ひねくれ魔法少女と英雄学校   作:安達武

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聞いてくれ!!!ハーメルンに!!!魔改造千雨作品が!!!理想郷から復活して増えたぞ!!!
紅シズク様作!!!
『例えばこんな長谷川千雨の生きる道』!!!
ありがとうございます!!!生活が潤う!!!うれしい!!!神の恵み!!!生きる糧!!!美味しい!!!
無理せずに続けてください!!!!書いてくれてありがとう!!!!公開投稿ありがとう!!!!!

他の魔改造千雨の同志も書いたり復活させるのを!!!
待ってます!!!!!

話は変わりますが、誤字報告いつもありがとうございます。
ご迷惑をおかけしますが今後も皆様の集合知の手助けを頼りにしてます。


授業参観

色々あった日曜日の翌日。今日は朝から授業参観だ。

ざわざわとにぎやかな教室に登校してきた千雨は荷物を置いた後、そのまま廊下に出ようと扉に向かった。

近くにいた耳郎がそれに気付いて話しかけた。

 

「あれ、長谷川どっか行くの?」

「先生に参観会に来る保護者の案内頼まれたんだよ。

私の"個性"なら遅れてきた保護者がいても色々と対処できるから、先生に途中まで案内を頼むって。

飯田と八百万はクラスの監督をして欲しいから私に頼んだんじゃねぇの?」

「ああ、そういう事」

「雑用とか大変だな、長谷川」

「オイラだったらぜってぇ回避するぜ」

「私は品行方正な優等生だから」

「俺見て言ってるって事ァ喧嘩売ってんのか、このクソアホ毛がぁ……!」

「売ってねぇよ。ああ、自分の素行の悪さ自覚してるのか」

「売ってんじゃねぇかクソが!!」

「爆豪落ち着けって」

 

瀬呂と峰田に返事をしつつ爆豪が勝手に噛みついてくるのをあしらい教室をあとにしようとした千雨は、思い出したかのように飯田に声をかける。

 

「飯田、もしかしたら案内でSHRに遅れるかもしれないけど、私のことは先生も承知だから気にするなよ」

「うむ!頼んだぞ長谷川くん!」

 

これで千雨を迎えに行くなどと勝手に行動することはないだろう。

千雨はこの後どんな事が起きるか知らないクラスメイトたちに見送られて教室を後にし、職員室に向かった。

 

 

 

千雨は職員室で相澤と合流して学校の教職員用玄関前に集まっていた保護者たちのもとへと向かう。すでにほぼ全員集まっており、保護者同士で挨拶をしているようだ。

 

「おはようございます、1年A組ヒーロー科の担任の相澤です。

昨日は本日のための演技指導の講習にご参加下さった保護者の方はありがとうございました。

事前に連絡があったように、ご家族の皆様も参加していただく演習を予定しています。参加と言っても事前連絡させて頂いた内容と同じですのでご安心下さい」

 

どうやら昨日の日曜日に事前の演技講習があったらしい。だから八百万の母親がいなかったのかと千雨は納得した。

 

「今日はクラスを代表して案内します、長谷川千雨です。

皆様と同じく人質役をしますので、よろしくお願いいたします」

 

千雨が微笑みながら自己紹介したところ、相澤から異様なものを見る眼で見られたが、無視した。

思っていた以上の猫の被りっぷりに、普段のクラスメイトたちに対するお前はどうしたとでも言いたいのだろう。千雨とて、誰に対しても不遜な態度で煽る訳ではない。

一部の人間相手はともかく、TPOと空気を読んで心の中でツッコミを入れて外面を取り繕える女子である。一部の人間相手はともかく。

 

「こちらは本日のヴィラン役です」

「ドウモ。キョウハ、ヨロシクオネガイシマス」

 

顔をフルフェイスマスクで隠してボイスチェンジャーで機械音声になっているが、千雨にはすぐにオールマイトだとわかった。

今の雄英は校内に不必要に関係者以外の人を招きたくない。しかしこの演習はドッキリのようなものである以上、教師だとバレない人員として選ばれたのだろう。

まだ到着していない保護者を待つ間、千雨に一人の女性が話しかけてきた。

 

「千雨ちゃん、遅くなったけど体育祭3位おめでとう」

「羽衣子おばさん、ありがとうございます」

 

常闇の母、常闇羽衣子は常闇以上に鳥度合いの高い女性だ。全体的にすらりと細身で、鳥の頭部に白い羽毛が両腕に生えている。"個性"は"羽毛"だ。

息子である常闇の親友ということで、中学の時から千雨に優しくしてくれている。

 

「踏陰からプレゼントも貰ったって聞いたわ、本当にありがとね」

「いえ、私の方がいつも助けられていますから」

 

二人で会話をしていると、黒髪の上品な女性が近付いてきた。

 

「はじめまして、八百万百の母です。

長谷川さん、昨日は百のために家まで来てくれたのに挨拶出来なくてごめんなさいね」

「いえ。こちらこそ昨日はお邪魔させて頂きありがとうございました八百万さん」

 

八百万の母と話していると、また別の女性が千雨に近付いてきた。

今度は白金色の髪の少し気の強そうな女性だ。

爆豪の母親だとすぐにわかるほど髪も顔立ちもよく似ている。どうやら120%母親似らしい。

 

「はじめまして長谷川さん、爆豪勝己の母です。

表彰式でウチのバカ息子が暴言吐いてごめんなさいね」

「いえ、その……私も結構言い返してるので」

「後でウチのバカ息子にしっかり謝らせるから」

「本当に気にしてないので大丈夫です。爆豪…勝己くんが、それだけ体育祭で本気だったということですから」

 

『勝己くん』という呼び名に口にした自分で違和感を覚えつつも、にっこり営業スマイルでの対応である。

 

そのまま千雨は他の保護者からも話しかけられる。その応対をしていると、誰かの母親と呼ぶには若い女性が千雨に近付いてきた。

絹のように白い髪にところどころ赤い髪が斑に散っているような髪の女性だ。髪色からして轟の家族だろうと予想した。

パッと見た印象はあまり似ていないが、翡翠色の瞳はよく似ている。

 

「初めまして、轟焦凍の姉の冬美です!あなたに会ったらお礼を言いたいと思っていたの!」

「お礼…ですか?」

「体育祭の千雨ちゃんのおかげで救われたの。焦凍も変われたみたいだし、本当にありがとう!」

「いや、そんなお礼を言われる事じゃないかと……」

 

善意と好意100%な眼差しの冬美にたじろぐ千雨。

瞳の色だけでなくぐいぐいと急接近してくるのもよく似ており、千雨は困惑した。

 

「全員揃ったようなので案内します。こちらへどうぞ」

 

相澤の言葉で、保護者を連れて敷地内を移動するためのバスに乗って演習場に移動した。

 

「ここが今日使用する模擬市街地演習場です。今日はこの市街地演習場ですが、他にも工場や森、人工河川など様々な演習場などもあります」

「おおー」

 

滅多に入れない雄英の設備の広さに思わず保護者から歓声が上がる。

その模擬市街地演習場の一角に、人為的に数メートルの穴が掘られてリンゴの芯のように孤立した檻があった。今回の救助演習で人質役と犯人役が待機する場所だ。

 

「見た目は不安定で危険に見えますけど、実際は土台の部分に鉄筋コンクリートを使用してますので安全です。ガソリンの匂いがすると思いますが、匂いだけで下にあるのは実際はガソリンではなくただの水です。連絡してあった通り、演出として炎が上がるように見えますが、落ちても火傷はしないのでご安心ください。

長谷川、檻までの足場頼めるか?」

「はい。フライ・マンタ×3!」

 

三体のフライ・マンタを連結して足場にして、檻への足場を作り相澤以外の全員が檻の中に入る。移動はこれで終了したためマンタを消す。

 

「では、私は負傷した振りをします」

 

千雨はそう言って青い飴玉に見える年齢詐称薬を口にした。殴打されたような傷と血を幻術で作り出す。

 

エヴァの外見を誤魔化せる幻術薬は猫族に見せかけることも出来るように、負傷者に見せかけることも可能だ。最初は化粧と血のりで誤魔化すかという話もあったのだが、バレてしまわないようにということで相澤に見た目をある程度誤魔化せるプログラムがあると説明しておいたのだ。

実際はプログラムではなく幻術薬(魔法)なのだが、千雨が能力について真実を話さないのはいつものことである。

 

突然千雨が全身に殴打跡と血が付いた姿に変わった事に驚いたのか、冬美が声をかけてきた。

 

「千雨ちゃん、それ、その……痛くないの?」

「驚かせてしまいすみません。見た目だけなので大丈夫です」

 

千雨が微笑み返せば冬美は少し落ち着いたようだ。そのまま気絶しているかのように見せ掛けるために、保護者のいる檻の中で横たわる。これで準備は完了だ。

 

「相澤先生、準備完了です」

「わかった。それじゃあメールを送る」

 

しばらくしてからA組の生徒たちが演習場にやって来た。

子供たちの姿を見て、悲鳴を上げて名前を呼ぶ。不安定な位置にある檻に閉じ込められた保護者という状況に、生徒たちは驚愕と動揺をする。

 

「アイザワセンセイハ、イマゴロネムッテイルヨ。

クライツチノナカデ」

 

機械によって無機質に変えられた声が響く。しかし声に込められた敵意を感じて緑谷たちは身構える。

 

「サワグナ。ジョウダンダトオモイタイナラ、オモエバイイ。ダガ、ヒトジチガイルコトヲワスレルナ」

「人質……っ!?」

 

身構えたクラスメイトたちに、索敵が得意な障子が音の発生源がどこか叫ぶ。

 

「違う、この周りじゃない。声はあの檻の中からだ」

「中……?」

「ソノトオリ……ボクハ、ココニイル」

「っ!?」

 

フード付きの黒いマントにフルマスクをつけた背の高い人物。マントで体形が分かりにくいが、男だ。周りの保護者達が男から距離を取るように檻の隅に逃げる。

保護者達が移動したことで、男が右腕で引き摺る物が生徒たちにも見えた。それを見て、緑谷たちは体を強張らせた。

 

男が引き摺っていたのは、つい数十分前まで普通に会話していた千雨だった。

 

ピンクとオレンジが混ざったような綺麗な珊瑚色の長い髪は血と泥で汚れている。体中ボロボロで、見えている肌が赤黒く変色し所々から出血している。

男はそんな千雨の襟を無理矢理掴んで引き摺っていた。

 

「長谷川さんっ!?」

「そんな……!!」

「サキニイッテオクガ、ガイブヘモ、ガッコウヘモレンラクハデキナイノデ、アシカラズ。

アァ、モチロン……ソコノデンキクンノ"コセイ"デモムダダ。

ニゲテ、ソトニタスケヲモトメニイクノモ、キンシダ。

ニゲタラ……コノショウジョト、ソノセイトノホゴシャヲ、スグニシマツスル」

「なっ!」

「カノジョノツヨサハシッテイタヨ。……ダガ、ヒトジチガイレバ、ドレホドツヨクテモ―――タダノ、サンドバッグサ」

 

敵の言葉に、クラスメイトたちは敵が生徒たちの"個性"を知っていることと、千雨が何故反撃せずに痛めつけられたのかを理解した。

 

「あいつ、保護者を人質にして長谷川を傷付けたのか……!」

「そんな!」

「……おそらく、保護者側にも歯向かえば長谷川を傷付けると脅しているのだろう……でなければ、ありえない」

「ひどい……!」

 

家族とクラスメイトが人質になっている。動揺と恐怖とどうすればいいのか分からず、うろたえるしか出来ない生徒たち。

その中で、拳をきつく握った生徒がいた。

 

「あの野郎ッ……!」

 

轟は、傷ついた千雨とかつての母の姿を重ねて、大切な存在を傷付ける敵に憎悪の炎を燃やす。怒りにより握りしめた右拳から"個性"の冷気が無意識で漏れて広がる。

 

「轟、冷静になれ」

 

そんな轟の肩を掴んで声をかけたのは常闇だった。

常闇に向かって冷静になっていられるかと腕を振り払って言おうとした轟だったが、常闇の赤い瞳に映る怒りの感情に冷静さを取り戻した。

大切な仲間を傷付けられて怒っているのは、なにも轟だけではない。常闇は胸に広がる怒りの感情を理性で抑え込んでいた。

常闇の"個性"である黒影は周囲の明暗だけでなく、常闇の感情の波にもその力が左右されるからだ。

 

「今は、心を静めろ。長谷川と皆の家族を救けるためにも」

「……悪ぃ」

 

息を深く吐き、今はこの状況を打破する事を考えろと自身に言い聞かせて冷静さを取り戻した轟。緑谷が敵に犯行の動機を聞き出しているのを見ながら、まっすぐと犯人を見据えて思考する。

 

檻の中の人質は20人近く……おそらく、長谷川の他に負傷者はいない。

雄英に侵入し保護者を人質に取る犯人の目的は何か。交渉の余地はあるのか?

緑谷の言葉に返答したということは、少しは交渉出来るかもしれねぇが……いや、動機が雄英に落第したことの逆恨みじゃあどうにも出来ねぇ。

それに犯人があの檻の中にいる以上、保護者と長谷川がいつ傷つけられてもおかしくない。どうにかして檻の外に出すか、檻の中で捕縛するしかない。

 

瞬時に状況を見極め、何をするべきかを判断した轟は常闇に話しかけた。

 

「常闇、皆が犯人に動機を聞き出している間に……瀬呂と麗日、緑谷、蛙吹に声をかけてくれ。

大人数の人質がいる以上、犯人を無闇に刺激するのはまずいからこっそりと」

「わかった。

救助の方針はどうする?」

「あの檻が地面に完全固定されている上に犯人も檻の中にいる以上、先に犯人の無力化をしてからの救助が堅実的だ」

「犯人の無力化か」

「そればっかりは俺だけじゃどうにもならねぇ。クラスの奴らと協力して……」

「要するに八つ当たりだろうが、クソ黒マント野郎が!!」

 

轟が常闇と現状を打破しようと話していたところ、犯人の言葉を遮るように爆豪が叫び、両掌で小さく爆破させる。

 

「かっちゃん!?」

「めんどくせぇ、今すぐブッ倒してやるよ……!」

「オット、ヒトジチガイルノヲワスレルナ」

「キャア!」

「ぐっ……!」

「!」

 

男は千雨の襟から手を放して一番近くにいた爆豪の母親を引き寄せる。そして千雨が動かないように、千雨の右肩を踏みつける。

その様子に、爆豪が舌打ちをして二の足を踏んだ。流石に母親とクラスメイトが人質というのは、爆豪でも躊躇うらしい。

苛立ちを隠せないのか、八つ当たりのように爆豪は叫んだ。

 

「勝手に捕まってんじゃねぇよ、クソアホ毛にクソババア!

ちったぁ抵抗しろや!!」

「クソとかババアって言うなっていつも言ってるでしょうが!!」

 

いつもしているやり取りなのか、反射的に行われた状況にそぐわぬ怒号に、全員がきょとんとして爆豪の母親を見た。

どうやら爆豪のあの口の悪さは母親譲りらしい。轟は全員の意識がその怒号で逸らされたところで声をかけた。

 

「葉隠、八百万」

「とっ……轟さん?」

「ビックリした……!」

 

後ろから急に肩を叩かれて驚いた二人。声が出たとはいえ、敵は轟の動きを見ていないようだ。

 

「悪ぃが手を貸してくれ」

「……もしかして……救出出来るのですか!?」

「ああ、その為に声をかけた。なるべく犯人に気付かれないように作戦を決めたいんだが……」

 

犯人を警戒したまま、どうにか行動を見られない場所はないかと周囲を見るが、隠れられそうな場所はない。

すると、斜め右前から声が聞こえた。

 

「轟、俺の後ろが死角になる。隠れろ」

 

障子が伸ばした複製腕から口を複製していた。

障子はA組の中でも体格が良い上に両腕と2本ずつある触腕を繋ぐタコのような傘膜部分を大きく広げれば、数人は余裕で姿を隠す事が出来る。

轟はすぐに障子の背後で少しかがみ、完全に敵から姿を見られないようにした。

 

「俺に出来ることがあれば言ってくれ、協力する」

「それじゃあ障子は他のクラスメイトと共に敵に声をかけてくれ」

「いいのか?注目が集まるが……」

「他の奴に任せられるなら任せたい」

「なら、犯人の気を引くように俺から他のクラスメイトに声をかけておくぞ」

「わかった」

 

障子の複製腕ならその場から動かずに声をかけるのは容易い。気付かれないようにクラスメイトたちへ協力を要請していく。

同時に常闇が同じように敵に見つからないように屈みながら轟の場所に来た。その後ろには声掛けを頼んでいた緑谷、瀬呂、麗日、蛙吹の姿もあった。

 

「轟、こちらも言われた通り緑谷と瀬呂と麗日、蛙吹に声をかけた」

「助かる」

 

犯人が犯行の動機を話している間に、轟が中心となって作戦会議を始めた。

 

「敵が檻の中にいる以上、下手に刺激するわけにはいかない。かといって、出てくる筈もない。

だから、檻の中で無力化するのが一番良いと思うんだが……緑谷、お前の意見を聞かせてくれ。お前、こういう状況をなんとかするの得意だろ」

「檻の中で……!

轟くん、もしかして葉隠さんにこっそり近付いて貰う作戦?」

「ああ。一応それを想定して声をかけた。クラスで唯一この場でも隠密行動出来る奴だからな。

ただ、葉隠だけじゃ失敗する可能性もあるだろ」

 

緑谷は轟が声をかけたクラスメイトたちの"個性"と出来ることを思い返しながら、作戦をよりブラッシュアップさせる。

 

「それじゃあ……葉隠さんだけじゃなくて、蛙すっ…つ、梅雨…ちゃんにも、協力してもらおう。

二人には負担をかける上に危険な目に遭わせちゃうけど……」

「緑谷ちゃん、轟ちゃん、任せてちょうだい」

「うん、大丈夫!私だってヒーロー科だもん。千雨ちゃんや家族を助けるためにやるよ!」

 

蛙吹はいつも通りの冷静な声色で。葉隠は制服しか見えないが、その雰囲気と声色で葉隠が覚悟しているのだと分かった。

 

「敵を無力化させる方法だが……」

「スタンガンはどうかな?」

「それが良いな」

「八百万さんはスタンガン作れる?」

「はい。見つかりにくいように迷彩柄のものを作りますわ」

 

緑谷の進言で早速スタンガンを創造し始めた八百万。なるべく見つからず、かつ周囲の地面の色を確認しながら右腕から造り出していく。

 

「で、俺らはどうする?」

「麗日さんは葉隠さんたちを浮かせてほしい。葉隠さんが万一気付かれた場合に即時離脱させる為に、常闇くんは"個性"発動の準備をした状態で待機を」

「葉隠が成功した場合も失敗した場合も、蛙吹には敵の捕縛を頼みたい」

「分かったわ」

「承知」

「捕縛したら瀬呂は檻にテープを伸ばしてくれ。テープを基盤に氷の道を作る。それで保護者たちと長谷川を救助する」

「轟くん。姿が見えない葉隠ちゃんはともかく、梅雨ちゃんはどうやって犯人に接近するん?」

「犯人の死角から近付いてもらおうと思っているんだけど……」

「それでしたら緑谷さん、私が周囲の地面と同色の迷彩マントを作りましたわ。

それで地面を這って頂くのはどうでしょうか」

 

八百万がスタンガンと共に創造したのか、その手には周囲と同系色の迷彩のマントを持っていた。

 

「そうね、私の手ならお茶子ちゃんの"個性"で無重力になっても地面や壁に張り付けれるから見つかる危険は少ないわ」

「緑谷、他に何か意見あるか?」

「この作戦で十分だと思うよ」

「よし、やるぞ」

 

 

 

「ニゲルツモリハナイ。ボクニハ、ウシナウモノハナニモナインダ。ダカラ、キミタチノクルシムカオヲ、サイゴニミテオコウトオモッタンダ。

キミタチモ、ダイジナカゾクトトモダチノカオヲ、ヨクミテオクンダナ。

―――サァ、ダレカラニシヨウカ……?ドウセナラ、コノコハサイゴニシヨウ」

 

犯人の男はそう言って千雨から手を放して保護者たちを見る。怖がる保護者たちの声に動揺している。

 

保護者の方を向いたことで敵は緑谷たちに背を向けた。その絶好の機会を逃さぬように葉隠と蛙吹が接近する。

スタンガンが格子の間から男の足元に近付き、あと少しでスタンガンが敵に触れるという所で、男がスタンガンを蹴り飛ばし、穴へと落ちていった。

 

「ドウヤラ、トウメイナコガ、イルナ……!」

「やばっ」

「葉隠を離脱させる、黒影!」

「アイヨッ!」

 

黒影が勢いよく伸びて檻の近くに腕を伸ばす。葉隠が透明なため、浮いているであろう場所にしか伸ばせないのだ。葉隠が黒影の腕を掴んだのを触覚で確認した黒影が、常闇の下へと戻る。

敵が黒影に視線を向けている隙に、隠れていた蛙吹がその長い舌で敵を檻の格子ごとぐるぐるに縛り上げた。

 

「捕まえたわ」

「梅雨ちゃんナイス!」

「よし、それじゃあ今のうちに足場を……!」

 

犯人の捕縛が出来たことで気が緩んだからなのか、犯人の男の動きに気付いたのは身動きを封じていた蛙吹だけ。

 

「……ヒトリヒトリ、ジックリクルシメタカッタガ、ヤメタ」

「みんな、離れてっ!」

「ミンナ、ナカヨク、ジゴクニイコウ」

 

蛙吹の言葉と同時に男がマントの下のポケットから取り出したライターを穴に放り込むと、穴から勢いよく炎が上がった。もちろんこれは演出で、穴の外側の壁面から炎が上がるように見える仕掛けがされているのだ。

これが本物のガソリンだったら、爆発するように炎が吹き上がって黒煙をあげていたことだろうが、そんな違いは一般人とまだ入学して間もない生徒たちに分かるはずもない。

熱風と揺らめく炎に保護者から悲鳴が上がる。

 

「あいつ!まだ抵抗するのか!」

「梅雨ちゃん、無事!?」

「ええ、なんとか。それよりも早く救助を!」

 

格子ごと犯人を拘束している蛙吹。じりじりと熱が肌を撫でるものの、熱風を感じるだけで火傷する心配はない。

 

「チッ!おい丸顔!浮かせろ!」

「爆豪くん!?」

「確実に敵を制圧すんのが先決だろうが!」

 

爆豪は言うが早く、一気に檻の出入口まで飛び、鍵のかかった檻の扉を爆破してこじ開ける。

それを見て、轟が氷で橋を作った。犯人の身動きを封じても、まだ救助が残っているのだ。

 

「俺が氷で橋を作る、その間に救助を!」

「ああ!」

「消火器を用意しましたわ!消火活動を!」

 

凍った端から融けていくが、それでも"個性"を発動し続けて凍らせ続ける上を飯田と緑谷を始めとして数人が救助に向かう。他に残っている生徒たちは八百万が創造した消火器で消火活動をする。

 

先に檻の中に入った爆豪は蛙吹の舌で身動きを封じられている敵の両腕をまとめて掴み、蛙吹の舌が離れると即座に地面にうつ伏せになるように引き倒して拘束する。

 

「こんな雑魚、俺一人で十分なんだよクソが」

「勝己!あんたっ!またクソなんて言って!」

「うっせぇ!とっとと避難しろクソババア!

カエル!テメェも中に入ってそこでくたばってるアホ毛確認して先に行け!」

「あんたねぇ!!」

「爆豪ちゃんのお母さん、言い争いは後にして先に避難をしてほしいわ」

「……勝己!あんた後で説教だからね!!」

 

蛙吹に避難を促され、爆豪の母親も避難を始めた。

 

「この炎じゃ、氷が融けて一人ずつの救助は難しい……!

そうだ!轟くん!氷を滑り台みたいに出来る!?この間の救助の授業の……!」

「救助袋のことか!?炎の熱が強いが、大丈夫だ!」

「あとは、八百万さんにシートを……!」

 

緑谷が八百万に頼もうとした時、八百万が「出来ましたわ!」と叫んだ。

 

「緑谷さん!今、防火シートを作りました!」

「八百万さんありがとう!

瀬呂くん!常闇くん!シートを引っ張った状態で広げて!他の皆はそのまま消火を!」

「任せろ!」

「黒影、炎の光があるが我慢しろ」

「アイヨッ!」

 

轟が作り出した氷の滑り台の上に防火シートを広げる。端を瀬呂がテープで固定するのと常闇の黒影が引っ張ることで氷の上でもきちんと固定される。

 

「皆さん!このシートの滑り台を滑って下さい!ご婦人から先に!」

 

保護者たちを檻側に立った飯田がキビキビと指示を出して避難させていく。

 

「爆豪くん!蛙吹くん!あとは君たちだけだ!」

「今避難するわ」

 

千雨を背負った蛙吹が先に行き、爆豪が最後に敵を連れて避難する。犯人はもう抵抗する気はないようだ。爆豪が犯人が何かしたらいつでも攻撃出来るようにしているのも大きいのだろう。

 

無事に全員救助したクラスメイトたち。

しかしそれぞれの保護者が無事であったことよりも、大怪我を負っている千雨に全員が駆け寄った。

 

「長谷川っ!」

「酷い……っ!」

「今すぐリカバリーガールのところに運ぼう!」

 

飯田がそう言って蛙吹から千雨を受け取って抱え、保健室に走り出そうとする。

それと同時に、犯人が口を開いた。

 

「オメデトウ、コレデ、ジュギョウハオシマイダ」

「は?なに言って……」

「とりあえず爆豪が拘束している間に学校にしらせねぇと……」

「それに、相澤先生を――」

 

全員がまだ解決していない事に動き出そうとする中、聞きなれた無気力そうな声が響く。

 

「はい、先生はここです」

 

倒壊したビルの陰から出てきたのは、普段通りの相澤先生。

 

「……は?」

 

突然の急展開に次ぐ急展開に、生徒たちの思考が停止し、誰かの間の抜けたような声だけが響いた。

 

 




今回初のオリキャラ、常闇母こと常闇羽衣子(旧姓:鳥羽)
見た目を分かりやすく言えば、常闇が白くて女性になった感じの人。イメージとしてはBoWのリト族と風タクのリト族を足して2で割った感じ。手足は人型のもの。
常闇より鳥度が高い。

"個性"は羽毛。羽毛を両腕から出すことが出来る"個性"。息子に"個性"は遺伝せず鳥人の部分が遺伝した。
ちなみに腕から羽根を出しても飛行出来るほどの筋力がないため、出来ても数十秒だけ数メートル飛ぶとか滑空だけだったりする。

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