ひねくれ魔法少女と英雄学校   作:安達武
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本日中にちょこちょこやってる加筆修正を終わらせたい


観戦と激励

千雨は上鳴との試合を終えてから、クラスの席には戻らずに観客席出入口の壁にもたれてステージを見る。

クラス席に戻って先ほど見せた技についてあれこれ訊かれるのが煩わしいからだ。

周囲が千雨に気付いてチラチラと見てくるが、無視して経営科の売り子から買ったペットボトルのアイスコーヒーを飲みながら試合を観戦する。

 

 

第5試合は飯田と発目。

発目の提案で飯田もサポートアイテムを着用していた。

その試合はアイテムの実演販売かはたまたテレフォンショッピングか。アイテムの解説をしながら、戦うというよりも鬼ごっこをしている発目と、翻弄されている飯田。

最終的にアイテム解説をしきった発目が自発的に場外へ出て飯田が二回戦進出となった。

発目はサポートアイテムの会社からすれば注目株となったのだろう。プロヒーローも自身の活動の幅を広げることが出来るサポートアイテムの未来の開発者への称賛と、飯田への憐れみまじりの拍手をしている。

 

 

第6試合は常闇と八百万。

個性で既に鋼鉄の盾や棒を用意している八百万と、黒影を出す常闇。

常闇の弱点は光。それがバレないかぎり、中距離攻撃が得意な黒影の攻撃を防ぐので手一杯となり、常闇自身に攻撃するのは難しいだろう。常闇に一対一で勝つには相性が有利でなければ難しい。

案の定、創造して準備しておいた武器で戦おうとした八百万に怒涛の攻撃を仕掛けて、道具を使わせないで場外に押し出した。

 

八百万が鉄の棒などではなくライトや閃光弾などを用意していたら常闇が負けていただろう。

 

しかし、それ以上に気になったのは八百万の様子。

試合前から緊張しているというよりもなにやら本調子ではないというか、動きが悪いように見えた。

試合後も普段の八百万らしくない。どこか自信無さげで少し暗いように見える。…まぁ、一回戦で負けてしまったからかもしれないが。

 

 

第7試合は鉄哲と切島。どちらも皮膚が硬くなる個性被りの対戦だ。

どちらも近接戦闘に特化しているため、真っ向からの殴り合いである。

個性も性格も戦闘方法も同じ2人の殴り合いは個性が被っているからこそあそこまで出来るのだろう。生身の人間相手ではあそこまで殴り合えない。

結局この2人の殴り合いは両者ダウンによる引き分け。腕相撲など簡単な勝負で勝敗を決めることとなった。

実力もほぼ同じということもあり、指名を食い合うこととなるが、2人とも暑苦しい戦い方だったからこそ、そういうのが好きなプロからの指名が来るだろう。

 

 

そして、一回戦最後の試合となる第8試合。

 

「中学からちょっとした有名人!!堅気の顔じゃねぇ。ヒーロー科、爆豪勝己!!

対…

俺こっち応援したい!!ヒーロー科、麗日お茶子!」

 

唯我独尊、俺様主義で攻撃的な爆豪。

個性も圧倒的攻撃力を持ち、攻撃、移動、牽制なども出来る上に、タフで飛び抜けた戦闘センスの持ち主である。

一方、明るくて優しくて朗らかな麗日。あまり戦闘向きではない性格の麗日は、個性も直接的な攻撃力がない。戦うにしても、物や人を浮かせて相手の動きを制限させることとなる。

 

正直、この対戦は爆豪の圧勝だろうと思えた。

 

試合が始まって、速攻で接近して浮かそうとした麗日に、爆豪は遠慮や容赦もなく爆破をかました。えげつない。

これには観客席も女子相手にモロな攻撃すぎて、青ざめたりひきつったりしている。

爆破による煙幕と体操服の上着を利用して背後を取った麗日だが、爆豪の見てから動ける反射神経によって吹き飛ばされる。

何度爆破されようとも休むことなく突撃を続ける麗日と、爆破で迎撃する爆豪。

麗日の様子は、やけになっているようにも見える。

 

「ちう様、上を見てください」

「んだよ、上?……!」

 

電子精霊のこんにゃに言われて上を見て、そういうことかと麗日の行動に千雨は納得出来た。

それと同時に観客席にいたプロヒーローの一部から爆豪にブーイングが飛ぶ。

 

「一部から…ブーイングが!

しかし正直、俺もそう思…わあ肘っ!

何SOON…」

「今、遊んでるっつったのプロか?何年目だ?」

 

今までほとんど解説してなかった相澤の声が響いた。プレゼント・マイクからマイクを奪ったのだろう。

 

「シラフで言ってんならもう見る意味ねぇから帰れ。帰って転職サイトでも見てろ。

―――ここまで上がってきた相手の力を、認めてるから警戒してんだろう。

本気で勝とうとしてるからこそ、手加減も油断も出来ねえんだろが」

 

そうだ。このトーナメントの16人に入ったのが運であれ、何であれ…それぞれが夢のためにマジで戦っているんだ。

そこにいじめもやりすぎもねぇ。ただ本気なだけだ。本気で、戦り合っている。

 

 

まぁ1名ほど半分しか使わないって決めてる腹立たしい奴がいるけど、そいつは全力で殴る。

 

 

その後、上空に浮かせて溜めていたステージの瓦礫を流星群のように落とした麗日。

爆豪への、渾身の一撃。

だが、爆豪が最大威力の爆破で降り注ぐ瓦礫を木端微塵に。

それでもなんとか戦い続けようとしたが、許容重量を超える個性の連発で麗日は倒れた。

本人はなんとか立ち上がろうと、まだ諦めまいとしていたが…ミッドナイトが麗日は行動不能と判断。爆豪の勝利となった。

 

一回戦はこれで一通り終わり。

第7試合で引き分けとなっていた鉄哲と切島の二回戦進出を掛けた勝負は、腕相撲。同じような個性で実力も拮抗している2人。腕相撲勝負を制したのは切島。辛勝である。

―――しかし、やはり似た者同士なのだろう。互いに称え合い握手する2人の間には、暑苦しく男臭い友情が生まれていた。

 

 

 

というわけで、以下の組み合わせで二回戦。

緑谷 対 轟。

塩崎 対 千雨。

飯田 対 常闇。

切島 対 爆豪。

 

千雨はギリギリになってしまうが、緑谷と轟の試合を見ようと観客席にいた。

昼休みのあの話を隠れて聞いてしまった者として…どうしても、見ておきたかった。

 

「今回の体育祭、両者トップクラスの成績!!

まさしく、両雄並び立ち、今!!

緑谷!!対…轟!!

スタート!!」

 

スタートの合図と共に、轟は右足から氷筍のように氷を地面に走らせて緑谷に仕掛ける。

緑谷は轟の氷結攻撃を指を壊す超パワーで吹き飛ばして打ち消した。

 

「おオオオオ!!破ったあああ!!」

 

緑谷が轟に勝つには、怪我を承知で身体を壊すパワーで挑むしかない。そうなれば、耐久戦。

とはいえ―――あんなん、痛いじゃ済まねぇだろ。

無茶をする奴だと知ってはいたが、痛みですらその無茶を止められないのかと思うと、千雨は怒りがこみ上げてくる。

いくらそれが現状の最善だったとしても、他の方法を探すべきだ。そう思わずにはいられない。

 

幾度か遠距離氷結攻撃を打ち消した緑谷に向かって、轟が近接戦闘をしようと接近していく。緑谷のパワーを警戒しつつも、確実に氷で動きを封じる為だろう。

両腕をボロボロにしながらも轟に接近を許さない緑谷。

 

「もう、そこらのプロ以上だよアレ…」

「さすがはNo.2の息子って感じだ」

 

周囲から轟の強さを評価する声が聞こえてくる。

確かに、個性そのものの強力さに加えて判断力や応用力、機動力、1年の中じゃ強い。

力の制御をしないで両腕がボロボロになっている緑谷ではここらが限界だろう。

しかし…緑谷の眼はマジで戦っている眼をしている。ここからなんて叫ぼうが、今の緑谷は止まらない。

 

「圧倒的に攻め続けた轟!!とどめの氷結を―――」

 

プレゼント・マイクの実況を裏切るかのように、緑谷が再び轟の氷結を打ち消した―――既に壊れていた、右手の指で。

緑谷に吹き飛ばされ、ライン際で背後に氷を張って場外を回避した轟。

 

「皆…本気でやってる。

勝って…目標に近付く為に…っ!

一番になる為に!

半分の力で勝つ!?まだ僕は君に、傷1つつけられちゃいないぞ!

 

―――"全力"でかかって、来い!!」

 

緑谷の声がスタジアムに響く。

その言葉で分かった。緑谷も千雨と同じように―――轟を救うために、殴るつもりだと。

千雨と爆豪が昼休みに隠れて聞いていたことを知らない以上、緑谷は自分が救けなければとでも思っているのか。

 

「…だからって無茶苦茶だろ…緑谷の奴…!」

 

いくら知っているからといって、いくら戦う機会があるからといって…不可能を可能にするには、まだ弱い。

緑谷自身もそれは理解しているはずだ。それなのに―――それなのに何故、諦めない?

 

轟が接近攻撃しようと走り出したが、轟より早く緑谷が轟の懐に入った。なにやら轟の動きが鈍い。個性の反動だろうか。緑谷のパンチが轟に入った。

 

「モロだぁ―――!生々しいの入ったぁ!!」

 

大怪我してる手を使ったのだ、痛みは物凄いものだろう。しかし、瞬殺する轟に対して初めて一発入れた。

その後も緑谷はボロボロになりながら轟の氷結に対応している

 

「期待に応えたいんだ…!

笑って、応えられるような…カッコイイ人に…なりたいんだ!

だから、全力で!やってんだ、皆!

君の境遇も、君の決心も、僕なんかに計り知れるもんじゃない…でも…。

全力も出さないで一番になって、完全否定なんて、フザけるなって、今は思ってる!

だから…僕が勝つ!!

君を超えてっ!!」

 

再び轟に緑谷のパンチが入った。

 

轟は過去の、辛い記憶を思い出す。

5歳の頃から、父が無理矢理ヒーローになるための稽古をつけてきた。

父は庇った母にも手をあげた。慰めてくれる母の優しげな言葉。

庭で遊ぶ兄姉が、羨ましかった。手を引く父が怖かった。

様子のおかしい母を見かけた。母を追い詰めて…病院に入れた。

俺は―――…俺は親父を。

 

「親父を―――…」

「君の!!

力じゃないか!!!」

 

緑谷のその一言が、轟の心を揺さぶったのだろう。

ステージに赤い炎が揺らめく。ボロボロの緑谷が轟の心を変えて、本気にさせたのだ。

 

「…ったく緑谷、自分の状況分かってんのか?本気にさせるにしてもやり方があっただろうによ」

 

千雨は呆れながらも、嬉しそうにステージの2人を見ていた。

と、その時。

 

「焦凍ォオオオ!!!」

 

その空気を壊すように、近くの観客席から声が響いた。

 

「やっと己を受け入れたか!!そうだ!!良いぞ!!

ここからがお前の始まり!!

俺の血をもって俺を超えて行き…俺の野望をお前が果たせ!!」

 

エンデヴァーだ。

プレゼント・マイクはエンデヴァーの"激励"に対して、親バカと評していた。

息子が使わないでいた全力を出したから興奮すんのは分かるけどよ…マジで激情家なんだな、あの人。

思わず半目になって呆れてしまったが、今は試合だ。ステージを見れば、両者最後の一撃だろう。

轟は氷を地面に走らせ、緑谷は左足を壊す勢いで跳び、轟は炎を、緑谷は全力のパンチを放ち―――

 

 

―――ステージは爆発した。

 

 

うん、ちょっと待て。個人の出せる威力じゃねぇぞ今の。つーかどういう事だ。

 

壁に寄りかかっていた千雨は爆風で吹き飛ばされるようなことはなかったが、帽子や超小柄な人は吹き飛ばされかけていた。

解説の相澤によると、氷結で冷やされていた空気が一気に膨張したかららしい。

 

ここまでの威力のある魔法は私には出せねぇ。轟というか"個性"ってやっぱヤベェな。強くならなきゃ死ぬわ。

 

 

結局、緑谷は爆発に吹き飛ばされて場外。轟の三回戦進出が決まった。

 

 

 

大破したステージをセメントスが作り直す間に、千雨はスタジアム内の保健室へ向かう。

 

「緑谷、いるか?」

「千雨ちゃん!」

「あれ…麗日たちもいたのか」

「うん、デクくんが心配で…千雨ちゃんも?」

「まぁな。

それより緑谷、お前…足バキバキにしたらどうなるか分かってるんだよなぁ?USJで言ったことを忘れたとは言わせねぇぞ」

「ヒェッ…」

 

―――足を壊したら、女装写真をバラまいて社会的に殺す。

今回左足を折ったからそれを言いに来たのかと気付き、緑谷は痛みよりも恐怖が勝った。

 

「ただまぁ、今回は許す」

「え…!?」

「お前がここまでして轟を救けようとしたんだ、それは評価してやる。だからちゃんと怪我治せ」

「長谷川さん…」

「もし轟のバカが私との対戦でも全力出そうか迷って悩んでるようなら、全力出すようにぶん殴ってくる」

 

千雨の言葉に、緑谷が驚いた。

千雨が轟に全力を出させるなどと言うと思っていなかったからだ。

 

「緑谷、お前のしたことは無意味じゃねぇって私が証明してやる。

だからお前も悩むな。後悔してる時間があるなら、次は後悔しねぇように強くなれ。

なるんだろ?

笑って応えられる、カッコイイヒーローに」

「…うん…ありがとう、長谷川さん」

 

緑谷はやっぱり長谷川さんは凄いと思った。

負けてしまって、オールマイトとの約束を果たせなかったことは悔しい。

けれど…自分のしたことは無意味じゃないという言葉は、緑谷にとって大きなものだった。

 

オールマイトは千雨にも緑谷と同じくヒーローとしての素質を感じ、激励するその顔が何故だか師匠と重なって見えた。

 

そばで聞いていた麗日は、緑谷と千雨の間に他のクラスメイトとは違う何か特別な絆のようなものを感じ、何故だか胸がチクリと痛んだ。

 

「…じゃ、私は控え室に行くから」

「おっおう!頑張れよ長谷川!」

「長谷川くん!応援しているぞ!」

「あ…が、頑張ってな!」

「ケロ、応援してるわ」

「…さ、心配するのは良いけど、これから手術さね。ほら、出ていきな!」

「シュジュツー!!?」

 

なにやら騒がしい保健室から控え室に移動し、持っていた空のペットボトルをゴミ箱に捨ててアナウンスを待った。

 

 

次の試合、必ず勝たなくては。

 

 


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