ひねくれ魔法少女と英雄学校   作:安達武

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――――きっと。
きっと、私は。
あの日――――



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気が付けば、千雨は見知らぬ場所にいた。

一糸纏わぬ状態であることに羞恥を覚えすぐさま両腕で身体を隠すが、身体が白く光っていることから精神体で記憶の中に居るのだと気がついた。

周囲の石材や木材などを組み合わせた家のつくりからして、ここは千雨の生まれた時よりも古い時代の記憶だろう。この記憶から思い当たる存在は一人だけだった。

少しはなれた場所から人々の騒めきが聞こえる。声の方へと向かえばそこは村外れにある小さな広場のようなところで襤褸をまとった小さな子供が人々から石を投げられていた。

子供は小さく小さくうずくまって泣いていた。

 

「この化け物!!」

「お前のせいで不作なんだ!」

「悪魔憑きの親殺しめ!さっさと死んじまえ!」

 

目の前の人々が口にするのはまったく知らない言語であるはずだが、不思議とそれがわかる。

罵声とともに子供に拳ほどの大きさの石が無差別に投げられたと思うと、その石は空中で停止してから投げ返されるようにして投げたものたちに向かって飛んでいく。

人々は突然起きた出来事に驚き叫び、悪態をつきながら逃げていった。

うずくまって泣いていた子供は何が起きたのかとそろりそろりと身体を起こすと、自身のそばにフードを被った真っ白なローブを着た大人がいる事に気付き、身体が固まる。

その人物から伸ばされた右手にギュッと強く目をつむるが、痛みが来ない事に子供は薄目を開くと、ローブの人物は襤褸をまとった子供の頬に優しく右手をそえる。

彼女は人とは思えないほど整った綺麗な顔をこれでもかと悲痛な表情にゆがめていた。

 

「そなたの痛みは我が痛み。共に来るといい。

我が名はヨルダ・バオト……君の同胞だ」

 

頬に触れている右手が柔らかな光を纏い、子供の傷を癒す。

これはヨルダ=バオトがただの人間のヨルダ・バオトであった時の記憶だった。

 

ヨルダ・バオトは子供の手を引いて村に背を向けてどこかへと歩いて行く。

 

「私は、君や私のように迫害されて苦しむものが居ない……誰もが幸せでいられる世界をつくりたい」

 

それはヨルダ=バオトの原点だったのだろう。

彼女は本来ならば夢物語で終わってしまう筈のやさしく壮大な願いを一人で叶えることが出来た。否、出来てしまった。

 

景色が先程の場所から石造りの建物に変わる。

 

「……アマテル、我が娘。これからはお前が彼らを導きなさい」

 

ヨルダ・バオトは他の迫害されし者たちと異なり、誰よりも強い魔法を使え、誰よりも他者の心に寄り添う事が出来た。

人の痛みや気持ちに寄り添える共感能力は迫害されてきた彼らを時に慰め、時に奮起させ、彼女を長に据えることに異議を唱えるものは誰もいなかった。

その強大な力で火星の大地を土台として魔法世界という異界を造り出し、同胞のための居場所を用意し、彼女自身が娘を産んだ後。

 

「私は、亡き同胞を手放せぬ」

 

ヨルダ自身を取り巻く死者の魂。

彼女の共感能力は死者にも届き、自身にすがる魂のエネルギーが魔力として肥大していく。

 

「私は、彼らをも救いたい」

 

彼女のやさしい願いは、力を増すごとに歪んでいった。

 

これまで亡くなった同胞の無念をはらうためにも、これから生まれてくる同胞を救うためにも、時間が圧倒的に足りない。

時間を引き延ばすために不死性を得るべく研究をすすめ、魂に着目し、肉体を超越する術を編み出し……いつからか彼女の願いは、世界中で起きた悲劇の数だけ肥大と暴走をはじめていった。

魔法を扱える同胞を対象にしていた願いは、同胞を迫害する全てのヒト種をも対象にし、ついにはヒトの住まうこの世界そのものが対象となり。

 

「私は、この太陽系にあるあまねくヒトを救うために、世界そのものをつくり直す。

それこそが『完全なる世界』である。

その為に成すべき事は多いが、手始めに……世界の維持をする」

 

そこからは断片的な記憶になるが、いくらかは千雨も知っている通りだった。

秘密結社「完全なる世界」による魔法世界維持のための暗躍。エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルの真祖化。ナギ・スプリングフィールド一行「紅の翼」との対決。そしてそこから二十年後の千雨たち「白き翼」との対決と、麻帆良学園地下に封印されていたヨルダ=バオトの復活。

そのままヨルダ=バオトの記憶が続くと思っていた千雨だったが、場面が急に変わった。

 

そこは魔法世界の飛行魚……グレートパル様号の船内に似ているが、それよりも広いつくりの部屋だ。船外には銀河が広がっており、すぐにこれはヨルダ=バオトの記憶ではなく、ヨルダに憑依される前の自分の記憶だとわかった。

 

どうやらこの千雨はヨルダ=バオト討伐に向けて宇宙空間での探索などをしていたようだ。宇宙を航行する宇宙船の作戦室であろうその部屋には、太陽系の宇宙地図や火星の地図が広げられ、ヨルダ=バオトの使用したであろう転移門の痕跡などが書き込まれていた。

その部屋にいる千雨の手にはテープレコーダーに似たカセット。No.19とラベリングされたものを電子精霊が読み取り千雨の目の前のモニターに再生していた。

 

それは、超鈴音が100年におよぶ眠りについた神楽坂明日菜を未来から過去へと連れていった世界。

『千雨のいた世界』の映像だった。

あたたかな春の日差しの中で麻帆良学園女子中等部3-Aの31人が花見をしている。誰一人として欠けることなく、桜の木の下で騒いでいる。誰もが笑顔でいる。暖かくて、騒々しくて、ありふれてくだらない日常の一幕。

それをみている彼女にとっては『あり得た幸福の記録』だった。

神楽坂明日菜が笑っている姿も、その横で女子たちに翻弄されながらも笑っているネギの姿も、それを遠くから見ている自身の姿も。

何もかも、この千雨には存在しない記憶。喉から手が出るほど欲した光景。

 

偶然見てしまった『あり得た幸福の記録』が入っていたローブを手に、千雨は艦内にいるネギを探していた。

作戦室に忘れ物だと言って渡すために。記録を見たことは内緒にしようと決めながら。

そこで、廊下でネギが一枚の写真を手に呟いているのをたまたま近くにいた千雨は聞いてしまった。

 

「アスナさんが居てくれたらなぁ」

 

その切なる願いが千雨の胸を抉る。

 

ひたすら走り続けてきた。

ひたすら積み上げてきた。

ひたすら支え続けてきた。

それでも、『長谷川千雨』では『神楽坂明日菜(ネギの一番)』になれない。

 

だから『長谷川千雨』として、出来ることをしなくてはならない。

分かっていた事だ。しかしまるで心が鉛にでもなったかのように、深く深くどこかへと沈んでいく。

 

「ああん?おい私達じゃ不足ってかこの」

「あばばば!?いえっそういうことではっ!

千雨さんっ録音中ですっ!」

 

背後から近付きアイアンクローをかける千雨に対して慌てるネギ。

千雨が不機嫌そうに舌打ちをして離れていくと、ネギはまた写真に向かって呟いた。

 

「……アスナさん……あなたに会いたいです。

あなたが……とても懐かしい」

 

ネギの声はあまりにも切なくて。あまりにも苦しくて。

その本心を隠れて聞いていた千雨の目の奥には静かな覚悟が灯っていた。

 

映画のように記憶の場面が切り替わる。

今度は麻帆良学園の世界樹広場と呼ばれる大階段近くにあるカフェのテラス席だった。

そこからは屋久杉なんて目ではない何百メートルもある巨木が暖かな陽射しを浴びながらその枝葉を揺らしているのがよく見え、手元のアイスコーヒーは日差しを浴びてガラスのコップに水滴を浮かべている。

 

「久しぶりだな、超鈴音」

「千雨さんが私を呼ぶとは珍しいネ」

 

両把頭とも呼ばれるシニヨン2つにシニヨンキャップをかぶせている黒髪の女性は中国訛りの独特なイントネーションで喋る。

千雨もよく知っている元クラスメイト、超鈴音。彼女は麻帆良学園女子中等部3-Aの一人であり、中国出身に見せかけて、実は平行世界の100年後の火星からタイムマシーンでやって来た自称ネギの子孫。

かつて中学三年生の初夏に開催された麻帆良学園祭の最終日に世界樹の魔力を用いて、魔法の存在をバラそうとしたが、ネギとその仲間たちに防がれたのは懐かしい思い出だ。

とはいえ並行世界の未来にいる超と連絡をとる方法などあるのかという話だが、そこはネギから聞いていたのであろう。千雨は突然目の前の椅子に座って現れた超に驚くこともなく話をし始めた。

 

「突然で悪いが、ちぃっとテメーに聞きたいことがあってな」

「もしや計画に関わることカ?私に答えられることなら答えるネ」

「……お前はかつて、学生時代に過去を……いや、世界を変えにきたと言っていたよな」

「……ああ、君たちに阻まれてしまたがネ」

 

懐かしい過去を思い出しながら超は手元のティーカップに角砂糖を一つ入れてスプーンでかき混ぜる。

中学三年生の学園祭最終日、超鈴音は『世界中に魔法の存在をバラす』ために世界樹の魔力で広域認識魔法を実行しようとした。魔法の存在を公表することで世界中の戦争を無くし、いずれ起きる悲劇を回避しようとした。

しかし、それはネギとその仲間たちによって阻止された。

ネギにとってあの戦いで得たことは大きなものとなっている。

この世は、正義と悪の二つではなく、無数の正義が存在している。どちらも間違っていて、どちらも正しい。

ただ、誰が幸福になるかが違うのだと。

たとえ魔法があっても、おとぎ話のような全員が幸せになることを選べるものはごくわずかなのだと。

全ての人間の罪であり、傲慢であり、挫折であるそれへの答えを、ネギは今も悩み背負っている。

 

「懐かしいネ。アレは私にとて忘れられない敗北だたヨ」

「……つまり、お前がいない麻帆良3-Aの世界線(最初の世界線)では()()()()()()()()()()

「……突然の問答だネ?

どうしたネ千雨さん、哲学の話なら私より綾瀬夕映(適任者)がいるヨ?」

 

いつもの笑顔を崩さぬ超に千雨もまた確信したまま話を続ける。

 

「未来人にして天才頭脳の超鈴音。お前の狙いについて何度も考えた。お前が何故学園祭の失敗を気にせず、この世界線のネギに関わるのか。何故こうして()()に来るのかを。

お前がこの世界の観測を続けるのは()()()()()()()()()()()()()()()()()ことの結果の観測が目的だな?」

「……面白そうダ。千雨さんの推理を教えてほしいネ」

 

千雨の言葉に否定も肯定もせず、超は千雨に話の続きを促した。

 

「私の性格からして、物騒で非日常極まるもんに関わるなんて『世界の危機』でもなきゃあり得ねぇ。

事実、中学三年一学期の私は自力で存在に気付いても、仮契約するほど関わることはなかった。

テメェが未来技術の粋(茶々丸)をつかって学園結界にハッキングしてこなきゃな。

そもそも……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

つまり、私はお前の起こしたバタフライ・エフェクトのひとつであり……大きく逸脱した存在(最大のイレギュラー)ということだ」

 

超鈴音がタイムマシンで過去改変にて為したことは麻帆良学園に超鈴音がいることだけではない。絡繰茶々丸、彼女の存在もまた過去改変によるものであった。

超がいなければ、茶々丸もいなかった。

超がいない世界……『始まりの世界線』での麻帆良学園女子中等科3-Aは31人ではなく、()()()だったのだ。

 

「思い返してみりゃ、茶々丸が私のハッキング技術なんかを知っていたのもおかしな話だ。()()()()()()()()()()()()()()()()()。そして()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

周囲の認識も()()()()()()()程度で、ハッキング技術なんざ知る余地もなかったはずだ」

「千雨さんのパソコンにハッキングしたとかは考えなかたカ?」

「それも考えなかった訳じゃねぇ。だが、それなら余計に謎がある。

お前は私を仲間に引き入れなかった。デジタル機器やインターネットの普及が終わったばかりのあの時代にテロを起こしに来た奴が、だ。私を引き入れてりゃ電脳戦に余裕で勝てて計画が達成出来ていた」

「……たしかに、私は千雨さんを仲間に引き入れなかた。それは千雨さんの性格を知ってのものとは考えなかたカ?」

「ああ。だが十年以内に戦争が起きると言われりゃ、私も手を貸したさ。

()()()非日常になるとはいえ、終わりの見えない非常事態(戦争)よりはマシだとな」

「……たしかに、私は千雨さんがネギ先生のパートナーになるのを狙ったヨ。

貴女はこれからの未来に必要な人材だたからネ」

「そこだ。私は、それがわからなかった。

麻帆良にゃ多少ネットができる奴は他にもいるし、それこそナツメグさんなんかもいる。

それでもお前には()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()があった」

 

千雨の含みのある物言いに超は気付いた。

 

「……知たのカ」

「言われてみりゃ、不思議だったからな。

初等部の寮は本来高学年希望者のみ。だが、私は特別に入学と共に入寮することになった。()()()()()でってやつでな。

だが、それなら神楽坂だってそうだった。まぁあいつは『お姫様』だ。高畑もいるからそう簡単に出来なかったとも考えたが……そうじゃねぇ。

元老院がシステムを維持しつづける為の血統。

わずか2年でアリカ女王の処刑が確定した大義名分。

『お姫様』をカモフラージュする囮。

全く……運命ってのは、皮肉で残酷だな」

 

目を逸らして自嘲気味に言い放った千雨はそっと眼鏡のツルに触れて外す。

自身を守るための仮面として伊達眼鏡をかけ始めたのはいくつの事だったか。今となってはぼんやりとした記憶だ。

 

「それで、そこまで気付いた話をなぜ私にするネ?」

「私の計画にテメーの頭脳と技術が必要なんだ。

『私』を巻き込んだんだから、断らせはしねぇぞ」

「やれやれ……まぁ、千雨さんの依頼なら突拍子もないことはないし、良いネ」

「テメーに頼むのは二つ。一つはこのシステムの開発協力だ」

 

千雨は超にどこからともなく取り出した分厚い資料を手渡した。

超はそれを読み進めていく度に目を見開き、口許を右手で覆う。

 

「これは…………!」

「出来るか?」

「私に不可能はないネ。とはいえ……そうか、確かにこれならバ……対抗出来る」

「言っておくが、こいつはお前の嫌いな戦争の火種になるぜ?」

「だとしてもこの発想はなかたヨ。それに、この発動条件なら該当するのは千雨さんだけネ。

……これを、茶々丸を介して渡すんだナ?」

「ああ。そして渡すのはNo.19の世界(お前の起こしたハッピーエンドの先)にいる中学卒業時の私だ」

「それは……!」

「お前が手を貸したあの世界なら、私が抜けても問題ない。違うか?」

「……多少分岐する分には問題ないとはいえ……心配してしまうネ」

「あん?文句あんのか?」

「無問題、無問題。

頼まれた依頼はきちんとこなすヨ」

 

超の持つA4サイズの仕様書にはこう書かれていた。

アーティファクト仮想実体化アプリケーションシステム、通称『アーティファクトアプリ』。

記録したアーティファクトデータを擬似再現する、力の王笏専用アプリと。

 




回想編・前編
ヨルダ=バオトともう一人の自分の記憶が流れ込んだ千雨。
ヨルダの過去の行動についてはUQなどからの推測になってます。読破してはいるが読み込めてないかもしれないのでご意見ある方いると思いますが、拙作ではこのように解釈したということで。

そして拙作にて詳細がブラックボックスにされてたアーティファクトアプリの真実。
未来の本人が考案して天才が作り上げてたらそりゃやべぇ代物になってもおかしくないし、そして茶々丸は魂を持っているとしても産みの親と未来の千雨が共謀してアプリを手にした流れを捏造されてたりする。

千雨の知ったことについては回想編・後編と後書きで詳しく。とはいえ大体お察しの通りです。
今の時点でわかった奴!感想に書かずに次回で答え合わせな!!!


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