そして今話はなんと1.3万、およそ二話分。字数見て分割しようとも思ったが、切ろうにもうまく切れないのでこのまま投下します。
大は小を兼ねると言うし!な!
(※書き忘れあったからちょっと加筆修正したよ……!)
千雨たちが乗ったバスが止まった場所は、高速道路にあるサービスエリアでも、道の駅でも、パーキングでもない。
周囲に広がる山々を一望出来るちょっとした展望駐車場といったところのようだ。
「トイレ……トイレ……」
「ここパーキングじゃなくね?」
「ねえアレ?B組は?」
「さぁ……遅れてるとかじゃねぇのか?」
「トト、トイレは……?」
ワイワイと話しながら周囲を見渡す千雨たちやトイレを探す峰田を相澤は気にもかけず、独り言のように話す。
「何の目的も無くでは意味が薄いからな」
そう言いながら相澤はバスの近くに止まっていた乗用車の方に歩いていき、見知らぬ女性の声が聞こえた。
「よーう、イレイザー!!」
「ご無沙汰してます」
イレイザーと呼ばれた相澤が軽く頭を下げる。誰か他にいるのかと思って千雨たち生徒の視線が相澤のいる方を向くと、再び声が響いた。
「煌めく眼でロックオン!」
「キュートにキャットにスティンガー!」
「「ワイルド・ワイルド・プッシー・キャッツ!」」
やたらと
千雨はニチアサで見聞きしそうな決め台詞と決めポーズをビシッと決め、猫をモチーフにしたであろう色違いでお揃いのコスチュームを着た二人の女性を見た。
本人たちと会うのは初めてだが、千雨は彼女たちのことを蜘衣から聞いている。彼女たち四名のヒーローコスチュームの作成、修繕、改良は蜘衣が担当しているのだ。
水色のコスチュームを着た金髪の女性ヒーローは、ピクシーボブ。『土流』という土を操る個性。赤色のコスチュームを着た黒髪の女性ヒーローはマンダレイ。『テレパス』という念話を送れる個性。
あとの二人は合宿所にいるのか、この場に姿が見えない。かわりに五歳くらいの男の子がいる。
「今回お世話になるプロヒーロー『プッシーキャッツ』の皆さんだ」
クセの強すぎる登場の仕方になにも言えずにいる生徒たちに相澤は動じることなく紹介し、簡潔な説明に興奮気味のヒーローオタクな緑谷が叫ぶように詳細を話し始める。
「連名事務所を構える四名一チームのヒーロー集団!ワイプシ!
山岳救助等を得意とするベテランチームだよ!キャリアは今年でもう十二年にもなる……」
「心は十八!!」
「へぶ」
詳細を一息で喋っていた緑谷はピクシーボブに猫の手を模したグローブでアイアンクローされる。
「心は?」
「じゅ、十八……!!」
どうやらピクシーボブの方は年齢が地雷らしい。そんなチームメイトをよそにマンダレイは説明を始めた。
「ここら一帯は私らの所有地なんだけどね、あんたたちの宿泊施設はあの山のふもとね」
そう言って指差したのは目の前に広がる山々の一番手前にある山。一番手前と言えども、何十キロも先にあるのだろう。宿泊施設の屋根すら見えない。
「遠っ!!」
「え……?じゃあ何でこんな半端なとこに…………」
「いやいや……」
「バス……戻ろうか…………な?早く……」
クラスの一部は嫌な予感を察知したようだ。千雨もまたその一人であり、じりじりと後退している。しかしそんな高校生たちを尻目にマンダレイの説明は続く。
「今は午前九時三十分。早ければぁ……十二時前後かしらん」
「ダメだ……おい……」
「戻ろう!」
「バスに戻れ!!早く!!」
「十二時半までに辿り着けなかったキティはお昼抜きね」
危険を察知した生徒たちがバスに乗ろうと走りだし、一番バスの近くにいた千雨がバスに触れる寸前、ゴゴゴという地鳴りと共にズルリと地面が動いた。
「悪いね諸君。
合宿はもう、始まってる」
突如としてしっかりと踏み固められていたはずの地面は大きく波打ち、まるで土砂崩れのように一気に押し寄せる大量の土砂が千雨たち生徒だけを巻き込んで崖から10メートル以上下の森に落とす。
千雨はその土砂がピクシーボブによるものだと分かり、土砂に流されながら、やられたと悪態をついた。
今までも自由の名のもとに理不尽な目にあわせてきた雄英の合宿が、初日から優しいものではないと。
「私有地につき"個性"の使用は自由だよ!
今から三時間!自分の足で施設までおいでませ!
この……"魔獣の森"を抜けて!」
マンダレイの声が崖下に響く。どうやら土砂がクッションの役割もしていたのか、全員土まみれになってはいるものの怪我はしていないようだ。
「魔獣の森……!?」
「なんだそのドラクエめいた名称は……」
「うぇ……全くだな。つか何で魔獣なんだよ」
上鳴の言葉に同意しながら立ち上がった千雨は、口に入った土を唾ごとペッペッと吐き出す。
「雄英こういうの多すぎだろ……」
「文句言ってもしゃあねぇよ、行くっきゃねぇ」
文句を言う耳郎と宥める砂藤の会話を聞きながら峰田は内股になり尿意をこらえて、人間としての最低限の尊厳を守るべく森の木陰に向かって走る。
しかしそんな峰田と生徒たちの目の前に、何かが現れた。
三メートルほどある土色の体躯に、木のような牙がはえた謎の存在。一般的に知られている生物とはおよそ合致しないその姿は、まさしく魔獣と呼ぶのに相応しい。
瀬呂と上鳴が「マジュウだーー!!?」と叫ぶ中、峰田は恐怖で思わず
「『静まりなさい獣よ、下がるのです』
……!?」
しかしその魔獣は口田の個性で止まることなく右前足を振り上げる。その動きと同時に生徒の中から五人、魔獣に向かって飛び出した。
一方、崖上にいたマンダレイが相澤に話しかけていた。
「しかし無茶苦茶なスケジュールだね、イレイザー」
「まァ、通常二年前期から"修得予定のモノ"を、前倒しで取らせるつもりで来たので、どうしても無茶は出ます。
緊急時における"個性"行使の限定許可証。ヒーロー活動認可資格、その"仮免"。
敵が活性化し始めた今、一年生にも自衛の手段が必要だ」
二人が話しているそばにいたピクシーボブはピピッという音と共に最初の一体と生徒たちが遭遇した通知を受け、ヘッドギアに内蔵されたヘッドマウントディスプレイ機能をヘッドギアと一体化しているブルーレンズのゴーグルに映し出す。操っている土魔獣とA組生徒たちを確認出来るのだ。
ピクシーボブは映し出された映像を見て、それまで歌っていた鼻歌を止めた。
そこには、五人の生徒が"個性"を使って同時に魔獣を攻撃してその体を粉々に砕く様子が映っていた。
攻撃したのは、千雨、緑谷、爆豪、飯田、轟の五人。土魔獣は流石に原型をとどめることなくただの土になった。どうやらある程度の攻撃で崩れるらしい。
「ただの土と木の破片……土を操るピクシーボブの個性によるものだな。さしずめ、土の魔獣と言ったところか」
「ピクシーボブ?」
「水色のコスチューム着てた方だよ。……ん?」
千雨はただの土くれに戻った残骸を手で触ってみたあとに轟と話しながら指についた土と制服の汚れを叩いてはらっていると、違和感に気付いた。
「あれ……どこだ……?」
「長谷川、どうした?」
スカートのポケットに手を突っ込み、次いで周囲を見回し、千雨が落ちた付近の土砂を掘り返したが、それでも目当てのものは見つからない。
「スマホがねぇ!」
「えっ!?」
「あれ!?俺のも無いぞ!?」
「私も!」
「ウチのガラケーもなくなっとる!」
「一体どこに……」
クラスメイト全員が千雨の言葉を受けて確認したところ、全員の携帯電話が無いことに気付いた。同時に、崖上から相澤の声が響く。
「長谷川、お前含めて生徒全員の携帯電話は預かった」
「……な……」
「自力で頑張って来い」
実はピクシーボブが土流で崖下に生徒たちを落としながら、携帯電話を回収していたのだ。
連絡手段は無しということかと納得したり諦めているクラスメイトたちの中、千雨は体温が下がって心臓が大きく音を立てているような心地になった。
千雨の手帳型スマホケースの中には仮契約カードも入れてある。他の電子機器、タブレットやノートパソコンはバスのリュックサックの中。
――――つまり。
「……バッヂと、腕輪と、指輪だけ……?」
自身の手持ちを見て千雨は青ざめる。その青ざめた顔で周囲を浮遊していた電子精霊たちを見た。
「ちうたま、すみませんです……」
「電子機器が離れた場所なので……」
「頑張ってくださいちうたま……」
電子精霊たちは力無く浮遊していたのも束の間、光の粒子を残してぽしゅうぅぅと消えていく。
夏。見知らぬ森。魔獣。消える電子精霊。
「ウ、ウアアアアアアアアア!!?」
あの夏休みの悪夢を思い起こさせる状況であり、千雨のトラウマを思い出させるには十分なトリガーだった。
「ど、どうしたん千雨ちゃん!?」
「返して返して返して、返せぇぇええぇぇぁぁああああ!!!」
「長谷川!?」
「崖を垂直走り!?」
突然絶叫した千雨に周囲が驚くが、それに答えるよりも早く千雨は身体強化と瞬動術で垂直な崖を駆け登り、落ちる前にいた崖上の展望駐車場まで向かう。
だがその努力もむなしく、ピクシーボブの土流で再び崖下へと落とされた。
「諦めろ長谷川。
……では、引き続き頼みますピクシーボブ」
「くぅーお任せ!逆立ってきたぁ!」
「洸汰、行くよ」
「…………」
頭上の方から車のエンジンがかかる音がする。千雨たちが乗ってきたバスと乗用車のエンジンだ。また登ったところで追い付いてスマホを取り戻すのは不可能だろう。
「千雨さん、大丈夫ですか!?」
土まみれになって再度落下してきた千雨に手を貸す八百万。八百万の手を借りながら立ち上がった千雨はプルプルと震えている。
「あ、あ、あ、あンの……
クソ寝袋教師がァァアアアア!!!」
普段の偏屈ダウナー系優等生はどこへやら。荒々しいブチ切れ不良モードである。
怒りと殺意に満ち溢れたその様子に、常日頃キレる爆豪に慣れてるA組生徒たちでも驚くほどのキレっぷりだ。
「ち、千雨さん!落ち着いてくださいまし!」
「どうどう!」
「こんな状況で、落ち着いてなんざいられるかっ!」
「スマホがない位で何でそんなに……」
「……『スマホがない位で』……だと……?」
地を這うかのような声と異様な威圧を発しながら睨む千雨。その様子に、思わず砂藤はクラスメイトを見る。その目は「オレ、地雷踏んだ?」という目だ。それに対して目があったクラスメイトたちはそろって頷きを返した。
「……常闇の黒影は影や闇が無いと威力が弱まる。砂藤、それはテメーも知ってるよな?」
「お、おう」
「……私の電子精霊はな…………電子機器が無いと、存在維持が出来ないんだよ……」
自ら弱点を口にすることが嫌で嫌で仕方がないのだろう、千雨は苦虫を食い潰したような苦々しい表情をする。
「えーっと……つまり……?」
「スマホが無いからマンタとかのプログラム使用不可!電子精霊もいねぇから電撃技使用不可!各種武器ももちろん使用不可!
ぶっちゃけ今の私は身体強化と瞬動術と無音拳だけ……正真正銘、猫10匹の戦闘力だよ!」
長谷川千雨は強いとはいえ、弱点が無いわけではない。
思考速度や危険察知などは常人と同じであるため、いくら早く動けると言っても、高速攻撃や奇襲を完全回避することは出来ない。
加えて魔力を使いすぎると気絶するデメリットもあるため、消耗戦も弱点と言えるだろう。
範囲攻撃に対しても、事前に防御や回避の準備をしなければ普通に攻撃をくらう。
なにより、千雨には致命的な弱点が存在する。
長谷川千雨の致命的弱点。それは『電子機器のない場所において能力の大半を封じられてしまう』事である。
千雨の能力の検証などに協力することもあり、教師の中で千雨を一番長く見ている相澤は、これまで得た千雨に関する情報から考えていたのだ。
コスチュームに電子機器の装備を充実させている点や、体育祭時に相澤に預けられたアーティファクトアプリの使用条件となっているという本人曰く『見たら死ぬ』というカード、体育祭第一種目でマンタを出すのにスマホを使ったこと、壊れる危険性がある戦闘訓練などでもスマホを常に肌身離さず持ち歩くこと、今までの行動と言動。
それらから、精密機械が必須だと予想した。
視力の弱い人が生活するうえでメガネやコンタクトレンズを必要とするように、個性の関係上サポートアイテムの補助が無ければ生活に支障をきたす人間もいる。A組においては青山が同類だ。
同じように機械の所持が必須条件ならば、千雨が自身を過小評価するのも納得いく話である。
相澤のその予想は多少の誤認や誤解も混ざっているが、見事に的中していた。なお、良いか悪いかは別として相澤はカードまで没収していることには気づいていなかった。
腕輪と指輪が取られずに済んだのは、千雨にとって不幸中の幸いと言うべきだろう。
ともかく、そんな千雨の苦しみ混じりの告白に、クラスメイト全員から驚きの声が上がった。
「トップ3の一角なのに!?」
「体育祭であんなに凄かったのに!?」
「I・アイランドでもあんなに活躍してたのに!?」
「クソモブ以下のクソザコじゃねぇか……」
「クソザコなのは私が一番分かってんだよ!でも普通こうなるとか思わねぇだろ!?
こんな山の中にクラス全員のスマホ没収して!反対側の山のふもとまで歩いてけって放り出すとか!しねぇよ普通!どんな高校だよ!!教育委員会もっと仕事しろよ!!
絶望したっ!!現代教育機関の現状に、絶望したぁっ!!」
呻き声を上げながら両手で顔を覆い、身をよじるようにして嘆く千雨。普段の不敵さとふてぶてしさは見る影もない落ち込みっぷりである。
「長谷川さんの個性は使うのに機械が必須なのか……!」
「過小評価の原因はそういうことなんやね……」
致命的弱点を突かれると大きく弱体化するからこその過小評価なのかという認識が広がる。
それも千雨の過小評価の理由の一部であるが、どちらかと言えば千雨自身がもともと戦闘力のない一般人であったことと、いくら強くなっても周囲にいた白き翼の戦闘担当メンバーなどとの格差がより鮮明になるだけで、自覚が限りなく薄くなることも過小評価の理由である。
「そんなにヤベーなら、ヤオモモに出してもらえば?」
「ちょっと、便利道具扱いしないの」
「いいえ耳郎さん。こんなに困ってらっしゃるのですし、千雨さんの為でしたら創りますわ!」
期末試験前に一緒に特訓してくれた千雨が困っているならばいくらでも力になると、千雨の手を掴む八百万。
天の助けか女神の慈悲かと言わんばかりの言葉に千雨は一瞬頼ろうと思うも、その考えはギリギリで踏みとどまった。
「八百万……!……い、いやでも、流石の八百万でもスマホの構造は暗記してないし、仮にハードが創れても中のソフトは流石に無理だろ。
私が欲しいのは精密機械だから創造するのに時間も使うし……山道歩く前に体力もかなり使っちまう訳だし……電子精霊は居たらそりゃ色々助かるけど、負担を考えると……気持ちだけで……十分……デス……」
声が徐々に小さくなり震えつつも、千雨は堪えた。堪えきった。自らの精神安定と電子精霊を再度実体化出来るようになる可能性よりも、仲間の体力温存を優先した。
「千雨さん……!」
「耐えた」
「耐えたな」
「俺だったら絶対頼むわ」
千雨の思いやりに感激でうち震える八百万。一方でやせ我慢とも思える千雨の言葉に、クラスメイトの一部は僅かに感心しつつも意外そうな声を出した。
「う、うるせぇ!今から何十キロなのかもわかんねぇ山道を歩くってのに、私の身勝手で無理はさせられねぇだろ……!
それにスマホを取り上げられたのは、私がクジラを出して全員を乗せて優雅な空の移動や、私と爆豪と轟、あと緑谷と飯田あたりを中心にした広範囲殲滅でのんびりハイキングなんかをさせないためだろうしな……ハァ」
「お、おお……」
「よくそこまで思い当たるな、長谷川」
「思い当たるからスマホ没収されてんだよ……」
どんよりとした空気を背負いつつ、先ほど倒した土魔獣の残骸に近付き、もう一度土を掘り返して漁る。
見えない場所から出てきたことから、土の中に目当ての物がある可能性を期待してである。
「……センサー付き超小型カメラ……個性での遠隔操作のためか。しかも壊れてるし、使えねぇな」
千雨は土の塊の中にあった爪の先ほどの大きさの機械をつまみ上げて放り捨てた。もっとしっかりした精密機械があればと思ったのだが、たとえ壊れていなくとも発信機程度では千雨の電子精霊は動けない。もはや神が諦めろと告げているかのようだ。
「なんで私がこんな目に遭わなきゃなんねぇんだよ……なんか逆に腹が立ってきた……ああそうだ、こんな現実クソ理不尽だ。こんな状況を誰が受け入れてたまるか。だれが、負けるかってんだよ……!」
この不条理な現実に対し、ふつふつと沸き上がってきた怒りと生来の負けん気が合わさって折れた心が怒りで復活していく。
「数十キロの山道がなんだってんだバーカ!!!この長谷川千雨様を舐めるな!こんなクソみてぇな状況が今私の目の前にそびえる現実の壁だってんならぶっ潰すまで!!!」
「あ、復活した」
「長谷川って頭脳派なのにメンタルが脳筋だよな」
「いやアレはヤケクソじゃね?」
ヤケクソまじりであろうとも、復活した千雨は持ち前の指揮力を遺憾なく発揮せんとばかりに号令をかける。
「作戦指揮を執る!
まず口田、耳郎、障子の三人は中央で、口田は虫や鳥で現在地の把握と最短ルートを確認、耳郎と障子は索敵に専念!
前衛は爆豪、緑谷、轟、飯田、砂藤、切島、尾白、芦戸、麗日の九人を交代制で土くれの魔獣を撃破!
そして中距離からの後衛と支援及び前線要員の負傷時の交代として後方に、青山、八百万、葉隠、常闇、瀬呂、峰田、蛙吹、上鳴そして私!
八百万は葉隠用に軽めの槍か棍、それとちょっと注文多いが腕に装着出来る形で、先端が鉄鉤になった5メートルほどのワイヤー射出機を。出来るか?」
「問題ありませんわ」
一気に指示を出した千雨。だが、それに反発するのが一人いた。
「おいクソアホ毛!テメェ勝手に指揮すんじゃねぇ!」
「あぁ?私の指揮に文句言うなら、他に全員で立ち向かうのに良い案でもあるってのか爆豪?」
「んなもん俺が全部吹き飛ばす!ザコ共はちんたら歩いてろ!」
「アホかお前は!前提条件から間違ってんじゃねぇ!
【敵の数は不明、整備されてねぇ森を数十キロ、クラスの二十一人全員が三時間で合宿所にゴールする】ってのが条件だっつーの!しかも三時間超えたら昼飯無し!
テメェが勝手に大口叩くのは結構だが、現実を理解した上でそれが全員にとって本当に最善策か聞いてんだ。
これは一人が突っ走って終わりじゃねぇし、勝手にこっちの采配無視して使えねぇお荷物になられても迷子になられても迷惑なんだよ!爆発頭!」
「んだとテメェ!!」
一方的かつ命令じみた千雨の号令に文句を言う爆豪と、ただでさえ能力の大半が使えなくなり苛立っている千雨により、ビリビリとした威圧が周囲に広がる。
それと同時に、千雨によるA組の置かれた状況と突然とはいえ今から乗り越えねばならない条件の説明にキチンと理解できていなかったクラスメイトも理解する。
そんな険悪な二人をとりなそうと、切島が間に割ってはいった。
「二人とも落ち着けって!尚更こんな状況で喧嘩すんなよ!」
「邪魔すんなクソ髪!」
「長谷川の言う通り、クラスメイト全員が合宿所に着かなきゃ意味がねぇんだし、落ち着けよ爆豪」
「そ、そうだぜ爆豪!一人で着いたら良いってもんじゃねぇんだから!」
「ここはクラスで協力必須だって!な?」
「……チッ!」
切島に続いて瀬呂と上鳴が爆豪を宥め、千雨の言葉に一理あると渋々納得したのか、舌打ちだけした。謝る気は一切ないようだ。
千雨も別に謝罪されないことは特に気にしていないのか、それとも精神的にいっぱいなのか、深く呼吸して気を落ち着かせながら、再び思考する。
この状況で自分自身という一番確実かつ信頼出来る戦力がマトモに使えない以上、するべきことは決まっている。
「進む前に赤点の五人は集合!その間に来る敵はテキトーに倒しておけ」
「呼び方!もっと優しく!」
文句が出つつも、素直に千雨のもとに集まる期末試験実技で赤点になった芦戸、上鳴、切島、砂藤、瀬呂の五人。
「私がロクに戦えねぇ以上、少しでも戦力を補強しなきゃならねぇ。
そこで、お前らがより効率的に戦うための助言を今からする。今後戦うための技にも繋がるだろうよ」
「え……!」
「戦うための技って、もしかして……!」
「必殺技か!?」
必殺技。それはヒーローになるための強化合宿にぴったりかつ、夢のある響きである。
「おい待てアホ毛!なんでそいつらだけなんだよ!」
無論、必殺技にかかわる話を強さにこだわる爆豪が黙って見過ごすはずもなく、再び千雨に噛み付いた。
これに関しては他のクラスメイトたちも同じ気持ちなのだろう。周囲を警戒しつつも千雨に意識を向けている。
「そんなの期末の実技で赤点取ったからに決まってんだろ」
「あ?」
「爆豪、こいつらは"個性"をより効率的に使う装備や、体育祭でお前や私が見せたような技をロクに考えず、より強くなるための特訓や調整などもせずに今日まで来てるんだ。
テメー自身で強くなれる方法とかが考えつく奴に、私からの助言は必要ないだろ」
「…………そうかよ」
「納得すんのやめろよ爆豪!傷付くだろ!」
「割と事実だと思うぞ」
「追い討ちっ!」
「このトップ3ども、こういう時ばっかり意気投合してさぁ……!」
千雨の説明に爆豪はすんなり下がり、上鳴に対しては轟が同意して追い討ちをかけた。この三人は仲が良いわけではないが、戦闘に関してはそろって同じ意見である。
早速千雨による指摘と指導が始まった。
「芦戸、お前は酸の濃度と粘度を変えれるんだろ?手のひらに溜めたり、足から沢山出して滑ったり、指先から出して壁に穴あけて登ったり、無意識かもしれねぇけど既に用途ごとに使い分けてる状態だ。
その使い分けを更に意識して、指先から高濃度の酸を一気に射出とか……飛ばすのが難しいなら、粘度を高めてゲル状にして投げつけてみろ。あとは……木の幹を溶かして倒木に巻き込むのも有りだな。
お前の接近戦の強さを活かすなら、ゲル状にして腕や足に纏ったまま攻撃なんかも良いだろうよ」
「なるほど……やってみる!」
「瀬呂はテクニックがそこそこあるし、そこまで助言する必要もねぇっちゃねぇんだが……テープで手足をまとめて拘束して素早く引き倒すことを意識した方がいいな。
ただ縛るだけでなく、姿勢を崩させて相手に動く時間や考える時間を与えないこと。
それからテープを使った移動は既に出来る。その移動をしながらトラップ作成したり、敵の進行方向の妨害、他にはテープで仲間の回避補助や戦線離脱なんかも出来るはずだ。
あとは……テープの射出速度がより速くなりゃ手数も増やせる。速度と連続した動きを意識してみろ」
「わかった!」
日頃の観察力が唸るというべきか、流石はスーパーアドバイザーと言うべきか、サクサクと指摘をしていく千雨。
緑谷はその助言を聞きながら、よく見てるなと思いつつ後でノートに書こうと決めていた。
「切島、お前は近接特化と言っていい個性だ。接近戦で硬化する時は打撃での攻撃は腕全部じゃなくて拳だけに意識を集中、斬撃での攻撃は硬化しても肘の手前まで、防御は全身硬化。
攻撃の時に関節の可動域を残せば攻撃の方向転換なんかもより容易に出来る筈だ。今回はタックルするようにして全身を使ったひねりで斬撃の威力を高めても良いかもな。
それから見たことしかねぇが、爪を立てるような形……虎拳、だったか?ただ拳を握るだけじゃなくてこの形で手を硬化するのもお前と相性が良いと思うぞ。裂傷をつけたり、衣類なんかに引っ掛けたり、触れる瞬間に解除してそのまま掴むとかも出来るし。
あとは、もっと武術を学べってところだな。近接戦は体力や筋力も必要だが技術力も身につけて損はない」
「なるほど……!」
千雨の言ったものは正確には虎拳ではなく虎爪という象形拳の爪と呼ばれる手型だ。これについてはかつてのクラスメイトであり中国拳法の達人だった古菲が使っているのを何度か見ていたことでの助言だ。とはいえ千雨は近接格闘出来るほど拳法に詳しくないので、あくまで見たことがあるものとしてだが。
「砂藤は力を無駄に回しすぎだ。もっと攻撃の瞬間、走る時に地面を蹴る瞬間、使う時と体の部位に力を集めて使ってみろ。
お前の場合はドーピングであって、緑谷みたいに身体がぶっ壊れることはないからな。前に話した糖分の温存もより意識しろ。
技に関しては切島と同じで武術を学べとしか言えねぇ。逆に言えば学べば学ぶほど、鍛えれば鍛えるほど強くなれる。お前は体格も恵まれてるからな」
「お、おう!」
瞬動術や無音拳を教えようかとも思ったが、そう簡単に習得出来るものとは言えないしこの状況で怪我されても困るので、まずは現時点での指摘をすることにした。
「最後に上鳴。お前は威力を考えると周囲を巻き込む攻撃しか出来ない上に脳がショートするって考えてるようだが、違うぞ。もっと効率的に使う方法がある。
八百万、さっき頼んだやつ出来たか?」
「はい、こちらに一つ見本を創りましたわ」
八百万に頼んでおいたワイヤー射出機は、一見すると腕に取り付けられる小型のクロスボウのようだ。かなり軽い。
「腕に装着されるとのことでしたので軽い素材にしましたわ。それから腕を痛めないためのグローブも。
手首近くのトリガーを引けばワイヤーを射出します。巻き取りは肘側のボタンを押していただければ可能です。再装填はトリガーを元に戻してください。
こんな形でよろしかったでしょうか?」
「悪ぃな、雑な頼み方したのに重さとか気を使わせて。機能も形もこれで十分だ。上鳴、右腕に着けろ」
「おー!なんかゲームの装備みてぇ!」
上鳴は肘まであるグローブをしてからワイヤー射出機を取り付け、ちょっとカッコいい装備にはしゃいでいる。
周囲にいた他の男子の一部もわずかに羨望の眼差しを向けていた。
「はしゃいでねぇで、それ使うための説明するぞ。つってもそんな複雑じゃねぇが。
腕に装着したそれでワイヤーを土魔獣に飛ばして、刺さったら電流を流す」
「なるほど!それで最大出力出せば良いんだな!」
「違う、お前が普段スマホを充電するくらいでいい」
「え?そんくらい?……それで倒せるか?」
「テメェ自分の力がどれほどのもんか分かってねぇだろ。それだけで十分だ。
ひとまず助言はこれで終わりだ、ちょうどこっちに一体来てるし実戦で説明するぞ」
千雨に言われるがまま、上鳴は向かってくる土魔獣にワイヤーを射出して、鉄鉤が刺さったところでいつもスマホに充電する要領で電気を流す。すると上鳴が想像していた以上に効いたのか、土魔獣は土くれへと変わった。
「えっ!?スマホ充電するくらいだったのに!?」
「『スマホ充電するくらい』っつったが、それでも普通の人体にとっては体内の電気信号とは比べ物にならねぇ大きさだ。
人を気絶させるスタンガンは電圧が五万ボルトから百万ボルト程度だが、数ミリアンペアで流れる量が少ないから人体に悪影響を与えることがない。
スマホの充電は逆に電圧が低いものの、流れる量がスタンガンの数百倍。鉄鉤を突き刺して直接流せば、個性で動かしてる土魔獣ならそれで十分倒せるってもんだ」
「お、おお……!」
「一撃が強けりゃいい、大きけりゃいいってもんじゃねぇ。ゲームでも、体力が十の相手に必殺技使って数千のダメージを与えるなんて馬鹿な真似はしねぇだろ?
特にお前はキャパオーバーすると思考力が数分間低下するんだ、キャパを考えて最小限のエネルギー。相手を見極めて電圧を調節。この二つを意識してみろ。
ここからはお前次第。練習台はいくらでも出てくるんだ、この三時間で強くなれ」
「……!」
上鳴は目の奥が熱くなるような、胸の奥に力強い火が灯ったかのような心地になった。
プロヒーローの中にオールマイトのような伝説的ヒーローもいれば街中で見掛ける名前すら知らないヒーローもいるように、ヒーロー科の中でもそれは同じだ。
長谷川はクラスで指折りの強い奴で、同じ雄英ヒーロー科の電気系統だけど俺より何歩も先にいる。トップとそれ以外という構図は既に始まっていると言わんばかりに。
そして俺が戦うよりも長谷川が戦う方が強いことを、周囲も、俺自身も知っている。力の使い方も、戦い方も、心の在り方も、長谷川の方が上だと。
でも、そんな長谷川にもどうにもならない弱点があって。俺にはまだ強くなれる可能性があって。
そして、長谷川が強くなれると信じてくれている。
「長谷川……師匠って呼んでいい?」
「勝手に師匠にすんなアホ。弟子とかとってねぇから。
待たせたな!全員進むぞ!」
A組全員が千雨の掛け声に応と返事をして、魔獣の森にてデスマーチを始めた。
舗装されていない森を駆け足で移動していく。木の根などが飛び出ているから何もない平地と同じようにとはいかないが、役割分担していることもあって土魔獣を撃破しながらも順調に進んでいる。
慣れてくればちょっとした雑談も出来る程度の余裕も生まれ、耳郎は八百万に話しかけた。
「ヤオモモは長谷川に特訓つけてもらったんでしょ?長谷川ってあんな感じで教えるの?」
「私の場合は創造出来る範囲の確認をして、色々な方法での戦い方を模索しつつ形にしていくものでしたの。
今は状況が状況ですし、特訓というより指摘や指導に近いので、少し違いますわ」
「なるほど」
耳郎は前衛近くに出てワイヤーを射出している上鳴を見る。日頃のチャラチャラウェイウェイした様子はなく、真剣な様子だ。それになんだか、嬉しそうにも見える。
普段は気にした様子を見せていなかったが、ああ見えて同じ電気系統の千雨より劣っているという評価や、上手く活躍出来ないことを気にしていたのかもしれない。優劣をつけられるのは音楽の世界でもそれは同じである。耳郎は少しだけ反省した。
同じく中央寄りで交代待ちとなり"個性"の使用を温存している轟と緑谷、後衛の瀬呂も走りながら雑談を始めた。
「切島と砂藤のやつ、長谷川のアドバイスひとつで今までよりも動きにキレが出てきたな」
「轟の言う通りだな。にしても授業中に技の欠点を見抜いたり、轟の氷結にも新技で対処したり、全く違う"個性"の使い方指摘したり……アレで戦闘向きじゃねぇって言ってんのが俺としては納得いかねぇわ」
「長谷川さんは発想力と応用力が飛び抜けてるとは思っていたけど、上鳴くんの個性を集団でもすぐに使えるようにするなんて……!
電気系個性はヒーローには少ないけれど、上鳴くんの電力はかなりの威力だ。数十人を同時に感電させられる。そのエネルギーを無駄なく効率的に使えるようになったならそれは」
「緑谷ァ!ブツブツすんな!ちゃんと前見て進め!」
「はっ、はいぃ!!」
「青山!レーザーは持続して使うのもいいが短く連続して出してみろ!」
「ウィ☆」
「切島!お前は爆豪と上鳴の速度に追いつけ!」
「おう!」
緑谷たちより後方から全体の動きを見つつ、ガンガン指示をとばしていく千雨。
前衛として戦わずにいるため一番楽をしているように見えるが、その代わりに常に更新され続ける情報をもとに頭をフル回転させ続けているのだ。負担のかかり方が違うだけである。
「千雨ちゃん前衛に出てなくない?」
「葉隠、指揮官を前線に置こうとすんじゃねぇよ。後ろから全体見て指示出すのが指揮官なんだから」
「いや最初の戦闘訓練じゃ俺を待機させて前に出てたじゃねーか」
「アレは人数と相手の関係で私も前に出るしかなかったからな。二十人もいるんだから私がわざわざ前に出る必要はない。
……それに、後ろを気にせず進めるようにするのも私の仕事だ」
「それって一体……?」
葉隠の言葉に返すより早く、障子の声が響く。
「後ろからデカイの来るぞ!」
「だろうな!
土くれ如きが!この!私の!手を!煩わせるんじゃ!ねぇー!!」
千雨はある程度進めば後ろからの強襲もあるだろうと予測はしていた。これだけの人数の生徒がいる上に、攻撃力の高い生徒が先行し過ぎて背後をおざなりにすることも考えられるからだ。
瞬動術で近付き、無音拳で巨大な土魔獣の顎と首と腹と足を打ち抜き穴を空けると、土魔獣は形が崩れて土の山へと変わる。
「……弱体化してんだよな……?」
「恐るべしデスメガネ……」
弱体化だのなんだのと騒いでいたのは何だったのだろうか。そう思わずにはいられないほどの攻撃力だった。
「峰田今なんか言ったか?」
「何でもありませんっ!」
「とにかく前に進め!後ろは気にするな!十五分経過、残り二時間!前衛交代!」
「おう!」
前衛のメンバーを決めていた通りに交代させる。先ほどまで前衛を担っていた面々の疲弊は多少あるが、まだ後衛で体力のある奴と交代しなくとも大丈夫のようだ。
「長谷川、弱体化してるってのに強いな……」
「強くねぇよ。動く敵の急所に無音拳当てるの苦手だし、そもそも持久力ねぇし、電子精霊居ない状態じゃ連発する長期戦は向いてねぇんだよ……たどり着けるか不安になってきた……」
魔力の制御や補助を普段担っている電子精霊たちがいない以上、普段以上に魔力を意識してセーブしなければすぐに魔力切れになってしまう。ただでさえ何十キロも移動しなければならない状況なのだ。こんなところで気絶する訳にはいかない。
千雨は体力と精神力がゴールまで持つのか不安で仕方がなかった。
「長谷川。俺は索敵に集中している分、体力は余ってる。いざとなったら俺が背負うから頼れよ」
「……そん時は頼む、障子」
残り二時間でこのデスマーチを終えて合宿所に無事にたどり着けるのか。千雨は無理だろうなと思いつつも、今はひたすら走るのだった。
電子精霊に対して精神的にも魔力的にも依存をしているちう様、強制弱体化。相澤先生が思案していたことはこの事でした。
誰も知らない千雨のトラウマのトリガーが見事に重なったとはいえ、魔法生物ひしめくケルベラス大森林で二日間ぼっちに比べて今回は最初から仲間もいるし、日本国内だし、身体強化とか出来るし、魔獣も土製だし倒せる範囲なので、比べ物にならないほどマシである。
そして上鳴やクラスメイトたちの突発的強化イベント。やったな上鳴!作者もようやく強化出来て嬉しい!姉御師匠に色々アドバイスもらっていこうな!