いやまさかホントに……ここまで更新しない日が続くとは思ってなかったんだよ……お前なんで前書きのフラグ回収してんだって話だよ……いやホントに……。そんなところで未来予知すんじゃねぇって話だよ……まったく。
未来予知…………宝くじ当たるってここで書けば当たるとかは……?ない?そうか……。
そんな訳で、更新しない安達武は6月とともに消去されました。新しいクローンナンバーの安達武は最高に幸福な市民です。UV様、長谷川千雨の小説ください。
出入口が封鎖されロビーに閉じ込められている千雨たち。その中でスマホでブランドン博士に電話をかけようとしていた轟が眉間に皺を寄せながら呟く。
「携帯が圏外だ。情報関係は全て遮断されちまったらしい」
「マジかよ……」
「エレベーターも反応ないよ」
「マジかよぉぉ!」
耳郎の言葉に峰田は顔を青ざめて冷や汗をかく。エレベーターでロビーから出ることも、外に救けを呼ぶことも出来ないのであれば当然である。
「爆発物が設置されただけで、警備システムが厳戒モードになるなんて……」
訝しげにしているメリッサの言葉を聞きながら、千雨は電子精霊たちに警備システムへ入り込み、そこから監視カメラの情報などを集めるように指示をしていた。
タルタロスと同等のセキュリティを誇るI・アイランドで爆発物がそう簡単に設置出来るとは思えなかったからだ。
警報とアナウンスがされて閉じ込められている今、さきほどより一層嫌な予感が強くなっている。それと同時に、悲しいことに、これまでの経験則が千雨へトラブルの渦中へと向かえと言っているのにも気付いていた。
嫌だ。絶対に嫌だ。トラブルとは無縁の平穏な生活が私の日常なのだ。トラブルなど断じて御免である。
しかしそんな千雨に対して世界は無情だったし、現状、飛び込まざるを得ないのをひしひしと感じていた。
千雨が1人憂鬱な表情をしていると、緑谷と飯田の会話が聞こえた。
「会場にはオールマイトがいるんだ」
「オールマイトが!?」
やっぱりいんのかよ。そしてやっぱりアイツに連れてきて貰ってんのかよお前は。
千雨はそう思いズキズキと痛み始める頭をおさえるが、周囲で不安そうにしていた面々はホッと安堵する。平和の象徴というものは、この世界の人間にとって誰もがその存在だけで安心出来る存在なのだ。
「メリッサさん、パーティー会場まで行けませんか?」
「非常階段を使えば、会場近くに行けると思うけど……」
「おい待て。直接会場に行くな」
千雨はメリッサの案内で会場に行こうとする緑谷に待ったをかけた。
「長谷川?どうして急に……」
「だいこ、タワーのパーティー会場周辺の見取り図を出せ」
「はいですー」
「……ああ、二階パーティー会場天井の一部分だけガラス張りで上階から覗けるようになってるな……。向かうなら三階の会場の真上に向かうぞ。
それから移動中は警戒を怠るなよ」
「な、なんでそんなピリピリしてんだよ……?」
「嫌な予感がする。外れてくれたら良いんだがな。
耳郎は私と一緒に索敵に集中してくれ」
千雨の真剣な言葉に、緑谷たちはただ事ではないと察して緩んだ気を引き締める。
「……長谷川くんの言う通りにしよう。メリッサさん、案内を」
「わかったわ」
千雨たちはロビーから慎重になりながらも移動を始めた。
セントラルタワー二階のレセプションパーティーの会場内は、ライフルを手に武装した男たちによって占拠されていた。
突然現れた敵のリーダーらしき鉄の仮面をつけた男は、警備システムを掌握していてこの島にいるすべての人間が人質だと話していた。
パーティー会場のステージの上にオールマイトが倒れている。その身体は青白く光る帯によって縛られている。最新鋭のセキュリティ捕縛装置だ。敵の仕業である。他のヒーローたちもオールマイト同様に拘束されているほか、パーティーの招待客たちは大人しく座り込んでいる。
加えて、敵が会場内にいたデヴィットとその助手であるサムを連れてどこかへ向かっていった。
敵の目的は何か分からないが、下手に動けば会場と島の人間に危害を加えられてしまう。やるならば一瞬、そして最速で解決しなければならない。
オールマイトがどうにか拘束を解こうと身体に力を入れたところで、吹き抜けになっている天井のガラス部分が光ったのに気付いて見上げ、上階から覗き込んでいる顔に、敵に気付かれない程度に驚いた。
緑谷が心配そうな顔でスマホのライトを点滅させていた。
「オールマイトが気付いた。耳郎さん、いけそう?」
「いいよ」
耳郎が緑谷に返事をする。上階には緑谷と耳郎の他に千雨もいた。
千雨が周囲の警戒をし、耳郎が自身のイヤホンジャックを床に刺して索敵と情報収集。三人という少数精鋭での偵察だ。他の面々は人目につかない非常階段の踊り場に待機しており、何かあったら電子精霊が連絡をすることになっている。
緑谷がオールマイトに喋ってほしい事と聞いている事をジェスチャーで伝えると、オールマイトは敵に気付かれないように小声で話し始めた。
「聞こえるか。敵がタワーを占拠、警備システムを掌握。この島の人々が全員人質に取られた。ヒーローたちも全員捕らわれている。危険だ。すぐにここから逃げなさい」
オールマイトの言葉を聞いた耳郎はイヤホンジャックを戻しながらうろたえ、緑谷と千雨に話した。
千雨は耳郎から聞かずとも電子精霊が盗聴することも出来たのだが、周囲への警戒に専念していたため盗聴はしなかった。だが、耳郎の言葉を聞いておでこを右手で押さえてゆっくりと長く息を吐く。
何もかも忘れてホテルに戻って着替えてメイク落として寝たい。そんな現実逃避をしながら、その場から千雨は緑谷と耳郎と共に非常階段の踊り場へと慎重に戻った。
会場の上階から非常階段の踊り場に戻った三人が待機していた面々に情報共有をする。
「せっかくの楽しい旅行だったのに……なんでトラブルに巻き込まれるんだよ……クソが……」
「おちこまないで、ちうたま」
「ドンマイです」
千雨は1人大きくため息をつきながら、電子精霊たちに慰められていた。
麻帆良学園時代の修学旅行しかり、イギリスと魔法世界しかり、事あるごとにトラブルに巻き込まれてきたので、そのため息もそれはそれは深いものだった。現実逃避をするのもおかしくない。
一方で、緑谷と耳郎から状況を聞かされた面々は事態がそこまで大きなものだったとは思っていなかったのか言葉を失っている。
そんなみんなを前に、飯田が口火を切った。
「オールマイトからのメッセージは受け取った。俺は、雄英校教師であるオールマイトの言葉に従い、ここから脱出することを提案する」
「飯田さんの意見に賛同しますわ。私たちはまだ学生、ヒーロー免許も無いのに、敵と戦うわけには……」
飯田の隣にいた八百万が賛同するが、その声には悔しさが滲んでいた。そんな飯田と八百万に千雨はため息を吐きながら反論した。
「逃げるってどこに、どうやって?
タワーの出入口も、窓も、全部強制的に封鎖されてる。市街地に出ることは出来ないだろ。
メリッサさん、そこんとこどうなんだ?」
「そうね、脱出は困難だと思う。ここは敵犯罪者を収容するタルタロスと同じレベルの防災設計で建てられているから」
「じゃ、じゃあ……救けが来るまで、大人しく待つしか……」
上鳴の不安そうな声を最後に、彼らは静まり返った。広がる不安によって空気が暗くなる中で、緑谷が口火を切った。
「救けたい」
全員の視線が緑谷に向けられた。考えごとをしながら俯いていた緑谷が顔を上げて、真剣な表情でもう一度はっきりと言った。
「救けに、行きたい」
強い覚悟をした目だ。そんな緑谷におびえた様子の峰田が抗議する。
「おいおいおい、敵と戦う気か!?お前、USJでこりてないのかよ!」
「峰田くん、無理に戦うつもりはないよ。僕たちが戦わずにオールマイトたちプロヒーローを救け出せれば、状況は変わる。僕は僕たちに今出来る最善の方法を探して、みんなを救けたい」
困っている人を、苦しんでいる人を見過ごせない。ただ救けたい。そんな強い意志を示す緑谷。
そんな緑谷の言葉に対して千雨は大きく舌打ちをした。
「バカかテメェは。都合の良さそうな甘ったれた妄言たれてんじゃねぇよ」
「は、長谷川さん……でも……」
「『戦うつもりはない』だの『戦わずに救け出す』だの……いくら避けようとしてもそれは絶対に無理だぜ。テキトーにごまかして善人ぶろうとするな。戦わずにどうにかしようなんて、そんなの無責任が過ぎるぞ」
「でも……」
「いいかお前ら。私たちは今……悪を見逃すか、悪を行うか、その分岐点にいる」
「見逃すか……行うか……」
千雨の言葉を復唱するように呟いた緑谷。誰かが息をのむ小さな音が薄暗い踊り場で小さくも確かに響いた。
「ああそうだ。敵と戦わないで状況を変えるなんて安全な方法は無い。
今何もせずに敵の犯罪行為を見て見ぬふりするか。それとも、違法だろうが後で怒られようが犯罪行為をしてでも……敵と戦ってでも現状を変えるか。
二つに一つだ」
緑谷と飯田と轟は保須の出来事を思い出した。
あの日、飯田たちは無免許者が個性を使って敵と戦うという法律違反をした。ヒーローを目指す学生として、無資格の子供として、あの行いは間違いで違法であった。だが、それでもあれは正しい行いだったと、あの日三人に頭を下げた面構所長を思い出す。
彼らは今、あの時と同じ過ちを犯すのか否かという場所に立っている。
沈黙を一番最初に破ったのは、轟だった。
「俺は……たとえ違法だとしても、止めるために動きたい」
「轟さん!?」
「……ウチも、見て見ぬふりなんて出来ない」
「耳郎もかよ!?」
轟と耳郎の決意に、八百万と上鳴が驚きの声を上げる。二人とて、助けたくない訳ではない。しかし違法行為をするという事に対して、二人は即座には決断しきれなかった。
そんな中で、麗日が声をあげた。
「ウチも、出来ることがあるならしたい!人として、ヒーローになるならない以前の問題やもん!デクくんも、そういうつもりやろ?」
「麗日さん……。
ごめん、長谷川さんの指摘通り、戦闘を絶対に避けて現状を変えるなんて出来ないのに、僕……」
「そこで一々ウジウジすんなっての。
……それで、他の奴は?」
千雨と飯田の視線が交わる。
飯田はグッと拳に力を込めながら思い出す。保須で通信越しでも助けられたこと。ヒーローになる未来を守るための交渉をしてくれたこと。励ましの言葉をかけてくれたこと。
あの日誓った、ヒーローとして正しくありたいという、信念のために。
「……無理だけはしない。それが約束出来るなら!俺も協力しよう!」
「でしたら私も行きますわ」
「よし、じゃあ俺も!」
飯田の言葉に八百万と上鳴が賛同し、峰田以外の全員が参加を決めた。
それによって自然と視線が峰田に集まり、向けられた視線に肩を震わせる峰田。周囲は全員ヒーロー候補としてヒーローらしい勇気と覚悟を固めてきている。勿論峰田とて助けられるなら助けたいが、怖いものは怖い。
しかし敵と戦う可能性があるという恐怖よりも、今のこの流れで自分だけ断るということが出来る筈もなく。
「あーもう!わかったよ!オ、オイラも!やれば良いんだろ!?」
「よく言ったぜ峰田!」
「頑張ろう!」
全員が敵と戦ってでも現状を変えるという意見で一致した。
しかし、まだ作戦は何も決まっていない。
「でも、どうすんだよ?
会場の中にも外にも敵がいるし、建物の外へは出られない、しかも島全体が人質なのは変わんねぇだろ?」
「ああそうだ。行き止まりの袋小路、下手に手も足も出せないピンチってやつだな」
「なんだよ、結局は振り出しなんじゃねぇかよぉ……」
峰田が恨めし気に呟く。その時、メリッサが意を決して口を開いた。
「I・アイランドの警備システムは、このタワーの最上階にあるわ」
「メリッサさん!」
「敵がシステムを掌握しているなら、認証プロテクトやパスワードは解除されているはず。それなら、私たちにもシステムの変更が出来る。最上階まで行くことが出来れば……みんなを、みんなを救けることが出来ると思う」
「それなら、なるべく戦闘を避けることも出来そう」
「ですが、最上階には必ず敵が待ち構えていると思いますわ」
「そこは例えば誰かが囮になって逃げている間に、システムを戻すとかは?」
「耳郎の言う方法だったらいけるかもな……」
みんなで話している中で、轟が千雨に質問した。
「……なぁ長谷川、お前の個性でシステムの奪還って出来ねぇのか?」
その言葉に、メリッサ以外の全員が「それだ」と声を上げた。
「そっか、長谷川の個性の"電子操作"ってモンスターだけじゃなくて機械とかプログラムとかいじれるんだっけ!」
「そういえば、体育祭でもモニターとか機械のハッキングを長谷川くんはしていたな……」
轟の言葉に全員が期待の籠もった目で千雨を見る。集まった視線に一瞬のけぞるが、千雨は言葉を紡いだ。
「……まぁ、技術的には出来ない訳ではない」
「タルタロス並みの防御システムなのに!?」
世界最新にして最高のセキュリティを誇るタルタロス並みの防御システム。いくらプロテクトやパスワードが解除されている可能性があるとしても、ハッキングで奪還出来るというのは、メリッサからすればにわかには信じられなかった。
「あー待て待て、『技術的には』だからな。問題がいくつかある」
「え」
「その1。ハッキングに使えるスペックのあるパソコンがここには無い。いくら私でも、ここの警備システムをハッキングするのはスマホじゃ無理。
セキュリティもクソもねぇ体育祭のモニターや音響設備をハッキングするのとは訳が違うからな」
相手は最新鋭の防衛設備である。体育祭とは状況が違うのだ。
一応、力の王笏をパソコン本体として使えば問題ないのだが、コレばっかりは簡単には言えないし見られる訳にはいかないので方法として無しである。これが有りなら、この場に千雨1人だけなら、さっさと実行して現場は全てヒーローに任せて終わりにしていた。
「その2。仮にここで私がハッキングを仕掛けられるとして、タワー内部のセキュリティ全部あっちが握ってるってことは、籠城して安全にハッキングができる場所なんてねぇってことだからな。逆探知されかねねぇ」
学園祭で行った茶々丸との電脳戦はシステム管理室を物理的に奪われていた訳ではなく、ハッキング攻撃により電子上で停止されたシステムを奪い返し再起動したのだ。
ロボットたちも最終日のイベントとして設定されていた屋外以外にはおらず、千雨たちがネットにダイブした図書室の中に襲撃してくることも、数時間後に飛ばす時間跳躍弾を撃ってくることもなかった。
超たちが人を殺さないようにし、且つ、ロボたちに活動範囲を屋外のみと限定する指示をしていたからである。
「安全な場所を確保してもダメなのか?」
「そもそも銃持った奴らが直接攻撃しに来ないとは限らない以上は無理だろ。それに、向こうが直接本体を動かしてるんなら、向こうの腕によっちゃハッキングを妨害されるしなぁ」
茶々丸レベルの腕を持っているという場合は難易度が一気に跳ね上がる。そうなると電子空間にダイブして電子戦をするしかないが側に誰かがいたらそれは出来ない。千雨の能力が個性ではなく魔法だとバレるのは可能性であっても勘弁である。
「んで、その3。
これが一番重要な問題点になるんだが……下手にハッキングしたのがバレたら、真っ先にパーティー会場にいる各国の要人や研究者たちが殺されかねない。会場の人間しかセキュリティ厳戒モードが敵の仕業って知らない訳だし。
ヒーローの拘束が解けるのと敵の銃弾、どっちが早いか考えなくても分かるだろ」
「一気に怖いこというなよぉぉぉ!!」
峰田がガクガクと恐怖に震えて泣きそうな声で叫んだが、事実である。
超たちは千雨たち含む麻帆良学園の人間を殺そうとせずにいたから何も気にせず電脳戦が出来ていたが、今回の敵は人数も目的もわからない上に、島にいる人間全員が人質だとオールマイト曰く話していた。
何かあれば殺される可能性は十分あると言っていい。
「……どうにか出来ない?」
そう千雨に訊く緑谷の目は、見覚えのある目だった。
ネギが、神楽坂が、白き翼の面々がよくしていた、諦めずに最善の一手を探るまなざし。何があっても助けたいという、曲げない意志を宿した眼だ。
「……救けずにはいられない、か……」
こういう眼をしている以上、千雨が折れるしかない。折れずにいたら、無茶をする。こいつはそういう奴だ。
千雨はため息をついてから、緑谷と視線を交えて口を開いた。
「これらをどうにかする方法が全く無い訳ではない」
「マジかよ!?」
「今のところパーティー会場に敵が多い。ざっと数えたところ10人ほど。リーダーはおそらく上着を着てた仮面の男だろう。オールマイトが一番警戒していたし、私から見てもあいつがトップだろうよ。
リーダーっぽい奴がいなくなって手下だけになったら、奇襲して会場内の敵を全員捕縛して救出するのは出来るとは思う。
メリッサさん、I・アイランドの警備ロボはロボット工学三原則を遵守するんだよな?」
「え、ええ。勿論よ」
ロボット工学三原則。それはアメリカのSF作家のアイザック・アシモフがSF小説の中で1950年に示した、ロボットが従うべき原則だ。
第一条・ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。
第二条・ロボットは人間にあたえられた命令に服従しなければならない。ただし、与えられた命令が、第一条に反する場合は、この限りでない。
第三条・ロボットは、第一条および第二条に反するおそれのないかぎり、自己を守らなければならない。
この三原則はSF小説でよく題材にされたり取り入れられることが多い。また、I・アイランドのような警備をロボが担うような場所では実際にこの三原則が適用されていることが多い。
事実、I・アイランドの警備ロボは捕縛機能は付いているが、銃や刃物や鈍器といった武器の装備はしていない。
「じゃあ、ロボの相手をすんのは危険じゃねぇのか」
「長谷川さんの言う通り、厳戒態勢で警備ロボにあらゆる指示を出せたとしても、三原則を破らせることは出来ないわ」
「それなら人質は実質パーティー会場だけ。島全体が人質というのは誇張表現ってことになりますわね」
「会場さえどうにかすれば良いのか」
「そう逸るな、まだ説明済んでねぇぞ」
千雨がにわかに沸き立つ面々をたしなめて言葉を続けた。
「パーティー会場の人たちを助けるにしても、セキュリティの解除がどっちにしろ必要だ。逃がそうにも逃げ場がないことにはな。
かといって、私がハッキングするには設備がない。そういう訳で、セキュリティを解除するならタワーを登って制御室を奪還するしかない。
敵が足止めをしようとパーティー会場から狙いをこちらに変える可能性もあるが……パーティー会場をどうにか出来れば、あとはヒーローたちに協力してもらって捕まえられる。
……つまり、このタワー最上階にあるセキュリティールームの奪還とパーティー会場の人質救出を同時に行うのが現状を打破出来る唯一の策だ」
「無茶苦茶だろ!」
「ああ、峰田の言う通り無茶苦茶だろうな。
日本の国立高校のヒーロー候補生9人とI・アイランドのアカデミー生1人、合計10人のガキが、何人いるかわからない銃火器で武装した敵がいるタワーを登ってセキュリティールームの奪還とパーティー会場の人質救出なんてのが現実にあり得てたまるかって話だ。
だが、敵に気付かれていない私たちしか現状動ける人間がいないのも事実。最悪なことにな」
「……提案したってことは、出来るってことだろ」
「無理無茶無謀と戦闘を承知の上でどうにかしたい奴しか、ここには居ねぇんだろ?」
「……お前、最初からそのつもりで言ってたのか」
一番に覚悟を示した轟は、千雨が最初から狙って全員に敵と戦ってでも救けると決断させた事を理解した。
下手に誤魔化して甘い気持ちでタワーを登るくらいなら、キチンと戦闘する覚悟を決めさせるつもりだったのだろう。
そもそもタワー内部の地図を電子精霊が出せるのだ、警備システムの管理が最上階でされているのも知っていて当然である。
「それで、どうするん?」
「私がパーティー会場の人質を解放する。お前らは全員でタワーを登ってくれ」
「千雨ちゃんが1人でって……いや無理やろ!」
「それなら俺も会場に行く」
「会場内にいるのは敵だけじゃねぇし、範囲攻撃で火力のデカい轟よりも手数が多い私が適任だよ。それにタワーを登ってそっちに注目集めてくれるなら、その間に敵の制圧は出来るさ、私1人でもな」
「それでも危険だろ」
「会場の人質解放のタイミングは見計らってやるし、私ならお前たちに連絡することも後から追いかけるのも問題ないだろ。そういうの考えたらこれが一番良い」
「……まぁ確かに、長谷川は移動技豊富だから後からタワーを登って追いかけるのも出来るだろうが……」
「これ以上の文句は無しだぜ。
会場は私が1人でやる。だから警備システムは頼むぜ」
千雨が1人でパーティー会場を担当することに轟が渋々納得したところで、耳郎が「あのさ」と声をあげる。
「ところで、メリッサさんはどうする?」
「そりゃ連れていくしかないだろ」
「えっ……で、でも、メリッサさんは個性が……」
メリッサが個性を持っていない事を本人から聞いていた緑谷は心配そうに眉をよせている。しかしそんな緑谷に千雨は首を横に振る。
「電子精霊たちのおかげでタワー内部の構造を確認出来るとはいえ案内役は必要だし、下手に1人で残した方が見つかる危険性が高い。なにより私以外にセキュリティの解除が出来る奴がタワーを登るチームの中に必要だろ。遠隔で操作できない可能性もあるしな。
それにここまで来て危険だからって理由で1人置いてくのはねぇだろ」
「千雨さん……!」
「メリッサさんも、覚悟決めてんだろ?」
「ええ!」
メリッサが危険を承知の上で出来る事をしたいと願っていたことを、千雨はくみ取っていた。かつて無力で非力だった千雨だからこそ、メリッサの気持ちがよく分かっていた。
緑谷は千雨の意見に加えて、メリッサが千雨に力強く返事をしたことにその意志の強さを感じて頷いた。
千雨が周囲を見れば、緑谷以外の全員もまた、真剣な表情をして頷いている。メリッサの同行に異論は無いようだ。
「行こう、みんなを救けに!」
「おう!」
飯田の作戦開始の言葉に、全員の口から鬨の声が上がった。
ちう様が別行動、あとの面々は原作通りになりました。原作映画見てて思ったのが、これタワー上ってる間に会場内の人間殺されてもおかしくねぇんだよなぁ……という事でした。
それを思えば超は本当にすごいですよね、学園側が動いてたのもあるけど、多少の怪我人は出ても死人は出さないっていう。さすちゃお。
何はともあれ作戦会議も済んだとなればアイアイランドも後半分くらい……早く終わんねぇかなぁ。
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