ひねくれ魔法少女と英雄学校   作:安達武

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湖畔の宴と余波

千雨がホテルに戻ってから数時間後。

朝食の時間ということで轟からモーニングコールを鳴らされた千雨は、大きな欠伸をしながらホテルの朝食会場のバイキングコーナー手前で轟と合流した。

轟は黒いカジュアルな半袖のワイシャツに青いジーンズというラフな格好だ。千雨は黒の半袖パーカーと白いスカートと茶色いウエストバッグ。魔法世界に向かった日の服装に似たデザインのものである。

 

「悪ぃ、戻るの遅かったのに起こして」

「ん……いや、ここで起きなきゃ一日中寝てただけだから」

 

提供されている料理は全て洋風だ。和食がない事に轟は少し残念そうにしながらも、トレーに載せた取り皿にベーコンやオムレツやロールパンなどを盛っていく。食べ盛りの高校生らしく朝から食欲がわいているようだ。

一方で、千雨はあまり食欲がないのかデザートコーナーでヨーグルトとフルーツをいくつか皿に取り分け、ホットのブラックコーヒーを手にして空いている席へ座る。

ちょうど席から見えるテレビでは朝のニュースが流れていた。

 

「――昨夜未明、独立研究機関、学術人工移動都市I・アイランドでおきた警備システムの不具合は、不法侵入した敵がメインシステムをクラックして引き起こされたことが関係者への取材で判明しました。

犯行グループの人数、またその動機についてはいまだ不明ですが、I・アイランド最高執行機関は広報を通じて、原因究明に全力を尽くすとのコメントを発表しています。

また、本日から開催予定だった個性技術博覧会、通称I・エキスポは、破壊された施設の修復及び安全確保の面から、当分の間開催が見送られることとなりました。

それでは、次のニュースです……」

 

どうやらI・アイランド上層部は千雨のハッキングに関しても全て敵の仕業にしたようだ。賢い選択である。

同じくニュースを見ていた轟は千雨に小声で話しかける。

 

「……昨日の一件、処分は無しか」

「あー無し無し。私もお前もあいつらも、特に何もねぇよ」

 

千雨がホテルに明け方に戻ったという連絡を朝起きてから知らされた轟は、戻っている以上問題ないと分かっていたとはいえ、本人の口からお咎め無しと聞けて改めてホッとする。

デヴィッドが事件の計画に関わっていることを轟は知らないため、話はそれで終わった。

 

「そういや、オールマイトからのメッセージ見たか?」

「オールマイトからの?見てないな。ちくわふ」

「I・エキスポの中止と昨日のことのお礼として、昼にバーベキューをするので来て欲しいというメッセージですねー」

 

電子精霊・ちくわふがメッセージの書かれた仮想ディスプレイを表示する。いちいちスマホを取り出さずとも内容確認出来るのは便利であった。

メッセージからして、昨日の事件で頑張った生徒たちを労わりたい気持ちはよくわかる。そして、千雨もまた、昨日の別れ方から散々心配させたであろう緑谷たちに顔を合わせる必要があるとは思っている。

しかし、千雨はバーベキューよりも寝たかった。明け方まで頭を使っていて、二時間程度の仮眠では全く疲れがとれていないのだ。

 

「11時半に合流して一緒に向かわないかって飯田と八百万たちから連絡があった」

「……それまで仮眠取ってて良いか?」

「ああ」

 

とりあえず、今は少しでも寝よう。千雨は部屋に戻って時間ギリギリまで仮眠をとったのだった。

 

 

 

現在時刻は午前12時。青空の下、I・アイランドにある湖畔を一望出来るテラスに千雨とクラスメイトたち全員がいた。

6つある鉄板で串焼きやソーセージなどを焼いており、辺りには肉の焼ける良い匂いが広がっている。

 

「きんちゃ、あーん」

「あーん……ありがたき幸せ~!」

「ちう様おやさしいです!」

「お肉おいし~」

 

千雨は串焼きされた肉と野菜を箸で串から外して、小さくしたものを電子精霊たちに分け与えていた。千雨から食べさせて貰った電子精霊たちは嬉しそうに味わっている。

今回の事件で電子精霊たちは普段よりも頑張ったので、ご褒美という奴だ。

 

「フミカゲ!俺モ!俺モ食べたイ!」

「黒影、食べるか?」

「チサメ!あリがトー!」

 

電子精霊と同じように千雨は黒影にも肉を食べさせる。千雨の感覚として黒影は電子精霊と同じようなものだ。深い意図はない。

しかしそれを見て、峰田が光のない闇一色の眼差しを常闇に向けた。

 

「……常闇、今どんな気持ちだ?オイラは憎しみと羨望でいっぱいだ……」

「聞くな」

 

黒影が個性とはいえ、女子からの『あーん♡』である。千雨は別にハートマークが語尾に付くような声色など出していないが、峰田からすればついてるようなものであった。

そして常に冷静沈着でヒーロー志望な常闇も、男子高校生。自身の個性相手ではあるが動揺していないはずがなかった。

 

「オイラだって、オイラだってぇ……!女子から『あーん♡』ってされてぇよぉ……!

あんだけ怖い思いしたっていうのに、ハーレムがないなんて……!」

「諦めて肉食っとけよ峰田」

「つーか常闇じゃなくて黒影だしな」

「あんなん同じようなもんだろ!!」

 

慰めとツッコミをする上鳴と切島だが、それを一刀両断する峰田。

敵や警備ロボと戦ったのに事実の報道がされなかったため、美女に感謝されてハーレムという峰田にとって最高のご褒美がない。

それなのに関係ないクラスメイトが女子とイチャイチャしているのを見過ごせるはずもなかった。

 

「せめて、せめてオイラも……長谷川、オイラにもォ!」

「誰がするかアホ」

 

峰田に対して天と地ほどの扱いの差をみせる千雨。だが、峰田の日頃の言動に対する女子の好感度は底辺も底辺だ。加えて、食べさせようと近付いたらセクハラされそうだという警戒心もあった。

 

「なんでだよ!頑張ったオイラへのご褒美に、それくらいしろよ!あの時オイラたちに覚悟決めさせたくせに!」

「してやるだけの好感度がねぇし、頑張ったのは私も他の奴らもそうだろうが」

「むしろ一番頑張ってたのは長谷川と電子精霊たちだよね」

「チクショー!!やけ食いしてやるー!!」

 

千雨と耳郎の正論に涙を流しながら両手にいくつもの串を持ってやけ食いする峰田だったが、飯田からクラスメイトのことを考えて食べるように注意される。

 

「にしてもやっぱスゲーよなトッププロってのは。こんなところをポンと借りられるとかさ」

「オールマイトじゃなきゃ無理だろー」

 

ワイワイと笑っているクラスメイトたち。

このテラスはオールマイトが観光客や島民やマスコミなどから避けて過ごせるように借りたヴィラである。

一棟ごと貸切になっているのだが、エキスポの開催延期で遊べなくなった生徒たちのためにこんな場所を即座に用意出来るあたり、流石は世界的に有名なヒーローと言うべきだろうか。

 

「千雨さん!私バーベキューというのは初めてですが、とても良いですわね!」

「……そうだな」

「無限……」

 

千雨は同じ鉄板を囲んでいる八百万の前に積み重ねられた皿と綺麗に食べられた串の数に、常闇と二人そろって唖然として見ている。千雨は八百万と特訓していたが、それでもここまで食べる姿を見るのは初めてだった。

フードファイターさながらに八百万のもとで消えていく肉の量に、近くで同じくもぐもぐと肉を食べながらその様子を見ていた轟が口を開いた。

 

「よく食うな。そんなに腹減ってたのか」

「昨日は脂質をほとんど使い果たしてしまいましたので、補給しなければ……あら、このラムも美味しいですわ!」

「砂藤もそうだが、個性で消費するのが脂質やら糖質といった奴は大変だな……。

ラムとソーセージ焼けたけど、食うか?」

「ありがとうございます千雨さん!」

 

八百万の持っていた皿に鉄板で焼けたラム肉とソーセージを2、3ほど載せる。

八百万はそれを嬉しそうにして、上品に食べていく。バーベキューという開放的で自由な食事なのに品良く食べるのもどうなのかと思うが、もはや癖だろう。

轟がもぐもぐと食べていた肉を飲み込んでから、千雨に近付いた。

 

「長谷川」

「んだよ、轟もラム肉食べ……?」

「あーん」

 

千雨は轟から一口サイズの肉を差し出された。轟の表情は普段より緩く微笑んでいる。

深い意図はない。ただ単に、千雨が電子精霊や黒影に食べさせていたり、八百万に焼けた肉をあげていたのを見て、他よりも食べていない千雨に食べさせてあげようと思っただけである。

 

轟は『あーん』と言って誰かに食べさせるのは、親子だったり、よっぽど親しい間柄でなければ基本的にしないということを知っていた。正確には、そういう事をしたりされたりする事がなかったから、そういうものだと思っていた。

だが、千雨がさして気にした様子もなく電子精霊や黒影に食べさせているのを見て、仲の良い友達同士だし良いだろうと思っていた。

距離感がおかしいのは相変わらずである。

 

千雨は周囲の視線が突き刺さるのを肌で感じた。特に女子の視線が強く強く刺さるのを。

これは断るのがベストであり固定された選択肢である。そもそも千雨は自分が食べさせるのはともかく、人から差し出されることに慣れていなかった。

 

轟と目が合う。いつまでも食べようとしない千雨に、轟は食べないのかと言いながら少し寂しそうな顔をする。ネギと同じ、子犬のような目だ。

それでも肉を差し出し続けるあたり、轟は頑固である。

 

「……いや、しねぇ。絶対にしねぇから。テメェで食ってろ」

「……そうか……」

「食べてあげれば良いのに~」

「そうそう、私たちのことはお構いなく」

「気にせず続けて、どうぞ」

「どうぞもクソもあるかっ!」

 

ワクワクと目を輝かせていた女子たちに対して顔を真っ赤にしながら即座に否定するように叫んだ声は、太陽光を反射してキラキラと輝く湖に響くのだった。

 

 

 

そのころ、雄英高校の教師たちはぐったりとした様子で各自の机にもたれかかっていた。

 

原因はやはりと言うべきか、千雨である。

 

I・アイランドで起きた敵によるハッキング事件で大立回りを演じ、主な敵を倒して軟禁状態にあった人々を救出する活躍を見せたのだが、その場にいたのは招待を受けた世界各国のVIPたち。世界各国のヒーローからサポートアイテムの大企業トップまで、世界中から雄英に千雨についての問い合わせが殺到したのだ。

今後の進路についての質問、サポートアイテムのテスター依頼、システム開発協力依頼、広告モデル依頼、国外のヒーロー事務所からの勧誘などなど。一年生かつ仮免許取得前だというのに問い合わせが山のように来るなど、まさに寝耳に水である。

『ハイスペック』の根津校長をはじめ、夏の強化合宿や仮免許取得試験や二年生三年生に行う夏期講習などのために出勤してきた教師の大半を投じて問い合わせに対応。

クレームではないとしても、対応に追われた彼らは思いもよらぬことだったため、疲労困憊という訳だ。

 

「相澤くん、ちょっといいかい?」

 

トコトコとやって来た根津に呼ばれ、校長室に向かう相澤。

扉が閉められ、ソファーで向かい合った一人と一匹。先に口を開いたのは根津だった。

 

「ちょうどオールマイトと連絡が取れたのさ!昨日I・アイランドで起きた事件に1年A組の生徒たち11人が関わったそうでね」

 

11人。A組の生徒の約半数が関わったのかと相澤は今年担当している生徒たちのトラブル吸引体質ぶりに頭が痛くなりそうだった。

 

「……問い合わせが来るのは長谷川だけですが、それは一体?」

「人前で目立つ行動をしたのは彼女だけだったそうだ。オールマイトも、I・アイランド側と協議して生徒たちが行ったことを隠すということと、会場にいた人たちにも未成年者が行ったというのは内密にという取り決めをしたそうだ。

まさか雄英に問い合わせが殺到してるとは思いもよらなかったそうなのさ」

 

確かに、かかってきた電話には一つとして昨夜のI・アイランドで起きた事件について口にするものはいなかった。しかも千雨が体育祭や職場体験中のショーで話題となっていたことを上げての依頼やアポイントメントの問い合わせが多かった。

ヒーローは人気商売だ。名が売れれば売れるほど様々な案件で指名される機会が増える。偶然事件に巻き込まれて対処したとはいえ、これほどまでの人気が出るなど普通ならばあり得ない。

そう。平和の象徴・オールマイトを救けて、共に敵を倒しに向かう姿を見せなければ。あの時の様子から、千雨はオールマイトに信頼されている優秀な次世代のヒーローだとパーティー客に認識されていた。

 

「問い合わせの謎はよくわかりました」

「それからもう一つ、伝えなくちゃならないことがあるのさ」

 

 

「長谷川さんの言っていたことは、本当だったのさ」

「――は?」

 

 

根津によって急遽一部の教師のみの職員会議が始まった。

会議に呼ばれたのは千雨の事情を知っているイレイザー・ヘッド、プレゼント・マイク、ミッドナイト、13号、ブラドキングの5人だ。会議に出た教師たちは、根津からもたらされた情報に絶句していた。

 

「I・アイランドの警備システムに……」

「一部とはいえハッキング……」

「……冗談ですよね?」

「本当のことなのさ」

 

個性犯罪者たちを収容している監獄・タルタロスと同等の強固なセキュリティシステムを一部とはいえ易々とハッキングした。

それはつまり、タルタロスにも同様にハッキング出来るという訳で。

 

これまで雄英の入試実技演習で戦闘訓練用ロボに、体育祭で設備にハッキングしていたし、本人もハッキング能力が本来の能力だと話していた。

とはいえ、これまでの授業などにおいてハッキングを大々的に使うことが無かったことに加え、戦闘力の高さと千雨の扱う多種多様な武器のアーティファクトにばかり目が向けられていてハッキングに対してはあまり注目していなかった。

だからこそ、今回の出来事は千雨のハッキング能力がどれ程の規模なのかを知るきっかけとなったのだが。

 

「……長谷川ガールの力は、現代社会において凶悪すぎるな」

「彼女が公安委員会の保護下にあり、ヒーロー志望だというのは良かったとも思えますね」

 

敵だった場合を考えたら恐ろしい話だ。13号の言葉に教師陣は頷き返した。

 

「それからオールマイトから、長谷川さんが治癒も出来るという連絡もあった」

「治癒も!?」

 

治癒や回復といった個性は貴重だ。

雄英が今の教育方針を取れるのも、リカバリーガールという優秀な回復系個性のヒーローが在籍しているからである。

 

「微弱な電流を流すことで細胞の治癒力を活性化させたり痛みを軽減させる、電気治療に似たものだそうだよ。

エネルギーを自分自身に纏う身体強化と、電子機器の電気信号を弄くるのを組み合わせた応用だと本人が話してくれたと」

「校長、いくら応用だとしても……ハッキングに戦闘も出来る上に、治癒も出来るというのは……」

 

千雨は元々優秀だと認識されていた。だが、これは()()()()()

万能タイプの個性が無いわけではないが、ここまで多方面に伸び代があり、それを実際に使ってみせるのは()()()()()()()()()()()

"個性特異点"と呼ばれる終末論のひとつがある。個性というものは世代を重ねるごとに混ざりあい深化していく。より強くより複雑になった個性はいずれ誰にもコントロール出来なくなってしまうのではないか、という眉唾物めいた話だ。しかし、千雨の持つ万能性はそれを感じさせるものがある。

同時に、千雨がいくら警戒されようとも自身の能力の説明を避けようとし続けた理由がよく分かった。これほどまでの万能性と現代社会において凶悪とも言えるハッキング能力は、本人に敵意が無くとも社会にとって脅威だと思われるのは必然。

それでも、人目があっても隠さずに使ったのは彼女が持つ善性であり……その力について少しでも話してくれたのは、信頼してくれているからなのだろう。

 

「相澤くん、林間合宿での長谷川くんへの指導は?」

「持久力をつける特訓を予定していましたが……一度、長谷川と話し合います」

「よろしく頼むよ。

学校に来る千雨くん個人についての問い合わせに関しては、まだ仮免許もない学生ということで断るように。

それ以外の問い合わせは、いつも通りの対応をお願いするのさ」

「はい」

 

情報共有を終えた教師たちは今年のトラブルの多さに頭を悩ませつつ、来たる林間合宿や夏のヒーロー仮免許試験の対策準備などを進めるのだった。

 

 

 

そして、雄英高校の他にもう一ヶ所。同様に問い合わせと依頼の集中砲火を受けた場所があった。

エンデヴァー事務所である。

 

こちらもまたエンデヴァーの代理付き添いとして来たことから、今のうちにエンデヴァー事務所と懇意にしておけば千雨とアポイントメントを取れるだろうという思惑によるものだ。

 

「スポンサー契約ですね、少々お待ちください。

すみません!スリースター・インダストリアルからスポンサー契約の話です!」

「またか!」

「スポンサー契約の話、これで今日何件目だ?」

「20を超えてから数えてない」

「はい、お電話ありがとうございます、こちらエンデヴァー事務所です」

「そちらに関しましては事務所ホームページに記載されてますように……」

「お電話代わりました、広告担当の……」

 

事務員も待機中のサイドキックもひっきりなしにかかってくる電話に対応している。

 

「ところで所長は?」

「焦凍くんに電話してる。I・アイランドにいたから事件に巻き込まれたんじゃないかって」

 

「電話に出ろ!焦凍ォォオオオ!!!」

 

ゴウゴウと燃え盛る炎は彼の感情の高ぶりと比例していたが、轟がその電話に出ることはなく。千雨が轟の代わりに電話をして、事情を説明して謝罪をするのだった。

 

 

 

「……はい、はい……いえ、本当にすみません、私が名前を出したばっかりに……はい……轟も私も怪我はなく無事です。今は友人と集まってバーベキューを……ええ、明朝の便で予定通り帰国します。……はい、では」

 

テラスでのバーベキューの間に轟のスマホに来ていた何十件ものエンデヴァーからの不在着信を知った千雨がエンデヴァーに電話したのだ。電話をきった千雨は、思わぬ余波にため息をついた。

エンデヴァー事務所に問い合わせが殺到しているなど、誰が想像つくだろうか。同時に、学校にも問い合わせが殺到している可能性に思い至り、千雨は担任の相澤に電話しなければならないなと考えていた。

 

「別に、電話しなくても良いだろ」

「一応エンデヴァー名義で来てるんだし、事件もあったんだから連絡はちゃんと取らないと」

「……」

 

轟はエンデヴァー名義でI・アイランドに来ているとはいえ、連絡を取るのは嫌なのだろう。十年もの恨みはそう簡単には解消できないのである。

顔をそらした轟に、千雨は仕方がないかと考え、話題を変えることにした。

 

「そう言えば、ブランドン博士からまた研究室に来て欲しいって連絡があったけど……轟、どうする?

まだバーベキューに居たいなら私一人で……」

「行く」

 

即答だった。

ひとまず離席することを伝えなければとテラスを見回すが、オールマイトと緑谷がいない。昨日の一件について話でもしているのだろうか。別にこれといった用はないので、八百万と常闇に伝言を頼むことにした。

 

「八百万、常闇、ちょっと知り合いの博士に呼ばれたから轟と行ってくる。

オールマイトが戻ってきたら伝えておいてくれるか?」

「承知した」

「一応デザートは取り置いておきますわね」

「ああ」

 

千雨が湖のそばにマンタを実体化して、轟と共にマンタに乗って湖に波を立たせながら中央ブロックに向かって飛んでいく。

優雅かつカッコいい去り方に、常闇は見送りながらわずかにソワソワと羨望を抱いていた。

 

 

ブランドンの研究室に到着するやいなや、盛大な歓迎と尽きることのない感謝の言葉を浴びせられる千雨と轟。相変わらず勢いのある博士だ。助手の人はエキスポ会場にある展示エリアの安全確認をしに行ったらしく、博士だけだ。

 

「本当なら作ったサポートアイテムのひとつやふたつ渡したいんだが、流石に企業に所属している以上は出来なくてね……。エンデヴァーの開発を企業全体で最優先依頼として仕上げることにはなったんだが。

もし二人が装備で困ったことがあったらすぐに言ってくれ!力になるよ!」

「ありがとうございます」

 

I・アイランドの博士がここまで言ってくれるなど滅多にないだろう。

千雨は自身のコスチュームを作っている蜘衣のサポートアイテムデザイン事務所と雄英のサポート科のことを話し、サポートアイテムで困ったら連絡する約束をした。

轟はデザイナーまでは知らないため、自身のコスチューム作成を担っている事務所の名前のみをブランドンに伝えた。

その後、ブランドンに友人たちに心配かけさせると悪いのでと言って、研究室を後にする2人はマンタで空を飛んでいく。それを見送ったブランドンはいずれ世界に名を轟かせるだろう若きヒーローたちの未来を思いながら、エンデヴァーからの依頼のサポートアイテムの開発の続きに取り掛かろうとしたとき、一通のメールが届いた。

 

「ミス・ハセガワから?なんだろう、何か伝え忘れでもあったのかな?」

 

そのメールには、I・アイランドのアカデミー生であるメリッサ・シールドに是非とも声を掛けてほしいというメッセージが書かれていた。今回の事件で今後どうなるのか分からないデヴィッド博士の娘であるメリッサへ、千雨なりに力になれればと思ってのものだった。

ブランドンはそのメッセージに驚いて笑った。

 

「『彼女なら、ウチの将来有望なインターン生だよ。彼女もエンデヴァーからの依頼に協力しているんだ』っと」

 

千雨へのメッセージを返しながら、ブランドンは世間は狭いなと思い、千雨もまた返信を受け取って同じことを考えるのだった。

 

 

それからバーベキュー会場に千雨と轟は戻ってから、千雨は学校に電話してオールマイトから学校側に情報が伝わっている事と問い合わせの嵐に頭を痛めたり、クラスメイトたちと共にお土産を見に行って買い物を楽しみ、翌朝の飛行機で日本に帰るのだった。

 

 

 




I・アイランド編、駆け足ですがこれにて終了です!

オールマイトと緑谷の会話には入りませんでした。千雨としてはオールマイトの在り方を認められないが、そこまで積極的に接触しようとはしないので。
なにより、もし会話に入っていたとしても千雨が喧嘩腰になるだけで収拾がつかなくなるので……。

千雨脅威論に関しては、恐ろしい万能性とハッキング能力は脅威ではあるがヒーロー側の人間かつ公安委員会との繋がり及び本人の善性を鑑みた結果こうなりました。
敵じゃないからそこまで恐れていないってのもあるが、千雨本人の善性を信じてるだろうな……という考えにより。

そして気付かれないようにこっそり力になろうとする千雨は尊いものがある。
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