ひねくれ魔法少女と英雄学校   作:安達武

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人は役目を持って生まれてくる。

故に、これが私の役目だ。

(※タイトルデコードは後書きにあります。今話を読む前の変換は非推奨です)


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ヨルダ=バオトは怨嗟の黒泥で地球全てを覆い尽くすために、地上のみならず上空からも四方八方へと広げていく。

その様子は世界各国のあらゆる場所に映し出されており、日本(遠い海の向こう側)の出来事では済まされない事態になっていた。

高度五千キロで広がる泥の勢いは日本を飛び出してからさらに増していく。

 

「気をつけろよスター」

オールマイト(マスター)が対処出来ない状況だ。私がやるさ!」

 

日本で発生した異常事態に対し、全世界規模で電波ジャックがされた事への脅威から動いていたスターアンドストライプたち。電波ジャックの影響はどうやら各種マスメディアや携帯端末など一部のものだけらしく、スターたちの使用する通信には大きな影響がなかった。

そんな彼らはアメリカ西海岸沖の上空にていち早く()()を目視した。

 

「なんだ、あれは……!!?」

 

様々な戦場を乗り越えてきた彼らだが、それはまるでホラー映画のCGではと思うほどに現実離れしていた。

黒い泥に似た物質と、そこに蠢く数多の死者。地獄の門が開かれたと思わせる光景とそれが放つ味わったことのない恐怖に身体が硬直する。

 

「飲まれないでお兄ちゃん達(ブロス)!!」

 

いつもと変わらない力強いスターの声で彼らの硬直が解ける。

これまでの経験と信頼が彼らの心を奮い立たせる。世界ナンバーワンヒーロー(スターアンドストライプ)がいて恐れるものはないのだ。

 

「総員散開!!」

 

スターの指示に常日頃の訓練通りに戦闘機を動かしてスターの"個性"の影響を受けない位置へ移動する。

 

「『大気。これより大気は、私の100メートル先正面の空間には存在できない』……!?」

 

スターの言葉通り、目の前の空間が真空状態となる。彼女の"個性"『新秩序』によるものだ。触れたものの名前を呼びながら言った事がルール付けされるという非常識にも思える最強の"個性"。

だが、黒泥の速度は落ちない。黒泥は視認出来る密度があるものの、その本質は数多の死者たちの怨嗟の集合体。真空如きで止まるものではないからだ。

戦闘機上にいたスターは戦闘機ごと黒泥に飲み込まれた。

 

「スター!リーダー!!

くそ!このゴースト共が……!」

 

次いで、他の戦闘機が黒泥に向かってレーザーを放つが、レーザーごと戦闘機が飲み込まれる。

 

「ウェッジ!あのバカ!!」

Shit(クソ)!司令、スターが飲まれた!一旦編成を立て直して……」

 

司令官へ状況を告げかけたものの、彼らの黒い戦闘機は大津波を前にした蟻に等しいと言わんばかりにまとめて黒泥に飲み込まれ、しばらくしてから合衆国西海岸に黒泥到達が確認された。

 

世界各国で、これは世界の終わりだと人々は恐怖した。

善人も悪人も問わず老若男女が逃げ惑い、宗教家は各々の神へ祈りながら各々の聖書を諳んじた。

 

「死者の復活、異形の怪物……書かれている通り、ついに終末が訪れたのだ」

 

 

 

時は少しだけ遡り、場所は日本へと戻る。

黒泥の怨嗟の出現地である神野では、空と大地を覆い隠していくヨルダに対抗せんとする千雨たちに対して闇の魔素を編んでつくられた影の召喚魔による軍勢を差し向けられていた。

 

千雨の号令と共に、差し向けられた召喚魔の軍勢に向かって飛び出す神楽坂明日菜。それに続けて現れた三人の少女が駆け出した。

 

裾の両側にスリットが入った薄紫のロングチャイナドレスをまとい朱塗に金の飾りが両端についた棍を手にしている金髪に褐色の肌の少女、古菲。

小豆色の忍装束に黒色の裾がほつれた襟巻をした抹茶色の髪をひと結びにした糸目で長身の少女、長瀬楓。

猫耳和風ミニスカメイド服で野太刀と呼ばれる鍔のない日本刀を持ち周囲に何本もの匕首が浮かんでいる黒髪の少女、桜咲刹那。

千雨含め、統一感がないコスチュームにくわえて一見すると色物あるいはアイドル系ヒーローといわんばかりに防御力の低そうな格好。一撃でも攻撃を食らえばひとたまりも無い……という考えを裏切るかのように、四人の少女たちは容易く悪魔型召喚魔を討ち倒していく。

大剣から放たれる斬撃、あるいは何倍にも伸びた棍による打撃、あるいはどこからともなく取り出された爆撃符と鎖付きの巨大な風魔手裏剣による斬撃と爆撃、あるいは野太刀から放たれる斬撃と雷撃。

 

文字通り一騎当千という言葉が相応しい光景をまるで当然とばかりに千雨は見とれることもなく、すぐさま周りに現れた他の仲間たちへ指示を出す。

 

「まずはヒーローたちと合流する。パル、移動の足と盾を頼む。

その間に茶々丸と綾瀬は黒泥が覆いつくすタイムリミットの予測。本屋は奴へ読心を試してくれ。近衛、私に完全回復を……」

 

そう言って僅かにふらついた千雨。先ほどの衛星砲のダメージが残っているのだろう、咄嗟に支える木乃香は慌ててコチノヒオウギを振るい千雨を完全回復させる。直後、千雨の体が異常なまでに熱くなったことに気が付いた。

 

「千雨ちゃん、まさか」

「助かった、近衛。和泉、私にドーピングを」

「千雨ちゃん何言うとるん!?すごい熱やよ!!?」

 

焦る木乃香。それもそのはず、この一夜の間にオール・フォー・ワンによる刺創と千雨=ヨルダによる衛星砲を食らった上で、二度もコチノヒオウギによる回復をかけている。

千雨の魔力での疑似再現であろうとも、短時間に二度もかけたコチノヒオウギの治癒による過剰魔力が体内で暴れて発熱を引き起こすのは当然のことだった。

 

「問題、ねぇよ……それよか和泉、早くしろ」

「で、でも」

「いい、から。……この熱を、下げるのに……ドーピングの副次効果……『魔力融和作用』が、いるんだ」

「!」

 

意識を飛ばさないように必死に言葉を紡ぐ千雨。

元々、千雨は圧縮魔力ドーピングに対して関心を抱いていた。

極太針を刺すというデメリットはあるものの、墓守人の宮殿にてフェイトガールズと戦う際に魔法も戦闘もろくに出来ないまき絵にアスナと同等レベルの強化をさせ、明石には超人的な動体視力をもたらした。それでいて不調を与えることはない。圧縮した魔力とのことだが、ネギが魔法世界転移後のフェイトたちとの戦闘と転移事故のあと、完全回復により体内で魔力暴走が起きていたのを実際に見て知っている千雨は一体何が違うのかと調べていたのだ。

その結論が、薬の副次効果『許容上限以上の魔力に対する制御作用』と『体内保有魔力との融和作用』である。

今回のような体内魔力の暴走緩和のほか、戦闘時の仕切り直しなどに使えることから、千雨にとって文字通り『魔法の薬』という訳だ。

 

「私は、魔力をそれほど持っちゃいねぇ。魔力切れになりゃ、テメーらも消える。そしたら、本当に、終わりだ。

……和泉、はやく……」

「……わかった。千雨ちゃん、刺すからね」

「おう……ッ……ッシャア!」

 

尻に注射器を刺された千雨は突き刺された痛みに歯を食いしばりながらも、体内で暴れる熱が下がっていくのを実感していた。

 

「さあ、世紀の大漫豪パル様の傑作完成よ!!

金魚型飛行魚!GP(グレートパル様)号!発進!!」

 

千雨の回復が済むと同時に、早乙女ハルナことパルが自身のアーティファクト『落書帝国』に描いたあざやかな赤い琉金に似た飛行船が現れる。

かつて魔法世界にてパルが中古で購入した飛行魚だ。

 

「世界存亡のかかった状況をまた味わうなんて、このパル提督の目を以てしても見抜けなかったわ!!」

「パ、パル提督!敵が……!」

「平気平気!うちの戦闘員が揃ってるんなら問題ないってね!さ、乗って乗って!」

 

パルの言葉通り、飛行魚に近付こうとする敵の軍勢は為すすべなく明日菜たちに倒されている。

飛行魚の背鰭の後ろのデッキに上がると、千雨は魔法世界で乗っていた時との差異に気付いた。

 

「この船……なんか大きくないか?」

「流石に元の大きさのままだと全員乗り切らないから大きくしたの。ついでに向こうじゃ付けられなかったオプションも盛ったわ」

「速筆な上に凝り性かよ」

「凝り性なのは千雨ちゃんもでしょ!

発進!」

 

軽口を叩きながら飛行魚内部の操縦席にパルが座って操縦桿を手にすれば、ゴゴゴという音を立て、数メートルの長い尾を揺らしながらその巨体で空中を飛行する。

そんな船内にて千雨が作戦指揮を執り始めた。

 

「戦闘出来る奴はなるべく戦闘に出てくれ。支援系は船から後方支援。

本屋、茶々丸、綾瀬、状況はどうだ?」

「ヨルダ=バオトの思考回路は追えます!憑依されている千雨さんの意識は読めない状態ですが、完全な憑依状態にはなっていないのでまだ残っています」

「黒泥については試算したところ、残り三時間ほどで地球すべてを覆いつくすかと」

「三時間!?」

「早っ!」

「いくらなんでも早すぎんだろ、地球一周四万キロだぞ」

「どうやらこの世界の死者の怨嗟も吸収しているようです。また、四方八方から覆い始めているので」

「速度ではおおよそマッハ6ですね」

「この世界の怨嗟か……嫌になるぜ、まったく」

 

千雨はこの世界の近代史を思い出す。

"超常"と呼ばれる"個性"発現黎明期や混迷期はこの世界に多くの悲劇を生んだ。それが黒泥を強化しているのだろう。

 

「いいんちょ、マッハ6ってどれくらい速いの?」

「新幹線の25倍ほどですね」

「マジか」

「ヤバいじゃん」

「桁違い過ぎてわからんヤバさだ」

 

ワイワイと騒がしい船内に、嗅ぎ慣れた美味しそうな香りが広がると共に、キッチンの方からいくつもの蒸篭を手にした二人の少女がやってくる。超包子と書かれたボディスーツに白衣をまとった葉加瀬聡美と、超包子と書かれたコック服を着た四葉五月だ。

 

「超包子特製肉まん出来ました!」

「皆さん食べてください」

「すご!はや!うま!」

「さっちゃん、ハカセ、ありがとー」

 

再現した肉体でも食事は出来るらしい。肉まんを食べている彼女たちに恐怖はなく、朗らかな日常のようだ。

 

「そろそろ合流するよ」

「ほら皆さん!シャキッとしてください!」

「はーい」

 

ハルナの言葉にいいんちょこと雪広あやかが船内にいる全員に呼びかける。

一方、影の召喚魔の群れの間から炎があがっているのを見た千雨はデッキから飛行魚の上部に移動した。

どうやらエンデヴァーを中心に必殺技で召喚魔を打ち倒してきたようだが捌き切れていないのか、何人かのプロヒーローは召喚魔によりマジェスティックの足場から落ちているようだ。

千雨のちょうど目の前で召喚魔に足をつかまれて落ちていくプロヒーローを白い翼を背中に生やした刹那が救出し、明日菜が周囲の召喚魔を一掃する。

 

「うおっ!?」

「な、なんだありゃ!?」

「あれは……千雨くんか!」

「皆さんお待たせしました!!

飛べる奴は神楽坂が食い止めてる間に救出してくれ!」

「落下しかけているぷろひーろーは拙者たちに任せるでござる」

「ちょ、それ私もっスか?」

「怪我人はこっちやー」

「長谷川!報道カメラとガリガリの人も保護したアル!」

 

千雨の指示で楓と美空が補助する形でマジェスティックの足場から飛行魚の船内へと移動した彼らに、木乃香がハエノスエヒロとコチノヒオウギを振るう。

また、地上の泥から引き上げたまま上空で空飛ぶ絨毯に乗っていたオールマイトと報道記者とカメラマンをまとめて古菲が保護してきた。

金魚に似た空飛ぶ不思議な乗り物に乗ってこの場にいる様々な服装の女学生たち。さらに言えば、千雨が使用してみせた空飛ぶ箒や治癒の扇を同じように扱う彼女たちに驚いていた。

 

「なぜ学生が……それにその能力は長谷川少女と同じ……!?」

「私たちのことを説明すると長いのですが……私たちは千雨さんの仲間で、あなた方の味方です」

「神楽坂!桜咲!全員回収したら準備が整うまで安全確保を頼めるか!?」

「オッケー!任せといて!いくよ刹那さん!」

「はい!明日菜さん!」

 

保護されたものの混乱しているオールマイトに対してミントグリーンの髪に猫耳のような髪飾りをつけた絡繰茶々丸が敵ではないと言っているかたわら、飛行魚の上部にいた千雨が指示を飛ばして船内へと戻ってきた。

 

「千雨くん、無事だったか」

「ええ、まぁ何とか。

安全を確保している間に情報共有と作戦を立てます」

「ああ。奴は自身のことをヨルダ=バオトと名乗っていたが……」

 

ギャングオルカは千雨と瓜二つの顔なのが気になっているのだろう。

困惑と疑惑の視線を向けられた千雨はそれに動じることなく言い返す。

 

「他人の空似です」

 

無理があるその言葉に納得したものは誰一人としていない。

しかし千雨はそれを承知で話を続けた。

 

「あいつ……ヨルダ=バオトの狙いは二つ。ひとつは私ですが、これは後に回します。

もうひとつは人類滅亡で、黒泥で地球丸ごと包もうとしています。地球が覆われるまでのタイムリミットは約三時間」

「地球規模の攻撃が出来るほど強力なのか!?」

「そんなことが一人で可能なんて……」

 

個性は身体機能のひとつ。どれほど強力でも個性には上限や発動条件による何かしらの制約がある。

星を覆う規模というのはにわかに信じられないことだろう。

 

「実際に今起きてるんだ、事実として認める他あるまい」

「では、泥に飲まれた人々は……」

「いえ、泥に飲まれているだけでまだ無事です。現に千雨さんが脱出出来ているのでそれは間違いないでしょう」

「私の魔眼でもそれは間違いない」

 

ザジと龍宮の補足に対し、千雨はヨルダ=バオトが忌々し気に言っていた完全な憑依が出来ていないという言葉なども踏まえて、おそらく千雨が泥から無事に脱出出来たのは明日菜のもつ『火星の白』に加えて、内側からの妨害によってうまくいっていないのだろうという推測は正しかったようだ。

 

「なんにせよ、こっちからすりゃ好都合だ。

間に合ううちに倒すしかない」

「待ってくれ!君は、こんな状況であんな敵に勝てると言うのか!?」

 

若いプロヒーローの一人が焦燥した顔で叫ぶ。

 

「見ただろう、奴の強さを!君も一撃で倒されたじゃないか!

いくら味方が増えても敵の方が多い!勝てるわけが……」

「落ち着きなさい」

「オールマイト……」

 

正気でいられない彼の言葉を遮るように、オールマイトが声をかけた。

痩せこけてコスチュームもボロボロなオールマイト。それでもその声は変わらず力強いことに混乱していたプロヒーローも多少は冷静さを取り戻したようだ。

 

「長谷川少女にも話せない理由があるんだろう。

そもそも未成年で学生に頼るべきではないにも関わらず、彼女はここで我々と共に平和の為に立ち向かっている。

一度奴を追い詰められたのも、私たちが今ここに居られるのも、長谷川少女のおかげなのは間違いない」

 

真剣なオールマイトの言葉を誰もが静かに聞く。

 

「長谷川少女。

私は君を信じよう」

 

たった一言。しかしその言葉の重みに千雨は全身が震える。

オールマイトが、プロヒーローたち大人が、そしてネギ・スプリングフィールドが背負っているもの。逃走も敗北も許されず、自身の一瞬の選択が全てを左右する決定権を信じて託した。

それは千雨自身がこれまで傍観し、そして避けてきたものだ。

千雨には安請け合いできるほどの度胸はなく、勝利を断言できるほどの自信も、真実を言う覚悟もない。力も知恵も未熟で借り物ばかり。何もかもが不足している。

それでも。

 

「必ずヨルダ=バオトを倒し、世界を元に戻します。

私に力を貸してください」

 

それでも、そんな千雨を信じてくれると言う彼らの心に応えたいと思う以上、覚悟を決めねばならない。

必ず勝たねばならない。

 

オールマイトと千雨の言葉に誰も異論を唱えず静かに頷くヒーローたちに対して、元気な返事が響く。

 

「勿論じゃん!」

「やるよ皆!」

「がんばろー!」

「千雨ちゃんよく言った!!」

「いやーあのひねくれ娘がこんなに成長しているなんて」

「あのちうちゃんがねぇ」

「……(データ保存中)」

 

いつもの騒がしさを発揮する麻帆良3-Aの面々に千雨は怒鳴ろうとしたが、彼女たちの目を見てそれは思いとどまった。

千雨に向けられた目はまっすぐ真剣で、千雨の言葉を信頼しているのが見て取れたからだ。

 

「即席だが今いる人員で出来る事をしていくぞ。

パル、搭載している砲撃をギャングオルカさんに任せてくれ。テメーは船の操縦と、いざという時のゴーレム召喚に注力してくれ」

「オッケー!」

「砲撃か……」

「ギャングオルカさんのエコーローケーションを使えば精度は問題ないはずです」

「なるほど、そう使うか……いいだろう」

「それからエンデヴァーさんの炎が効いていたから、エンデヴァーさんを中心に明石と龍宮で飛行魚で射撃出来ない部分の広域カバーを頼む。

三人の足場はマジェスティックさんにお願いします」

「このゆーなキッド様にお任せあれってね!」

「長谷川、私に依頼する以上報酬は期待しているぞ」

「この状況で報酬とか出せるかっての」

「仕方ない。ボランティアは今回だけだぞ」

「よし。他のヒーローや戦闘向きじゃねぇ奴らにも撃退特化型の武器を渡す。出来る限り船にくる敵を倒してくれ」

「待て、千雨くんだけで向かう気か?」

「この船が落とされると万が一の仕切り直しが出来なくなりますし、ここを守りながら敵の数を減らしてもらえると助かります」

「ム……」

「オーケー、それじゃあこっちは俺たちに任せな」

 

納得しきってはいないエンデヴァーを横にマジェスティックの返事を聞いた千雨は頷いて少し離れた場所に立つ。

 

「電子の王、再現。千の顔を持つ英雄。

MM連合製送還器」

 

千雨の手元に1メートルの両手剣が現れた。

千の顔を持つ英雄。ジャック・A・ラカンの持つアーティファクト。

使用者の望むありとあらゆる武具・防具になるという変幻自在で破格の能力を持つ。

この強力なアーティファクトはラカンがバグキャラと呼ばれるほどの強者故に得られたとも、奴隷剣闘士時代にあらゆる武器を使っていたからとも言われている。

千雨の言葉に従うようにして両手剣は溶けるように消え、いくつもの銃やバズーカ、杖などの形をした魔道具に形を変えて千雨の目の前に現れた。

 

「高性能の武器だ。銃型のは弾が入ってるから引き金を引くだけだ。杖型のは構えて光った状態で振れば射出する。近接型もあるから好きなものをつかえ。

ちなみに人体に当たっても影響が出ないが……記憶再現体(テメーら)にゃ影響が出る可能性があるから、いざとなったら避けろよ」

「ウチらに対して雑じゃん」

「雑だ」

「ようするに、当たらなきゃ良いって事でしょ?」

「じゃあなんとかなるかー」

「皆さん、気を引き締めてください!お遊びではないんですよ!」

「いやいいんちょ、気負いすぎてもどーしようもないっしょ」

「ウチらなら何とかなるって!」

 

一方、ワイワイとどの武器を使うかと話しながら文句をいう面々にプロヒーローたちは奇妙な感覚に陥っていた。

自然体過ぎるのだ。これから戦う事が怖くないかのように、根拠もなくなんとかなると言える楽観的思考でいる彼女たちがこの場においては異常なのだ。

しかしそれと同時に、不思議なことに明るく元気に振る舞う彼女たちの姿を見ていると本当になんとかなる気がしてくる。

 

「船内メンバーの大まかな取りまとめはいいんちょに任せる。

本屋、綾瀬、茶々丸、葉加瀬は作戦の成功率を上げるためのブラッシュアップに知恵を貸してくれ」

 

千雨の指示にしたがって船内がより騒がしくなった。

 

「それでは皆さん!各自準備いたしますわよ!」

「おっけーいいんちょ!」

「オールマイト、あなたは休んだ方が」

「大丈夫だ問題なゴパアッ」

「吐血しといて何言っとるんこの人!?」

「木乃香ー!この人吐血した!治癒!治癒して!」

「うわすご、マジで燃えてるんだ」

「燃えてる人って言うとフェイトガールズの娘を思い出すよね」

「焔ちゃんだっけ?元気かな」

「狙撃はここのボタンで、照準はこのハンドルで変えれるんで」

「すごーいツルツルー」

「シャチだー」

「……君たちは、怖がらないのか?」

「え?何に?」

「あ、NHAの現場アナとカメラさん。ちょーっと私から提案させてもらってもいいです?」

 

騒ぐ面々をよそに千雨たちは別室で作戦を考えていく。

 

「やはり確実性を得るならばこちらかと思います。ですが……」

「大丈夫だ。覚悟はしている」

「……わかりました。

それならば千雨さん、このアーティファクトは使用しましょう。

もしも失敗した場合のリカバリーをしやすいかと」

「千雨さん、この作戦なら千の顔を持つ英雄の使用者変更が可能であればいいんちょさんにしてください。

それからアスナさんと刹那さんに一度戻って貰う必要があるかと」

「古菲さん、頼めますか?」

「うむ!

皆!今からアスナと刹那とバトンタッチしてくるアル!」

「古菲、私も行こう」

「私らも今のうちに試し打ちしに行こ」

「さっちゃん肉まんちょーだい!」

「ウチのドーピングするんなら今のうちにしとくけど」

「いやそれはちょっと」

「千雨ちゃん!アスナたち戻ったよ!」

 

まき絵の声と共にドレス姿のアスナと猫耳和風メイド服の刹那が戻ってきた。無事に交代することが出来たようで、影の魔物たちはまだ船に近寄れていないようだ。

千雨を中心にアスナと刹那に作戦を伝えて実行準備をしていった。

 

 

 

 

「よし!作戦開始!」

 

準備開始から五分後。千雨、アスナ、のどか、刹那、木乃香、夕映、古菲、楓の九人がグレート・パル様号に沿うように現れた大きなマンタに乗り全速力で上空へと向かう。

 

「敵の動きは!?」

「こちらとあちらで半々に分散といったところです」

「よし!このままヨルダのところに向かう!宮崎、マンタの操縦頼むぞ」

「は、はい!」

 

千雨たちが千雨=ヨルダへ接近するのを阻もうと魔素で編まれた影の魔物たちが襲い掛かるものの、アスナが持つハマノツルギの一薙ぎによって白く光る魔力片へと変じていった。

遠くから見た千雨たちは暗闇の中に走る一筋の白い光に見える。

 

「大丈夫かな?」

「心配いりませんわ。アスナさんたちがいますもの」

「いざとなったらウチらも駆けつければ大丈夫っしょ!」

 

銃声が響き光線の飛び交う現場で前向きな言葉が響く。その言葉は陰る心に活力を与え奮起させた。

 

 

一方、上空を目指す千雨たちだが、千雨=ヨルダに近付けば近付くほどに影の魔物たちが増えて行く手をはばむ。

 

「やはり流石にこの数をさばいて本体と相対するのは難しそうです。

作戦通り、私たちが周囲を抑えます」

「任せた!」

 

影の魔物を撃退しながら進む彼女たちの勢いは落ちることなく、ついに千雨=ヨルダのいる高度にまで到達。

黒泥が天を覆うその起点のすぐ下にいた千雨=ヨルダは苦虫を噛み潰した表情で待ち構えていた。

 

「何度も、何度も、邪魔をしよって……!!」

「ここまでだ!!ヨルダ=バオト!!!」

「そう簡単に、やられてなるものか!!」

 

周囲にあつまる影の魔物たちを楓、古菲、夕映、のどかが倒し、木乃香が治癒し、千雨、アスナ、刹那が千雨=ヨルダを倒さんと向かう。

ヨルダが影から編んだいくつもの影の槍をアスナの持つハマノツルギが打ち消すものの、打ち消された端からすぐさま新しい槍を生成していき、一瞬の隙をついて千雨を貫く。

千の顔を持つ英雄による魔導鎧すらも貫き魂に食い込み侵食するその一撃は、ヨルダ渾身の一撃だ。

ヨルダ=バオトにとって神楽坂アスナ(黄昏の姫御子)の能力は恐ろしいが、それよりも何度も何度も立ち向かってくる千雨を先に始末する方が簡単だと考えたからである。

 

しかし。

しかし貫いたはずの姿は揺らぎ、千雨から桜咲刹那の姿へと変わる。

そしてその隙を突くように、イノチノシヘンによって神楽坂明日菜に変じていた千雨が右手に持つハマノツルギと、桜咲刹那に変じていた神楽坂明日菜から受け取り左手に持った太刀の形に輝く武御雷剣の二振りを手にしてヨルダの懐へ飛び込む。

千雨、刹那、明日菜の三人で姿を入れ替えていたのだ。

これはいざというときに千雨が狙われるのを避けるとともに、最悪の場合でも千雨がハマノツルギを使えるようにするための作戦であった。

 

「――――ッ!?」

 

懐に飛び込んできた千雨を目の前にして、ヨルダは憑依している肉体が急に動かなくなったことに驚く。

――馬鹿な。鎮め石により多少魔力の動かしづらさはあれど、肉体の主導権は確実に奪ったはずだ。

そんなヨルダの焦燥を嘲笑うかのように、黒泥に侵され擂り潰されたはずの存在(精神)がヨルダの内側で嗤って囁く。

 

一体いつから――――私が消えたと錯覚した?

 

脳内に響いたその言葉に、ヨルダ=バオトは理解した。

この女は肉体の主導権をわざと奪わせていたのだと。この時のためだけに。

 

光り輝く武御雷剣の刃が、千雨=ヨルダの心臓を貫く。骨肉を貫く感触とともに真っ赤な血が千雨の手と服を汚し、千雨=ヨルダの身体は重力に従って落下する。

憑依体が命の危機に陥ったことにより憑依先変更の条件が成ったことで、ヨルダ=バオトは再び動き出す。

 

「ア、アア、アァアアァァアアア!!!

コノ私ヲ、謀リヨッテ!!!!!

許シテナルモノカ!!!!!

許シテナルモノカ!!!!!

長谷川、チサメェェェエエエエエ!!!!!!」

 

ヨルダ=バオトは絶叫しながら一矢報いんとばかりに、肉体が完全に死ぬ前に憑依を解き、目の前の千雨に憑依しようと三対の腕と黒泥でできた複数の鞭を向ける。

だが、その攻撃が届くよりも先に、千雨がもう片手に持っていたハマノツルギの柄を明日菜も掴んだことで【火星の白(魔法無効化能力)】により白く輝くホウマノツルギへと変化し、同時に二人の目前でヨルダ=バオトの動きが空中で突然止まる。

 

「うおおおおおお!!!」

 

ホウマノツルギの【火星の白(魔法無効化能力)】により、ヨルダ=バオトが袈裟斬りされるとともに長い年月をかけて築いたあらゆる術式が壊され、おびただしい数の死者の怨嗟の黒泥が全てまっさらな魔力片へと変わっていく。

 

夜明けの空を覆い尽くすほどの魔力片は白く光りながら雨のように地上へと降りしきる。

その光景はまるであの日見た桜のように美しく、あの日浴びた春の陽射しのようにあたたかく。

 

光の雨の中で千雨は不思議な夢を見た。

 

 




約半年ぶりの更新。またせたな皆の衆!いろいろあった。いろいろ……あったんじゃよ……。
ヒロアカ七期始まったし映画第四弾も夏に控えているし本誌はガチで最終回目前でといろいろと感情があっちこっちしてます。あと5話ってマ……?

さて、今回のタイトルは前書き通りデコードすると
『Chisame Hasegawa:"LIES"ING』
日本語表記にすると『長谷川千雨:"ライ"ジング』になります。
このタイトルについては『ヒロアカらしさ』と今回の内容を照らし合わせ、表記がこうなりました。
『RISING』ではなく『LIES』+『ING』。※なお本来『lie』の現在進行形は『lying』で、拙作は『lie』の複数形にingを付けており、綴りについてはあえての誤字となります。
こちらは該当する者が同一複数かつ進行形なのと、韻で意味を込めつつダブルミーニングにしたかった結果なんだが、本場ではこういう時にどう扱うのかわからない。一応強調するために""を付けました。
(有識者ニキネキいたらマシュマロの方でこっそり教えてくれると嬉しいです。こっそり直すので。感想欄だと消されかねないので)

今話前半で書かれたコチノヒオウギと不思議な注射器の組み合わせによるオーバーブースト魔力運用方法。
コチノヒオウギによる完全回復の重ね掛けによる不調を緩和するために濃縮魔力ドーピングバフ。普通の人ならぶっ倒れるところを無理矢理なんとかするスタイル。普通に急性魔素中毒とか色々後遺症を引き起こしかねない危険な行為だったりする。正気の沙汰ではないが、正気で勝てる見込みがなかったが故の選択。

後半部分の入れ替わり作戦については記載の通り。
刹那→千雨に変装
千雨→アスナに変装
明日菜→刹那に変装
でした。変装方法はイノチノシヘン。刹那が自前の翼で飛行しなかった理由は入れ替わっていたからでした。
この変装について作者が書き記してた謎のメモは下記の通りである。

ちう様に姫御子ドレス着てほしい高校 校歌(作詞・安達武)
ちう様に姫御子ドレス着てほしい
あのファンタジーミラクル構造なドレス着てほしい
ルーランルージュコスも大好きで最高だけど
UQで図書館組の二人が着たんだし
ちう様だって着ていいと思うんだ
ちう様だって似合うと思うんだ
何段階にも何種類にも
変身して変わる衣装は
魔法少女の定番だろ
嗚呼ちう様に姫御子ドレス着てほしい高校

ちう様に武器二つ持ちしてほしい
二刀流とかロマン武器とかをかまえてほしい
いつものステッキも大好きで最高だけど
アプリで色々だせるんだし
ちう様が二刀流していいと思うんだ
ちう様はロマン分かると思うんだ
何通りにも何種類にも
組み合わせられる武器は
俺たちのロマンだろ
嗚呼ちう様に姫御子ドレス着てほしい高校


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