ひねくれ魔法少女と英雄学校   作:安達武

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前回のあらすじ
ちう様、キレて素を見せる。
そしてデンジャラスゾーンなう。


踏み出す勇気

千雨はこのセントラル広場にいるメンバーを考える。

 

敵の数は3人。

ワープ個性の黒いモヤ、脳みそ丸見えしてる脳みそヴィラン、手だらけ不気味男。うち黒モヤは爆豪が取り押さえ、脳みそヴィランは身体を半分凍らされている。

 

そして味方は5人。

広範囲制圧力に長けた轟。抜群の破壊力を持つ問題児その1爆豪。近接限定で防御力に特化した問題児その2の切島。超パワーの持ち主で問題児その3緑谷。

オールマイトも両脇腹に怪我を負っている。

 

正直、数的有利を打ち消す問題児たちの存在に不安しかない。

ここは彼らと共に立ち向かうべきなのだが……それよりも優先しなければならないことがある。

 

「私は相澤先生のところに行く!」

「さっさと行けやアホ毛!」

 

爆豪の応答を聞き、千雨は駆け出しながら匕首・十六串呂を解除する。

そして相澤を運んでいた蛙吹と峰田のもとまで移動した。

 

「蛙吹!峰田!」

「長谷川ァー!」

「二人とも無事か!よく頑張ったな」

「千雨ちゃんも無事だったのね」

「それよりも相澤先生の様子見せてくれ」

 

二人の無事を確認しながら蛙吹に担がれた相澤の怪我を見る。右肘が不自然な崩れ方をしていて、左腕は物凄い腕力で潰されて骨折しているのか、腫れ上がって熱を持っている。触れると痛そうに呻く。

そして一番の重傷が、顔面。何度も地面に叩きつけたのだろう。擦り傷と、口や鼻、額からの出血。それらに加えて、骨折によるものなのか痛々しく腫れ上がっている。

 

「……あのクソ共、先生の個性潰すために顔面叩き潰したのか……!」

「私達を助ける為に最後まで戦ってくれたの」

「長谷川!相澤先生、大丈夫だよな!?」

 

半泣きの峰田が相澤の足を抱えながら千雨に聞く。

 

「泣くな!大丈夫だ!

蛙吹、私のヘッドギア預かっててくれ。背負うのに邪魔になる」

「ケロッ!?

背負うって、千雨ちゃん1人に任せるのは……!」

「私のパワー知ってるだろ。2人は周囲への警戒を頼む。急ぐぞ!」

 

千雨は髪をポケットに入れていたリボンで手早くひとつに縛り、蛙吹と代わるようにして相澤を背負う。

身体強化のおかげで問題ない。

 

「頼もしいわ、千雨ちゃん」

「あのバカ共がオールマイトと共に無茶する前に戻らねぇとならねぇし……ああもうクソめんどくせぇ」

 

やるべきことが多すぎる。

階段をかけ登り、セントラル広場前に着く。

 

「長谷川さん!梅雨ちゃん!峰田くん!」

「三人とも無事だったのか!」

「よかったー!」

「麗日、相澤先生浮かせてくれ!顔面と両腕を怪我してる!

地面に触れると痛いだろうから頼む!

瀬呂!テープ出して先生の足を地面に触れない程度で固定!」

「わ、わかった!」

 

無事の合流に喜ぶ麗日と砂藤と芦戸。しかし大怪我を負っている相澤の姿を見て途端に青ざめた。

重症の相澤先生を麗日の個性で浮かせてもらい、地面にテープで固定。

応急手当の道具が多数入ったポーチから250ミリペットボトルに入った水と、幅10センチほどの小さなラップを取り出す。

麗日にペットボトルを渡して顔の傷口の洗浄を指示し、崩れた右肘にはラップを巻いて湿潤療法にしておく。

骨折している左腕には、別のポーチに入れていた細長い充電器2つを瀬呂のテープで繋げてラップで補強したものを添え木代わりにし、捕縛布で服の上から固定する。

 

千雨が現時点で使える治癒呪文は小さな切り傷や擦り傷、捻挫等であれば効くが、骨折などの重傷を治すことは出来ない。そしてあらゆる傷を治癒出来るアーティファクトであるコチノヒオウギは、3分以内の傷のみの回復であり時間切れで使えない。

千雨は自らの中途半端さに苛立ちが募った。

 

臥せっていた13号を峰田が見つけて半泣きになりながら瀬呂に訊ねた。

 

「おい瀬呂!13号先生までやられちまったのかよぉ!?」

「皆がワープされた後に、あのワープ野郎に……!」

「そこどけ、見せろ!」

 

背中から肩にかけての裂傷が酷い。ズタズタに裂けてしまっている。コスチュームも同様に崩れるようにして壊れているが、何があればこうなるのか。幸いなことに13号の意識はまだあるようだ。

 

「長谷川、どうにか出来ねぇのか!?」

「このレベルの裂傷は流石に…………瀬呂、お前のテープで応急手当するぞ」

「おれのテープでって、どうやって……!」

「傷口が裂けちまってるから、皮膚を引っ張って合わせるようにしてガーゼの上からテープで固定。

瀬呂、お前にしか出来ねぇ。障子、協力してやれ」

「わかった!」

 

ポーチに入れていた滅菌ガーゼを1袋渡し、瀬呂と障子が慎重にテープで固定する。30センチ幅で1メートル丈のものだから多少余ってしまうだろうが、裂傷となるとこの場でこれ以上の応急手当が出来ない。

出来る限りの指示を出した後に広場を見る。まだ敵の姿は残っていた。

 

「私は広場に戻る。ここにいる奴らは先生たちを頼む」

「長谷川、マジで行くのかよ!?」

「危険だって!」

「蛙吹、ヘッドギア預かってくれてありがとな」

 

蛙吹から猫耳ヘッドギアを受け取って縛っていた髪をほどいて装着する。

セントラル広場に続く階段に向かう千雨の手を蛙吹が掴んだ。

 

「ダメよ千雨ちゃん、危ないわ」

「梅雨ちゃんの言うとおり、オールマイトもいるんだからここにいた方が……!」

「だからこそ、オールマイト助けようと無茶やるバカ共のフォローしなくちゃなんねぇんだ。

……じゃ、行ってくる」

 

千雨はちょっとコンビニ行ってくると言う時と同じ感覚で言い、蛙吹の頭を軽く撫でて一瞬で広場へと向かった。

 

 

 

「長谷川の奴、なんで……!」

 

一瞬で広場へと向かった千雨に、思わず峰田が涙を浮かべながら震えていた。

 

「……私たちの為よ」

「え?」

「ヴィランに一番近い状態で無防備だった私と峰田ちゃんを心配して、敵と戦う前に来てくれたのよ。

相澤先生を運ぶのも本当の理由だったけど……きっと、私たちをいち早く危険から遠ざける為。千雨ちゃんが相澤先生を運ぶだけならあの速さで一瞬にしてたどり着けた筈だもの。

それをしないで私たちに周囲の警戒をさせたのは、役割分担をさせてパニックにさせないため。

……そして、私たちに相澤先生を運ぶのを手伝わせなかったのは……いざという時に、私たちだけでも逃げられるようにする為だったのよ」

「そんな……!」

「もちろん、私の考えすぎかもしれないわ。

でも…………間違ってないと思うの」

 

一番近くにいた蛙吹にはわかった。

頭を撫でる千雨の手の震えを。必死に繕っている笑顔がひきつっていたことを。それでも広場へ踏み出す足を。

 

強くて、賢くて、謎だらけで、心の壁があるクラスメイト。

 

しかし彼女も自分たちと変わらない15歳の……どこにでもいる"普通の女の子"。敵に恐怖し、悪に怯えるどこにでもいる子。

そんな、どこにでもいる子なのに。

 

恐怖を振り払うその笑顔が。

最善を尽くすその手が。

 

怖くても、悪に向かって一歩踏み出す勇気が。

 

誰よりも格好良くて。何よりも眩しくて。

だからこそ……長谷川千雨はこの場の誰よりもヒーローなのだと蛙吹には分かった。

 

 

 

 

 

「間に合ったか!?」

「長谷川!戻ってきたのか!」

「相澤先生運び終えて手当て終わったからな、それより……!」

 

現場にたどり着いた千雨は切島に声をかけたが、ほぼ同時に一撃一撃が衝撃波のような音を立て、脳ミソヴィランとオールマイトが殴りあいを始めた。

 

「真正面から殴り合い!?」

「ッ近付けん!!」

「衝撃波でてんじゃねぇか……!」

 

ゴンゴンとぶつかり合う拳と共に出る衝撃波。どうしてだろうか、そのあり得なさがどこか懐かしさすら思わせた。

 

「“無効”ではなく“吸収”ならば!!限度があるんじゃないか!?

私対策!?私の100%を耐えるなら!!

さらに上からねじ伏せよう!!」

 

吸収した衝撃を無効にすることも放出することも出来ないならば、それは頑丈な人形でしかない。

 

「ヒーローとは常にピンチをぶち壊していくもの!!

ヴィランよ、こんな言葉を知ってるか!!?」

 

オールマイトの片腕が引き絞られる。ヴィランは迫る拳を避けることも出来ず。

サンドバッグの如く、その拳を正面から受けた。

 

 

「Plus Ultra!!!」

 

 

オールマイトのアッパーにより吹き飛ばされた脳みそヴィランは、ドームの天井を突き破りどこかへと飛んでいった。

 

「……漫画かよ」

 

切島の言葉に、麻帆良じゃおかしなことに現実として受け入れられてたんだよな。いや、ここも"現実"なんだが。と千雨が思ってしまったのは現実逃避である。

 

「やはり衰えた……全盛期なら5発も撃てば十分だったろうに……。

300発以上も撃ってしまった」

 

いや、全盛期で5発って……それただの化け物じゃん……。

思わずオールマイトならイージス艦1隻は確実に沈められるよなぁと思ってしまった。

ラカン式強さ表(基準値は魔法と気の使えない中3夏休み時の一般人千雨)で1500である。ちなみに戦車は200。とても頭の悪そうな表である。

 

オールマイトの発言にドン引いている千雨だが、まだ戦いは終わらない。

脳みそヴィランはオールマイトが倒したが、主犯の2人がまだ残っている。

 

「さてと、ヴィラン。お互い早めに決着つけたいね」

「衰えた?嘘だろ……完全に気圧されたよ、よくも俺の脳無を……チートがぁ……!!

全っ然弱ってないじゃないか!!あいつ…………俺に嘘教えたのか!?」

「どうした?来ないのかな!?クリアとか何とか言ってたが……出来るものならしてみろよ!!!」

「うぅぅぉおおおおおお……!」

 

流石はNo.1ヒーロー。オールマイトの気迫に呑まれているのだろう。手だらけ不気味男は声の威勢はいいものの、足は縫い留められたように動かない。恐怖と敵愾心のうちで葛藤している様子。

しかし、オールマイトが弱っているとは、どういうことだろうか?先ほど衰えたと言っていたし、老化を指しているのなら納得だが。

 

千雨がヴィランの言葉について考え事をしている間に、轟たちはようやく敵への警戒を解いた。

 

「さすがだ……俺たちの出る幕じゃねえみたいだな……」

「緑谷!ここは退いた方がいいぜもう。却って人質とかにされたらやべェし……」

 

千雨は身体強化はそのまま続行しておく。何かあった際の保険だ。

緑谷は砂埃の中に立つオールマイトと、ヴィランから視線をそらさない。

 

「さぁどうした!?」

「脳無さえいれば……!奴なら!!何も感じず立ち向かえるのに……!!」

「死柄木弔……落ち着いて下さい。

よく見れば脳無から受けたダメージは確実に表れている。どうやら子どもらは棒立ちの様子……。

あと数分もしないうちに増援が来てしまうでしょうが、死柄木と私で連携すれば、まだ殺れるチャンスは充分にあるかと……」

「……うん……うんうん……そうだな……そうだよ……そうだ……やるっきゃないぜ……目の前にラスボスがいるんだもの」

 

黒いモヤと不気味な死柄木弔と呼ばれた敵はぶつぶつと呟き、動く様子は見られない。

 

「主犯格はオールマイトが何とかしてくれるだろうし……俺らは他の連中助けに行くぞ」

「……緑谷?」

 

「何より……脳無の仇だ」

 

オールマイトのすぐそばまで迫り、ワープゲートを大きく広げて襲い掛かる黒モヤと、随従する死柄木。

そしてそんな様子を見ても動く気配のないオールマイトを助けるべく、いつの間にか個性で跳んでオールマイトの前にワープして現れた黒モヤに肉薄する緑谷の姿があった。

 

「な……緑谷!!?」

「オールマイトから、離れろ!!!!」

「二度目はありませんよ!!」

 

死柄木が黒モヤのゲートに手を突っ込み、ワープ先にいる緑谷に手が迫る。

敵の個性が何なのか分からないが…………とにかく、死柄木の手は危険だと千雨は悟った。

 

「させるかぁっ!!!」

 

瞬動術で追い付き、緑谷を助けようと向かいながら脳を回転させる。

敵の個性が発動する手に触れさせないためにはどうしたら良い!?

緑谷を抱えて離脱か―――ダメだ、勢いが付きすぎて止められない。

ならば敵との戦闘。先にモヤを倒すか、死柄木とかいう不気味男を倒すか―――いや、倒すより先に触れてしまう!

 

ならば!

 

「電子の王、再現!

――――――ハマノツルギ!」

 

緑谷の胴体を右腕で掴み、左手に現れた鋼鉄で出来た白いハリセンを持つ。

 

アーティファクト、ハマノツルギ。

鋼鉄のハリセン形態と、片刃の大剣形態の2形態を持つアーティファクト。"魔法無効化能力"を持ち、魔法や魔法障壁を消去出来る。

 

これまでの経験から、"魔法"が"個性"に影響されるのは実証済み。

なら、その逆もあり得る!

 

迫る死柄木の手を下からハマノツルギで打ち払うと、五指に触れたはずのハリセンが崩れないことに対して驚く死柄木。そのままモヤにもハリセンを振るえば、ワープゲートはかき消えた。

アプリで作り出したアーティファクトだから必ず効くかは半ば賭けであったが、無事に効いたようだ。

 

「何だこの女……!」

「私の"ワープ"を消した……もしや、イレイザーヘッドと同系統……?」

「どっちにしろ、生かしておけないな……!」

 

再び死柄木はワープゲート越しに手を伸ばした。今度は千雨を狙って。

しかしその瞬間、死柄木の手に弾丸が撃ち込まれ、死柄木はワープゲートのモヤから手を引き抜く。

 

千雨は緑谷を抱えたまま両足に魔力を込めて着地のために踏ん張り、1メートル以上地面を直線状に砕いて砂埃を起こしながらもなんとか止まった。そしてUSJの入り口を見上げる。

 

「来たか!」

「―――ごめんよ、遅くなったね。すぐ動けるものをかき集めて来た」

 

それは全員が待ち望んでいた声。

 

「1-Aクラス委員長、飯田天哉!!!

ただいま戻りました!!!!」

 

飯田が呼んだ救援―――雄英が誇る教師陣(プロヒーロー)十数名が勢揃いしていた。

 

 

 


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