「お前ら!学園のでも帝国のでも連合のでも何でもいい、この泥の範囲を覆える結界使えねぇか!?」
「ちう様の望む規模は儀式と詠唱もですが、維持が無理かと!」
「今のところ触手が襲ってくるだけなのが幸いですねー」
「もうしばらくすれば完全召喚されて触手本体の巨大召喚魔が出てくるかと」
「クソかよ!
ひとまず対魔法障壁で泥だけでも囲え!被害を抑える!」
「イエッサー!」
箒を手繰りながらの千雨の指示で電子精霊たちが黒泥の範囲拡大を防ぐために魔法障壁を展開させる。同時にエンデヴァーを筆頭に、中・遠距離攻撃持ちのヒーローたちが触手をいくつか減らしてくれている。
しかし、減らしてもすぐさま泥の中から復活して千雨に向かって伸びてくる。完全召喚されていない現時点でエンデヴァーたちからどれ程攻撃を受けても千雨しか狙ってこないところからみて、狙いは千雨一人で間違いない。
この世界の"個性"は基本的に一人一つの能力だ。どれほど応用のきく能力であっても"魔法"と違ってその応用には限度がある。それを思えば、独学の半人前とはいえ攻撃も防御も後方支援も出来る"魔法"を使える千雨を狙うのは理にかなう。敵が敵ならばなおさらだ。
ここでアーティファクトであり未来魔法科学の結晶たる衛星砲・
ハマノツルギで黒泥の効果や召喚術式を無効化させるためにも一度一掃しなければならないのだ。
「ちう様!前方五百メートル十時の方角に高魔力反応有り!召喚魔本体が出ます!」
「電子の王、再現!
情報をもとに手元に現れた黒猫を模した短銃に似たコントローラーを手にして引き金をひく。
地上から数万数千メートル上空に千雨の手元のコントローラーと同時に現れた可愛らしい猫を模した飾りのある衛星砲は、星の煌めく空の果てから地上の黒泥へ向かって強力な魔導砲を一直線に放つ。半径数メートルもあるその一撃は貫くというよりも圧倒的な破壊力で敵を押し潰さんと言わんばかりだ。
事実、泥の中から現れた数百メートルもの巨大な黒い召喚魔を押し潰した。
千雨以外で最もその砲撃の近くにいたエンデヴァーたちは突然の強烈な光に加えて地面を割るほどの轟音と衝撃波を受けた。
幸いにも足場を担っているマジェスティックは光に目がくらむことなく、怪我をするヒーローは居なかったものの、あまりの威力に誰もが驚愕していた。何故なら今の状況からして先程の一撃を放てるのはただ一人しかいない。
しかも体育祭のトーナメント一回戦で見せた上鳴を軽々と吹き飛ばした雷撃のパンチよりも、大木のような触手を射ち払っていた複数の光る遠距離技よりも、何百倍もの威力である。
近くにいるプロヒーローの中でも、全員の足場を操作していたマジェスティックは下手したら誰かがあの一撃に巻き込まれていてもおかしくなかった事から周囲よりも顔を青ざめさせていた。
少し離れた場所の空を飛ぶ絨毯に乗っていた人々は"個性"と呼ぶには強力な光の柱に総毛立つ。そして更に遠くから、テレビやネット越しに見ていた人々は周囲が一瞬真昼以上の明るさになったことから、オールマイトの戦い以上にとんでもない事が起きているのをひしひしと感じた。
「やったか!?」
「召喚魔撃退を確認!召喚者はまだ捕捉できておりません!」
衛星砲の攻撃が終息すると魔力粒子の光が周囲に散る。召喚者が捕捉出来ない以上、ゲートとなっている精神汚染効果付きの黒泥をハマノツルギで無効化するだけだ。
地表に向かおうとする千雨のもとにマジェスティックたちが飛んできた。
「ジョーカー!さっきの光は、あの巨大な敵はなんだ!?」
「……マジェスティック、私は単独飛行出来るので先に避難をしてください。向こうの狙いは私一人だ」
千雨は空とび猫の魔導衛星砲についての追及を無視しつつ、ヒーローたちに戦場から離れるように伝える。
この状況下で救助可能な人間は地上に居ない。そしてこの戦いに彼らを巻き込む訳にはいかない。千雨の予想通りであるならば、彼らでは太刀打ち出来るとは言えない相手だ。
『
あの巨大な触手を持つ召喚魔は魔法世界で茶々丸が
フェイトシリーズの誰かか、あるいはデュナミスというおっさんか。はたまた他の仲間か。
なんにせよ、異世界から千雨を殺しに来た者が相手だ。
「こんな所でヒーローが女の子を一人にする訳にはいかないよ」
「それよりも、やはり君はこの敵のことを知ってるんだな?」
「……」
おどけたように言うマジェスティックに対し千雨は眉間の皺を深めつつ、エンデヴァーの言い逃れさせないと言わんばかりの鋭い視線に小さくため息をついた。
どう言いくるめようとしても
「……敵の攻撃範囲が分からない以上、とにかく離れて遠距離攻撃をしてください」
「ほぼ一人で戦うするつもりかい?」
「ジョーカー、危険すぎる」
「向こうの狙いは私です。それに近くに居ると攻撃に巻き込みかねませんし。
……手、震えてますよ」
中南米を想わせるポンチョと夜の暗さで分かりにくいが、マジェスティックの手は震えていた。
途方もない敵なのだ。全身を突き刺すような死の恐怖も、絶望も、憎悪も。文字通り、ただの人間では太刀打ち出来ない理不尽と言ってもいい。
「まぁ正直なところ私は弱いから倒せる自信は無いです」
「なら何故、アレに立ち向かえるんだ!」
ヒーローの誰かが叫んだ。当然だろう、どれ程強力無比な一撃を放てるとしても、こんな規格外な敵に一人で立ち向かおうと出来るなど、正気の沙汰ではない。しかも確実に倒せると言える根拠がある訳でもない。
何が彼女を駆り立てるのか。その言葉に千雨は振り向きもせずに答えた。
「んなもん、テメー自身のためだ」
そう言い残して千雨は箒の柄を握り地表へ向かう。
千雨が立ち向かうのは世界の為だとか、人々を守りたいだとか、そんな綺麗事ではない。
己をこの世界へと転移させ、呪いをかけた敵をぶん殴る。ただそれだけだった。
「神野、どうなってるの?」
「現場にいる奴の撮った写真がヤベェ」
「超巨大敵、何百メートルあるんだよ」
「さっきの報道に写ってたのって"個性"だよな?」
「オールマイトやヒーローたちは何してるんだ」
「駅が人でごった返してるけどみんな怖くてほとんど何もしゃべれない」
「敵は倒されたんじゃないの?」
ありとあらゆる人が神野で起きている事態に注目していた。現場中継の映像が断たれてから、現場近くにいる人からのわずかな情報やソース不明の流言飛語がSNSを介して不安を煽る。
それは各自自宅にて報道を見ていた雄英ヒーロー科1年A組の面々も同じだった。
「神野で何が起きてるの?」
「緑谷たち現場に居ないよね……!?」
「ああクソ、回線重すぎて電話繋がらねぇ……!」
「オールマイトが倒したんじゃねーのかよ!?」
誰もが正確な情報を求めようとする。
詳細不明という恐怖を打ち払おうとして。
「ちうたま!敵の捕捉出来ました!」
「150メートル前方10時の方向!」
「衛星砲、発射!」
エンデヴァーたちから離れて地表に向かうとすぐさま電子精霊が報告する。千雨は再度衛星砲を放ちそれを敵が防いでいる隙にハマノツルギを再現しようと
しかし、敵は千雨の認識能力を上回った。
千雨が衛星砲を放つ前に黒いローブを纏った敵は音も気配もなく千雨の背後に現れて攻撃をしてきたのだ。
数メートル吹き飛ばされた千雨は痛みに顔を歪めながらも箒を呼び寄せてその柄に掴まった。
敵は一瞬で移動したがそれは瞬動術ではなく、転移魔法の一種と考えられる。その厄介さに舌打ちした。
本来、転移魔法は転移魔法陣あるいは転移の門として影や水などを媒介に使う。魔法陣が特に無かったことから黒泥を門として使用している可能性が高い。つまり黒泥におおわれた地表は全て奴のフィールドであり転移門であり召喚陣。このままでは攻撃を当てるなど不可能である。
もっとも、打つ手が無い訳ではない。千雨には魔法を消し去るアーティファクトがあるのだから。
「電子の王、再現。ハマノツル」
しかし、千雨の手元に身の丈ほどある鋼鉄の大剣が現れるよりも敵の方が早かった。
「――――させるとでも?」
「!?」
一瞬で千雨は背後を取られ、振り向き様に見たものに驚愕したまま魔力を込めた拳で殴られた。
千雨が殴られると同時に、街頭の大型液晶テレビも、人々の持つスマホも、インターネットに接続されている情報端末全てが一斉にザザザッという音を立て画面が砂嵐を映す。砂嵐が収まったかと思えば、NHAの現場リポーターとカメラマンが黒泥から正気を失わせる映像故に中継を切った筈にも関わらず、国内全てで現場の映像が流れた。
それも、黒泥の上に立つ黒衣のローブの人物と、殴り飛ばされて倒れている大剣を手にした黒髪の女性の姿。さらに黒衣のローブの人物の後ろに泥の中から巨大な怪物が現れた。
彼女たちの周囲には誰一人として近付けられないというのにその映像は酷く鮮明である。
そして、宙に浮く『黄色い小さなもの』が
「――――何時から、
「その声……ま、さか……テメェ……!」
千雨が身体中の痛みを感じつつも睨み付ける。真夏のぬるい夜風がローブを捲り上げ、その髪を露にする。
真実を知っている者は想定外のことに目を見開き、真実を知らない者は釘付けにされる。
珊瑚色の長い髪に、眼鏡をかけた少しつり目で銅色の瞳の女。つい数時間前に雄英高校の会見でその名が出た人物と瓜二つの容姿。
怨嗟の黒泥を振り撒き、触手を持った召喚魔を従えてヒーローを攻撃をする人物は、紛れもなく長谷川千雨だった。
駅前の大型液晶に映るクラスメイトの姿。
疑いようもないまでに、敵として黒髪の女性ヒーローに攻撃を向けている。何処からともなく巨大な怪物を召喚して使役する技はクラスメイトが使ってみせるマンタやクジラと同じものだろう。
「一体、どうなってんだよ……あの長谷川が……長谷川が、こんなことしてるのかよ……!?」
切島の困惑する言葉がその場にいる全員の心を代弁していた。
「違う……」
「緑谷?」
「あの黒髪の人だ」
「緑谷くん、何を言って……」
「長谷川さんを、救けに行かないと!」
駆け出していこうとした緑谷の身体に包帯のような帯が巻き付いた。
「行かせない」
「キドウさん、でも!」
「君たちの安全を確保するのが俺の役目だ」
「でも、あのままじゃ!」
「君が行って何になる!!」
冷静沈着という言葉が似合うほどに感情を抑えて大人として対応してきたキドウの強い語気に、緑谷の身体はビクリと跳ねた。
「今の現場は、今の彼女のもとには、エンデヴァーたちプロヒーローも容易に近付けない状況だ。
行く資格もない君を行かせる訳にはいかない」
「友達が、仲間が、困ってるんだ!ヒーローは、困ってる人を」
救けるんだ。
その言葉を発するよりも先にキドウが緑谷の首の側面を手刀で打ち、緑谷を失神させた。キドウは緑谷がそのまま倒れる前に包帯で縛り上げる。
エンデヴァーのサイドキックをしているキドウにとって対象者を即座に無力化するのは簡単だった。数分もすれば目が覚める。
キドウは気絶した緑谷をそのまま担ぐ。
「緑谷くん!」
「誰かを救けたいなら、まずは自分を守ることを覚えろ」
「……オイ、包帯野郎。クソデクの言ってた事が本当なら」
「君たちが今するべき事は、ここから避難することだ」
爆豪の質問に対してキドウは感情を出さずに言いながら、爆豪たちが駆け出さぬように自身の"個性"を強く巻き付けた。
キドウが今すべき事は未成年の子供の保護と避難。それが今、画面越しに戦っている彼女の願いなのだから。
一方、バーニンに保護された轟と八百万もスマホに映し出された事実に驚き困惑しながらも、轟が現場に戻ろうとしてバーニンがそれを止めていた。
「……長谷川があんな真似するはずがねぇ……!」
「っ!轟さんいけませんわ!現場に戻るなど!」
「行かせないよショートくん」
「放してくれバーニン!」
「千雨ちゃんが君の無事を願ったんだ。君たちが怪我をしないように。罪に問われないように。ヒーローを目指せるように」
「このままじゃ長谷川は敵扱いされる!」
それを言われたバーニンは言葉につまる。
千雨の変装がバレない限り、このままでは長谷川千雨は敵認定されるだろう。既に疑われていた身だ。そうでなくとも世論が黙っていない。
同時に、ここで変装をバラしてしまえば、今度は無資格で現場にいて"個性"を使ったことを問われるが、それは警察とヒーローが許可したと公表できる。
そして轟と八百万にここで変装していることを伝えてしまえば、それこそ駆け出してしまう。
「………それでも、まずは君たち自身が生き延びなきゃならない」
バーニンは感情を呑み込んで、一番優先しなければならない事を口にする。
今、神野で何が起きているのか。あの敵は一体誰なのか。
そんなバーニンの疑問をよそに事態は進むと言わんばかりに、ローブを纏った千雨の背後に黒泥が何者かの形を成していく。
それは女のような『何か』だった。
二人羽織というよりも、文字通り背中の真ん中あたりから上半身が生えているかのように繋がっており、異形の姿を露わにした。
金髪を結った女の頭に包帯の巻かれた長すぎる三対の腕、黒い三対の翼、千雨と同じ黒いローブ。"個性"が普遍化し超常社会となったこの世界であっても、おおよそ人とは呼び難い。
「……嗚呼、忌々しや……
不完全な憑依の上に、ナギ・スプリングフィールドから大きく弱体化し、強靭な精神力で肉体の主導権も完全掌握出来ぬ。
凡庸でロクに戦えもしない、か弱い小娘風情に!この私が……!!」
長谷川千雨の声で『長谷川千雨』ではない何者かが尊大な口調で喋り、憎悪を燃やす。
「何の考えで
そう言って黒いローブの敵――千雨=ヨルダは殺意を向けて腕を広げながら詠唱を始め、魔法を展開し始めた。
元気だったか?自分は解釈の不一致とか文章力への葛藤とか原作の展開とかリアル事情で執筆に対する狂気が日に日に減って色々ダメな感じだ。
という訳で、新キャラはネギま及びUQホルダーより、ISSDA特別顧問こと長谷川千雨(ヨルダ=バオト不完全憑依体 拙作通称:千雨=ヨルダ)です。
長谷川千雨魔改造タグ、ヨシ!!!!!!!
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