エ『それによって自分にとって何が大切なのか気づいた竹林は、全校集会の場にてそれを曝け出し、自らの意思でE組に戻ってくるのだった!』
有「なんか・・・・すごい久しぶりのまともなあらすじ紹介だね」
惣「いや〜、竹林回も一段落ついたからな。一応まとめとこうと思って」
有「それじゃあ今回の話は?」
エ『今回の話はプリンだ』
有「・・・プリン?」
惣「プリンがどう関わってくるか、それは最新話で確認してくれ!」
シルバーウィーク・・・・・多くの人が自宅で羽を伸ばしていたり、友人と出かけたりする秋の連休。当然椚ヶ丘も休日であるーーーーーーのだが、あるクラスだけ担任を除く全員が集結していた。無論、E組である。
教卓に立って指揮をとっているのは、随分と珍しい、茅野だった。今回、シルバーウィークであるにも関わらずE組に全員が集結しているのは、彼女が呼んだからだ。
黒板にはくり抜かれた新聞の記事が。どれも供給過多によって廃棄処分されることとなった卵についての記事だった。ニュースでもやっている内容なので、クラスのほとんどがそのことを知っている。特に家庭が貧しい磯貝にとっては勿体無くて仕方ないといった風だ。
そこで、茅野はある作戦を立案する。
「どうせ飯作って、その中に対殺せんせー用BB弾を混ぜるだけだろ?そっこーで気付かれるだろ」
寺坂の言い分も確かである。鼻が良い殺せんせーには、いくら卵を使った飯を作ったとしても中の異物を嗅ぎとってしまうだろう。しかし、そんな問題も何のその。すでに必要な準備や材料は校庭に出揃っているらしく、早速校庭へと出される。
「卵を使った暗殺か・・・・どんな作戦だ?」
「俺も聞いた時は、耳を疑ったよ。正直中学生だからこそ思いつくような作戦だった」
『烏間はもう知っているんだったな、どういう作戦なんだ?』
「それは・・・すぐに分かるだろうさ」
思わず頭に?を浮かべてしまうが、烏間先生の言ったとおり、校庭に出た瞬間に何を作るつもりなのかがすぐに判明した。オレンジのシートで囲われた台形に近い形。この形で卵・・・・思いつかない方がおかしい。
「まさか・・・」
「そう!今からみんなで、巨大プリンを作ろうと思います!名付けて・・・・『プリン爆殺計画』!!」
『規模の割には普通の命名だな』
「エボルトさんうるさい!」
「つっても茅野、本当に上手くいくのか?」
「確かに殺せんせーはスイーツが好きだが・・・・」
生徒の中にが多少の不安が残る。が、それすらの問題無い。すでに茅野は、殺せんせー自身からある言質を取っている。
『いつか自分よりでっかいプリンに飛び込んでみたいものです!ま、お金無いので無理ですけど』
「えぇ叶えましょう、その夢とロマン!ぶっちゃけ私もやりたい!!」
「それが本音だろ」
・・・・・・・・・・・・・・
作戦概要はこうだ。巨大プリンの底に爆弾及び対殺せんせーBB弾を密閉し、殺せんせーが底の方まで食べ進めたところでポチッとする。
早速持参したエプロンを身につけプリンの元の製作に入る。唯一溶き卵に関してはマヨネーズ工場の休止ラインを借りて完了しているらしいが、その以外の工程は全て自分たちでやらなければならない。
「だが茅野、これだけの大きさのプリンとなると、質量の問題から潰れちまうぞ?」
「それは大丈夫!対策として凝固剤にはゼラチンの他に、寒天も混ぜるの。寒天の繊維で強度が増すから!しかも、寒天はゼラチンより融点が高くて熱で溶けにくいから、九月の屋外でも問題ない!」
「ほ〜」
茅野の指示で溶き卵に砂糖、牛乳を混ぜ、そこにバニラエッセンスを加えることで香りつけも行う。
「第一プリン液、注入!」
巨大容器に四方からプリン液を注入する。上からも万丈達が協力してプリン液を入れていく。
「その調子〜!入れきったら第二プリン液の二班と交代!基本寒天で強度を保ちつつ、上層部は生クリーム含有率を上げ、ふんわりと!」
「ねぇ茅野さん、これは?」
片岡が持ってきたプレートには彩豊かな四角い物体。あまり見覚えのない物体なので、持っている本人は疑問に思う。
「これはフルーツソースやムースソースをオブラートで包んだ味変わり。ずっと同じ味ばっかじゃ、飽きちゃうでしょ?これを時々投入して、味に変化が出るようにするの!」
『味の変化・・・・・そういや惣一、なんかそういうボトルなかったか?』
「は?味を変化させるボトルなんて・・・・・あ、そういやスイーツ関連のボトルがあったな」
ポケットからケーキが描かれているボトル『ケーキフルボトル』を取り出す。まぁ使うかどうかの話は別だが。
「ケーキフルボトル?そんなボトルもあるの?」
「使い所が分かんなくて今まで放置してたが・・・・試しに使ってみるか?」
「ちなみにどんな効果なの?」
「・・・・さぁ?」
手元でフルボトルを弄びながら首を傾げる。実を言うと、以前実験として一度だけ実戦で使用したことがあったのだが、不発に終わってしまったのだ。その時は他のボトルを使ってどうにかしたのだが・・・・結局ケーキフルボトルの実験はそれ以降行っていないので何が出来るのか惣一も把握していない。
「そんな実験みたいなこと、今しないで」
「・・・なんか最近俺への当たり強くないか?」
「気のせいだよ」
「神崎さん!石動くん!手を止めないで!」
「「は〜い」」
それからも順調に第二プリン液、第三プリン液と注入していき、容器の内側がプリン液で完全に満たされる。満たされたところで天井を乗せて冷却を開始する。型の外壁には冷却装置が内蔵されているらしく、さらに内部に張り巡らされたパイプには冷却水が流される。茅野曰く、これだけの大きさのプリンは内と外の両方から冷さなければいけないらしい。
「すげーな、茅野」
「あぁ、まさかここまでプリンの特性を熟知しているとは・・・・」
『しかもちゃんと科学的根拠もあるし、その上で味の研究までしてる。何大抵の奴じゃそこまでできねぇぞ』
持ってきた缶コーヒーを口にしつつ、普段は後方支援的役割を果たしていた茅野の凄まじいプリン愛に舌を巻く。とりあえず今日の工程は終了ということで、一応職員室で何やら唸っている烏間先生に挨拶してから帰宅することにした。
・・・・・・・・・・・・・・
翌日、巨大プリン製作の続き。一晩冷やしたことでプリンはしっかりと固まっていた。内側に張り巡らされたパイプを抜き取り、さらに上部の密閉ボルトを抜き取って空気を送り込む。
「外ブロック解除!」
茅野の指示とともに型を外していく。因みに人力だ。二人の男子が協力して型を動かしている。
「プリンの外壁を緩めのゼラチン・寒天で滑らかに整え、別に作ってたカラメルソースをかける!次にカラメルソースをカリッとするまで炙るんだけど・・・石動くん!」
「はいはい、何に使うのかと思ったけど、そういうことね」
『コブラ!』
「烝血」
『ミストマッチ!コブラ!ファイヤー!』
「んで、消防車フルボトルっと」
『フルボトル!スチームアタック!』
昨日の内に火を扱えるボトルを持ってくるように言われていたため何か使うのか疑問に思ってたが、ようやく合点がいった。消防車フルボトルを使うことでカラメルソース全体を一気に炙っていく。・・・・・こんなことにボトルを使って良いのだろうか。
「『良いんです』」
まさか二人に返されるとは・・・・・・・。
「おぉ・・・・!」
「ごくっ・・!」
「「「できた〜!!」」」
休み返上のE組超大作、対殺せんせー用巨大プリンが見事に完成した。重さに潰れるようなこともなく、プリンらしい弾力性を備えている。見事と評する他あるまい。
後は殺せんせーに食べさせるだけなのだが・・・・・
「殺せんせー今どこにいんだ?」
「避暑地でバカンス中だ。部下が今も確認しているから間違いない」
「・・・・それいつ帰ってくんの?」
全員が顔を見合わせる。一拍置き、誰もが首を傾げる。つまりは全員知らないということ。下手したらシルバーウィーク終了まで帰ってこないかもしれない。いくら屋外においても大丈夫な作り方をしたとはいえ、流石にあと一〜二日もこのまんまなのはやばい。危険だ。できれば今日中に作戦を実行まで移したい。
というわけで、再び惣一の出番が訪れる。
「烏間先生、その避暑地ってどこですか?」
「ちょっと待て、今から携帯に転送する」
すぐに携帯に送られた資料に目を通し、殺せんせーの所在地を確認した惣一はトランスチームガンの機能を使って空間転移を実行、2秒後には殺せんせーを連れて戻ってきた。
「にゅや!?な、なんですかいきなり!?」
よくもまぁ逃げられずに連れてこれたものだ。一応、殺意を向けたわけじゃなかったからだろうが。ちなみに殺せんせーがいた避暑地では、突如消えた
「にゅ?・・・・おぉ、おおおおおおおああああああ!?」
目の前に広がる
「先生のために茅野が考えて作ったんだ」
「廃棄卵を救うためってのもあるけどな」
「こ、これ全て先生が食べて良いんですか!?」
「「どうぞどうぞ」」
「夢が叶った〜〜!!」
何処からか取り出したスコップを両手に、号泣しながら巨大プリンへと飛びかかる殺せんせー。それを見届け、生徒達は教室内へと入っていく。
「茅野、教室で起爆を見届けるぞ」
「うん・・・・・」
プリンの底に設置されている爆弾には小型カメラが内蔵されている。殺せんせーが底に辿りついた際に光が差し込み、それに合わせて竹林が爆弾を起爆する手筈だ。
「・・・・・すげぇ速さで無くなってるんだが」
「こりゃ底に到達するのも時間の問題かね」
「でも、今のところは順調だね。・・・・茅野さん?」
窓から次々に無くなっていく巨大プリンの様子を見守る惣一達。他のメンバーは竹林の前に設置されているパソコンの画面を見ている中、茅野だけは有希子の隣で巨大プリンを見ていた。
「プリン・・・・・爆発・・・・・」
「茅野さん?どうしたの?」
「ダメだーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」
「「『うぉ!?』」」
「愛情込めて作ったプリンを爆破なんてダメだーーーー!!あぁ、あぁ、あぁ!!」
「ちょ、茅野さん!?落ち着いて!!」
「おい茅野何プリンに感情移入してんだよ!吹っ飛ばすために作ったんだろ!?」
「あーーー、ダメだ!!ず〜っとこのまま、校庭にオブジェクトとして飾るんだ〜〜!!」
「「「「「「「『腐るわ!!』」」」」」」」
頭か窓か。どっちか先に壊れるか分からない勢いで頭をぶつけまくる茅野。慌てて万丈が取り押さえるが、その勢いが殺されることはない。
「ふ〜、ちょっと休憩」
「「『!?』」」
そんな茅野に気を取られていると、いつの間にか殺せんせーが口を拭きながら教室へと戻ってきていた。その手には巨大プリンの底に設置していたはずの竹林作の爆弾が。
「異物混入を嗅ぎ取ったのでねぇ、土を食べて地中に潜って外してきました」
プリン→土→爆弾といった風に食べ進めていった殺せんせー。ご丁寧に校舎からは見えない反対側へ向ったらしい。茅野のこともあり、誰も気づくことができなかった。
「プラスチック爆弾の材料には独特な匂いを発するものがある。竹林くん、先生の鼻にかからない成分も研究してみてください」
「・・・はい」
悔しいというか、何というか・・・・・みんな何処かでこうなるとは思っていたのだろう。誰もが『やっぱり』と言った表情を浮かべている。
「そしてプリンはみんなで食べるものですよ。きれいな部分を寄り分けておきました」
いつの間に用意されていたのか・・・・そんなことは考えるだけ無駄だ。生徒たちは取り分けられた容器を各々手に取り、二日かけて苦労して作り上げたプリンの味を噛み締める。
「やっぱりこうなるのか」
「惜しかったね、茅野・・・・むしろ安心した?」
「あはは・・・・」
『なぁ惣一、俺に一口・・・』
「働かざるもの食うべからず、ってな。やなこった!」
『何でだよ!?』
「でも、茅野さんがここまで積極的にやるとは思わなかったよ」
「ふふふ、本当の刃は親しい友達にも見せないものよ!!」
これにて、茅野の暗殺はひとまず終了。次の刃を見せるのは一体誰になるのか・・・。