ひねくれ魔法少女と英雄学校   作:安達武

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拙作の7周年前祝いおよび原画展とっても楽しかったです記念



Before deploy 404

長谷川千雨は雄英高校にいる。

のどかの告げた居場所に全員驚くが、生徒たちよりも大人たちが先に納得した。

 

「灯台下暗し、ってことか」

「いくら千雨ちゃんが生徒だとしても、世界規模での大事件を起こした敵がセキュリティが高くヒーローも複数常駐している雄英にいるとは普通考えられないからね」

「雄英は強固な電子セキュリティが敷かれている上に、学生の演習用とはいえ戦闘にも使えるロボが多数いる。世界規模で電波ジャックを出来るなら雄英は潜伏先として最高の環境だろう」

「たしか今、学校にはブラドキングや13号、ミッドナイト、マイクあたりがいる筈だが……」

「彼らが戦闘不能に陥っているか、認識を阻害されているか……何にせよ動けない上に連絡も取れない状況だと考えられるのさ」

「前々から思っていたが、現代社会で凶悪すぎるぞ長谷川少女……!」

 

オールマイトはI・アイランドで千雨がした事を思い出していた。

あの時はほんの一部とはいえ、タルタロスと同レベルのセキュリティに難なく干渉していたのだ。雄英のセキュリティに干渉しているのは想像に容易い。

バーニンが夕映に質問を返す。

 

「居場所が分かったのは良いけど、雄英のセキュリティが掌握されてるなら敷地に入った瞬間にバレて転移で逃げられたら意味ないんじゃないの?」

「いいえ、それはありません。

千雨さんが雄英にいるのは潜伏目的ではなく、帰還用ゲートを開けるのが雄英高校だからです。

ここに来た最初の場所ですから」

「人工的にワームホールを作り出す以上、同じ場所で開く必要がある……という事かな?」

「ええ、その認識で問題ありません」

 

魔法による転移であるため厳密にはワームホールとは違うのだが、根津の認識でおおよそ間違っていないと肯定する夕映。

同一世界内での転移魔法と異なり、異界や世界線規模での転移は旧世界と魔法世界を繋ぐゲートポートのように決められた地点からの転移が一番安全で確実。だからこそ、千雨がこちらに来た時と同じ雄英でゲートを開く必要があった。

 

「そのゲートが開くまで逃げたり隠れられたらどうにも出来ねェだろ。あのアホ毛のことだから十中八九逃げ回んぞ」

「ご安心を。ヘカテーさんたちの動きは常に把握しているので」

「そうなのか?」

「でも、どうやって?

千雨ちゃんの能力からして機械類での探知は無理ですよね?そういう魔法があるんですか?」

 

麗日の質問に二コリと微笑みを返すのどか。

 

「私は読心術士……心を読むことが出来るんです。

幾つか使う上での条件はあるけど、リアルタイムに相手が考えていることを知ることが出来るの」

『それから、こうして念話で伝えることと、夕映ほどじゃないけど魔法も使えるわ』

 

宮崎のどかのアーティファクト『いどのえにっき』はあらゆる相手の心の表層を絵日記にすることが出来る。使用するには対象の名前を知っている必要があるという条件が付くものの、マスターピースと呼ぶに相応しい強力なアーティファクト。

使用する際に直接問い掛ける事でピンポイントに欲しい情報を取得できるほか、直接問い掛けずとも相手の思考をリアルタイムで知ることも出来る。その他、自身の悩みの解決方法を映し出したり、複数名の思考をリアルタイムで読み取ることも出来る。

魔法世界の迷宮にて手に入れた魔法具『鬼神の童謡』という問いかけた相手の真名を暴くことが出来るアイテムと『読み上げ耳』という文字を読み上げるアイテムの組み合わせで、偽名の相手であっても問題なく敵の思考をまるっとトレースし、本を自分で読まずとも作戦が筒抜けになるのだ。

更に得た情報を念話で発信することで味方にも情報共有が出来ることで、味方すらも敵の攻撃を知った上でカウンター攻撃や回避が出来る。

直接的な攻撃力こそ無いものの、攻撃の回避がほぼ全て可能などころかカウンターすら余裕で出来る、戦闘補助として最上級な能力だ。

 

念話を披露したのどかに対して緑谷や轟は道理で動きを読まれた訳だと納得し、緑谷たち以外の生徒の大半は戦闘向きじゃない能力だなと考え、それ以外の者は敵であれば手強く恐ろしい能力だと考える。

唯一、相澤は期末演習の振り返りの際に「心読みは単独で強い」と千雨が言っていたのは彼女のことかと理解した。

 

「のどかの心読みを防ぐ方法はあるにはありますが、こちらも対策として二人分読んでます。情報の正確性も高いです」

「同一人物だろ?それでも個別で認識出来るのか」

「いくら同一とは言えど肉体年齢や経験などが異なる以上、彼女たちは別の存在で思考回路も別個に存在していますからね。

同姓同名の別人として考えていただければ分かりやすいかと」

「なるほど……」

「それで、長谷川少女たちは今何を?」

「アーティファクト・アプリの解析、帰還の準備、それから千雨さんの治療をしています」

「長谷川少女の治療?」

「千雨さんは短時間のスパンで二回の完全回復を行いました。

完全回復は通常の治癒と異なり魔力も回復します。あのとき過剰回復による魔力暴走やショック状態、急性魔素中毒などにならず戦えたのは、彼女の頑強な精神力、直後に摂取した魔法薬の副作用、過剰魔力の即時使用、そして何よりも幸運だった。

何か一つ違っていれば、魔法使いとして二度と戦えなくなるか、最悪死んでいたかと」

「リカバリーガールの治癒と違って回復しても疲れは感じなかったが、まさかそんなリスクがあるとは……」

「……」

 

夕映の話にオールマイトが顔を青くさせ、エンデヴァーも押し黙る。

オール・フォー・ワンの攻撃からオールマイトを庇っただけでなく、その後のヨルダ戦でもエンデヴァーをはじめ複数のヒーローを衛星砲のビームから守って攻撃を食らっていた。

回復後に普通に動けていたから問題ないのだと思っていたからこそ、そのようなリスクがあったとは予想外だった。

 

「リスクを取ってでも倒さなくてはいけない相手に覚悟を決めた時の千雨さんは、周囲の予想を良くも悪くも上回るんです。

勝利出来たのも含めて、千雨さんの悪運の強さと言うべきかもしれません」

「昔からですが、桜子さんとは別方向に凄いですよ。あのしぶとさと奇妙な運の良さは……」

 

のどかの考察に夕映がジト目で呟きながら過去を思い出す。

千雨と深く関わるようになった上に色々あった中学三年生の一年間だけでも思い当たる節はいくつかある。

学園祭最終日に時空転移した時に高所から落下してもネギが風魔法で落下死を防げたこと。魔法世界でろくに戦えない千雨がケルベラス大森林の樹海に転移させられた時も高所から落下せず謎の病気にかからず魔獣に食われることもなくネギと茶々丸にすぐ合流出来たこと。市街地でフェイトガールズの調に襲撃されても果物屋の露店に落下するだけでほぼ無傷だったこと。

他にもあるが、千雨は勝負所で幸運を掴めるというか、九死に一生を得ると言わんばかりに窮地で運が味方するタイプと言えた。

 

「俺たちは泥に飲まれてたから知らなかったけど……あいつ無茶しすぎだろ!」

「で、でも!治療出来るってことは、千雨ちゃん大丈夫なんですよね?」

「軽度の後遺症が残る可能性もありますが、ヘカテーの治療を受けていれば問題ないかと」

「今は二人でいるようです」

 

夕映の言葉に続けるようにして、のどかが全員にいどのえにっきを見せる。

開かれたページの上半分に描かれているのは、ワイシャツと黒のストレートパンツというシンプルな服装に黒いローブを羽織ったヘカテーと、雄英ではない臙脂色の制服に白いローブを羽織った千雨の姿。

絵ではあるものの、元気そうな姿に全員ほっとしていた。

 

「話を戻しましょう。

転移して雄英敷地内に入れば、我々の行動を察知したヘカテーが向かって来ます。

我々がヘカテーと交戦している間に、皆さんは千雨さんの所へ向かってください」

「お任せして良いのですか?」

「生き残ったとはいえヘカテーもダメージが残っているでしょうし、彼女は我々を殺すことはしません。

魔法を使われないよう気絶させられる程度と考えれば時間稼ぎは問題ないかと」

「そういえば校長、エンデヴァー事務所四名とISSDAの二人はどうするんです?

いくら居場所が分かっても中に入れなければ厳しいでしょうし、ゲストパスも使えるかどうか……」

「オールマイト、確かに雄英セキュリティは支配されているだろうが、彼女たちは潜伏中の身さ!

雄英に居るのを悟られないようにゲート周辺は通常通りにせざるを得ないし、厳戒態勢になっているのはそれ以外のエリアだからゲストパスを取得するのも使用するのも問題ないのは予測可能の範囲。

それに万が一厳戒態勢になっているとしても、校長の僕まで締め出す事は出来ないのさ!」

 

どれだけセキュリティを掌握していても、無闇に厳戒態勢を取れば潜伏しているとバレてしまう。そしていくら雄英のセキュリティが厳戒態勢であろうとも、学内最高権力者たる校長は出入り出来るため雄英高校の敷地内にも無事入れそうだ。

ちなみに、雄英高校は周辺地域一帯の避難施設として、外部から電力供給が途絶えても一定期間であれば自家発電が可能となっている。その為、たとえ電力供給を停止させてもセキュリティが動くのだ。

 

「僕はゲストパスを手配したらシステム奪還と校舎内にいる教員の状況把握等を優先するのさ!

戦力はいくらあっても良いからね」

「では、雄英の校門前に転移するのでゲストパスの手配をお願いします。

ゲートをくぐって千雨さんの居る場所に向かったら確実に襲われると思います。気をつけてください」

「はい!」

「では、行くですよ!!」

 

雄英前に転移した夕映たち。

校長が雄英高校の入口近くの即座にゲストパスを用意して全員で校門をくぐる。

 

「それじゃあ僕は職員室に向かうのさ!君たちは生徒の安全を頼むよ」

「校長、お気をつけて!」

「長谷川がいるのは校舎から2キロ程離れた市街地演習場だ。

バスは使えないだろうから走るしかない」

「急いでんだから使わせろよ文明の利器……!」

「道が舗装されてる分マシだと思おうぜ峰田」

 

校舎内へ駆けていく根津を見送り、市街地演習場へと向かう面々。

停められているバスを見ながら文句を言う峰田とそれを宥める上鳴をよそに、先頭を相澤とオールマイトと夕映とのどか、後尾をエンデヴァー事務所の面々が走りながら生徒たちを守る。

 

 

 

同時刻、雄英高校敷地内の市街地演習場内に建つビルの地下にあるモニタールームに千雨たちがいた。

ヨルダ=バオト討伐後に転移した千雨たちは、この市街地演習場にて二人の体力と魔力の回復、帰還のための準備とアーティファクト・アプリの『白き翼システム』の解析を行っていたのだ。

地下モニタールームを選んだのは、空調設備があるためである。

 

「ひとまず超の仕組んでた『白き翼システム』についての解析は出来たが……あの秘匿主義のロマンチズムマッドサイエンティストめ。おかげで助かったとはいえ、勝手にこんなもん仕込む奴があるかっての。

帰還前にダウングレード予定だったが、このシステムを削除するだけじゃ済まなさそうだな……クソ、手間のかかる真似を……いっそ全て削除した方が良いか……」

 

グチグチと文句を言いながら解析を終えたヘカテーに、雄英セキュリティを掌握している電子精霊たちが声を上げる。

 

「ちう様!雄英ゲートにて通過者を確認!根津校長が戻られました!」

「校長に加えて1年A組担任のイレイザーヘッド、副担任のオールマイト、エンデヴァー事務所のエンデヴァー、オニマー、キドウ、バーニン、宮崎のどかたま、綾瀬夕映たま、それから……1年A組20名を確認!

校長を除く28名がこちらに向かって来てます!」

 

その報告にヘカテーは刻まれてる眉間の皺を深くした。

 

「ヨルダ討伐後にどっかにロストしたかと思ったら余計な真似しやがって……ま、変態二人はヨルダの被造物だから私が戻ってから復元するだけでいいし、あいつらを探す手間が省けたと思えば良いか。

しらたき、こんにゃ、転移魔法が発動可能になるまでの時間はどれくらいだ?」

「空気中魔素濃度から計算して、1時間17分後ですー」

「他の準備は出来てますー」

「よし、そのまま転移の準備を進めてくれ。

ちくわふ、はんぺ、お前らは配備していた演習用戦闘ロボの起動と指揮を。ねぎ、だいこ、きんちゃは私に付いてこい。綾瀬たちを確保する」

「イエッサー!」

「おい。私はあいつらを追い払って綾瀬と本屋を捕縛してくるから、テメーはここで待ってろ」

「……」

 

面倒くさそうに指示を出して部外者の排除と生け捕りへと向かうヘカテーに、千雨は黙って従っていた。

 

千雨がこれまで雄英ヒーロー科に居たのは、ここで生きていくために仕方がない事だった。公安会長との交渉も、雄英ヒーロー科への入学も、全ては一時的なもの。今生きる為だけのもの。

ようやく、ようやく帰還できる。

一年振りに己の『日常』を……麻帆良での日々を取り戻せるのだ。

 

この世界から千雨の記録を消去して辻褄を合わせ、千雨の記憶もここでの出来事の大半を抹消と改竄をして帰還する。

これらの処置は、下手に記憶を保持したまま戻ってしまうと極めて低確率だが魔法使いたちがこの世界線に介入する可能性があるからだ。たとえそうでなくとも、ヨルダ=バオト討伐の決め手となったアーティファクトアプリの存在が魔法世界人に知られたら厄介な火種になりかねない。

故に、アーティファクトアプリへの処理も、転移後に自身に行われる記憶改竄処理などの必要性も利点も理屈も、全て十二分に理解している。一方的に巻き込まれた事は腹立たしいものの、もう一人の自分が行う全てを千雨は理解した。……だというのに。

 

「……」

 

心が、それらの承諾をあと一歩のところで拒んでいた。

 

「ちうたま……」

「良いのですか?」

 

電子精霊たちが心配そうな目で千雨を見上げている。

 

「……あいつが、どうにかするんだろ」

 

傍らにいる千雨の電子精霊たちが言わんとする事は千雨も分かっている。

綾瀬と宮崎がどれだけ持ち堪えるかにもよるが、魔法使いの脅威を千雨は嫌と言うほど知っている。いくら訓練を積んでいようとも、魔法使いは簡単に勝てると言える相手ではないのだ。

同時に、彼らが千雨のことを諦めず、綾瀬と宮崎の手を借りながらもここまで来たという事実に対して心の奥の柔い部分が喜びと悲しみで千々に乱れそうになりながらも、目頭にグッと力を入れて言葉を返す。

 

「麻帆良学園に帰還する事。

……一年前ここに跳ばされたあの日から、私がずっと望んでたことだ」

 

そう言って、1年A組の面々やオールマイトたちがここへ向かって来ていることから……幾重にも包んだ心の奥で湧く小さな歓喜から、目を背けた。

 




お待たせしました!
ついにちう様たちのいる雄英へ突入。
はたしてヘカテーとちう様はどうなるのか。
まだされてないとはいえ、ちう様がされる予定の記憶処理は各所への影響力などを考慮すれば致し方ない話。そして、ちう様は簡単に決断出来ないので心が揺れてます。頼りなくとも『仲間』と認識しているので。
このままヘカテーが計画通りにするのか、それとも本好きコンビとヒロアカ面子がねじ曲げるのか!お楽しみに!

匿名での感想等はこちら→◆マシュマロ◆
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