ひねくれ魔法少女と英雄学校   作:安達武
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職場体験編、色々迷いながらもスタートです。


Work Experience
憂いまじりの職場体験


コスチュームの改良の翌日。

今日の千雨は、常闇といつも通り一緒に登校しているのだが、体育祭前と同じような登校が出来ていることに1人うち震えていた。

 

「長谷川?酔ったのか?」

「いや、平穏な登校が出来ることに感動しただけだ。

体育祭からやたらと炎上するから、騒がれないってだけで割と嬉しいんだよ……昨日は2回炎上したし」

 

3位入賞の2人ということでちらちらと見られはするものの、そこまで酷くない。

というのも、やたらと話しかけて距離を詰めてくる上に周囲の目を気にしていない轟と違い、常闇は距離を詰めることなく、あくまで友達程度の距離を保っていることと、カメラを向けた相手にジェスチャーで撮らないで欲しい旨を伝えているからだ。常闇もだが、千雨が騒がれるのを嫌うからそれを気遣ってだろう。

 

「何かあれば頼れ。俺でよければ力になる」

「お前のそういう所、本当に神……」

 

無条件で好感度が上がるくらいに千雨は感激していた。

物静かで常に冷静で過度に干渉せず、騒ぎを起こすこと無く、さりげない気配りの出来る紳士な常闇。

たまに言動が厨二がかったものになることをマイナスとして差し引いても、一緒にいて感じる居心地の良さは轟の数倍だ。

 

「そういや常闇は職場体験の事務所、決めたか?」

「ああ、長谷川のおかげでな。教室に行く前に提出する予定だ」

「そんじゃ一緒に提出しに行こう。私も決めたから」

 

千雨と常闇はその後もいつも通り、授業についての話や取るに足らない世間話をしながら登校し、共に職員室へと向かった。

 

「相澤先生おはようございます」

「ああ、おはよう。……職場体験の希望届か」

「はい。お願いします」

 

常闇と千雨はそれぞれ鞄から取り出した希望届けのA5用紙を渡す。

 

「長谷川、お前クラスの奴らの体験先決める手伝いしたらしいな」

「手伝ったといっても調べるのを少しですけど」

「上鳴や砂藤たちから聞いたが……学校側のオファーした事務所の詳細一覧を今出せるか?

今後の参考資料にしたい」

 

上鳴が早々に提出したことから千雨が手伝ったことを知ったのだろう。確かに上鳴ならば指名数も3桁で体験先の事務所を選ぶのに時間がかかる。それを抜きにしても口の軽い上鳴なら手伝って貰いましたと正直に言うだろう。この様子なら他の生徒からも聞いていそうだ。

千雨は電子精霊を呼び出してアナログ化させた詳細一覧の冊子を渡す。

 

「最初に専門分野ごと各事務所の簡単な紹介で、各ページにより詳細が載ってます。最後の1件は私の希望先ですけど。

PDFデータも送っておきます。こんにゃ」

「はいですー」

 

こんにゃが敬礼して姿を消すと、相澤のパソコンのデスクトップにファイルがポンッという軽快な音を立てて現れる。

 

「悪いな長谷川」

「いえ。それじゃあ失礼しました」

 

千雨と常闇が職員室を後にして教室に向かう。相澤は手渡された詳細一覧を見て、相変わらずなんでも出来るなと感心していた。

相澤がしばらく冊子をパラパラとめくって見ていると、ミッドナイトと13号がやってきた。

 

「先輩、おはようございます」

「おはようイレイザー。それ情報学の資料?」

「いや、長谷川が作ったヒーロー事務所の詳細一覧だ。

学校側がオファーした事務所をまとめてクラスメイトに配ったらしくてな」

 

相澤はミッドナイトと13号に冊子を見せる。

 

「うわぁ!すごい詳しく調べてますね!」

「1年でここまで調べておけば、3年になって後悔しなさそうね」

「グッモーニン!レディースアンドガイズ!

なんだなんだ集まって、何の話してんだヨ!?」

 

3人集まって話している所にプレゼント・マイクが大声で近づいてきた。

 

「長谷川さんが作った事務所の詳細一覧ですよ」

「どれどれェ……ヒュ~!結構詳しく調べてんじゃねェか!

そういや長谷川ガールといえばミッドナイトから聞いたが、後方支援希望ってマジ?」

「本人は大真面目に言ってたぞ、人命救助や後方支援専門が希望だと」

 

相澤は昨日聞いた千雨の発言を思わず思い出す。

あれだけの戦闘をこなした生徒がまさかの進路希望で、相澤にも未だに信じられないでいる。

 

「あの戦闘力で後方支援は勿体無さすぎるだろ!」

「そうですか?僕は彼女の人命救助専門希望、良いと思いますよ!

被災地から大勢の人間を運ぶことも出来そうですし、電撃も調節出来るならAEDの代わりも出来るでしょうし」

「あら、私は長谷川さんならメディアに出て芸能関係でも活躍出来ると思うわ。

個性も派手で魅力的だし性格も格好良いし。それに準決勝で見たけど、長谷川さんの素顔とっても可愛かったのよ」

「ミッドナイト、それマジ?」

 

ワイワイと相澤そっちのけで盛り上がる3人。

その騒がしさに対して眉間にシワを寄せつつ相澤は先ほど渡された体験先の希望届を見る。

 

この体験が生徒たちにとって良い経験になればと思いながら。

 

 

 

 

 

教室で千雨はいつものように八百万やクラスの女子たちと話したり、スマホをいじったりしている。

ただし轟が近付いてきたら先生に話しかけたりトイレに行くなどして、とことん距離を置いた。

 

 

朝からそれを続けて、4限終わりの昼休み。

 

 

「長谷川、俺は何かしたのか?」

 

常闇を昼に誘って食堂に逃げるよりも早く、千雨は轟に右手を掴まれた。

 

「俺を避けているだろう?……何かしたなら謝る」

「炎上対策だから気にするな」

「炎上……おれの左側のせいか?」

「そういう炎上じゃない。いいからその目で見るな、私に近付くな」

 

寂しげに潤んだ目で見てくる轟。クラスメイトたちは興味津々で遠巻きに見ている。

轟に手を掴まれている以上、千雨は逃げ出せない。

 

「昨日はあんなに話したのに……」

「お前が距離近すぎて炎上するんだよ」

「近すぎるのか?」

「そうだ。他の女子程度の距離感を保て。勘違いされる元になるから」

 

轟は他の女子に対しては今までと変わらず、クラスメイトとして適度な距離を保っている。

それを千雨にも適用させてくれれば問題ない。というか、体育祭前までは適用されていた。

 

「……わかった。一緒に昼飯行こう」

「わかってねぇだろ!?お前全っっっ然わかってねぇだろ!?」

「昼飯誘うのはダメなのか?」

「他の女子程度の距離感って言っただろ……ダメじゃねぇけど他の奴も誘えよ……」

 

天然マイペースすぎる轟に頭が痛くなる千雨。どうやらとても面倒な奴に好かれてしまったようだ。

轟に手を離してもらい、すぐさま声をかけた。

 

「芦戸、葉隠、切島、瀬呂、一緒に昼飯食うぞ」

「千雨ちゃんから誘ってくるとは!」

「しかも切島と瀬呂も誘うとか珍しい……」

 

ちょうど近くにいたということもあり、4人を呼び集める。千雨から昼食に誘うことがほぼ無い面子であるが、この面子には理由がある。

 

「轟と2人っきりより良い。お前ら盛り上げんの得意だし。

ついでに切島と瀬呂は人付き合い悪い轟の友達になってくれ、お前ら面倒見良いし、分け隔てなく仲良くなれるだろ」

「なるほど、そういう人選か」

「俺は構わねぇよ」

 

賑やかな昼食というのは千雨としてはあまり好きではないが、轟と2人っきりになるよりマシ。

ついでに轟には他のクラスメイトと仲良くなってもらおうという試みだ。

 

切島と瀬呂はあの爆豪とも仲良くなれるほどにはコミュ力の高い男子。

上鳴もコミュ力の高さは該当するが、あいつは峰田寄りな思考回路でこの天然お坊ちゃんに余計なこと吹き込みかねない点から外した。

 

ひとまず誘った4人の了承は得れたので、そのまま食堂へ向かう。

 

「千雨ちゃん、なに食べる?」

「日替わりランチ」

「今日の日替わりなんだっけ?」

「鶏肉のトマト煮、デザートがランチラッシュ特製プリン」

「ランチラッシュ特製!?じゃあ私も日替わりにする!」

「私も!というか長谷川、ランチチェック結構してる?」

「日替わりは気になるからな」

 

女子3人男子3人にわかれて会話する。後ろにいる轟の視線が刺さるものの無視だ。ここで相手しては4人を誘った意味がない。

 

「轟は何にするんだ?」

「蕎麦、温かくないやつ」

「蕎麦か、健康に良いな!俺も今日は蕎麦にしよっかな~」

「俺は焼肉定食!」

「切島いつもそれじゃん、飽きねぇの?」

 

轟を真ん中にして会話する切島と瀬呂。かなり良い組み合わせのようだ。ポンポン弾む会話で、瀬呂がちょくちょく轟にも話を振っているし、切島も会話を盛り上げる。

席を確保して全員で職場体験先について話した他に、轟は瀬呂に体育祭でのことを謝ったり、芦戸と葉隠からの質問に答えたり、切島とトレーニングについて話したり。

 

目論見通り、少しは千雨以外のクラスメイトとも仲良くなれたのではないだろうか。

 

「明日は長谷川と2人で昼食べたい」

「却下」

 

なれたのでは……ないだろうか……。

 

 

 

轟に振り回される日々を過ごし、あっという間に職場体験当日。

 

学校から東京駅にバスで移動した。ここから各自体験先の事務所へ向かう。

駅でも雄英生ということでじろじろ見られたり手を振られたりもしたが、何よりも元の世界と交通網が色々と変化していることに千雨はまだ慣れないでいる。

特に新幹線の路線が増えていることには今も動揺が隠せない。

やはり麻帆良という学園都市が無いのは交通網に大きな違いを与えているのだろうか。

 

「コスチューム持ったな。

本来なら公共の場じゃ着用厳禁の身だ、落としたりするなよ」

「はーい!!」

 

芦戸が元気良く返事をするものの、相澤から注意される。

 

「伸ばすな『はい』だ芦戸。

くれぐれも失礼のないように!じゃあ行け」

 

相澤に見送られてコスチュームケース片手にそれぞれ体験先へと向かう。

 

「楽しみだなぁ!」

「お前九州か、逆だ」

「…………」

 

ワイワイと騒ぐクラスメイトの輪から黙って離れる飯田に、麗日と一緒にいた緑谷が声をかける。

 

「飯田くん。

……本当に、どうしようもなくなったら言ってね。

友達だろ」

 

 

「――――ああ」

 

 

緑谷に返事をして去っていく飯田。

その背を見送りながら千雨は電子精霊に指示を出した。

 

「……頼むぞお前ら」

「了解しました」

「長谷川、飯田に何かしたのか?」

「轟、見てたのか。まぁ……保険みてぇなやつだよ。

何事も無きゃ、それで良いんだが」

「…………そうだな」

 

保須に現れたヒーロー殺し。凶刃に倒れたインゲニウム。保須のヒーロー事務所を体験先に選んだ飯田。

巡り合わせと言うべきか、このタイミングでの職場体験は飯田に対する心配しか無い。

 

「嫌なフラグしか立ってねぇから心配だけど、私もそろそろ行かねぇと。新幹線の時間だ」

「長谷川、何かあったら連絡してくれ」

「私のことより、まずテメェのこと心配しろ。……エンデヴァーの所で無茶すんなよ?」

「……考えとく」

 

轟とわかれて千雨は新幹線のホームへ向かう。

行き先は愛知県名古屋市。

 

 

――――ギャングオルカ事務所だ。

 

 





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