ひねくれ魔法少女と英雄学校   作:安達武

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合宿二日目の続きです。

こうしてここで投稿する前に、誰かに一度読んでもらって校正とか意見とかして貰った方が良いんだろうなと思いつつも、そうしたら更に遅くなるから諦めて公開してる。
拙速は巧遅に勝るって言うから……。
たとえ拙くとも推しの小説は、長谷川千雨の小説は、それだけで素晴らしいから……。(いつもの)



カレーと慰め

あれから太陽は中天を越えて西へと沈んでいき、合宿二日目のトレーニングが終わりを迎えた。

 

「さァ昨日言ったね『世話を焼くのは今日だけ』って!!」

「己で食う飯くらい己で作れ!!カレー!!」

 

合宿二日目の夕食は皆で野外にてカレー作りだ。野菜と鍋とカレールーの箱が積まれた机を見ながらイエッサーと答えようとしている生徒は全員そろって疲れ切っていて、その声に覇気はない。ワイプシの一人、ラグドールが大笑いしながら指をさした。

 

「アハハハハ全員全身ブッチブチ!!だからって雑なネコマンマは作っちゃダメね!」

「確かに……災害時など、避難先で消耗した人々の腹と心を満たすのも救助の一環……。

流石雄英、無駄がない!!

世界一旨いカレーを作ろう!皆!!」

 

ラグドールの言葉から勝手に想像を飛躍させて全員の指揮をとりはじめる飯田。それを見ていた相澤は便利だなと思っていた。

 

生徒たちは体操服からそれぞれの私服に着替えて、五、六人ずつの班に分かれてカレーを作るべく、それぞれ役割分担をしていた。教師とワイプシからは火の扱いは気を付けるようにという指示のみである。これも生徒の自主性を重んじてのことだろう。

コスチューム姿だった千雨も持ってきていた半袖パーカーとジーパンというシンプルな私服に着替えていた。

 

「轟ー!こっちも火ィちょーだい!」

「爆豪、爆発で火ィつけれね?」

「つけれるわクソが!」

 

炎や爆破といった火起こしに使える個性を持つ轟と爆豪が、芦戸や瀬呂から野外かまどで火起こしをしてほしいと頼まれている。なにやら爆豪の方からは着火とは思えないほどの爆破音が大きく聞こえたが、夕飯に影響しなければどうでも良いことだ。

 

「皆さん!人の手を煩わせてばかりでは、火の起こし方も学べませんよ」

「そうだぞ、いざという時に一人で火起こしする方法を身に付けろって」

 

そう注意しながら右手からチャッカマンを創造してかまどの着火材の新聞紙に火をつける八百万と、その隣のかまどで右手の指先から出る電気の火花で着火材の新聞紙に火をつける千雨。それぞれ能力で難なく火起こししている二人に、もの言いたげに視線を送る耳郎。

二人揃って言っている事はまともだが、火起こしに不向きの個性を持った者に言うには説得力に欠けた行動であった。

 

「いや、いいよ」

 

そんな八百万と千雨の言葉に返事をしながら、体育祭までは使うことに抵抗のあった左の炎を普通に使ってかまどの薪に直接着火する轟。

かつては嫌悪していたとはいえ、自分の力が人の役に立ち喜ばせられるというのは轟にとって嬉しいことなのか、芦戸の横で火に照らされたその顔は微笑んでいるように見えた。

 

「なぁ師匠ー、火起こしってどうやったの?」

「私は師匠じゃねぇ」

 

火加減を見ている轟の横顔を少し離れたところから見ていた千雨に、上鳴が教えを請いにきた。

 

「で、何だ?普通に放電して火花で火ィ点けられんだろ」

「新聞紙燃やして薪の表面は焦げるんだけど、上手く火が大きくならねぇからさ」

「ちょっと見せてみろ」

 

上鳴が作業していたかまどの前に千雨は並んでしゃがみ、中を確認する。

 

「着火材の新聞紙は良いけど、大きめの薪が多すぎる。もう一回り小さい小枝とか割り箸とかをもう少し新聞紙の上に置いて、あとは放電で新聞紙燃やして空気を送れば普通にいけると思うぞ」

「なるほど」

 

かまどから余分な薪を取り出して、着火材の新聞紙を一番下になるように井桁に組んで火の準備をする。井桁に組めば空気の通り道もあるため燃えやすいのだ。

かまどの準備をし終えたら上鳴が指先からバチチッという音を立てながら放電し、その火花で新聞紙に火を点けて息を吹き込み火種を大きくする。

しばらくして、そこそこ勢いよくパキパキという音を立てる安定した火になった。

 

「出来た!」

「はいはい、良かったな」

「上鳴、火起こし出来るんならこっちも頼む!」

「おー!今行くー!長谷川ありがとな!」

 

上鳴は尾白に呼ばれてそちらに向かって駆けていく。

なんだかんだ言ってトレーニング後なのに元気なのは若さだろうかと千雨が考えていると、両手それぞれに飯盒を持った耳郎がやって来た。

 

「面倒見良いじゃん」

「別に良くねぇから。……耳郎、やめろその生暖かい笑み向けるの」

「手のかかる弟子の面倒見るの頑張れ、師匠」

「だから師匠じゃねぇっての。弟子取ってねぇから」

 

ガチャガチャと音を立てながら飯盒を火にかけていく耳郎に文句言いつつ、千雨たちのカレー作りは続いた。

 

 

「店とかで出たら微妙かもしれねーけど、この状況も相まってうめー!!」

「言うな言うな、ヤボだな!」

 

野外卓で出来立てのカレーを食べる生徒たち。日中は全員"個性"を伸ばすための特訓だったこともあって、大盛りに盛り付けてガツガツと勢いよく食べている。男子に交じって同じ量を食べている八百万は普段のお嬢様っぷりからはあまり想像できない。

 

「ヤオモモがっつくねー!」

「ええ。

私の個性は脂質を様々な原子に変換して創造するので、沢山蓄えるほど沢山出せるのです」

「うんこみてぇ」

 

カレーを食べている間に、しかも言ってはいけない類の感想を言った瀬呂を耳郎が「謝れ」と言いながら思いっきりビンタする。落ち込む八百万には千雨が「体内で生成してるやつは皆同じだから。エネルギー補給は大事だから」と慰めていた。

瀬呂は左頬に真っ赤な紅葉をつけながらも、キチンと謝った。

 

「千雨さんはそんなに少なくて大丈夫ですか?」

「無理して食う必要はねぇし、そもそもそんなに食えねぇ」

 

八百万が気を持ち直してカレーのおかわりをしている一方で、千雨は普通盛りよりすこし少なめのカレーをゆっくり食べている。

千雨はクラスメイトたちに披露した後のトレーニングで治癒の時以外は全て魔法とアーティファクトの実践訓練に充てていた。

特訓した魔法は魔法の射手(サギタ・マギカ)のみならず、白き雷(フルグラティオー・アルビカンス)といった雷属性の魔法と、雷属性の魔法との相性が良い風属性の魔法の練習、それから明石祐奈のアーティファクトである七色の銃(イリス・トルメントゥム)での射撃訓練、佐倉 愛衣のアーティファクトの箒による飛行訓練も行っていた。

 

箒は乗れずともマンタや偽・虚空瞬動があるから良いかと後回しにしていたが、魔力効率が良いのとスピードがありつつ小回りがきく。何より、魔法と魔力の平行処理の特訓にもなる。

とはいえ急には飛べないので、まずは浮くことから始めている。箒で浮きながら魔法の射手を使えるようになったら回避の練習もするつもりだ。

 

「長谷川はもともと少食だからな」

「おう。常闇、私の治癒は体力使わねぇけど疲労は回復しねぇんだ、ちゃんと食べろよ」

「善処する」

 

個性伸ばしのトレーニングで怪我をするのはA組では主に常闇、尾白、切島の三人。他の生徒も個性を発動する部位の皮が擦りむけるといった怪我をするが、この三人は他の生徒よりも怪我をしやすい特訓をしているのだ。

というのも、常闇は黒影との喧嘩で全身ボロボロになる。尾白は硬化した切島をその尾でサンドバッグにしている最中に尖った部分が尾に当たって擦り傷だらけに。切島は尾白の鍛えられた尾の打撃に硬化が間に合わなかった時に打撲する。

そんな訳で、この三人は千雨の治癒を何度も受けていた。

 

「そういえば、常闇ちゃんは制御のための黒影ちゃんと特訓してるけど、千雨ちゃんは制御の特訓をしないのね」

「ん?ああ……常闇の黒影と私の電子精霊は付き合い方っつーか、関係性が違うんだよ。

常闇の場合は黒影と対等だが、私の場合は完全なる上下関係だからな。私が使役する側で、こいつらが反抗することは無い」

 

常闇の特訓風景を見ていたらしい蛙吹からの質問に答える千雨。

常闇の場合は個性の力が環境によって変化する上に制御下に置ききれていない。一方で長谷川は完全に制御下にある状態だ。そもそも個性と精霊だ、違って当然であるので、それらしく誤魔化す。

 

「そもそも自我を持つ個性は珍しいらしいし、制御に関しては個人差がデカいんだろ」

「なるほど」

「ちうたまに逆らうとかないですね」

「我らがアイドルですのでー」

「……反抗してもそんなに怖くなさそうだな」

「うん、かぁいい」

「七匹だけだし、小さいもんねー」

 

クラスメイトたちが電子精霊のゆるさにほんわかと癒されているのを見ながら、一応これでも上位精霊である上に、彼らは七匹だけではないと千雨は考えていた。が、千雨がそれを説明をするはずもなく、まぁなと流した。

 

「それよりお前らはこのあと補習だろ、しっかり食っとけ」

「現実突きつけないで~!」

「オイラは赤点じゃねぇのに……!」

「自業自得だろ」

 

赤点組と覗き未遂の罰による峰田の六人は千雨の指摘に肩を落とした。見たくない現実だったのだろう。それでも彼らがカレーを食べているのはそれだけお腹が減っているからである。

 

「おいアホ毛、後でテメーの新技使って俺と勝負しろや」

「え、嫌だ」

「あぁ!?」

「怪我したら治すの私だろ、面倒。それに勝負する必要性も感じねぇ」

 

新技で千雨が強くなったとしても、それすらねじ伏せてクラス一位でありたい爆豪に対して、千雨は嫌そうな顔で返答した。

千雨の意見は面倒臭がりもあるが、もっともである。

 

「面倒臭がらずに、かかって来いやクソビビリがァ……!」

「テメー怪我して特訓出来なくなっても治癒してやんねぇぞ」

「……チッ!」

 

流石に治癒されないのは困るのか、爆豪は舌打ちして引き下がった。それと同時に、千雨はカレーをよそった皿を手にしたまま緑谷がどこかへ行く背を見つけた。

しばらくして、千雨が一人で周囲より早く自身の使用した食器を洗って片付けおえたところで、緑谷が野外卓近くに戻ってきた。どこか気落ちした様子である。

 

「緑谷、お前カレーよそってどこ行ってた?持ってた皿はどうした?」

「えっと、それはその……」

「……こっち来い」

 

千雨は言いよどむ緑谷を引き連れて食事のための野外卓から少し離れた野外かまど近くに移動する。周囲から離れたところで、緑谷は正直に何があったのか話し出した。

 

洸汰の両親がウォーターホースというプロヒーローで二年前に敵との戦闘で殉職したこと。ご飯を食べてない様子だったし慰めたくて足跡を追ったこと。洸汰がヒーローも超人社会も個性も嫌っていること。そしてそんなに否定したら辛いんじゃないかと話しかけたこと。強く拒絶されてしまったのでカレーを置いてきたこと。

 

緑谷から全て聞き終えた千雨はニッコリと笑ってから、その左腕を掴んだ状態で背後に瞬動術で移動して腕の関節をきめた。ハンマーロックと呼ばれるプロレス技であり、拘束技術でもある。

 

「こンのドアホがァ……!」

「あああああ痛い痛い痛い!!」

「ったりめぇだろが!痛くしてんだよボケェ!」

 

千雨は先ほど浮かべた笑顔が嘘だったかのように、般若か阿修羅のように激怒した表情だ。緑谷の悲鳴と千雨の怒号になんだなんだとカレーを食べていた面々が千雨たちを見るほどである。

 

「緑谷、テメーにゃ今から説教だ」

 

ハンマーロックを解除した千雨にTシャツの後ろ襟をつかまれて引きずられる緑谷。そのまま身体強化した千雨は山荘の屋上部分にジャンプして移動していった。

 

「……緑谷のやつ、何したんだ?長谷川があそこまでキレるとか峰田相手と同等だろ……」

「何したかはわかんないけど、長谷川を怒らせるだけの事はしたんでしょ。長谷川は無意味に怒らないし」

「確かに」

「デクくん大丈夫やろか……」

「ハッざまぁ」

「爆豪くん意地悪すぎひん?」

 

緑谷は大丈夫だろうかと心配しつつも、訳あってのことだろうと結論付けたA組の生徒たちは食事に戻った。

 

一方で、屋上に着いた千雨は引きずるようにして連れて来た緑谷を屋上の床に転がした。緑谷は後ろ襟を掴まれていて襟が喉を圧迫していたからなのか、ゴホゴホと咳き込んでいる。それを見下しながら千雨は怒った。

 

「度し難いほどのアホだなテメーは!」

「は、長谷川さん……」

「あのガキの考えに口出しするほど、お前は偉かったのか?」

「ご、ごめん……」

「何に謝ってんだ?あ?そもそも、別にあのガキがヒーロー嫌いで何が悪い?」

「それは、その……あんなに立派なご両親だったのに、ヒーローが嫌いだなんて……!それに、あんなに否定してたらそれこそ辛くなるだけだし……!」

 

緑谷は完全に善意での行いなのだろう。良かれと思って、救けようと思って、手を差し伸べようと声をかけたのだろう。

それが分かるからこそ、千雨は改めてため息をついた。

 

「お前……何があったのか知っててそう言うって事は、本当に汲めてねぇんだな。あのガキの心を」

「え……?」

「両親、それも二人同時に亡くしてんだぞ。

二年前に殉職っつったな。四歳か三歳くらいの子供にとって両親は世界の中心と同義。つまり、あのガキがヒーローの子だろうが普通の子だろうが何だろうが、まだ両親に甘えてて良い年頃のガキってことだ。いくらマセていようが、クソみてぇなわがまま言ったり、手伝い面倒臭がったり、ギャンギャン騒いで周囲に迷惑かける、そういう年頃のな。

そんで、それほどまで個性を否定してるのは、ヒーローを強く否定してんのは……両親に生きていて欲しかったからだ。ヒーローのウォーターホースじゃない……()()()()()()()として、生きていて欲しかったからだ。個性さえなけりゃ、ヒーローでさえなけりゃ、両親は生きていたからってな。

そんな子供の叶わない願いを、残酷な現実を早々に納得して受け入れられると思うか?」

 

千雨の言葉に、緑谷は四歳で無個性と診断されてヒーローになれないという事を突き付けられたことを思い出した。簡単に受け入れられないで、個性の練習をしていた事を。「ごめんね」と泣きながら何度も謝る母に、そんな言葉を言って欲しい訳ではないんだと思った事を。

無個性でもヒーローになりたいという叶わぬ夢を、諦められずにいた事を。

 

「……それは……思わない……です……」

「だろ!?まったく……なんでわかんねーかなぁ?フツーに考えりゃ分かんだろ。

そりゃ確かに不幸なことだが、あのガキはその不幸に酔ってるんじゃねぇ。純粋に両親の死を悲しみ、周囲のクソったれな称賛に対して怒ってんだ。

なにより子供として両親の死を悲しんでやれるのは、理不尽な死に怒れるのは、あいつしかいねぇんだ。……ヒーローじゃない両親を知ってるあのガキだから、父親と母親に生きていて欲しかったと願ってんだ」

 

千雨は黙って星がまたたく夜空を見上げた。ネギ・スプリングフィールドという十一歳の少年を思い出しながら。

英雄でも、教師でも、魔法使いでもない。迷い、苦しみ、悲しみながらも父の背を追って、守られるだけの子供であることをやめて、ひたすら前へ進む勇気を持つ優しい少年を思い出しながら。

後悔と哀愁を混ぜた静かな瞳で夜空を見上げる千雨を、緑谷はただ黙って見ることしか出来なかった。見てはいけない片鱗を見たような、誰も知らない千雨の顔を見たような、不思議な心地になる。

星々から視線を緑谷に戻した千雨は、瞳に浮かべていた後悔と哀愁が幻だったかのように冷たい視線を緑谷に向けた。

 

「そもそも、親戚のマンダレイですら突っ込めねぇ繊細な部分にズケズケと踏み込んでクソみてーな真似しやがって……そういう無意識で傲慢な所、本当にやめろ」

「ご、傲慢!?」

 

今まで言われたことのない言葉に緑谷は驚いた。緑谷からすれば傲慢といえば爆豪であり、自身とは正反対なものだからである。

 

「傲慢だよ。無意識だろうが何だろうが、テメーみてぇな奴の善意ほど癪にさわるもんはねぇ。救われる人間もいるだろうが、それは同時に相手のプライドや心を傷つけるんだよ。

あのクソ教師(オールマイト)の影響かは知らねぇけど……これ以上あのガキに余計なことしようとか考えんな、逆効果だ」

「……」

「話はこれで終わりだ、わかったら直せよ」

「……それは……出来ない」

「あ?」

「オールマイトが言ってたんだ。余計なお世話はヒーローの本質だって。だから、これは変えられない」

「……本当に腹立たしい師弟だな。私は戻る」

 

緑谷の頑固な所に千雨は苛立たしさを覚えながら、屋上から跳躍して野外卓近くに戻る。

戻りながら、麻帆良中学二年の三学期終了式の日に突き放しても突き放しても千雨の事を心配して寮の芝生で行われるパーティーにしつこく誘ってきたネギの事を千雨は何故か思い出していた。

相手の心を思いやらずに要らぬ世話を焼こうとする所が腹立たしいほどに似ている。似ていると思ってしまう事にも腹が立つ。

どうしようもない苛立ちを抱えたまま戻った千雨は爆豪に声をかけた。

 

「おい爆豪。さっきの話だが気が変わった」

「あ?」

「今から戦ってやるっつってんだよ。食後の運動代わりにゃなるだろ」

 

食後の運動と言っているが、ただ単に緑谷への苛立ちの八つ当たりである。とはいえ勝負できるのは願ったり叶ったりな爆豪は獰猛な笑みを浮かべた。

 

「ハッ!ボコボコにして負かす!」

「テメーがな」

「二人とも!喧嘩はやめるんだ!」

「飯田、これは喧嘩じゃねぇ。自由時間での自主的トレーニングだ。相澤先生も『個性を使った自主トレするな』とは言ってねぇから何も問題ない」

「ムッ……確かに先程も相澤先生は訓練時間以外は自由時間と言っていた……ということは、自主トレをしても問題ないのか……?」

 

飯田の注意を丸め込み、千雨と爆豪は野外卓近くの開けた場所で向かい合い、戦い始めた。

山荘の出入口や野外卓で付近の照明では照らしきれない深い夜の闇を引き裂くようにいくつもの光が瞬く。爆破の強い光、流星のようにいくつもの宙を走る光の矢、身体強化でうっすらと光る千雨の身体。その光景だけ見れば、不思議な光のショーのようにも見える。

しかし、同時に発せられる言葉が問題だった。

 

「さっさとくたばれ!

魔法の射手(サギタ・マギカ)連弾・光の23矢(セリエス・ルーキス)!」

「夏は調子が良いんでなァ!テメーが死ね!」

 

罵倒に次ぐ罵倒。不良同士の喧嘩かと思うような言葉の応酬だ。ちなみに千雨は小声で詠唱をしているが、爆破音と魔法の射手(サギタ・マギカ)の着弾音でほぼ聞こえない。

接近して至近距離爆破しようとする爆豪と、距離を取りつつ魔法の射手(サギタ・マギカ)で地に落とそうとする千雨。両者一歩も引かずに行われる戦闘は、二人がA組にて轟と並んでトップ3と呼ばれるのに相応しいのだとわかる。

 

「爆豪の奴、長谷川の光る遠距離技が当たる前に爆破してるのか」

「あの数を防いで更に接近するとかやっぱ爆豪スゲェ」

「でもすぐ距離取られてるぞ」

「というか長谷川、一度にいくつ放ってるんだよ」

「最初の戦闘訓練で見せた爆豪の背後に回る動きにも即座に反応してるな」

「昼間は七本だったのが二十……いや、二十三本かな?かっちゃんのフェイントや動きにも追従してるしホーミング機能もあるとしたら命中率は凄い……そもそも一度に放てる数は特に決まってないのか?普通のパンチでも相殺出来るのか、威力は昼間の時より落としてるのか、それとも数を増やすと威力が落ちる可能性も」

「デクくんいつの間に戻ってきたん?」

 

千雨が光の矢の威力を抑えているのもあるが、爆豪が爆破の衝撃で二十を超える矢をいなせるのは、今日一日行った個性伸ばしの特訓だけでなく、日頃から感情の高ぶりで爆破をしていて汗腺がそもそも強化されているのだろう。さらに夜とはいえ夏で気温が下がりきっていない事と、動けば動くほど汗をかいて威力が上がるのも理由である。

爆豪は千雨の新技魔法の射手(サギタ・マギカ)が爆破でいなせる事に安心しつつ、されど爆破で相殺しなければかなりの威力がある事と追尾、なによりその数が厄介だと考えて舌打ちをする。爆破出来るのは両手の平からのみな為、全方位に対して常に意識していなければならない。

千雨は爆破の衝撃で矢が相殺されているのを見て、もう少し魔力を練り上げて威力を上げても問題ないかと判断していた。

 

あまり驚かないどころか詳しく分析しながら観戦するA組の面々に対し、B組は体育祭一位と三位になった二人の強さが飛び抜けている事実を改めてその目で実感させられた。

B組とて負けているとは思っていないし、勝ちたいという気持ちもある。だが、目の前で戦う二人を見て簡単に勝てるとは断言出来なかった。

 

「物間、あの二人に喧嘩売ったの間違いじゃねぇか?」

「アハハハハ、まさか!A組全体で見ればあの二人だけ飛び抜けているだけだし……僕の"個性"を使えば勝てない訳じゃない」

「もういい加減、余計なことするなっての」

「俺も切り刻みてェ……」

「分かるぜ鎌切!個人での特訓も良いけど拳と拳の真剣勝負、俺もしてぇぜ!」

 

隙あらばA組をこき下ろす物間と注意する拳藤の横で、千雨と爆豪の自主トレという名の戦闘に意欲を刺激された鎌切と鉄哲が自分たちも自主トレしようと燃える。

しかしボンボンと大きな音を立てていることに教師が気付いて駆けつけない筈もなく、相澤が介入して戦闘は途中で中断された。

 

「長谷川」

「自主的に訓練してました。自由時間なので」

「たしかに自由時間は何しても良いが……何でもして良い訳じゃないだろ」

「日中は各自で個性伸ばしの訓練で、対人戦闘じゃないと技の強弱加減がわからないので」

「…………」

 

何を言っても反省の色が無い千雨に相澤は呆れ返っていた。爆豪は爆豪でそっぽ向いて無言を決め込んでいる。千雨と同じく反省する気がないのだろう。

 

「……周囲に迷惑をかけずに自主トレに励む分なら良いが、翌日に影響出るような事はするなよ」

「はい」

「……ッス」

 

夕飯を終えて補習時間までまったりしていたいであろう相澤はそう言うと、面倒くさげに頭を掻いて山荘の中へ戻っていった。

相澤が去っていったところで、鉄哲が全員に聞こえるようにと声を張り上げる。

 

「なぁ!何だったら明日の肉を牛か豚か決めるのに模擬戦するってのはどうだ!?」

「成る程、悪くねぇな……」

「クソどもはまとめてボコボコにしてやらぁ……!」

「そっちこそ、後で吠え面かくなよ!」

 

先程までの観戦で高まった勝負の熱が更に熱くなる。

それを見ながら千雨は何があったんだろうかと首をかしげて耳郎に声をかけた。

 

「明日の肉って何のことだ?」

「肉じゃがの肉を賭けて勝負するんだってさ」

「爆豪、長谷川、轟の三人がいりゃA組の勝ちだろ!」

「あとは誰にする?つかそもそも何回勝負にするよ?」

「おい待て、何で私まで……」

 

意気揚々にしながら勝負するメンバーを決めようとするA組男子たち。それに千雨が不参加を言いかけたところで、物間が動いた。

 

「あれれれれ!?A組ってもしかして女子も戦力に加えないとB組男子に勝てないのかなァ!?あれれれれェ!?」

「男子だけで十分だわクソボケがァ!」

 

千雨というA組で上位の戦力が加わるのを阻止するための煽りだろう。B組の女子は勝負に対してやる気がないからというのもある。

そしてそんな物間の煽りを、爆豪が無視する筈もなかった。

 

「……言っておくけど、よっぽどの怪我は治せねぇからな?」

 

そんな千雨の言葉を、果たして彼らはちゃんと聞いていたのだろうか。プライドと肉を賭けた勝負に男子たちの心は燃えていた。

 

 

全員の食事を終えて使った食器を洗い、使った野外かまどの消火と野外卓の掃除を終えた面々。あとは風呂に入って、生徒によっては補習を受け、就寝である。

生徒たちが山荘へ戻っていくなかで、洗い場に残っていた千雨に葉隠が気付いた。

 

「あれ、千雨ちゃんまだ何か洗うものあるの?」

「お前らは先に行ってろ。風呂の時間までにゃ戻るし、もし遅くなったらB組と風呂に入るから」

「そう?じゃあ後でね!」

 

透明で見えない手を千雨にブンブンと大きく振って山荘へと戻っていく葉隠。それを見送って数分ほどしたところで、小さな人影が静かに洗い場に来た。

 

「よし、ちゃんと皿とスプーン持って来たな」

「なっ!?」

 

食べ終えたカレー皿を手に洗い場に来たのは洸汰だった。

 

「なんでまだここに……!まさか、あのモジャモジャ……!」

「あのバカに吹聴するような度胸はねぇよ、私が聞き出した。

ほら、皿渡せ。使った分はキチンと片付けねぇとワイプシの四人に迷惑かかるだろ」

「自分で」

「先にこっちが……あのバカが迷惑かけてカレー押し付けたんだろ、いいから貸しな」

 

そう言って洸汰の持っていた空のカレー皿とスプーンを受け取って洗う千雨。

バシャバシャと蛇口から流れる冷たい水の音が夜風が木々を揺らす音と共に響く。洸汰は何もすることが無いが山荘に戻るのも違う気がして、チラチラと千雨を見ながら洗い場に残っていた。

その沈黙を先に破ったのは千雨だった。

 

「あのバカが余計なこと言って怒らせたみてぇだが、別に許さなくていいからな」

「え……?」

「人間誰しも踏み込まれたくないもんの一つや二つある。そこに踏み込んだバカは怒られて当然なんだ、謝られても許さなくていい」

「……許さなくていい……」

「どれだけ怒ってんのか分からせねぇと繰り返されるからな。譲れねぇもんなら譲るなよ」

 

洸汰は皿を洗っている千雨をまじまじと見た。

ヒーローやそれを志す人間をはじめとする多くの大人が『謝られたら許そうね』と教えてくる。それを許さなくて良いというのは、洸汰にとって初めての言葉であった。

 

「……姉ちゃんは言わねぇんだな。あいつから聞いたのに」

「どんなヒーローだったか私は知らねぇが、お前はヒーローじゃない両親を知ってるだろ。息子であるお前だけが。

死んだ原因を憎んで何が悪い。世間の称賛と慰めに怒って何が悪い。生きていて欲しかったと願って何が悪い。それは全部お前だけのものだ。

その悲しみも苦しみも恨みも抱えたままで良い。抱えたまま、前に進めば良い」

 

轟のように、不幸に浸り続けて己自身と前を見ていない訳ではない。洸汰が両親を失って二年で、まだ五歳程度というのもある。

だから、その心を、当たり前の感情だと肯定した。今を肯定しなければ救われず、前に進めないからだ。

 

それは同時に、洸汰が千雨に心惹かれた言葉だった。

 

 

洸汰はマンダレイたちと共に雄英体育祭を見ていた。一年生の中にマンダレイたちのコスチュームを作ってるデザイナーの担当生徒がいるからと勧められていたのである。

 

雄英体育祭は個性を使って学生が戦う。それはつまり両親が命を落とした行いと同じ事であり、それを嫌悪する洸汰にとってあまり見たいとは思わないものだ。彼らは力をひけらかしているのだから。

しかしマンダレイたちには世話になっている身だ。それ故に洸汰は一緒にテレビの前にいたが、きちんと試合を見ようとはせずにいた。

だからこそ、聞こえた試合後の言葉が胸にささった。

 

『―――デカイ悩みなら吹っ切るな、胸に抱えて進め』

 

それは洸汰自身が肯定されるような言葉だった。

両親の仇である敵と、死の原因でもある個性と戦いを憎むこと。世間が両親(ヒーロー)の死を誉め称え続けることへの嫌悪と、カッコいいヒーロー(両親)に憧れたこと。

個性を憎む『正しくない心』も、嫌悪と憧れという『矛盾する心』も、決着を付けずにいても良いという言葉。

 

彼女は、長谷川千雨は他の人間(理解できない奴ら)とは違うと洸汰は思った。自分を理解してくれる人間だと思った。

 

もしもそれを千雨が知ったら「それは幼いが故の勘違いだ、もっと視野が広がれば変わる」と一蹴することだろう。

しかし洸汰にとって、両親(ヒーロー)の死を称賛する異常者だらけのこの社会において、心を寄せる対象とするには十分なものだった。そしてそれが憧れのお姉さんという位置におさまるのも、何らおかしな事でもなかった。

 

 

千雨の言葉に黙った洸汰。その顔はキャップのつばで隠れていて立っている千雨には見えない。

千雨は蛇口をひねって水を止めてから、そっと呟いた。

 

「電子の王、再現……幻灯のサーカス」

 

洗い場に光が広がり、倒れるようにして眠った洸汰の頭を床にぶつからないようにと千雨は片手で抱き止める。

 

仮初めの幸福に囚われるかもしれない。現実と向き合うには、前に進むには不要かもしれない。

だが、せめて今夜だけでも。部外者が踏み込んで傷付けてしまった今夜だけでも、優しい夢を見て欲しい。そう願わずにはいられなかったのだ。

 

「……」

 

抱えた子供の頬に流れる涙を指で拭ってやり、片付けを終えた千雨は山荘へと戻っていった。

 




ちう様が緑谷に詰めよっている間に、小説版の肉じゃがの肉を賭けた勝負をする約束をしてました。
そして男子のみの肉を賭けたバトルの内容が、腕相撲から戦闘訓練に変わりました。なお、治癒担当のちう様はやる気がない。

しかし、ただでさえ二日目が伸びてる状況というか、二日目がすでに前回と今回合わせて二万字超えてるんで……。
日中のトレーニングを省略しているのに、これ以上一日の内容を伸ばしてはいけないという声が聞こえるので……。
男子の肉を賭けた勝負は……書かなくても良いよね……ちう様は多分出ないし……。

女子会のために犠牲になれ、男子どもよ……!
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