてあと三回なのだ。たった三回だとしてもあまり気を抜く事をせず、相手に挑むだけだ。
今回はどうやって攻めようか。ぐるぐると頭を働かせながら、シアンはブーイングの嵐を浴びた。
予約投稿するの忘れてた。