いやまぁ空式はポケット居合スタイルではないので正確には違うんだが、だいたい一緒じゃん?じゃあクロスさせても問題ないじゃん?
というわけで、誰か悪鬼滅殺の刃を持った神鳴流剣士なちう様の小説をください。
作者のやる気に繋がります。
合宿二日目の早朝、山間部のため日がまだ昇りきっていない五時半。周囲を森に囲まれ、まだ陽射しも強くなく、朝霧がすこし漂っていることもあり、過ごしやすい涼しさだ。
まだ寝ぼけまなこの者や髪に寝ぐせが付いたままの者、欠伸をしている者などもいるが、A組の生徒たちは全員体操服に着替えてマタタビ荘の外に集まっている。
千雨は眠たげな面々よりキチンと身なりを整えていた。ちなみに女子で一番最初に起きたのが千雨である。
「お早う、諸君。
本日から本格的に強化合宿を始める。
今合宿の目的は全員の強化及びそれによる“仮免”の取得。
具体的になりつつある敵意に、立ち向かう為の準備だ。心して臨むように」
相澤の説明に、生徒たちも眠気が吹き飛んだようだ。それもそのはず、その具体的になりつつある『敵意』……ヴィラン連合の存在を身をもって知っているからである。
「というわけで爆豪。こいつをなげてみろ」
「これ……体力テストの……」
相澤が爆豪に投げて渡したのは、入学初日に行った体力テストのボール投げのボールだ。
「前回の……入学直後の記録は、705.2メートル。……どんだけ伸びてるかな」
「おお!成長具合か!」
「この三か月、色々濃かったからな!1キロとか行くんじゃねぇの!?」
「いったれバクゴー!」
入学時からどれだけ成長しているか。入学してから今日まで色々なことを体験してきたが故に、生徒たちも盛り上がって爆豪に声援を送る。
「んじゃ、よっこら……
くたばれ!!!」
入学初日は『死ね』だった爆豪の掛け声は、相変わらず物騒である。
そんな千雨たちクラスメイトたちの思いを他所に、爆破の勢いを乗せながら投げたボールは朝の空に大きく弧を描きながら森の中へ落ちていく。
いったいどれほどの記録になるのかとワクワクしている生徒たちに、相澤は持っていた受信機がピピッと鳴り記録が出たのでその結果を告げた。
「――709.6メートル」
「!!?」
「あれ……?思ったより……」
距離が伸びていないことに、瀬呂が意外そうな声を上がる。
そんな生徒たちに相澤は淡々と、何故記録が伸びていないのかを説明し始めた。
「約三か月間。様々な経験を経て、確かに君らは成長している。
だがそれは、あくまでも精神面や技術面。あとは多少の体力的な成長がメインで、"個性"そのものは今見た通りそこまで成長していない……」
そう言いながら相澤はチラリと千雨を見た。
雄英を含めたヒーロー科では、基本的に一年生では基礎体力の向上を主に行うため、個性の使い方の指導はほとんどしない。個性の強化をする前に、個性が使えない状況でもヒーローとして動くために求められる素の身体能力の強化を優先するのだ。
よって、如何に自身の中で気付きを得るかは生徒次第だ。まぁ大半が指導することで個性の使い方を覚えたり思い付いたりして才能を開花させていくので、指導されずに伸びていく生徒はあまり多くない。
とはいえ多くないだけであって、居ないわけではない。生徒の中には独自に個性の使い方を考えて伸ばしていく者もいる。爆豪や緑谷が分かりやすい例だろう。体育祭や職場訓練などを経て、技術面で個性の威力向上をしている生徒だ。
しかし、千雨はさらにその先を行く。
《個性で出来ることを増やす》という、今回の合宿で行うことを既に行っている段階にある。そもそも本人に特訓の希望を聞いたとはいえ、伸ばしたいものが即座に出てくるのはそれだけ自主トレをしているということ。
元々、観察眼に優れている上に、発想力も飛び抜けて高い。期末前には八百万に、昨日の魔獣の森では赤点を取った補習組に、それぞれの"個性"に合った使い方、技術面でのアドバイスをしていた。
周囲にアドバイス出来るのは本人の才能もあるが、何歩も先に進んでいる証拠でもある。
「今日から君らの"個性"を伸ばす。
死ぬ程キツイがくれぐれも……死なないように……」
ニヤリと笑った相澤に、千雨は回復の特訓はやっぱり無しにしたいというのは無理だろうなと思っていた。
「し、死なないようにって……」
「嫌な予感しかしねぇ」
「昨日みてーに魔獣の森とかか……?」
ざわつく生徒たちをよそに、相澤は話を続ける。
「長谷川、お前の特訓内容は昨日話していたもので構わん。コスチュームをマンダレイに渡してあるから着替えてこい」
「はい」
相澤に言われて千雨は合宿所に駆け足で一人戻る。
それを見送りながら尾白と瀬呂が相澤へ質問をした。
「先生、長谷川さんだけコスチューム着用なんですか?」
「特訓内容が俺らとは別とかですか?」
「長谷川には個性で俺たち教師側の手伝いをしてもらう事があるから、わかりやすさの為と個性の都合上だ。
それに事前に合宿で特訓したいことは何かを聞いている。長谷川の個性は伸ばす方向性が定まらん以上、こっちが個性の特訓内容を考えるより自分自身で決めた方が合理的だからな」
「教師側の手伝い……?」
「そういえば中間試験あたりに毎日特訓してるって言ってたわね」
「なんでアイツだけ……クソがァ……!」
「長谷川のことも含めて、詳しく説明する前に特訓場所に移動するぞ。お前ら全員付いてこい」
そんな会話がされているとは知らず、千雨はマンダレイからコスチュームの入っているアタッシュケースを受け取ってワイルド・ワイルド・プッシー・キャッツの使っている更衣室で手早く着替える。
着替え終わり合宿所の外に出たところで、千雨はワイルド・ワイルド・プッシー・キャッツの四名と共にA組から少し後方で特訓場所へと一緒に向かう。
到着した場所はかなり開けた場所だった。およそ400メートルトラック一個分だろうか。一般的な運動場ほどの広さに加えて、特訓場所の一部はまるでアメリカのグランドサークルかのように、乱立する土の尖塔やテーブル状の台地や自然には形成されない形の崖などがあり、周囲の森林部分と同じ日本の土地とは思えない。
元々あった土地をピクシーボブの"個性"によって変えているのだろう。
これから特訓するのだと言う事に、生徒たちは胸の高鳴りを隠しきれないと言わんばかりにおお、と声を上げている。そんな中で、八百万が相澤に質問した。
「相澤先生。私たちは21人21通りの個性です。なにより個性を鍛えるとしても、一体どうやって行うのでしょうか?」
「だからこそ、彼らのいる合宿所だ」
相澤のその言葉に返事をするようにしてマンダレイが声を張り上げた。
「煌めく眼で、ロックオン!!」
マンダレイが一番手前で、右足をななめ後ろに伸ばし両手を斜め手前の上に伸ばして身体のラインが一直線になるようなポーズを決め。
「猫の手、手助け、やって来る!!」
ラグドールがマンダレイの後ろで、マンダレイとは逆方向に体側を傾けて伸ばすようなポーズを決める。
「どこからともなくやって来る……」
そして虎が二人より後ろでフロントダブルバイセップスポーズ。
「キュートにキャットに!」
「スティンガー!!」
ピクシーボブと千雨が虎とラグドールの間で、片足立ちで猫の手の形で片腕だけ頭上に伸ばすポーズをシンメトリーになるようにして決めて、五人の声が揃う。
「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!!!
Plus Ultraバージョン!!!」
ビシッと本来のフルメンバーに一人多い人数でポーズとセリフを決めたその姿は、まるでニチアサに出てくる戦隊モノの登場シーンのようだ。
「……って、何やってんだ私はーっ!?」
なお、ノリノリでセリフと集合ポーズを決めてから自身に向けてツッコミをした千雨。
コスチュームが似ている上に色被りもしていないことも含めて、完全にワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ新メンバーの顔であった。
「キャラが完全に変わってたな」
「うん、完全にワイプシ新メンバー」
「着替えながら打ち合わせでもしてたのかな?」
「いや多分打ち合わせ無しでしょ、あのノリツッコミっぷりは」
「ノリノリなちうたまも素敵です」
「アイドルちうモード最高です」
余計なことを言った電子精霊のこんにゃとしらたきをまとめて両手で握ってギリギリと音を立てて潰さんとしている千雨の横で、相澤が千雨のコスチューム理由を話し出す。
「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツが一人一人に合わせた特訓環境を整える。特訓内容についてはこの後指示を出す。
長谷川はワイルド・ワイルド・プッシーキャッツのサポートとして、治癒を行うのも訓練になる」
「治癒!?マジで!?」
クラスメイト全員からの視線が集まり、電子精霊を握っていた手を放して、説明をする。
「微弱な電気を流すことで細胞を活性化させる治療法があるんだよ。で、身体強化で自分の身体に流すエネルギーを応用して編み出した新技」
「また新技か」
「治癒ってマジで凄いじゃん!」
「相変わらず凄いな、長谷川さん」
「本当になんでも出来るよな……スマホとか機械があれば」
「うん、機械があれば」
「それもう一遍言ってみろ、治癒してやんねぇぞ」
「ごめんごめん」
千雨が弱点を揶揄されて不機嫌そうな表情をしたが、仕方がなさそうにため息をつく。クラスメイトであるからこその軽口だ。
「それじゃあ今から特訓内容の指示をする。青山から出席番号順に指示していくからな」
「はいっ!」
相澤のその言葉を開始の合図とするように、地獄の時間が始まった。
「うわぁ……」
特訓が始まるとともに、千雨は目の前に広がる地獄絵図にドン引きした。
事前に用意していた道具も使用しながら、ピクシーボブの『土流』で形成した場所で個性の関わる身体機能の強化や弱点の克服、許容上限の底上げなどを行っている。
砂藤と八百万は食べ物を食べながらそれぞれ個性の使用。爆豪は沸騰した湯に腕を突っ込んでは頭上に向かって爆破を繰り返す。峰田は球状の髪を、瀬呂は両肘からテープを、青山はへそからビームを、芦戸は両手から酸を、それぞれ痛みに耐えてひたすら使用し続ける。
轟はドラム缶風呂に浸かった状態で氷と炎で延々と温度調節と同時使用。硬化をし続ける切島と、硬化している切島に個性部位である尾を打ち続ける尾白。同じく個性部位である耳たぶのイヤホンジャックを岩壁に打ち込み続ける耳郎。
ビニール製の大きなボールに入って崖から転がり落ちては無重力になって上へ戻ってを続ける麗日。ひたすら叫び発声練習する口田。腕や目や耳の複製速度をひたすら上げてコントロールをし続ける障子と、障子に見つからないように気配や音を消して移動する葉隠。洞窟内で黒影と喧嘩している常闇。発電機から通電し続けて大きな電力に耐える上鳴。尖塔状の岩をよじ登ったりベロを伸ばしたりひたすら全身を鍛える蛙吹。特訓場所の外回りを走り続ける飯田。
そして虎の指導のもと、ひたすら筋トレで筋肉を酷使し続ける緑谷。
悲鳴と怒号と罵声の大合唱。早朝からこの状況で、山奥でなければ近隣への騒音で訴えられていたことだろう。
「筋繊維は酷使することにより壊れ……強く太くなる。"個性"も同じだ。使い続ければ強くなり、でなければ衰える!
すなわち、やるべきことは一つ!
限界突破!」
A組が地獄絵図染みた特訓の開始からしばらくして、ブラドキングが説明をしながら
そんなB組にこれから行うことを簡単に説明しているブラドキング。しかし困惑気味のB組の生徒たちに、再びワイプシの面々が口上と共にポーズを決める。
「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!!!」
「……また巻き込まれた……」
B組への説明のために待っていた千雨は再びポージングに巻き込まれていた。しかしそんな千雨の嘆きを無視して、ワイプシの四名がそれぞれの役割をB組に説明し始める。
「あちきの"個性"『サーチ』!この目で見た人の情報100人まで丸わかり!居場所も弱点も!」
「私の『土流』で各々の鍛錬に見合う場を形成!」
「そして『テレパス』で、一度に複数の人間へアドバイス」
「そこを我が殴る蹴るの暴行」
「……更にどれだけ怪我をしても私が治癒する」
流れで千雨も役割の説明をB組にしたところ、拳藤が不思議そうにしながらブラドキングに質問した。
「先生、治癒ってどういうことですか?長谷川の個性って電気系統なんじゃ……?」
「長谷川の新技だそうだ。治癒は長谷川の特訓も兼ねている。その関係で長谷川だけコスチューム着用だ」
「新技!?」
「Wow!すごいデス!」
「いやいやコスチューム装備がないとろくに特訓にならないからって事でしょ!
というか僕たちを実験台にして治癒の特訓するんだ!?A組ってそういう事するんだ!?ああ怖い!!」
「そういう事するなって言ってるでしょ!」
「流石にそれは言ったらダメだろ」
「治癒してくれるってのにお前突っ掛かるなよ」
「悪い長谷川、物間が失礼なことを言って」
千雨が治癒できるということに感心するB組生徒の中で、一人余計な事を言った物間。そんな物間にすぐさま拳藤、回原、泡瀬、骨抜の四人が注意をし、千雨に謝罪した。
B組であるため彼らも物間と同じくA組に対して対抗心を持っているが、それでも女子相手に、しかも治癒をしてくれる相手に対して失礼な態度を取る気はなかった。
また、千雨が体育祭で見せた試合の数々も彼らが一目置く理由である。
「別に……そういう事なら私はB組がA組にどれだけ遅れを取ろうが関係ないし、B組がどれだけ怪我しようと絶対に治癒しないから」
「物間!今すぐ謝れ!」
「長谷川めっちゃ怒ってる!サングラスで表情わかりにくいけど、めっちゃ怒ってる!」
千雨はかなり怒っていた。
治癒する理由の半分は自分の技術向上のためだが、半分は担任である相澤に頼まれたから協力しようという善意である。それを被害妄想さながらに煽られて気にせずにはいられない。
なにより、ほぼ初対面とも言える顔見知り程度の相手に、知っているからといって弱点を揶揄してきたのが一番腹立たしかった。気心知れてるクラスメイトならともかく、勝手に対抗心をこじらせて嫌味を言ってくる奴を千雨は笑って許すほど優しくない。むしろ根に持つタイプである。
この場で直接手出ししていないのは教師がそばにいるからだ。教師が居なかったらアイアンクローでそのまま持ち上げる位はしていたことだろう。
最終的に物間がクラスメイトたちにせっつかれる形で謝罪した。最初はまた皮肉を加えようとしていたが、流石にクラスメイト全員がちゃんと謝るようにと注視する中で嫌味は交ぜられなかったようだ。
次は無いと物間にしっかり釘をさした千雨は、絶対治癒する時に仕返ししようと心に決めていた。
「話が終わったなら単純な増強型の者、我の元へ来い!
我ーズブートキャンプはとっくに始まっているぞ」
そう言って緑谷を指差す虎の筋トレの名前が絶妙に古い。しかしワイプシメンバーで一人だけジャンルが違うと言わんばかりの厳めしい虎が怖いのか、誰もそれを口に出しはしなかった。
「ところで、なんでポージングに毎回巻き込むんですか?」
「あちきらと同じキャットヒーローだから!」
「歓迎するよニュー・キャット!」
「その割には職場体験で指名されなかったようですけど」
そう、ここまで気さくに接してきている上に四人との相性も悪くない千雨をワイプシは指名しなかった。それがずっと気に掛かっていたのだ。
「ああ、ウチはチームでヒーローしてるから体育祭の指名は参加してないんだ。
チームでやってるからサイドキックやインターン生も必要としてないし、新しいメンバーの追加も考えてないし、他の事務所とは色々と勝手が違うからさ」
「……そうでしたか……」
指名があったら絶対に職場体験に行っていたであろうヒーロー事務所なだけに、サイドキック不要ということが千雨は悲しかった。
「いや~あの日の縫さんすごかったよ~。体育祭見ながら出動待機してたら絶叫交じりに電話してきてさ」
「ああ……でしょうね」
千雨は職場体験後にステージ用衣装を三着送ってきた時のテンションの高さを思い出して複雑そうな顔をする。
悪い人ではないのだが、いささか……否、かなりクセが強い人である。
「それじゃあ私も割り当てられた場所で特訓してるので、治癒する時はテレパスで呼んでください」
「うん、よろしくね長谷川さん」
マンダレイにそう言ってから千雨も特訓場所の端で攻撃魔法の実践を始めることにした。
『
召喚した精霊を矢として放つ攻撃魔法であり、ターゲットへの追尾をはじめ、放った後から矢の軌道を操作することや、放つまで溜めておく、術者の拳や身体に乗せて打撃での攻撃力を上げる、更には精霊によって異なる付随効果、複数本の同時または連続射出や一点に収束射出など多くの特性を持っており、大変便利かつ汎用性が高い。
後衛を担う魔法使いが百を超える矢を放つ高火力の砲台となり、前衛の戦士を支援する、もしくは多くの矢を敵が対処してる間に威力の高い魔法の詠唱をするといった使用方法が定石。
ネギのように単独で近接戦闘もこなす魔法戦士であれば打撃に乗せる以外にも、相手に接近するための撹乱や陽動などに使うこともある。
魔法を行使するには、魔法使いが魔力でもって精霊を召喚、使役する必要がある。
千雨の場合はアーティファクトによって電子精霊が常時使役状態であるため、魔力を使用するために働きかける分には然程の力を必要としない。身体強化なら無詠唱でも問題ない上に長時間の維持も可能となっている。
電子精霊を矢にした場合、使用出来るのは光の矢と雷の矢だ。これは電子精霊たちが雷精からの派生であり、光精の性質にも近いからだ。他の属性はそれぞれの精霊に魔力で呼びかけて使うことになるが、これらには千雨の属性適性にも関わってくる。なので、まずはすぐさま使用出来る可能性が高く誤魔化しやすい光の矢、雷の矢から実践訓練をすることにした。
千雨の特訓場所にはピクシーボブに用意してもらった土の柱が不規則にいくつも立っている。大人と同じくらいの大きさで沢山作ってもらった土の柱は的であり、同時に人に見立てて矢を操作する練習もするためだ。
早速10メートル前方にある柱に向かって右手を的に向かって翳しながら詠唱を始める。まずは光の矢から。
「ルキ・マリ・ス・テラ・マギ・ステラ。
始動キーを唱えた千雨のそばに光球がひとつ現れた。光球の状態で溜めている間や放つ前は一矢につき直径7センチ程度、およそ野球ボールほどの大きさだ。日中の屋外でもその光がはっきりと視認出来る程度の光量もある。
一般的な魔法使い見習いならば完全な詠唱をしても成功率は低いのだが、千雨の場合は電子精霊と主従関係であるので詠唱の省略をしても発動出来ていた。
魔法の矢の一矢の威力は魔力を込めたパンチ一発分、およそ大人を十メートルほど吹き飛ばす威力。千雨の放った一矢は彗星のように光る尾を残しながら勢いよく的の柱に飛んでいき、粉々に破壊した。一矢で粉々になったのは的が土だったことに加えて光の矢が破壊属性だったからだろう。
流石に音で気付いたのか相澤がやって来て、崩れて土煙を上げている柱だったものと千雨を見て一言告げる。
「長谷川、説明」
「身体強化に使ってるエネルギーを射出しました。
治癒も同じ放出なんですが、こっちは攻撃目的で……まさか的を破壊してしまうとは思ってなかったんですが」
「……まぁいい。何かあればすぐに呼べ」
「はい」
個性の訓練、特に新技で威力を見誤るのはよくある事だ。とはいえ千雨の場合は常に注視していなければならないような無茶や危険はそうそうないという信頼がある。もっとも、
相澤が去っていったところで、千雨は
林間合宿の朝食と昼食は生徒が作るのではなく、用意されている。トレーニング時間を優先するためだ。朝食は七時半、昼食は十二時からとなっている。
二日目の今日だけは早朝から個性を鍛えるトレーニングをして朝食を食べて、また昼食まで再びトレーニングとなっている。水分補給やトイレなどは各自の自由だ。もっとも、トレーニングが過酷だからといって逃げるような生徒はヒーロー科には居ない。
食堂でA組B組がそろって朝食を食べていると、千雨の目の前に座っていた轟が話しかけた。
「長谷川は治癒の特訓以外に何してんだ?」
朝食の前に虎にパンチされた緑谷や、洞窟の中で黒影と喧嘩していた常闇など個性伸ばしで怪我をした生徒は千雨に治癒されている。千雨の右手から発せられる柔らかな光と怪我が綺麗さっぱり治っていく様子には全員興味深そうに見ていた。
しかし特訓中は自分自身のことで手一杯で、千雨が何をしてるのか知らなかった。そんな轟の質問が気になったのか、周囲にいたクラスメイトの視線が千雨に集まる。
「さっきまでは遠距離技だな。私は緑谷や芦戸たちみてぇに身体鍛えるよりも、合宿中だからこそ出来る技の特訓をしたくて」
「遠距離技って……ああ、体育祭で上鳴に使ってた見えない攻撃か」
「いや、
「一人だけ何勝手に新技で強くなってんだアホ毛テメェ……!」
「勝手も許可も必要ねぇだろ何言ってんだお前」
「っせェ!俺より先に行くんじゃねェ!」
「落ち着けって爆豪!」
切島を挟んで同じ列に座っている爆豪が千雨の言葉に食って掛かる。一方で千雨は強さに関して人一倍うるさい爆豪の言葉に、ガキの癇癪かよと呆れていた。
爆豪は自分が一番でないと気が済まない奴である上に、追い抜かれる可能性が腹立たしいのだろう。入学直後よりは良くなってきたと思っていたのだが、そう簡単には変われないようだ。
また、千雨の言葉に反応したのは爆豪だけではなく、切島の向かい側に座っていた上鳴が声をあげる。
「いやアレも十分飛距離と威力あったじゃん!!俺超痛かったんだぞ!?」
「チア衣装騙して着せたのは誰だったか覚えてねぇのかバカブラック」
「俺と峰田です、すみませんでした」
制裁による攻撃だったのを思い出して、静かに座る上鳴。完全に上下関係が築かれていた。
「にしてもお前、本当に何でも出来るようになるよな」
「治癒もだけど、方向性の違う新技をいくつも作れるなんて本当に凄いよ長谷川さん!」
「まぁ……何でも出来るようになって損はねぇし。大きく特化した技が無くとも沢山の技が使えるってのは取り柄になるだろ」
轟とその隣にいた緑谷が凄いと言うが、千雨はあまり凄いとは思っていなかった。
数日で中国拳法の型を多く身に付けたり、瞬動術を一日足らずで覚えたり、強者に勝てる必勝法を編み出すことが出来るような
千雨はハッキングなどパソコン関係以外には飛び抜けた才の無い、普通の凡人である。動きを意識し、何度も繰り返し練習し、コツを掴み、努力してようやく身に付けることが出来る。
身体強化も、瞬動術も、無音拳も、魔法も。多少の幸運に恵まれて何もないよりは習得しやすい環境にはあっても、努力無しには身に付けられなかった上に、達人の域には程遠い。まだまだどれも中途半端な半人前だ。
「いや多方面に才能開花してんじゃねぇか……」
「才能マンなんだろ才能マン……」
それを知らない者から才能だと片付けられるのは仕方がない事かもしれないが、切島と上鳴の言葉をいちいち訂正するのも馬鹿馬鹿しい上に面倒だと千雨は考えて無視した。
「そもそもの話、努力無くして栄光は無い。一歩ずつでも前進しないよりはマシだと思って強くなるしかないだろ」
「奮励努力、だな」
千雨の言葉に隣に座っていた常闇が頷く。
どんなことであれ、何もせずに習得出来る技術なんて無いのだ。千雨の言葉に早朝からの特訓で地獄を見ていた生徒たちは朝食後も頑張ろうと気合いを入れ直していた。
朝食と休憩を終えて再び訓練の再開の時間になる前に、千雨は緑谷に話しかけられた。
「長谷川さん!どんな新技か見たいんだけど、見ても良い!?」
「私は見世物じゃねぇ。
……まぁ良いか、どうせ知られるだろうし」
「えー!私も見たい!」
「ウチも見て良い?」
「俺も!」
朝食前に治癒を見たのもあって、千雨の新技がどんなものなのか気になるのだろう。ワラワラと集まるクラスメイトに千雨は見世物じゃねぇんだがとため息交じりにこぼしつつ、突き刺さる視線の元であるB組が集まっている方を見た。
「……B組も見たいんなら見ていいぞ」
「え、良いの!?」
「いや、チラチラ見られる方が気になって集中出来ねぇから」
クラスが違う上に物間を中心に対抗心を燃やしているB組は見たいと言い出しにくかったが、全員気になってソワソワしていたのだ。合同合宿訓練でなければ早々見れないというのも理由であろう。
結局、両クラスの生徒のみならず教師たちも見る事になった。
全員が見られる開けた場所で轟に二メートル近い大きな氷の塊を的として作ってもらった。夏の陽射しを受けてキラキラと光る氷はそこそこ硬そうだ。
千雨と的の氷の塊までの距離はおよそ20メートル。それを少し離れたところから見ている観客を気にしないようにしながら千雨は右手を前にかざした。
「ルキ・マリ・ス・テラ・マギ・ステラ
始動キーを誰にも聞かれないように小声で行い、詠唱と共に千雨の背後に七つの光の球が現れた。朝食までの約二時間で光と雷の矢は七矢まで撃てるようになったのだ。ここまで千雨の魔法習得が順調なのは電子精霊を使役出来るアーティファクトを持っているからである。
詠唱しきると同時に七つの光の球は氷の塊に向かって勢いよく飛んでいき、大きな音を立てて粉々に吹き飛ばした。
「すごっ!」
「轟くんの氷が粉々!」
「マジかよ……」
「スピードもパワーもすさまじいですわね」
「僕のネビルレーザーの方がきらめいてるよ☆」
感嘆しながらも、それぞれ千雨の新技である
「長谷川、サギタなんとかというのが技名か?」
「ああ、技名は
「ラテン語……!」
「良いな……!」
「威力に加えて技名まで決めてあるんだ……!」
常闇とB組の黒色がソワソワと目を輝かせ、緑谷はどこからか取り出したノートに書き込む。
「長谷川さんの光っている遠距離技と音も無い遠距離技、これを組み合わせたら迂闊に接近出来ないな。しかも攻撃する光が七つもあったからそれを躱している間に一気に接近して直接攻撃という事も考えられる訳し長谷川さんの場合は機動力もあるからヒット&アウェイも……」
「ブツブツ喋んな、キメェんだよクソデクが」
「ごっごめん……!」
「いやいやいや、アレくらいの氷だったらB組でも破壊出来るし?別にそこまで持ち上げるほどの技じゃないよねェエ!?」
「せっかく見せて貰ったのに、いい加減にしろっての」
キレる爆豪に怯えつつ謝る緑谷と、千雨の技に余計ないちゃもんを付けようとして拳藤に叩かれる物間。他の生徒もワイワイと技や個性の話で盛り上がっている。
そして
長いので切ってたのに何故か増えて一万字超えてる不思議。というか、もっと時間が進む筈だったのに朝食後の午前八時くらいなんだが。おかしいだろ。
勉強していたのと電子精霊がいるので、詠唱省略で七矢まですぐ使えるようになりました。徐々に数を増やしていくのと無詠唱も特訓予定。目指せ高火力弾幕。
電子精霊で光と雷の矢が撃てるのはオリジナル設定です。UQに登場する上位雷精のルイン何某も雷のみならず風系も使えるらしいし、良いかなって。上位精霊だし。電子精霊だし。魔法アプリとか考えれば更に他の属性も使えそうだし。問題ないな。
ちなみにメインは魔法の射手ですが、他の魔法も特訓する予定。強化合宿なので!
白き雷とか、雷の暴風とか、箒の練習とか、オリジナルの呪文とか新しいプログラムとか、アーティファクトとか……夜中にこっそり自主練でも良いから色々やって欲しいな……。
拙作ちう様のオリジナル始動キー
『ルキ・マリ・ス・テラ・マギ・ステラ』
ルキ・マリ・ス→ルキス→光
マリス→海
マリス→マルス→火星
マリス・ステラ→海の星→金星
テラ→地球
マギ→魔法
ステラ→星
マギ・ステラ→魔法の星
マギ・ステラ→マギステル→達人
星を意味する単語メインで構成。ラテン語にしたのは魔法の詠唱がだいたいラテン語だから。
それにしては、なんだか赤毛のイギリスの魔法使い少年を意識したような始動キー。
『ラブ・ラブ・ゲッチュー・ネギセンセエ』みたいなのにはならなかったが、これはこれで重いなぁと思いました。
以下、ボツにした始動キー案二つ
ウー・ヌム・ヌー・ルム・コン・ティヌム
(0と1が連続するという意味になってると思う)(ラテン語技能が低い)
レグ・エル・レクト・ロ・エレクトロ
(電気、エレクトロを中心に考えた。語感を重視)