Fate/Dangerous Reality 現実世界で聖杯戦争   作:沢井きよ

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・第3話は後日に追記・微修正する可能性があります。ご了承ください。

■前回までのあらすじ
『友人にアーチャーをお披露目しました』




第3話 刻まれた紋章の下に

「――なあ、亮介。お前、触媒無しで自分がエミヤを呼べたことの意味、分かってんのか?」

 

 そう言って俺を見る正弘は出会ってからの三年間で初めて見るような真剣な表情だった。

わざわざ廊下に出て、正弘は何を言ってるんだ?

 

「は? 何だよ、そんなのアレだろ? 二次元キャラが現実にっていう二次小説にありそうなやつ。たしか逆トリップって言い方もあるっけか」

「そうじゃなくて! 俺が気にしてるのは亮介が『エミヤ』をピンポイントで触媒を使わずに呼べたってことだよ」

「そんなもん、特に理由なんか分かんねえ不思議現象だろ。それ言ったら、俺に令呪が出たってトコから理由分かんねえよ」

 

 よくある二次小説だと平行世界が絡むアレソレは大抵は宝石爺の仕業ってオチが多い。むしろ全部宝石爺のせい。

でも今回に限ればその宝石爺だってそもそもFateって言う創作物の中の人間だ。二次元の人間が現実世界に影響を与えるなんてあり得ない。本当に何が起きてるんだ?

俺の言葉は望む物ではなかったらしく、正弘は目の前で腰に片手を当てた体勢で首を数回横に振った。

 

「そりゃそうだけど! それは置いておいてだよ。もし召喚ルールが原作通りか原作に近かったら?」

「原作だと触媒なしの場合は……召喚者と性質の似た英霊が召喚されるな。完全にランダムってことはねえはずだ」

 

 原作を見てると場合によってはいっそ触媒使わなくても意外といいんじゃね?って思うこともあった。性質が似てるってことは気が合いやすいってこと。マスターとサーヴァントの連携も上手く行くかも知れない。まあ、相性良くてもとんでもなく弱い英霊だったり性格悪いマスターだと同属嫌悪になって拗れる危険はあるけど。

 

「だろ。一番分かりやすいのがzeroの龍之介とジルドレ。あとは一応触媒使ってたらしいけど桜とメドゥーサ。でもって、お前とエミヤだ」

「俺とアーチャーが似てるってのかよ。まったく似てねえだろが」

「その場合の似てるって言うのは『性質』であって性格じゃないんだよ、亮介」

「性質って言ってもよ……」

 

 実は俺も正弘の言いたいことは既に分かっている。いや、分かってしまったって言うのが正しいな。

俺とアーチャーは性格では全然似てない。俺はあんなに捻くれた皮肉屋なんかじゃないし。正弘が言ってるのは性質。表面に出てる性格じゃなくもっと根元の部分だ。

そういう方向でアーチャーがどういう奴かをよくよく考えてみると、アーチャーと似てると言われることに少し恐ろしさと焦りを覚えて来る。あいつがどういう生き方をしたか知っているから。

例えば、目の前の100人が10人を見捨てて助かるってのなら、たしかに俺は100人の方を選ぶ。アーチャーもそうだ。でも俺の場合はそれはあくまで目の前にその100人と10人がいた場合に限るし、もちろん10人の中に知り合いがいたら10人の方を選ぶだろう。俺はアーチャーみたいに自分から進んで100人を助けに行く事はしないと思う。やるとしても自分が安全に出来る範囲でだ。正弘が思ってるような、切嗣やエミヤみたいな異常性は多分持ってないはずだ。

 

「亮介、俺だってこれがセイバーだったらこんなこと言わない。よりにもよってエミヤとかさ、悪いけど正直引いてるよ俺。それと同時に心配もしてる」

「おい、やめろよ。俺はあんな無茶苦茶な生き方なんかしねえって! 俺とアーチャーは違う!」

 

 世界の味方だったはずが世界の敵に、感謝されていたはずが恐怖される存在に。そして処刑台へ。

なろうと思ったってあんな酷い正義の味方になんてなれるもんじゃない。ゲームや漫画のキャラじゃない俺にはそんな力も覚悟もあるわけがない。

 

「何もアーチャーみたいに世界中の紛争地帯で戦うだけが、無茶苦茶な生き方ってわけじゃないだろ」

「でもよ……他に理由があって呼べたのかも知んねえじゃん。正弘、お前こんくらいで面倒な方向に考え過ぎだって」

 

 これ以上このことを考えるのは危険だ。気持ちが悪くなりそうになる。

英霊エミヤになった衛宮士郎の歪ながら芯の通った生き方は、自分とは関係のない二次元のキャラだからこそ格好良くてその背中が世間でも人気を集めてるんだ。その姿を自分の中に見た途端に言い表しようのない寒気がする。

 

「わりぃ、正弘。この話はここまでにしてくれ。アーチャー放置してると拗ねんぞ、あの英霊」

「亮介、お前……」

 

わざと出した軽い調子の声と表情でドアを示して無理やり話を終了させると、俺は気持ちを切り替えようと思いながらドアノブに手を伸ばした。我ながら無理があるな。

 

 

 

「話は終わったのかね?」

 

 俺達が部屋に戻るとアーチャーは俺の机からこちらへと振り向いた。どうやら世界史の教科書や地図を漁っていたらしい。

 

「アーチャー、そんなの開いて何やってんだ?」

「いや、たいしたことではないさ。私のいた世界とこの世界で何か目立った差異がないかを見ていた。聖杯が与えてくれる知識も意外と範囲は狭いのでね」

 

 聖杯は聖杯戦争に必要ない知識はくれないからな。多分、地図では冬木が存在しないかどうかも確認したんだろう。

 

「んで、何か分かったか?」

「日本以外の世界の歴史や言語、文化などもほとんど変わらないようだ。冬木市が存在しないものの、やはりここは平行世界と考えるのが無難だろうという結論に至った所だよ」

「あー、それなんだけどな。アーチャー。この世界とお前がいた世界は平行世界じゃないんだ」

「平行世界じゃない?」

「これからそのことについて説明するけど、俺や正弘がする話はとりあえず全部本当のことだって前提で最後まで聞いてくれ。もし途中で俺と正弘に何かしようとしたら、令呪を使うのも俺はやぶさかじゃねえ」

「随分と物騒なことを言う。マスターの言うことだ、とりあえず聞こう。始めてくれ」

 

 右手の甲に刻まれた令呪を見せ付けるようにすると、俺の本気具合が分かったらしくアーチャーが頷く。アーチャーに限って無いとは思うけど、俺が適当なことを言っていると判断して干将・莫耶で斬り付けられるのは勘弁願いたい。

 

「アーチャーのいた世界な、この世界だとゲームなんだよ」

「ゲーム? ゲームと言うとテレビゲームなどのゲームのことかね?」

「亮介、お前なぁ。それだけじゃ分からないだろ? アーチャー、冬木がある世界はこの世界では創作物の世界なんだよ。第四次聖杯戦争はこの世界ではFate/zero、第五次聖杯戦争はFate/stay nightって名前でゲームや小説になってる」

「創作物と言われても理解し兼ねるな。もう少し私に分かるように言ってくれないだろうか」

「つまり、俺らにとって今のアーチャーは「桃太郎やシンデレラが現実に現れました」って状態ってこと」

 

 正弘が分かりやすく説明してくれる。アーチャーへの説明はいっそ正弘に全部任せてしまおうか。

うっかりFateの原作がエロゲだってことを口にしないといいけど、正弘もそこまで馬鹿じゃないはず。アーチャーに原作を見せることがあるとしたら移植版にしよう。

 

「俺と亮介だけじゃなくてこの世界にはアーチャーのことを知ってる人間はたくさんいる」

「自分が物語の中の人間だなどと言われても俄かには信じ難いな。英霊などと言う幻想のような私が言うのもおかしな話かも知れんがね」

「アーチャーの真名は英霊エミヤ。正確には衛宮士郎、冬木市の穂群原学園出身。大災害で衛宮切嗣に助けられた養子で」

「亮介、君は急に何を」

「冬木の第五次聖杯戦争をマスターとしてセイバーと経験した後、遠坂凛と一緒に時計塔……」

「っ……! もういい! それ以上は必要ない!」

 

 正弘が嘘を言ってるわけじゃない証になるだろうと簡単にアーチャーの経歴を口にする俺を、荒々しい声でアーチャーが遮る。まだ手に持っていた教科書が机に軽く叩きつけられた。

そのまま続けば正義の味方を目指した己の生前の生き様にまで触れてしまうと思ったのだろう。このアーチャーはUBWルートの最後のように救いを得られていない。

アーチャーに俺達がFateに知っていると教える事は必要だけど、あまりその辺りを刺激するとアーチャーとの関係を壊してしまうかも知れない。まずい。これ以上は続けるべきじゃないな。

 

「悪かった。でも俺の言った事は全部合ってるはずだぜ」

「ああ、合っているよ。動揺してしまってね、私こそ声を荒げてすまなかった。他に私の何を知っている?」

「宝具を投影出来る事も固有結界を使えることも、戦闘能力に関しても一通りだな」

「あとはアーチャーの願いも俺達は知ってる」

 

 正弘の言葉にアーチャーが身を強張らせて息を呑むのが分かる。その後、ゆっくりと言葉を吐き出すように俺のサーヴァントは呟いた。

 

「願い、までもか。では……私の願いが既に潰えたことも知っているのだな」

「ああ、知ってる」

「そうか……」

 

 目を瞑ってアーチャーは何かを考え始めた。

俺は衛宮士郎でなければ遠坂凛でもない。だから、俺にはこのアーチャーに救いは与えられないかも知れない。UBWの劇場版DVDでも見せれば少しはこいつも変われるだろうか。

そんなことを思っていると目を瞑っていたアーチャーが再び目を開いて問いかけて来る。

 

「君達は今回の聖杯戦争をどうするつもりなんだ? 今まで一般人だったようだが、聖杯を求めるのかね?」

「その前にこっちから聞きたいことに答えて貰っていいか、アーチャー」

「ふむ。私のマスターは亮介だ。私に答えられることならば答えよう」

 

 許可が出たので気になることをこの際全部聞いてしまおう。いわゆる原作知識はあっても、今回の事態は俺にも分からないことだらけだ。

 

「じゃあまず一つ目。今回の聖杯戦争ってマジで起きるのかよ? この風越に聖杯はあるのか?」

「そんなことか。それに関しては私が召喚されたことがその証左だろう。先ほど言ったように実際に聖杯から知識も与えられている。それに聖杯もなく人間が召喚出来るほど英霊と言うのは霊格が低い存在ではない」

「ってことは、他のサーヴァントも召喚されるのか?」

「ああ。特に何かが起きない限りは恙無く7クラス、私を除いた6クラスも召喚されるだろうな」

 

 あまり良くない返事だ。サーヴァントであるアーチャーが聖杯を感じているなら、やはり聖杯は風越のどこかにあるんだろう。

 

「でもさ、亮介以外に令呪出た奴がいないって可能性は?」

「そこまでは知らん。私は聖杯の導きに従ってサーヴァントとして召喚されただけだ。聖杯戦争であるならば7人のマスターに令呪が配られるだろうさ」

「うーん。やっぱりそうかー。令呪が出たのが都合よく亮介だけってことはないか」

 

 正弘が質問をしても返って来た言葉は既に俺達には分かっている内容だった。これじゃアーチャーと問答をしても結局は原作の設定確認にしかならないな。

聖杯はやっぱりあくまでサーヴァントにとっては召喚補助と願いを叶える器でしかないってことか。アーチャーからしてみれば舞台が違うだけで通常通り召喚されたのと変わらない状態なんだろうな。

 

「先ほどから思っていたのだが。そもそも私が最初に召喚されたサーヴァントだとも言い切れんのだろう?」

「あっ」

「君たちが物語として私達の世界を知っていると言うのなら、物語の中で召喚された英霊を参考までに教えて貰えないだろうか」

「ああ、かまわねーよ。第四次聖杯戦争で召喚されたのがアーサー王、ギルガメッシュ、ディルムッド・オディナ、イスカンダル、ジル・ド・レェ、ランスロット、ハサンだな」

「でもって五次がアーサー王、エミヤ、クー・フーリン、メドゥーサ、メディア、ヘラクレス、ハサン、佐々木小次郎の8人。佐々木小次郎はワケありのイレギュラー」

 

 俺が四次の面子を、正弘が五次の面子を挙げていく。アーサー王、セイバーの名前を出した瞬間にアーチャーの瞳が微かに揺れたのが分かった。

 

「まったく、随分と大物が揃ったものだな。私を引いたマスターはさぞガッカリしたことだろう」

 

 アーチャーとしてもセイバーについて思う所があるのだろう。その多くが磨耗したアーチャーの記憶の中でもセイバーとの記憶は特別なはずだ。数秒の間を置いてから小さく息を吐き出して、誤魔化すようにわざとらしく両肩を竦めながら自虐めいた表情を浮かべる。事情を知っている俺には少し痛々しくも見えた。

 

「第五次でアーチャーを引いたのは遠坂凛だけどな」

「な、に?」

「英霊になった今も凛の宝石持ってるだろ? それが触媒になって凛が召喚したんだ。まあほとんど偶然みたいなもん」

「なるほど。あれならば当然触媒になり得るな。しかし彼女が私を……」

 

 アーチャーが顎に片手を当てて考え込む。原作では明かされていないものの、アーチャーが衛宮士郎だった頃の聖杯戦争では凛は違うサーヴァントを召喚していたんだろう。

 

「アーチャーは生前の記憶はどれくらいあるんだ?」

「ああ、私は直接覚えている記憶は実はそう多くはない」

「って、言うと?」

「大幅にカットや編集をされた誰かの半生を綴った映画を見たことがある感覚、とでも言った所だ。しかもその映画は所々擦り切れたりモザイクまでかかっているお粗末な代物だよ」

「全部忘れてるわけじゃないんだよな」

「大分怪しいものだがね。そういう事実があった、というのは分かっていても順番も詳細も覚えていない物が多い」

 

 つまり原作と同じ、って所か。まあ、予想していたので別にこれは大した問題にはならない。

 

 

 

「君達からの質問には答えた。次は私の番だな、亮介。いや、マスター。今回のことに関して君にはいくつかの選択肢がある」

「選択肢だぁ?」

「なに、聖杯戦争に参加するか否かということだよ。私としては、さっさとサーヴァントを令呪で自害させて聖杯戦争から下りるのをお勧めするがね」

「あー、そのことか。それなら俺は下りねえぜ。っていうか、下りたくても下りたらまずい」

「聖杯戦争がどういう物かを知っているのなら、命の危険も理解しているのだろう? 魔力が高く俄かに令呪を得たとは言えど君が聖杯戦争に参加する必要はないはずだ」

 

 アーチャーの顔を見ながら、このやり取りが士郎が教会で言峰と初めて対峙したシーンみたいだな、と原作を思い出す。それを俺がアーチャーから受けているとはなんだか微妙な気持ちだ。普通に考えれば聖杯戦争なんか参加するもんじゃない。原作のマスター連中だって死んだら元も子もないってのによく参加するもんだと思う。

けれど聖杯の現状を知っている俺にはマスターを下りるって選択肢はあまり賢いモノではない。

 

「俺以外にもサーヴァント連れた奴がこの風越にいる可能性があるならよ。そんなの放っておけるわけないだろ」

「どこぞの士郎みたいなこと言うな。って言うか、どうせ昨日メールで俺を呼んだ時点で決めてたんだろ」

「おお、鋭いな。さっすが俺の親友!」

 

 士郎、という言葉にアーチャーが反応したような気がするけど、ここは放っておこう。そう言えばこいつも士郎だった。

俺と正弘の会話に呆れたような表情を浮かべてから、改めてアーチャーがその視線を俺達に向けた。

 

「聖杯戦争は真実殺し合いだ。私がいると言ってもサーヴァントと相対すれば人間などすぐに死ぬぞ」

「死ぬのは俺だって嫌だってーの。でもよ。Fateを知らない奴がマスターになって、真面目に聖杯戦争やって勝っちまったらまずいんだよ」

「なんて言っても大聖杯が盛大に汚染されてるからなー」

「どういう意味だね? 聖杯が、汚染されている……?」

 

 アーチャーが片方の眉を上げて俺達に怪訝そうな視線を向ける。

聖杯への願いを諦めたとは言え、聖杯に召喚されたサーヴァントとしては流石にこれは聞き過ごせなかったらしい。自分が汚染された聖杯に召喚されたことになる。

 

「おう。風越に現れた聖杯が冬木のと同じなら、第三次でアインツベルンがやらかしてバグっっちまってるんだ」

「この世界に聖杯なんてないはずだし同じだろうな。最悪、小聖杯だけでも壊さないとまずいよ。というか見つけ次第壊そう」

 

 俺の言葉に続けて正弘がうんうんと頷きながら小聖杯の破壊を提案する。

 

「待て。私には君たちの話が理解出来ない。自分達が知っている知識を前提に話すのはやめてくれないか」

「あー、わりぃわりぃ。大聖杯と小聖杯ってのは……」

 

 

 

「――つまり。サーヴァントを召喚して知識を与えているのは大聖杯であると言うことか。そして大聖杯が汚染されている」

「そ、聖杯戦争での『聖杯』ってのは一つじゃねえんだよ。大聖杯が本体で、小聖杯はサーヴァントの魂の入れ物」

「大聖杯が汚染されている上に、我々サーヴァントが小聖杯への生贄だったとはな。見事に餌に釣られたわけだ」

 

 俺と正弘に寄る『第1回聖杯戦争の真実』講座が終わるとアーチャーは盛大に溜息をついた。

餌に釣られた、とは的確な表現だろう。聖杯戦争のシステムを構築した御三家はサーヴァントの願いを叶えてやるつもりなどさらさらないんだからな。根源に至りたいからって型月世界の魔術師ってのは酷いもんだよ。

 

「たしかにそれは私としても見過ごせるモノではない」

「さっきも言ったけどさ、小聖杯を壊せばとりあえず聖杯戦争は終わるんだよ。第二次だか第三次もそれで終わったんだろ」

「でもそのまま大聖杯を残しておけば、中にあるこの世すべての悪(アンリ・マユ)はそのまま、と」

 

 今俺達はカーペットの上に車座になって三人ともあぐらをかいている。

それも話の途中で正弘が1階に取りに行ってくれた麦茶とポテトチップスを摘みながら。最初は俺と正弘の二人で摘んでたんだけど、差し出してみた所アーチャーも摘み出した。

 

「俺としてはやっぱり大聖杯を壊したい。あんな物騒な物が風越にあるなんてゴメンだ」

「それなら亮介、キャスターを味方につけないと駄目だ」

「そうだな、この世界に大聖杯を解体出来る魔術師なんていねえわ」

 

 原作世界では凜とロード・エルメロイII世ことウェイバーが主導して聖杯が解体に成功している。

大聖杯が物理的にぶっ壊せるかは甚だ怪しいもんだし、正規の手順を踏まずにぶっ壊せば溜まった魔力とアンリ・マユが解放されて風越が爆心地になる。抑止の力が存在するかさえ分からないこの世界では最もやってはいけない悪手だ。

小聖杯だけ破壊して放置しても魔力が溜まった状態の大聖杯のこと、すぐにまた聖杯戦争が起きるだろう。

アーチャー以外のサーヴァントが原作と同じかは分からないけど、キャスターがメディアだったら最高だ。型月世界で神代の魔術を扱うメディアなら現代魔術師が構築した魔術儀式のシステムくらい何とかしてくれるはず。メディアほどじゃなくても正規のキャスターなら何とかなるかも知れない。ジルドレは座っててくれ。

 

「しかしその肝心の大聖杯の場所は分からないのだろう?」

「そうなんだよなぁ。でも原作通りなら大聖杯は霊脈の優れた場所じゃないと駄目なはずだ。正弘、どこか心当たりねえ?」

 

 原作では円蔵山、遠坂邸、冬木教会、後の冬木中央公園。この四つが冬木で特に強い霊地とされていたけど、風越には当然どれも存在しない。

そもそもこの世界に大聖杯があるにしても、どこにどうやってあるのかが分からない。あの空間ごとどこかの地下に転移してるとかだろうか。

 

「霊脈の優れた場所ってつまりオカルト的に優れてそうな場所だろ。そうなると寺とか神社とか城跡とか?」

「となると成田山、氷川神社、本丸跡。パッと浮かぶのはこんなトコか」

「待て。君達の言葉を信じるならこの世界では魔術は発達していない。過去の僧や神職が正しく霊脈を把握していたのかが怪しいものだ」

「あー」

 

 アーチャーはポテチと一緒に持って来た布巾で指先を拭いている。英霊と言ってもこういう姿を見ると完全に人間だな。まあバトラー(執事)クラスでも召喚出来そうなエミヤには人間臭さは今さらか。

けど言っていることはもっともで、現実世界における霊地探しがいかに大変かということが分かってしまった。

 

「ここでこうして顔を突き合わせて悩んでいても始まらない。ここまでの話をまとめると、私達の当面の目標は小聖杯を探し出して破壊。キャスターを味方に付けて大聖杯の解体が出来ればベスト。これでかまわないか?亮介」

 

 アーチャーが俺と正弘を順に見て確認して来る。俺達の方針にすんなり賛同してくれたようだ。

エミヤはかつて正義の味方であろうとした男。聖杯戦争では守護者として呼ばれたわけじゃなくても、汚染された聖杯による惨劇を見過ごすなんて無理なんだろうな。過去の自分の抹消という歪んだ目標さえなければ、こいつは本来好ましい人物のはずなんだ。

 

「ああ、それでかまわねーよ。早速明日の放課後から大聖杯の候補地を探そうぜ。正弘もいいだろ?」

「当然のように俺もアーチャー陣営に入ってるわけね」

「諦めろ、俺達ダチだろ。あ、そうだ。アーチャーが言ってたけど、お前魔力あるらしいぜ?」

「はぁ? って。えっ、俺に魔力って、えぇええ!? マジで!?」

「とは言っても私のマスターほどではないがね。しかし私のいた世界で魔術師として通用する量はあるな」

 

 すっかり忘れてたことを今さらになって正弘に伝えると、面白いほどに動揺してくれた。

自分にも令呪が出たりしてないか左右の手の甲を確認したりもしている。

っていうか俺だけじゃなく正弘も多いとか、この世界の人間は魔力持ちが多いとかそういうオチなのか……?

 

「というわけで、これからは正弘も仲間として動く。令呪はないけどこいつも俺と同じ扱いをしてくれ。改めてよろしくな、アーチャー」

「俺も死にたくないからな。よろしく、アーチャー」

「ああ、よろしく頼む。亮介、正弘。万が一の際にはマスターを優先させて貰うがね」

 

 正弘も交えて、俺達の主従は初めての握手を交わす。

格好はつかないけど、俺達はこの車座の誓いで第1次風越の聖杯戦争のアーチャー陣営を結成した。

心配していたアーチャーも一応柔らかい表情をしているように見えるから大丈夫だろう。俺達は、きっと上手くいく。

 




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