ひねくれ魔法少女と英雄学校   作:安達武

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ローブのポケットから、ひとつのビデオテープを見つけた。
あり得た世界の可能性。奇跡の中の奇跡。ありとあらゆる可能性の中で最も幸福な楽園。しかしそれは『あり得た過去』、過ぎ去った今では夢や幻と同じ空想。
それでも、忘れることは出来ないものだった。


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衛星砲の強い光がおさまると、そこには無傷で宙に浮く千雨=ヨルダ。それに対し、黒泥の広がる地表で倒れている千雨と、衛星砲をなんとか耐えきったプロヒーローたちがいた。

幸いにも、ヒーローたちが乗っていたマジェスティックの"個性"による足場は残っており、千雨以外は泥に触れていない。

 

「まだ生きているか。他の人間の防御を優先したようだったが……いや、障壁に加えて直前で衛星砲の操作もしたのか。

電子精霊(弱く小さく使えぬもの)と思っていたが……成る程、なかなか興味深い」

 

千雨=ヨルダは自身のみ当たらぬように衛星砲を調整して掃射した。しかし寸前で千雨がプロヒーローたちの頭上に障壁を展開した上に、ハッキングし返して衛星砲を中断させたため、即死を免れていた。

とはいえ、ヒーローたちの安全を優先した千雨はヒーローたちよりもボロボロの状態。また、意識を失っているのか泥にわずかに飲まれている。

 

「泥の中で、無駄な足掻きだったと悔いるがいい」

 

千雨はまるで底なし沼に沈むように泥に飲まれていった。

その様を見たエンデヴァーが千雨=ヨルダに怒りを向ける。

 

「貴、様……!」

「何を激昂している?私はお前たちを救済するというのに」

「救済、だと……?」

「そうとも、愚かで憐れなヒトよ」

 

宙に浮く千雨=ヨルダは、その背から伸びる異形の腕と白翼を広げて朗々と語り始めた。

 

「地上には、ありとあらゆる苦しみと不幸が蔓延っている。

生まれによる苦しみ。老いによる苦しみ。病による苦しみ。死による苦しみ。愛する者との別れによる苦しみ。憎しみや怨みによる苦しみ。望むものが手に入らない苦しみ。願いの叶わぬ苦しみ。差別、迫害、戦争、略奪、搾取、格差、敗北。

ありとあらゆる苦しみから、ヒトは抜け出すことは出来ない。この世界が不完全である限り、誰も悲しまず誰も争わないなど不可能。

そして、その事実から誰もが目を背けている。誰にも覆せぬものだと」

 

その言葉をヒーローは聞く事しか出来ない。

超常発生黎明期より百年余り。"個性"によりヒトの多様化が一般的になった今もなお、差別は根絶出来ずにいる。

差別意識を無くすための"個性"教育プログラムをしても解決には至らない。

そもそも、いじめを始めとする軽微な暴行や脅迫、疎外などから始まる『差別』に伴う攻撃行動の根本にあるのは『行動範囲内にある異物の排除』という本能から生じる縄張り意識によるものや、『自他の差異を明らかにすることで、社会的価値の優位性を認識したい』という加害者側の自己肯定あるいは利益追求のために行われることが多いからだ。

事実、被害者本人が望まずとも脅威や異物と認識される性質を生まれ持ってしまったり、アイデンティティの核のひとつになってしまっているケースが多い。そして、その『わずかな差異』を"個性"として許容できなかった結果『差別』が発生する。

さらに、その『差別』が集団内において肯定されれば激化し、肥大し、暴走する。差異が更なる格差を生み、略奪や搾取を生み、戦争となる。

人類史に紡がれ続けてきた負の歴史。超人社会になっても未だ消せないヒトの罪。

それ以外の苦しみも、人が人として生きていく上で、どうしようもなく抗えないものだ。

 

「この()()()()()()ではヒトは真の幸福には至らない。故に、私は区別なく全てのヒト種を救済する。全てのヒト種を幸福にする。

そのために『完全なる世界』へと導くのだ」

「『完全なる世界』……?」

「失った幸福。あり得た幸福。その者の願う最大の幸福を約束した世界だ。

お前たちにもあるだろう?

その指からこぼれ落ちてしまったものが……夢に見るほどの幸福が」

 

ヒーローたちに憐憫と慈愛のこもった声で語られる目的は、この惨状を引き起こしている敵とは思えない内容だ。同時に、それが口先だけのものではなく、心から思っていることだと伝わってくる。

寄り添うように語るその声がヒーローたちの耳朶と共に心を震わせ、死を錯覚させた者とは思えぬ慈悲が戦意を削ぐ。

 

ヒーローは、多くの理不尽と不幸に直面する。被害が出る前に防ぐ事もあるが、被害が出てから対応する事の方が圧倒的だ。

救えなかった命がある。

一生消えない傷がある。

失ったものは数え切れず、悔やんだことはなくならない。それらを噛み締め、飲み込み、一人でも多くの幸福のために活動してきた。

故に、彼らは千雨=ヨルダの言葉を跳ね除ける事は出来ない。

 

「誰もが悲しむ事も、苦しむ事も、争う事もない世界。老若男女、貴賤上下を問わず未来永劫望む幸福を与えよう。あり得た幸福、喪いし幸福の続きを与えよう。

このヨルダ=バオトのもとで、微睡むと良い」

 

そう言って緩く微笑む姿に周囲の黒泥にひしめく亡者の群れが蠢く。

それはまるで終末に現れた救世主を敬うかのように。神の救いを求めて地の底から現れたかのように。

その微笑みがおぞましく、畏ろしく、逃げたくて、()()()()

矛盾した感情を抱かせるそれは人間でも怪物でもない、まぎれもなく神だと思ってしまう。

 

「手始めに『この世界』のヒトを救おう。

ヒトよ、幸福な夢を見よ。そして……永遠に我が内で眠れ」

 

千雨=ヨルダのその言葉と共に、千雨=ヨルダの周囲に現れた数十体の悪魔に似た姿の影を編んで造られた魔物がそれまで千雨が泥の拡大を抑えるために展開していた対魔法障壁を破壊し、千雨=ヨルダの背後で黒い泥が間欠泉のように空へと伸び、四方八方へと広がっていく。

 

何十もの悪魔が空を飛び、月光を飲み込み光を反射しない黒泥が地を這い空を覆い隠すように広がっていく様子は世界を包み終わらせると言わんばかり。現場から離れた場所に避難していた轟たちや切島たちだけでなく、自宅待機している他のクラスメイトたちにも見えた。

 

「泥が……!」

「こんなん、どうしろってんだよ……!」

 

ただでさえオールマイトたちの戦闘で街が壊され避難している人々がいるというのに、更なる被害拡大に人々がパニックを引き起こして泥から逃げるように走る。

現場に駆けつけていたプロヒーローが避難する一般市民の救助をしていたが、迫り来る黒泥に触れた瞬間、それまでの恐怖に満ちた表情から穏やかな顔で眠りにつくように泥に飲み込まれて沈んでいく。

切島たちと合流しようと駅近くまで避難していた轟だが、緊急事態と判断して現場に向かおうとするバーニンに訴えかけていた。

 

「バーニン、俺が凍らせます!だから俺も現場に」

「焦凍くんたちは避難してて!いい?現場に来たらダメだからね!?」

「お二人とも!泥が!」

「!」

 

八百万の言葉に振り返ると、泥は想像以上の速さで侵食しており、もう目の前に迫っていた。

それを目にした轟はバーニンの制止を振り切って泥の一番手前に出て、道を塞ぐように氷の壁を作る。

 

「よし、止まっ……!」

「轟さん!!」

 

泥を防いだと思った轟だったが、泥はその氷すら飲み込み、轟ごと周囲の人間を飲み込んだ。

 

 

 

「赫灼熱拳、ヘルスパイダー!」

 

現場に残っているエンデヴァーたちは泥にふれないように気をつけつつ、千雨=ヨルダを守る悪魔に似た人間大の召喚魔を倒そうとする。

しかし、倒した瞬間にすぐさま増えるため対処しきれなかった。

 

「数が厄介すぎる……!」

「うわっ!!」

「シンリンカムイ!!」

 

マジェスティックの足場から悪魔型召喚魔に抱えられて黒泥へと落とされたのを見て、最早どうする事も出来ないとプロヒーローたちが察する。

 

 

 

 

十分戦った。

魔法も、アーティファクトも、全てを出しきった。

 

もう、微睡んでも良いのだ。ここで微睡んでも、誰も怒らない。この世界も、私の人生も、全てが終わる。

 

 

 

――――否。

 

 

私はまだ、終われない。

 

あいつらの尻拭いが。

 

あいつらの未来が。

 

ネギへの恩返しが。

 

 

まだ、やり残したことがある限り、終われない。

 

 

 

世界の為でも、人類の為でもない。

 

そんな()()()()()()()()()()()のためではない。

 

ただ、私が許せないのだ。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

私はまだ終われない。

世界は、まだ終わらない。

 

千雨は泥の中で痛む全身を動かし、左胸に付けている翼を模したバッヂを右手で握りしめる。

 

たとえ何があっても、変わらぬ日常へと戻ること。

そのために設立されたのが――――

 

白き翼(アラ・アルバ)

 

その言葉に呼応するかのように、力の王笏が輝いた。

 

――キーワード認証完了――

――アーティファクト認証完了――

――魂魄及び精神の認証完了――

――接続履歴から該当ログを発見。データサルベージ完了――

――条件達成により『CHIU_vra_addData_ver03.0831』のロックが解除されました――

――魔力残量よりCode_08を先行実行――

 

――仮契約者疑似再現アプリケーション

白き翼(アラ・アルバ)システム』を展開します――

 

 

千雨の飲み込まれた位置の黒泥から、白い一振りの大剣がその刃先を天に向けて現したかと思うと、千雨を覆う泥が白い粒子となって消えていった。

 

千雨=ヨルダはまだ足掻くのかと振り向き、そしてそこにいる存在を見て、馬鹿なと口にした。

千雨の前に立つその人物の姿は、わずかな月光とその人物が纏う魔力光のお陰でよく見えた。

 

夜風に揺れる二つに分けて高い位置で結ばれた黄昏時を思わせるオレンジの髪。

背丈よりも大きい剣は纏っている魔力によって白く輝き黒地のドレスを白く見せており、ドレスと大剣という一見不釣り合いなはずのそれらが不思議としっくりくる。

そして、後ろにいる千雨に振り返って笑顔を見せるその瞳は、力強く輝く鮮やかな青と緑のオッドアイ。

 

その姿を、忘れた日はない。

 

千雨は突如として黒泥を消して現れた彼女へ、信じられないと言わんばかりにその名前を呼ぶ。

 

「……かぐら、ざか……?」

「千雨ちゃん。

……私は『神楽坂明日菜()』だけど『神楽坂明日菜(本人)』じゃないよ」

 

その言葉を受けて千雨はハッと気が付いた。

見た目はまぎれもなく神楽坂明日菜本人である。だが、千雨は伝わってくる魔力によりこの明日菜がアーティファクトアプリで出した魔法道具と同じ仮初の存在だとわかったのだ。

 

「私たちは千雨ちゃんの持つ『力の王笏』に保存されたデータ。

千雨ちゃんがクラスみんなの精神を繋げて呼び掛けてくれた、8月31日の記録」

 

明日菜の言っていることは今も覚えている。

かつて魔法世界崩壊の危機を救うためであり、大切なクラスメイトで仲間の神楽坂明日菜を取り戻すために、『黄昏の姫御子』として囚われてしまったアスナの表層人格を起こそうと『力の王笏』でハッキングしてアスナの魂にアクセスし、クラスメイトたちの精神を繋げて呼び掛けた。

しかし、千雨は知らない。千雨が茶々丸から貰ったアーティファクトアプリにも、独自に開発してアップデートしてきた仮想具現(バーチャル・リアライズ)アプリにも、このような機能があることも備えた記憶もない。

一体誰が、いつどうやって。そう考えようとしていた千雨に明日菜が手を差し出した。

 

「千雨ちゃん!今はごちゃごちゃ考えないで大丈夫!

それよりも、やるべき事があるでしょ?」

「……そうだな。今は先にあいつをぶん殴る。

だから……()()()()()()()

 

かつてのように『助けて』なんて言うことは出来ない。

誰かに任せて終わりも、守られているだけなのも、今の千雨には選択肢にない。

千雨は、並び立ちたいのだ。

背を預けてもらえずとも……せめて、肩を並べて同じものを見たいのだ。

ネギの従者という当事者の一人であり、対等な仲間として。

 

「そうこなくっちゃ!」

 

自信に満ちた明日菜の手を掴んで千雨は立ち上がる。

千雨が明日菜の隣に立つと千雨の背後に黄金色の魔力粒子が集まって、また一人、また一人と懐かしき姿へ変わっていく。

千雨=ヨルダに向けて明日菜が手にしている大剣ハマノツルギを構えると共に、次々と現れた白き翼の面々が各々のアーティファクトを構える。

それに対し、千雨=ヨルダは右手を軽くあげて背後に幾つもの魔法陣を展開させると、千雨たちに向けて影と黒泥で編んだ悪魔型の召喚魔を何十体も出現させる。

 

「千雨ちゃん、掛け声よろしく!」

「柄じゃねぇってのに……テメーら、行くぞっ!!」

 

千雨の声に応じて、全員が駆け出した。

 




あけましておめでとうございます!2024年もよろしくお願いします!!

大変長らくお待たせしました!!!
衛星砲でちう様withプロヒーローズの全裸は可哀想だったのでやめました。激闘の決戦が一瞬でギャグになっちゃうから仕方ないね。
またの機会にします。←

仮契約者疑似再現アプリケーション『白き翼(アラ・アルバ)システム』
アプリに登録されているアーティファクトの所有者の精神ログあるいは接続ログがあることで、所有者を疑似再現することができる。
千雨の持つ力の王笏には2003年8月31日にクラスメイトの精神ログが保存されていたことで起動。
※エヴァ、ラカン、クウネル、フェイトガールズ等はアーティファクトの登録はされているが精神ログがないため居ません。(ラカンはデータなしでも出てきてもおかしくないの、マジでバグキャラいい加減にしろ。投稿遅れたのお前のせいだぞ)
※ネギくん、フェイト、超鈴音はアーティファクト登録がそもそもないので居ません。

「え……?いや超さんはともかく、ここはほら、マスターでもある僕が千雨さんのそばに現れるんじゃ」
「ないです(無慈悲)」
「え?」
「誰に何と言われようとただでさえパワーインフレ甚だしいのにネギくんを出したら手がつけられなくなるし、ネギちう一色になって散々積み上げてきた面白……フラグたちが屍になるとかクロスオーバーの醍醐味も何もなくなるじゃないか。俺は絶対に曲げない。俺は絶対に曲げない。だからネギくんの出番は
ないです(断言)」

ないです。

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