マシュマロで千雨ss鋭意執筆中と聞いてテンション爆上がりしてます!!!やったー!!!楽しみ!!!正座待機!!!
「いただきます!」
長テーブルに並べられた料理の数々に、生徒全員が嬉々として箸を進めていく。
ポテトサラダやミートボール、唐揚げ、だし巻き卵、コロッケ、青椒肉絲、カボチャの煮物、きゅうりの浅漬けなどなどお腹を空かせた高校生にガツンとくるおかずから箸休めになるものまで並んでおり、これならいくらでも白米が進みそうだ。
生徒たちが到着するまでに用意していたのだろうか。流石にピクシーボブは土魔獣の操作があったから無理だろう。……となると、三人で四十人分近くの量の食事を作ったのだろうか。流石にポテトサラダやミートボールやコロッケなどは業務スーパーで冷凍したものをまとめ買いしたと思うが、山岳救助を主な活動としているヒーロー集団だ。災害時に大人数に振る舞えるだけの炊き出しも出来るのだろう。
「おいひい」
「うまぁ~!」
「お菓子じゃやっぱお腹膨れないもんねぇ」
「唐揚げ最高」
「ねぇ、ソース取ってくれない?」
夕食まで空腹を耐えられずに部屋で休憩しながらお菓子を食べていたA組も、マタタビ荘に到着したばかりのB組も、全員ガツガツと夕食を食べている。千雨は周囲ほどがっついてはいないが、それでもしっかりと夕食をとっている。がっついていないのは元々食が細いのに加えて、いまだに疲れているからだ。途中でダウンして到着後に休憩もしたとはいえ、まだ万全な状態ではない。
「色々世話焼くのは今日だけだし、食べれるだけ食べな!」
「あ、洸汰。そのお野菜運んどいて」
料理の追加を運んでくれているピクシーボブとマンダレイ。洸汰もマンダレイに言われて野菜の入っている段ボールを運んでいる。
その様子を横目で見てから、千雨は何もなかったかのように視線を目の前の料理に戻し、だし巻き卵に箸を伸ばした。
夕食を終えて食器類の片付けもしたら、あとは風呂の時間である。
先に到着していたA組が入ってからB組の順である。荷物の整理や夕食後ではあるが休憩時間も兼ねているのだろう。
「あー……極楽ぅ……」
「温泉満喫してるね、長谷川」
「内湯も良いけど露天はやっぱり最高だな……デカイ湯船にゆったりと浸かれることがどれ程幸せなことか……」
ふぅ、と深く息を吐く千雨。ちゃぷりちゃぷりと露天風呂の湯が音を立てているのも心地よいと言わんばかりに、千雨は気をゆるめて湯に浸かる。
広々とした女湯の露天風呂は合宿所にされるだけあってか、二十人近く入っても余裕な広さだ。それを七人で使用するという贅沢に千雨は手足を伸ばしてくつろぐ。
麻帆良では寮に大浴場があったが、流石にこちらでは銭湯や温泉にでも行かなければならないため、滅多に楽しめなかったのだ。この合宿期間中のみとはいえ、露天風呂を楽しめるのは千雨にとって幸せなことだった。
「千雨ちゃん、温泉好きなんや?」
「ああ、やっぱり露天は良いな。最高に気持ちいい」
「千雨さんがここまでくつろいでいらっしゃるのは初めて見ましたわ」
今日一日だけで学校ではまず見ることのない千雨の一面をいくつか見てきた面々だが、温泉が好きというのは意外だったようだ。
「……長谷川、マジで何食べたらそんなスタイルになるのさ」
「確かに……ヤオモモとはまた違う意味で憧れるよね」
八百万のようなグラマー体型ではないが、胸は谷間が出来る程度にあり、くびれは細く、小尻でスラリと伸びる細い手足というモデル体型。身長もあるためスタイルの良さが際立つのだ。
その美の秘訣が女子として気になるのか千雨に視線が集まる。
「何食べたらって言われても……むしろあんまり食べないし、あとは……体質だな。それに良いことばかりじゃねぇよ」
「そうなん?」
「筋肉がつきにくい体なんだ。だから下地となる筋肉の強化がそこまで出来ねぇ」
筋肉がつきにくいというのは、千雨がエンデヴァーに弟子入りしてから言われたことだ。女性である以上男性ほど筋肉がつかないのもあるが、長らく少食だったのが影響しているようだ。こればかりはどうにもならない。
そして体質だと誤魔化したが、魔力を使うことで新陳代謝が上がって美容にも良いというのは秘密である。
「ケロ……それは確かにヒーローとしては喜べないわね」
「十分強いから問題なさそうだけどね」
千雨の強さを思えば、筋肉がつきにくいことなど些細な問題である。
「やっぱり細いのは食事の差かー……千雨ちゃん、今日もだったけどあんまり食べないもんねぇ」
「……食べないのに胸があるってのがムカつく……」
じと目で千雨を見る耳郎。細さでいえば耳郎も細いのだが、それを言ったところで火に油を注ぐだけなので千雨は雑に返事をして話題を変えた。
「そういや八百万の家の風呂もスゲー良かったなぁ……この温泉と同じくらい大きい湯船にジャグジーとか色々あって……」
「そう言えば長谷川はヤオモモん家に泊ったことあるんだっけ」
「そりゃアレだけおっきい家だったら、お風呂も凄いだろうねぇ」
「ブルジョアや……」
期末試験前の勉強会のために八百万の家を訪れた耳郎と芦戸は千雨の言葉に納得していた。あれは家というよりも、西洋のお城かお屋敷と呼ぶのが正しい。家の規模がそもそも違うのだ、そりゃ風呂だってデカくて納得である。
「もし良かったら、夏休みの間に皆さんもお泊まりに来てください。きっと母も喜びますわ!」
「えー!いいの!?」
「はい!外出制限はありますが、クラスメイトの家に行くのは問題ないでしょうから」
「やったー!」
「お泊まり会だ!楽しみー!」
「いや現在進行形で合宿中じゃん」
「それはそれ!耳郎ちゃんも楽しみでしょ!?」
「そりゃ、まぁ……そうだけど……」
耳郎は騒ぐ芦戸と葉隠にツッコミをした手前、素直に楽しみと言うのが恥ずかしいのだ。ちょんちょんと両耳たぶのイヤホンジャックの先を合わせている。その仕草に女子全員が照れ隠しだなと微笑ましげにしていた。
「じゃあ合宿終わったら、その次の日あたりでヤオモモん家でお泊まり会するってことで!」
「おー!」
「いや急すぎるでしょ」
「かまいませんわ耳郎さん。それに夏休みは短いですから」
雄英ヒーロー科は八月下旬から学校が再開するのだ。これはヒーロー科が他科よりこなさねばならない科目数が多いため、長期休暇も短いのである。
「長谷川が絶賛するほどのお風呂とかチョー楽しみ!」
「だよねだよね!」
「まぁあの風呂は本当に良かったからな。
にしても露天風呂付きの合宿施設持ってるとか良いな、ワイルド・ワイルド・プッシー・キャッツ。……私も将来は温泉旅館を根城にしたいな……各種効能のある温泉……露天風呂だけじゃなくて檜風呂とか薬湯とかサウナとか色々……」
「長谷川、アンタまさか温泉旅館をヒーロー事務所にする気?」
「アリよりのアリだろ。温泉旅館と一体化したヒーロー事務所でも良いよなぁ。
旅館としては安全面バッチリだし、話題性あるし、副収入にするのにもってこいな気がする。オーナーになって、旅館の経営自体は雇った奴に丸投げって形でも良いけど」
「現実的に考えますと、そうした温泉旅館は都会では難しいと思いますが……」
「でも千雨ちゃんならやりそう……それにそういうのって、夢があって良いね!」
葉隠の言葉に同意が集まり、そのまま話題は将来のヒーロー事務所になった。
「それやったら、ウチは年中おモチ作ってる事務所がええなぁ」
「じゃあじゃあ!私はビックリ箱とか迷路とかある事務所!」
「ケロケロ、私もプールのある事務所なんか素敵だと思うわ」
「プール!プールあったら夏とか良いじゃん!」
麗日、葉隠、蛙吹が考えた将来のヒーロー事務所の理想を聞いて、プール付きが良いと騒ぐ芦戸。その楽しそうな雰囲気につられて耳郎が気恥ずかしそうに顔を赤らめながら話題に参加した。
「それだったらウチも……ライブハウス付きなんか良いな」
「ライブハウス!良いね!うわーどうしよ、迷う!」
「私も迷いますわ……ですが取り敢えず、大きな専用の書斎は欲しいですわね。沢山の専門書や図鑑などを取り揃えたいので」
「ヤオモモらしいなぁ」
それぞれ将来プロのヒーローとなったらどんな事務所が良いかを想像するだけでも楽しそうだ。
一方の男湯といえば、女子たちの楽しげな会話が聞こえるくらいには静かだった。
それもそのはず、男子たちは身体を清めた後の峰田が露天風呂に行かないようにするため、内湯との間で壁になるべく半数ずつに分かれて手早く入浴することにしていたからだ。
「テメェらそれでも男か!!
すぐそばに、ほんの数メートル先に!!男たちの夢が!天国があるってのに!!」
「止めるに決まってんだろーが!」
「犯罪行為を黙って見過ごす訳にはいかないぞ、峰田くん!」
「つか、峰田が覗こうものなら、男子の連帯責任は免れねぇんだよ!」
ヒーロー志望の彼らとて健全な男子高校生である。性欲が全くないと言えば嘘になるし、峰田が常人の数倍の性欲を持っているとはいえ、見たいという気持ちに対して理解不能という訳ではない。
しかし性欲よりも覗きは犯罪であると知っていたし、女子たちが不埒な行いに対して容赦しないことを彼らは深く理解していた。
なによりも、女湯には千雨がいる。
A組トップ3の紅一点にして、多彩過ぎる攻撃手段を持つ千雨が。敵対すれば教師相手であろうとも情け容赦しない性格で、機械がなくて弱体化していると言っても超パワーと超スピードの使える恐怖のデスメガネが。
本気でシャレにならないのである。
「気持ちは分かるけど、マジでやめろよ!」
「うるせぇ!女体がオイラに覗かれるのを待ってるんだよ!」
「んな訳あるか!」
「くだらねぇ」
「戯言」
峰田の主張を一蹴する切島に続いて興味無さそうどころか騒がしさに不快そうに眉間に皺を寄せている爆豪と常闇。
マタタビ荘についてから休憩と夕食があったとはいえ、温泉でゆっくり疲れを癒したいのに、たった一人の迷惑行為を阻止せねばならないということも不愉快なのだろう。
なお、轟も止めようとしていたのだが、露天風呂で氷や炎を使うのはクラスの男子たちに加えてA組の次に入浴するB組の迷惑になるため、監視だけしていた。本音を言えば今すぐ氷漬けにしたいのだろう。ピリピリとした空気を纏う不機嫌そうな轟に近付く男子はいなかった。
「飯田、俺は入浴し終えたから取り押さえを交代しよう」
「ありがとう障子くん!」
「スキありっ!」
「あっ!!」
取り押さえていた飯田から障子に交代する一瞬の隙を突いて、峰田は包囲網から抜け出して露天風呂の濡れた床を駆け抜ける。
「更に向こうへ!!
Plus Ultra!!!」
「はやっ!!」
「校訓を汚すんじゃないよ!!」
「くそっ!テープ外した!」
捕縛しようとする男子たちだが、峰田はそれらよりも素早い。自身のもぎもぎが持つ弾力性により足場にして飛び跳ねるように移動しているのだ。しかも峰田が小柄で余計に捕まえられない。
峰田は男湯と女湯を隔てる壁に個性である丸い球体の髪をもいではくっつけて勢いよく登っていき、あと数手で登りきるところまできた。登りきれば、これまでの人生にあったあらゆる苦難を忘れられる天国を目にすることだろう。
美しく包容力に溢れてほんのりと色付く山々、黄金比率の曲線を伝う水滴、灯りに照らされ艶めく火照った肌。女体という天国が。
目前に迫った理想郷を想像してドパッと涎を出す性欲の獣には、理性も常識もクソもなかった。
そうして天国へ至る壁の一番上の縁に峰田が手を掛けようとしたその瞬間、何故か高い壁の向こう側からバッと洸汰が姿を現した。
実は男湯と女湯の壁の間には狭いながらもスペースがあり、マンダレイが峰田対策として洸汰に見張りを頼んでいたのだ。そして女子たちはその事を知っていた。
千雨たちが峰田を警戒せず露天風呂で入浴しているのは、彼の存在があったからである。
そんな小さな見張り役は、登ってきた現行犯の手を壁から払って肩を押す。
「ヒーロー以前に、ヒトのあれこれから学び直せ」
「くそガキィイイィイ!!?」
命綱もなく峰田自身にくっつくことのない髪を足場にしていたため峰田は叫びながら重力に逆らうことなく、そのまま落下していった。
数メートルの高さであるが、誰も峰田の心配をしていなかった。自業自得だからである。
「やっぱり峰田ちゃんサイテーね」
「ありがとー洸汰くーん!」
「!」
名前を呼ばれてつい振り返って女湯を見てしまった洸汰。眼下に広がる美しいお姉さんたちによる天国に、見慣れていないからなのか早熟しているからなのか、顔を真っ赤にして後退る。
しかし洸汰が立っていた場所は見張り用の小さなスペースで、下がろうにも下がれず、そのまま体勢を崩して男湯側に思わず身体が傾き、落下した。
「おい、今落ちなかったか!?」
「えっ!?」
「男子ー!洸汰くん大丈夫ー!?」
姿が見えなくなったことに慌てて千雨が声を張り上げる。すると男湯にいて事の行方を見ていた瀬呂が返事をした。
「大丈夫、緑谷がキャッチした!」
「そうか……それで、
「そっちも飯田がキャッチした!」
「絶対に逃がすなよ」
「お、おう……」
本気の怒りを感じ取った男子たち。峰田を捕縛して、そのまま風呂から強制退場させることにした。
千雨はザパッと音と波を立てて湯船から上がる。
「あれ、長谷川もう出るの?」
「明日以降も楽しめるから、奴の処理をしてくる」
「頼んだ」
「神聖な温泉でクソ以下な行いを許す気はねぇからな」
普段以上に怒っているその背を見送った残りの女子たちは、そのまま入浴時間いっぱいまで温泉を楽しんだ。
男湯の出入口の前に来た千雨。その側にはフヨフヨと浮くクラゲとその触手で拘束されている峰田。それから千雨がクラゲを出すまで峰田を押さえていた飯田、いざという時の捕縛要員の瀬呂と上鳴。轟がいないのは過剰攻撃を避けるためである。
ラフな服は着ているが全員髪を乾かしきらずに、犯罪者の引き渡しの現場となっていた。
「触手攻めは女子にやってこそモガッ」
「このまま窒息死させられたいようだな?」
「長谷川くん!?」
「飯田。私は性犯罪行為をした理性の欠片すらない獣以下の知性体に対して、情け容赦は塵すら必要ないと思っている」
千雨は本気で怒っている。当然と言われれば当然だろう、千雨たち女子は未遂で終わったとはいえ被害者側だ。
引き渡している現時点で私刑していないだけまだマシと言うべきかもしれない。
「は、長谷川すまねぇ……峰田のこと止めきれなくて……!」
「……必死に止めようとしたけど、こいつが抜け出したんだろ?声は聞こえてた。それにあのガキのおかげで見られてねぇしな」
呆れまじりな千雨。周囲の制止を聞かない可能性も予想していたのだが、まさか本当に男子たちの制止や妨害すら振り切るほどとは思っていなかったらしい。
連帯責任とならなかったことに胸を撫で下ろす瀬呂と上鳴だった。
一方で千雨はどうしたものかと眉をひそめている。
「本来なら処刑……と言いたいところだが、どうせ明日以降も懲りずにやらかすのは目に見えてるし、泊まりがけの学校行事初日だ。下手に怪我をさせて合宿の目的を果たせなくしたなどと言われるような面倒なことにはしたくない」
「モガッ!?」
「ムッ!確かに、合宿は生徒全員の強化訓練のためだからな。峰田くんが訓練出来ないとなれば今後に関わる……!」
予想外な言葉に峰田が反応する。これは許される流れだと調子付いてるのだろう。飯田も千雨の言葉に一理あると納得している。
その一方で、瀬呂と上鳴は絶対に許す訳がないと思っていた。あの長谷川千雨がそんな理由で峰田に制裁せずに解放する筈がない。今日も担任教師にも食ってかかり仕返しを宣言したような奴だ。絶対にない。
バカレンジャーの称号を得てしまった二人でもそれは分かった。
「峰田、お前は明日から先生方と風呂に入るように進言してやる。
そうなれば男子の心労も無くなるし、先生方なら見張りも問題ないし、個性も使えないし、逃げようとしても無駄だし。
ああ、ついでに女子の入浴時間中には教師の手伝いという奉仕活動をしてもらおうか。クラスメイトの役に立つのは大切なことだ。そのままお前も赤点組と一緒に補習を受けてもらうのも良いな」
「ンンンー!?」
「なるほど!それは名案だ!」
千雨に拘束されながらも全力で拒否する峰田と納得する飯田。教師と一緒の風呂などまるで楽しくないのは目に見えている。峰田にとって罰ゲームとしか思えない提案だろう。
肉体に苦痛を一時的に与えるよりも、この合宿期間中の自由や楽しみを奪う方向での制裁を取るようだ。
「じゃあ先生に突きだして説教してもらってくる」
千雨のことだから確実に提案を呑ませるに違いない。千雨と拘束されたまま連れていかれる峰田を見送りながら、上鳴は呟いた。
「長谷川、マジで敵に回したくねぇな……」
「上鳴、お前後でで良いから、B組に弱点話しちまったことちゃんと謝っとけよ」
「ああ、切島と一緒に謝っとく」
改めて容赦のなさに後で謝罪しようと心に決める上鳴だった。
「という訳で、説教に加えて明日から峰田の入浴は先生方と一緒でお願いします」
「ま、それが一番良い選択だな」
あの後、まっすぐと相澤とブラドキングの部屋に千雨は峰田を連れて来ていた。峰田は嫌だと言わんばかりにもがいているが、そう簡単に拘束を解ける筈がない。
「ブラドキング先生にはご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いいたします」
「ああ、気にするな」
「それから追加の提案になるんですが」
「モゴッ!?」
先ほど飯田たちには風呂に関してのみの話だったのだが、モゴモゴと呻く峰田を無視して千雨は笑顔で追加の提案をしたのだった。
相澤との話を終えた千雨は峰田をそのまま相澤に引き渡して、今度はワイプシの四人のいるマタタビ荘の事務室に向かった。
「失礼します」
「あら、長谷川さん。どうかしたの?」
「風呂場で浩汰くんが落ちていく所を見たので」
「ああ、イレイザーから聞いてるよ。治癒回復が出来るんだよね」
「はい」
「えっ!?そうなの!?」
「緑谷、お前なんでまだ半裸なんだよ……もうすぐA組の入浴時間終わってすぐにB組になるぞ」
「へっ!?あ、うん!
……あの、どういう治癒するのか見ても……」
「手元が狂うからさっさと着替えてこい。……それとも、血祭りにされて治癒の実体験するか?」
「きっ着替えてきます……!」
事務室を後にした緑谷。あのヒーローオタクの向こう見ずな分析バカにはあまり知られたくないが、一番怪我しそうだから諦めるしかないかと千雨は一人ため息をつく。
緑谷が出ていったところで、洸汰の状態を電子精霊とともに確認する。
「反射性失神ですね」
「特に異常はないかとー」
「失神にしちゃまだ起きねぇみてぇだし……一応、軽く治癒しておくか。
『治癒』」
千雨はポウッと淡く光る手を洸汰の額にあてる。優しいぬくもりに洸汰の表情がやわらいだ。
「ありがとね、長谷川さん」
「いえ、元はと言えばウチのクラスのクソ以下が悪いんで」
「んぅ……あれ……?」
「お、目ぇ覚ましたか」
「っ!!
なっなんで……!?」
目を覚ました洸汰は千雨に驚いて目を大きく見開き、慌てて起き上がろうとする。
「落ち着け、ゆっくり呼吸しろ。
ここは事務室だ。お前が風呂場で見張りしてて落ちたの、覚えてるか?」
「……あ……!」
「その様子なら意識もハッキリしてるし、大丈夫そうだな。
急に動くと体に悪いから、座ってゆっくり水飲んでろ」
「…………」
「長谷川さんは治癒回復が出来るから洸汰が怪我してないか診てくれたの」
「……あ、あんな高さ、大したことないし……」
「礼みたいなもんだ。見張りしてくれて助かったぜ」
「……べ……別に……!」
洸汰は真っ赤にした顔を机にあった帽子をひっつかんで深く被って隠しているが、チラチラと視線を送っており、千雨をかなり気にしている。
マンダレイは洸汰の反応を見て、そういうことかとひとりごちた。
元々、この合宿が決まった時に洸汰をどうするかという話をしていた。洸汰はマンダレイの従甥とはいえ、あまり四人に心を開いていない上に、どう接したら良いのかと悩むうちにギクシャクとした空気のままとなっており、ここに雄英の生徒40人近くが一週間強化合宿で来るというのは洸汰の精神的にどうなのか、と虎が話題に上げたのだ。
マンダレイとしても、洸汰にとって良い事だとはお世辞にも言えなかった。洸汰が両親の死を受け入れて乗り越えるにはまだ時間がかかるだろうとも。
しかし、その洸汰本人が別に一緒に過ごしても良いと言ったことで、受け入れることとなったのである。
マンダレイにも洸汰は理由をずっと明かしてくれなかったが、洸汰が雄英生を受け入れたのは千雨が気になっていたからなのだろうと察した。
千雨は体育祭でも、その後の職場体験でも、メディアに多く取り上げられたり水族館ショーの動画がネットにアップロードされていた。洸汰が千雨のことを気にするようになったのがいつかは分からないが、可能性としては十分に高いだろう。
今思えば、魔獣の森に落とす前も、洸汰は千雨を目で追っていた。
「それじゃ、もう大丈夫そうなんで私はこれで」
「ありがとうね、長谷川さん」
「いえ」
「あ……ありがとう……」
「……おう」
帽子で顔を隠した洸汰の小さな感謝の言葉にむず痒さを感じつつも返事をして、千雨は事務室を後にした。
千雨が女子部屋に戻ると、すでに布団を敷いて寝る準備を始めていた。
八人部屋を七人で使うとはいえ、布団を敷くとやはり狭くなる。とはいえこれも合宿の醍醐味だ。
「お帰りなさい、千雨ちゃん」
「おかえりー!」
「お疲れ様ですわ。千雨さんのお着替えなどの荷物も持ってきております」
「悪ぃな八百万。
峰田については明日から先生方と入浴してもらうように交渉してきた。風呂の時間もミッチリ説教してもらえるし、悪さも出来ないだろ」
「えー!教師と入浴させるのと説教だけなんて、ちょっと生ぬるくない?」
芦戸が不満そうな声をあげる。確かにそれだけで懲りるような奴ではないということを常日頃の言動で知っている女子たちは頷く。
「安心しろ、生徒の入浴時間中は先生方の手伝いをさせること、荷物検査をして貰うこともお願いしておいた。合宿で不必要なものは取り上げて貰うのと、自由時間の削減だな。それでもやらかすなら補習も受けることになる。
処刑して怪我のせいで合宿の意味が無くなったって言われても面倒だし、怪我の治療すんのも嫌だからな」
「ああ、確かに」
「怪我の手当てしてたら絶対に触ってきそうだもんね」
峰田に対して女子は辛辣だった。しかしそれは日頃の行いによる自業自得である。
「早いけどそろそろ寝ようぜ、明日は朝早いし」
「明日何時やったっけ?」
「五時半」
「起きれるかしら……」
「全員目覚ましかけてりゃ一人くらい起きるだろ」
千雨も自身の寝る位置である入口近くの布団で寝る支度をし始める。すると部屋の扉が誰かにノックされた。
女子部屋は室内は和室だが
「長谷川いるか?俺、上鳴だけど」
「俺もいるぜ」
「上鳴と切島……?ちょっと待ってろ」
千雨が備え付けのスリッパを履いて女子部屋の扉を開けて廊下に出ると、廊下には上鳴と切島がいた。切島は普段ワックスで固めている赤髪が下りているためなんだか新鮮である。
「物間に長谷川の弱点話しちまったこと、謝りたくて。ごめん長谷川!」
「俺からも、悪かった!」
バッと勢いよく二人揃って頭を下げる。そのことかと思いながら千雨はガシガシと頭を掻いた。まさか二人が謝りにくるとは思っていなかったのだ。
下げられた赤と黄色の髪を見ながら、千雨は腕組みをして閉めた女子部屋のドアに寄りかかった。
「物間は同じ雄英のヒーロー科だから合同授業でバレていた可能性もあるとはいえ……人の弱点を煽られた程度で話すのはヒーローにあるまじき行為だ。弱点の情報は命の危険にも関わる。
プロのヒーローは様々な情報を扱うし、中には機密情報なんかもあるんだ。二度とするなよ。次やったらタダじゃおかねぇからな」
「はい、肝に銘じておきます」
「本当に悪かった」
「切島、謝罪はもういい。それよりとっとと部屋帰れ、明日朝五時半だぞ」
「そうだった!長谷川、おやすみ!」
「また明日な!」
上鳴と切島が足音を立てて女子部屋のある二階から一階に階段で下りていく音が廊下に響く。
その音を聞きながら、相澤に峰田を突き出した時にヒーローとして知り得た情報の守秘義務などについて改めて補習で言い聞かせるように頼んだのを思い出していた。
「……ま、反省してる分まだマシか……」
いくら痛い目にあっても反省せずに繰り返しセクハラを働く性欲の権化よりよっぽどマシである。改めて補習でしっかり指導されれば繰り返すことはないだろう。
千雨はそう結論付けて部屋に戻り、早めに就寝した。
峰田、処刑はありませんでしたがガッツリ怒られて荷物検査もされます。ここで小型ドリルとピッキング道具は没収になるかな……。
また、前回の弱点を話したことについて謝罪しました。反省するのは良いことだが、千雨の進言により補習で改めてミッチリ指導される。頑張れバカレンジャー。
そして洸汰くんの初恋のお姉さん枠に。流石ちう様、魔性の女!何が洸汰くんに刺さったのかはまた今度。