Fate/Dangerous Reality 現実世界で聖杯戦争 作:沢井きよ
・あと2話ほどはプロローグと言える内容です。本格的に物語が動き始めるまでもう少しお待ちください。
・本作品はFate/stay nightを知っている方を前提としていますので、
原作のネタバレ全開で設定説明や用語説明は少なめです。今さらですがご容赦ください。
■前回までのあらすじ
『Fate好きな隠れオタに令呪が現れてサーヴァントを召喚しました』
目の前にコスプレ兄ちゃんがいた。
アーチャー、だよな。どう見てもコレ。
「平行世界、なのか? いや、これほどまでに差異が大きいとなればむしろ……」
俺を無視して自分の思考を優先して呟くコスプレ男は181cmある俺より5cmはデカい。
ベルトのついた黒いズボン、表面に筋肉が象られた黒い胸甲、上下が分かれた赤い外套。褐色の肌に白髪で少し童顔の……日本人。童顔ではあるが顔の作りは男前。年は20代半ばから後半に見えるものの年齢不詳。アーチャーって外見年齢はいくつなんだろう。
声はアニメでの声とほぼ同じに聞こえる。ほぼ、と言うのは少しアニメっぽさが減って自然になっている感じだからだ。
当然と言えば当然だけど、服装と色はともかく見た目は凄く普通の人間だ。まあ現実で二次元絵そのままだったら気持ち悪い。もしかしなくても外国人のサーヴァントだったら、思いっきり外国人外国人な顔してるんじゃないだろうか。
三次元化したリアルエルフ耳、見たかったな。
「アーチャー、とりあえずさ。ここは冬木じゃなくて風越で間違いないって」
この事は正弘には話そう、正直俺だけじゃ荷が重い。
3年の付き合いであいつなら信用出来ると確信してる、巻き込むのは悪い気するけど諦めてくれ。FateのFの字も知らないだろう星香には隠せる間は隠す。
「……君は? ――いや、すまない。取り乱していたようだ。こちらから言わせて貰おう。
私はサーヴァントのアーチャー、聖杯の召喚に従い参上した。君が私のマスターか?」
そんなことを考えながら声をかけた俺に、聖杯から与えられた情報を整理していたのだろうアーチャーが改めてこちらへ視線を向ける。こういう所は律儀な性格をしているのがアーチャーだ。
体ごとこちらへと向き直り、彼はマスターたる俺へと契機となる言葉を口にした。
二次元のキャラと三次元の人間では違うのは分かっているのに、一度こいつがアーチャーだと認識するとどう見てももうアーチャーにしか見えない。不思議なもんだ。
「俺は藤みょり……藤森亮介。そ、俺があんたのマスターだよ」
とりあえず自己紹介しようとして噛んだ。俺も落ち着かないといけない。
令呪が現れたあの時は意味が分からなくてそれ所じゃなかったけど、Fateの魔術師のように英霊を召喚出来てしまったことで興奮している。
あと先ほど向けられた視線にビビってるのもあるんだろう。やっぱり英霊に鋭い目つきで睨まれるのは一般人にとっては恐ろしい。
アーチャーは静かに目を伏せてから、数秒後何かを感じ取ったのかように目を開ける。
「たしかにそのようだ。ここに契約はなされ、パスの繋がりも確認された。よろしく頼む、マスター」
「ああ、よろしく頼むぜ。アーチャー!」
「めでたく契約がなされた所で私のステータスを確認してみるといい。そうしないことには何も始まらないだろう?」
いきなりステータスとスキルが見られるのか。しかしどうやって見るのだろう。記憶を思い起こしてみても、原作のマスター達がステータスを参照するために何か特別な詠唱や魔術に繋がる動作をしていた記憶はない。
それならば考えるだけでいいのか。アーチャーを見つめながら、スタータスを見ようと念じて集中すると、アーチャーに関しての情報が俺にの中に流れ込んで来るのをはっきりと感じ取れた。
アーチャー
マスター:藤森亮介
属性:中立・中庸
【ステータス】
筋力:D 耐久:C 敏捷:C 魔力:B 幸運:D 宝具:??
【スキル】
心眼(真)B、千里眼C、対魔力D、単独行動B、魔術C-
うん、幸運以外は原作と変わりないな。
……うん?………変わりないだと!?おかしいだろ!五大元素を操る優秀な魔術師の凛と一般人の俺でアーチャーのスタータス変わらないとか!
「なあ、アーチャー。このステータス」
「よもや低いと言ってくれるなよ。アーチャーのクラスとは単純にステータスだけでは計れるものでは」
「じゃなくて。十分高いんじゃね?」
「ああ、そちらか。君はよほど優秀な魔術師なのだろうな。私としてはかなり高い水準で能力が再現されている。ただ、パスがやたらと細い点だけが気になる。召喚に際して何がしかの不具合でもあったのか?」
ああ、俺を見て誇らしげに腕を組んでいるアーチャーは盛大に勘違いをしている。
現界したステータスが高いせいで俺が凛と同じレベルの魔術師だと思い込んでるんだ。俺なんかがマスターであれば元々ステータスが高くないエミヤは悲惨な状態になっていてもいいはずだ。というか幸運に至っては何故か上がってやがる。
「それってつまりは俺に魔力がないからだろ」
「いや。私はこれでも魔術を使う者のはしくれ、特に隠匿されていなければ他者の魔力を探ることは出来る。君が持つ魔力自体は少なくない。むしろかなり多い方だろう」
アーチャーの言葉に俺は目を見開いた。俺に魔力がある?
まあ、言われてみれば俺に令呪が宿るのかと言う時点で疑問がなかったわけじゃない。
第四次でマスターの数合わせに見えた雨生龍之介だって、かろうじて閉じた魔術回路の痕跡がある程度なものの先祖が魔術師である家系だった。一般人が急にお前は魔力が多いよなんて言われれば誰だって驚くだろう。しかもアーチャーのステータスが凛がマスターの時と変化ないくらいにだ。
「あのさ、アーチャー? 俺、魔術師じゃないんだ」
「何を言っている。君は私のマスターで魔術師だろう。そしてこれからこの風越の地の聖杯戦争に臨もうとしている」
「だから違うんだって! そもそもこの世界には魔術なんて存在しねえよ!」
「ふむ。まったく話が見えんな。君は、聖杯を求めて風越の聖杯戦争に参加する魔術師ではないのか?」
目玉焼きにかけるのは醤油だろう?くらい当然のように言うアーチャーだ。
いいえ、違います。召喚しただけです。厨二病的な詠唱は大好きだし、Fate以外でも詠唱を覚えてる作品は数知れない。絶好調な時にはこの年で静まれ俺の右腕ごっこだってやってしまう。けれどリアルに俺は魔術師だ!などと言い出す趣味は俺にはない、ないんだ。
「たしかにアーチャーを召喚したけど、俺は魔術師じゃねえよ。令呪が現れたから召喚した、それだけなんだ」
「君は何を言っている? まさか召喚時の不具合で影響が及んだのはパスだけではなく……」
「ちげえよ!」
一転して俺のことを哀れみの目で見て来るこいつに、そこから俺はこの世界には魔術が存在しないということをアーチャーにこれでもか、というほど力説した。俺は本当に頑張って力説だったのだが、長すぎるので割愛。
「……大気中に大源(マナ)が私の出身世界と変わらないほどに存在しながら、魔術が実在しないなどと」
「仮に未知のモンがあったからって何でもかんでも利用出来るかよ」
「しかし、俄かには信じられん話だな。そこら中に十分なマナが存在し、なおかつ君のように強い魔力を持った人間がいる世界で過去に神秘の欠片に触れた人間がいないはずがない」
食い下がる食い下がる。まあ、凛と一緒に時計塔で魔術を学んで、さらに固有結界という封印指定を食らい兼ねない大魔術を使えるアーチャーに取っちゃ仕方ないのかも知れない。しかし頑固だ。
とは言っても頑固でなければエミヤの生前の正義の味方っぷりは貫き通せないか。
「だーかーらー! 俺は魔術のマの字も神秘のシの字も知らないんだってーの!」
しかしそれと俺が魔術師でないのは別の話。俺もあかいあくまと同レベルの魔術師だと思われるのはあらゆる意味で居心地がよくない。
「では、マスター。……君は何故あの魔法陣を描けた?令呪の意味をどこで知り、サーヴァントだと名乗った私を何故素直に受け入れられたんだ?」
……あ。
あーあ、アーチャーが額に手を当てて盛大に呆れてるよ。
「む。マスター、大事な話の最中に携帯など弄って何をしているのだね」
「頼りになる協力者に要請。ぶっちゃけこの状況、俺一人じゃ無理だ」
「その協力者とやらも魔力があると思うか?」
「知らん」
昨日の内に撮っておいた右手の甲の写真をメールで正弘に送信した。
『件名:明日10時に俺ン家
添付:0127221359.JPG
本文:これが出た。とりあえず何が何でも来いよ!来なかったらマジ絶交だかんな!』
とりあえず正弘はこれでよし。俺もあいつもバイトとかしてないし、遊ぶのは俺とが一番多いから明日は多分空いてるだろ。
と。俺の魔術師疑惑を解くのも『二次元作品』であったFateにとって、この世界が『現実世界』であることも重要だけど。
俺はアーチャーが召喚されたのなら、このアーチャーがどの時点のアーチャーなのかをそう遠くない内に確認しないといけないとも考えている。英霊は召喚される度に『英霊の座』からその都度作り出されてるはず。しかし座には分体が経験した事は記録に残るんだ。
このアーチャーは冬木が風越になっているということ以外ではさほど混乱も動揺もしている様子は見られないな。アーチャーとしても考えることはあるんだろうけど、割りとスムーズに俺とも会話をしてくれている。やっぱりこのエミヤはアーチャーとして冬木の聖杯戦争に召喚されたことがない状態なのか?
まあ、どっちにしろこの世界に衛宮士郎は存在しないけれど。
「ふむ。マスターへの追求と弁解を聞く機会は棚上げするとしてだ。今はこの頼りないパスを何とかするべきだとサーヴァントとしてマスターに提案したい」
「俺にはパスを強化するなんてこと出来ねーよ?」
「何、問題はない。この身が魔術使いであることを感謝して欲しいものだな、マスター」
「え? どういうことだ?」
原作では士郎とセイバーはほにゃららしてたはず。いや、そんなまさか。キモい。
「私が魔術でパスを強化させよう。普通であれば人間と英霊がパスを繋ぐなど無謀の一言だが、そこはマスターとサーヴァントだよ。既に契約は済んでいてパス自体は開いている上に聖杯からのバックアップもある」
どうやら俺がアーチャーにいきなり自害を命じる未来は消滅したようだ。
たしかにアーチャーは原作通りにスキルとして『魔術:C-』を所持している。
へっぽこ魔術師の士郎とあまり魔術に明るくないセイバーでは不可能だった手段なんだろうな。
「ただしマスターには私を信頼して魔術的に無防備になって貰う必要があるがね」
「無防備?」
アーチャーいわく俺との間のパスは例えるならストロー程度のモノらしい。
それを魔術的に無防備になった俺へとアーチャー側から無理やりに魔力を逆流させ、大量の魔力を一度通してしまうことでストローをホース程度まで強引に拡張させるという方法を取る。
いや、どう考えてもストロー裂けるだろ!破裂するだろ!とツッコミたい。
しかしサーヴァントであるアーチャーは自身では魔力を生成することはなく、アーチャーへ供給されている魔力は細々とだが元々俺のもの。同じ無理やり通すのでも他人の魔力よりは拒絶も少ないだろうとのこと。
「何、それほど身構えることもあるまいさ。鼻からスイカとまでは言わん。せいぜい鼻から人参程度だろう」
いや、それもヤバいだろ。ヤバ過ぎる。
このアーチャーが第五次聖杯戦争を経験しているアーチャーなのかは俺には分からない。
けれどこのアーチャーは間違いなくアーチャーだ。凜をからかう時の声色と態度そのままで俺に麻酔代わりの魔術をかけて来る。
「ちょ、おまっ! 待てよ! ふざけんっ……!」
麻酔代わりの魔術は痛みを少し軽減させるだけで、俺の悲鳴が漏れないようにちゃっかり音声遮断の魔術まで使いやがった。
士郎と違ってアーチャーは普通に投影と強化以外の魔術使うんだな……。
召喚で魔力をごっそり持って行かれていた所にこの仕打ち、翌朝まで文字通りに死ぬように眠り込んだ俺でした。マスターとサーヴァントの立場ってなんだっけ。
ちなみに俺が睡眠と言う名の気絶をしている間に正弘からの返信が来ていた。
『件名:ニチアサとか見てから
本文:すっげー綺麗に描けてるじゃん!厨二感半端ない。まあ特に用事ないし、んじゃ10時な。』
「――ぐっ。うーん、令呪をもって我(オレ)のサーヴァントたるアーチャーに」
「何をやっている! たわけ!」
「ぐおっ!? いてえ!」
チョップをされて目が覚めると目の前には白と黒と赤の三色男がいた。どんな夢を見ていたかあまり覚えていないけど最悪の目覚めだ。
既にカーテンは開けられていて日光が部屋を照らしている。正直寝起きの人間にはありがたくもなんともない。
寝ぼけた頭で、誰だこいつ……とか、何勝手にカーテン開けてんだよまぶしいうぜえ……とか考えながら上半身を起こして目を擦る。
「寝ぼけて令呪を使おうとするなど、私は本当にいいマスターを持ったものだよ」
そうだった、昨日は令呪と魔法陣で本当にサーヴァント召喚出来たんだっけか。
寝ぼけてた俺も悪いけど、俺が相手でもこの嫌味ったらしい言い回し。いや、昨日のことと言い、凛相手の時より態度が酷くないかコイツ。
凛と比べて俺が魔術師じゃなくて魔力があるだけの一般人だからだろうか。士郎がこの世界には存在しないのを夜の間に悟って願いが成就出来ないから不機嫌なのだろうか。俺が男だからだろうか。
うん、全部ありそうだな。
「……おはよ。地獄に落ちろ、アーチャー」
「ああ、おはようマスター。紅茶でも用意するかね?」
「お前にうちのキッチンはいじらせねーよ?つーか紅茶なんてもんは置いてねえから」
俺はあかいあくまほどに寝起きが悪いなんてことはないので、アーチャーを目にしたことで一気に頭が冴えて思考に入ることが出来た。
それよりもおかしい。朝起きたらコスプレ大男が目の前にいてチョップで起こされるなんて俺はギャグSSの主人公か何かだったのか?
なんでセイバーや桜の「早く起きてください、リョウスケ」だの「先輩、もう朝御飯の準備出来てますよ」とかじゃないんだ。
と言うかこいつ、いつから実体化してたんだよ。
頭もとの携帯を開いて時間を確認すると8時36分。
「アーチャー、わりぃけど霊体化しててくれ。あと俺のことは亮介でいい」
アーチャーを余計な人間に引き合わせる気なんてないけど、もし誰かの前でマスターなんて呼ばれてるのを聞かれたら正直恥ずかしい。
「待て、マスター。睡眠によって魔力が回復した様子なのは何よりだが、昨日の今日で話すこともあるだろう」
「いいから。もうしばらく待っててくれ。俺は下で飯食ってくるし、その話をするのには昨日メールで呼んだもう一人を混ぜる」
着替えながらアーチャーにそう言うと、納得はしていないが了承はしてくれたようで渋々と言った様子でアーチャーの姿は見えなくなった。
おお、すげえ。召喚した時は召喚光が消えたらいつの間にかそこにいたって感じだったけど、目の前で消えられるとこいつは本当にサーヴァントなんだと実感するな。
「亮介。昨日の夜、大きな音したけどいったい何してたのよ?」
「あー、うん。下まで響いてた? ごめんごめん」
テーブルに着くと母さんに早速突っ込まれた。召喚光はともかくあれだけのエーテルの風だったもんな。落ちた本は面倒だからとりあえず本棚へ適当に突っ込んでおいた。
ちょっとばかし無理があるけどあの騒ぎは椅子を盛大にひっくり返したことにしておく。
母さんの寝室が1階で兄弟もいないから2階で寝てるのは俺だけ。ちなみに父さんは単身赴任中。アーチャーとの話し声も多分聞こえてないだろうし問題ない。
「亮介ー! 正弘くん来たわよー!」
「今行くー!」
俺が玄関へ向かうと正弘はもう靴を脱ぎ終えていた。
「おう、来たな。はよっす」
「おー、来たぜー。はよっす」
斜向かいにある星華の家ほど近くはないけど、正弘の家もチャリで3分もあれば着いてしまうくらいには近い。
「お前さあ、メール返信しろよな。呼ぶだけ呼んどいてないわー、マジないわー」
「わりぃわりぃ。ま、とりあえず部屋行こうぜ」
「ったく。おばさん、お邪魔しまーす」
「はーい、ゆっくりしていってねー」
「あ、飲みモンとかは後で自分で取りに来るから!」
正弘を先に部屋に入らせてドアを閉めた俺は、母さんが階段を昇ったりしていないのを確認するとほっと一息つく。
次いでいつも通りに勝手にベッドに腰掛けた正弘を一瞥してから、部屋のどこかにいるだろうアーチャーに向けて声をかけた。
「アーチャー」
「彼が昨日言っていた協力者か。随分親しげなようだが友人かね?」
俺が適当に手を上げた先に丁度霊体化したアーチャーはいたようで、何もない空間からさも最初からそこにいたように実体化をしてみせた。
正弘はそんなアーチャーを見て固まった後、一度おもむろに俺へと視線を移して再びアーチャーを見た。
そこに確かにソイツが存在するのを確認すると、口を開いたり閉じたりを繰り返している。
「すげえ、そっくりな、コスプレ、だな?」
「お前そりゃねえだろ」
見てる方からは楽しい光景をしばらく続けた後、やっとのことで言葉を笑顔で発する正弘は無理やり作ったのが丸分かりな感じに口の端がピクピクしていた。
これを見た正弘がどんな言葉を最初に口にするかと期待していた俺は、思わず素なツッコミを入れてしまう。
コスプレしただけで何もない所から人が現れたりしてたまるか。
「アーチャー、また霊体化してくれ。でもってすぐに実体化してくれ」
やれやれと首を振ってから両肩を上げたアーチャーは意外と素直に霊体化してくれる。
うん、昨日一悶着あったけどなんだかんだで現時点では俺達主従の仲は思いの外に良好みたいだ。
「と言うわけで。これ、アーチャーな」
「なっ…なっ……! えっ……えっ……えええええええええええええぇ!?」
「君の希望通りにやってみせたサーヴァントを「これ」扱いはないのではないか、マス……亮介」
アーチャーはわざとらしく眉根を寄せるが、叫んだ正弘を見て良い笑顔している辺り、本気で文句を言っているわけではなさそうなのでスルーだ。
「ああ。ちなみに君たちが下にいた時に遮音結界は張っておいた。安心したまえ」
いつの間にか壁際に移動していたアーチャーが壁に背をつけて腕を組んでいた。ドヤ顔すんな。
「説明してくれるんだろうな、亮介! 昨日の写メだけじゃ意味分かんねえよ」
「令呪出た。召喚してみた。アーチャーが出た。でもって今に至る、っつーわけ」
「はしょり過ぎだろ! なんで令呪出るんだよ! ここは冬木じゃないぞ!」
自分でもはしょり過ぎた自覚はあるものの、実の所そこまで酷い説明ではないと思う。ちなみに俺は椅子に座ってベッドの方を向き、正弘はまたベッドに座っている。実体化したままのアーチャーは先ほどと同じくやはり壁際だ。
「俺だって何でいきなり令呪なんか出ちゃってんのか分かんねーよ! 令呪出たら召喚してみるだろ普通!」
「そりゃそうだけどさ!」
「(……亮介、君は昨日協力者に魔力があるか分からないと言っていたが、彼からも君には及ばないもののそれなりの魔力を感じられる)」
うお、初念話だ。思わずビクッと体中が強張って、キョロキョロと辺りを見回してしまう。アーチャーと視線が合うとアーチャーが小さく頷く。マスターになったのだからアーチャーと念話が出来ることをすっかり失念していた。
けれどそんなことより今はアーチャーが言った正弘についての言葉だ。
「(はぁ!? 正弘にも魔力あるってのかよ?)」
「(間違いない。まあ、今の所は令呪が現れているなどということは無いようだが)」
「(そんなもん、あってたまるか)」
アーチャーと俺が念話していることにもちろん気がつけるはずもない正弘は経緯の説明を俺へ求め続けている。
「何で呼べたんだよ? 触媒は?」
「そんなもんあるわけねーだろ。触媒無しで召喚した」
「触媒なしで、アーチャーを? 本当にか?」
俺と正弘の会話から正弘にも聖杯戦争に関しての知識があると察したアーチャーは正弘を一瞥したが、俺達が話し続ける限りは割って入るつもりはないようですぐに視線を外した。
「亮介が、アーチャーを。それって…」
何かを言いかけた正弘は逆に今度は自分がアーチャーへと視線を向け、顎に片手を当ててしばらく何かを考え込んだ。そして考えがまとまったのだろうか。口にする代わりにベッドから静かに立ち上がり、部屋のドアを俺に対して目線で示す。
「亮介、私はここにいよう」
流石の気遣いの出来るサーヴァントだ。
正弘に頷いて先に廊下へと出た正弘を追って俺も廊下に出る。
「なんだよ。秘密の話か?」
「秘密と言うか。お前に確認、かな」
「部屋じゃダメだったのか? 俺はこれからアーチャーにこの世界ではFateがゲームだ、ってのとかさ。いわゆる原作知識なんかも全部あいつに教えるつもりなんだぜ? なのに、あいつに秘密も何も……」
俺がアーチャーのいる部屋のドアへ顔を向けると正弘が手の平をこちらに向けて続きを遮った。
「――なあ、亮介。お前、触媒無しで自分がエミヤを呼べたことの意味、分かってんのか?」
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