連絡事項など。
・ネギが千雨に告白してるのはUQで描かれた事なので、今更ですがタグに「UQHolderネタバレ有り」を増やします。今更ですが。
・誤字脱字の報告ありがとうございます。助かります。
・感想、マシュマロ、ありがとうございます。嬉しいです。
・ヒロアカ映画第三弾と原画展、おめでとうございます。
・オラに(執筆と読解と語彙と発想と愛と勇気と希望と金と自由な時間と世界を支配して長谷川千雨小説を書くように命じることが出来る)力をくれ。
あれから眠ったままの洸汰をマンダレイに届け、風呂に入った千雨。
昨夜の峰田の一件もあり、男女の入浴時間が被っているのは問題という判断がされて男子たちがパパッと入浴してから女子たちがクラスごとに入浴する事になった。加えて、峰田の覗き未遂によって見張り場所から洸汰くんが落ちた為、女子の入浴時間の間は千雨がクラゲと小型シャチを複数実体化させて風呂場の周囲を警備する事になったのだ。
B組女子の入浴も無事に終わり、警備終了の連絡をマンダレイたちにしに行った千雨が戻ってくると、A組の女子部屋にお客が来ていた。
「なんだ。B組の奴が来てたのか」
「お邪魔してます」
「あ、長谷川おかえりー」
「入って入って!」
A組の女子六人に加えて、B組の拳藤、小大、柳、塩崎の四人が部屋の中央でお菓子を広げてジュースを手にして集まっていた。布団をクッション代わりにしている芦戸に促される形で、芦戸と麗日の間に千雨もその輪に加えさせられる。
「なんでB組の四人がここに?」
「警備と治癒のお礼にお菓子を持ってきたんだよー」
「お菓子って言っても、持ってきた奴を持ち寄った感じなんだけどね」
「お礼?いや、警備はウチのクラスがそもそもの原因だし、治癒も特訓の一環だからお礼される事じゃねぇんだが」
「千雨ちゃんがそう言うと思って、それなら女子全員でお菓子食べながら女子会しよーって話になったんだ!」
葉隠の言葉にA組女子たちがうんうんと頷く。千雨の考えを考慮した上で全員が満足出来るようにと女子会する事になったのだ。
ちなみにB組女子の取蔭、小森、角取の三人はブラドキングに訓練での注意点があるという事で呼ばれ、この場に居なかった。A組女子部屋で女子会をしている旨は連絡しているため、三人は途中参加の予定である。
「という訳で千雨ちゃん!恋バナしよ!」
「ちょっと用事を思い出した」
葉隠の楽しそうな言葉にすぐさまその場から抜けようとした千雨の左手首を左隣にいた芦戸が素早く掴んだ。
「長谷川、逃げちゃダメ!」
「千雨ちゃんにはじっくりたっぷり聞かなきゃいけないんだから!クラスで一番モテるんだし!」
「誰が一番モテるだ!ねぇよ!」
顔を真っ赤にしながら否定する千雨。しかし周囲の視線は千雨に集まっている。
以前から千雨に追及をしているA組女子は言わずもがな、B組の四人も興味津々といった様子。というのも、この場にいる女子は全員付き合ってる人が居ない上に片思いしている人も居ないのだ。それもそのはず、中学時代は超難関の雄英合格を目指していた上に、ヒーロー科は月曜から土曜までみっちり授業がある。恋愛なんて育む余裕があるはずもなかった。
別に彼女たちは恋人が欲しい訳でも恋をしたい訳でもない。ただ、あの甘く痺れるような恋の熱を感じたいのだ。恋バナをしようと決めてあのキュンキュンする感じを思い出してしまった以上、恋バナでキュンキュンしたいという思いは止められない。
なにより、千雨には色々と話題が豊富なのだ。
「まず確実なのが常闇と轟でしょ?」
「飯田くんや砂藤くんとも話してるし、あと障子くんも昨日の森で千雨ちゃんを背負ってたりしてたし」
「なんやかんや上鳴とも仲良いみたいだし、爆豪も長谷川のこと認めてるみたいじゃん。その繋がりで切島と瀬呂とも仲良いし」
「あとは緑谷ちゃんもかしら?夕飯の時には怒ってたみたいだからちょっと違うのかもしれないけど」
芦戸、葉隠、耳郎、蛙吹の証言にB組の四人もおお、と目を輝かせた。
ヒーロー科は男子が多いため、この場の女子は全員誰かしら仲良く話す相手が一人はいる。とはいえ女子がいるのだから女子で集まることが多く、特別に仲が良いと言われる男子が複数いるというのは無いのだ。
「ないないない、全員無い」
「でも、たしかに長谷川って男子から人気だよね」
「は?」
B組の柳からまさかの言葉が聞こえ、千雨は聞き返した。
「意外ってわけでもないでしょ。B組でも人気だよ」
「そうなんですか?」
「体育祭の活躍、凄かったからね」
「ん」
「何より、気高い精神の持ち主ですから……私たちも見習いたいです」
「ん」
「確かに」
「というか、逃げようとするってことは確実に恋バナのネタがあるって事じゃない?」
拳藤の鋭い指摘に千雨は動揺してビクリとした。それを腕を掴んでいた芦戸が見逃すはずもなく。
「ちうちゃん……好きな人いるの?」
「……いねぇ」
真っ赤になった顔を見られまいと逸らしていないと証言する千雨だが、それはどう考えても「好きな人がいる」と言っているようなもの。
恋バナに飢えている芦戸のテンションが上がりに上がった。
「えー!!ねねね、誰!?誰なの!?A組!?それともB組!?他科!?他校!?」
「違ぇ!いねぇから!やめろマジで!」
「そんなに真っ赤になってる時点で怪しい!」
「う、うるせぇ!真っ赤になるなんて別に普通だ!」
「いーや!私の角が千雨ちゃんの放つラブ臭にビンビン反応してるから!」
「ウソつけ芦戸!テメーの角にそんな機能ねーだろが!パルみてーなこと言ってんじゃねーよ!」
ギャアギャアと騒ぐ千雨と芦戸と、それを黙って見守る周囲。この時点で千雨が女子会の中心人物もとい恋バナの生贄となるのは明白であった。
「三奈ちゃん、千雨ちゃんの事だから自分から答えようとしないだろうし、ひとまずここは既に出てる候補の情報共有とかからしよ!皆で聞かなきゃ!」
「そんなくだらねー事すんなっ!」
真っ赤になって叫ぶ千雨に、普段のカリスマも何もなかった。
「じゃあまず、常闇くん!」
まず最初に、千雨と常日頃一緒にいる常闇についての情報共有が始まった。
「常闇って長谷川といつも一緒にいるんだよ」
「体育祭三位の奴だっけ?騎馬戦で長谷川と組んでたのは知ってたけど、そんなに仲良しなんだ?」
「うん。常闇と真っ先に組んだからね、長谷川」
「試合中も息ピッタリって感じやったよ」
「中学が同じなんだよね?たしか中三の九月に千雨ちゃんが転校してきたって前に常闇くん言ってたし」
「……そうだな」
未だ顔が赤いが、多少は冷静さを取り戻した千雨。
「受験シーズン真っただ中で転校って大変そう……」
「そこはなんとかなってるから雄英にいるんだろうが」
「あ、そっか」
「一学期の時はほぼ毎日一緒に登下校してたじゃん」
「同じ駅だしな」
「ほぼ毎日……それは確かに、男女で考えればかなり仲良しですね」
「ん」
「……まぁ、常闇はすごく良い奴だからな。
まず、そこいらのガキみてぇに喧しくなくて、いつも冷静沈着で真面目。登校する時にさりげなく車道側を歩いたり、満員電車でスペース作ってくれたり、振る舞いが紳士。人を思いやれる優しさもあるし、いざという時に立ち向かう度胸もあるし、ああ見えて実は負けず嫌いだし、個性の黒影も強い。
あと、気に入ったものを見てる時や好きなもの食べてる時に目ぇ輝かせたりソワソワするところなんかは、普段とのギャップがある」
次々と挙げられる常闇の良いところやチャームポイントに女子全員からほほう、と感心したかのような声が上がる。確かに恋人にするなら理想的と言えるだろう。
そしてそこまで常闇の事を評価しているという事は千雨の好感度もかなり高いのが分かる。むしろ惚気と言われた方が納得出来る。
「だからこそ、常闇には私みてーなハズレなんかよりもっとイイ女が似合う。そして幸せになって欲しい」
「ちょっとー!」
「何でそこで千雨ちゃんがハズレになるの!?自己評価改めて!」
「結局いつものだったわね」
「え、コレいつもの事なの?」
「ええ、千雨さんの自己評価の低さはいつもの事ですわ」
いつもの千雨自身に対する低すぎる評価によって、千雨は常闇に自分以上の相手を望んでいた。ある意味で好感度が高すぎるが故である。
「でも常闇ちゃんと付き合うってなると、仲の良い千雨ちゃんと比べちゃいそうね」
「確かに。……あれ、それってつまり……」
大きな眼鏡で分かりにくいものの顔とスタイルが良く、冷静かつ男前な性格に派手で万能な個性、世間ですでに人気なヒーロー候補。そんな千雨と比較して上回る女子。
「……そんな女子いる?」
「千雨ちゃんのレベルが高すぎる」
「女子側が長谷川のことを割り切れないと、常闇に別れを切り出す未来しか見えない」
「長谷川がコレだもんね」
「……常闇さんが苦労しそうですわ」
「ん」
常闇の未来の彼女に全員で頑張れと祈った。
「じゃあ次!A組のイケメン!轟!」
「体育祭から急接近して、最近じゃほぼ一緒だし!千雨ちゃんにだけ態度違うし、距離感違うんだよ!」
「あの試合から轟くん性格丸くなったし接しやすくなったし」
「マイペースだけど良い奴だよね」
「強力な個性に加えて、訓練の最中では的確な判断力もありますわ」
「イケメンで、性格も良くて、個性も強くて、成績優秀、将来有望!
彼氏にするならコレ以上ないって奴じゃん!」
きゃあきゃあと盛り上がるA組女子たち。イケメンとの恋愛は想像するだけでキュンキュンするのだ。
「轟って確か、エンデヴァーの息子なんだよな」
拳藤の言葉にクラス一のイケメンからその父親を思い浮かべた女子たち。轟々と燃える炎と強面のエンデヴァーに、盛り上がっていた空気は一気に沈静化した。
「……ないな」
「うん……息子の彼女に厳しそうだよね」
「彼女でなくとも厳しそう……」
「いや厳しいけど優しいぞ、エンデヴァーさん」
「……優しい……?」
世間の評価と真逆の事を言った千雨に視線が集中する。
そして耳郎がふと思い出して声を上げた。
「あっ!そういえば長谷川、I・アイランドにエンデヴァーの代理で来た轟の付き添いだった!」
「え!!?」
「どういうこと!?」
「確かにデートしてましたわ」
「しとったね」
「え、マジなのヤオモモ、麗日!?長谷川、轟と付き合ってんの!?いつから!?どっちから告白したの!?」
「付き合ってねぇし、アレはデートじゃねぇよ!!」
「じゃあなんで轟の付き添いで行ったのさ!?」
キスをするのではないかと思ってしまうほどに顔を近づける芦戸と、ひるむ千雨。
「……あー……その、I・アイランドは……エンデヴァーさんと連絡先を交換していて」
「エンデヴァーと連絡先を交換!?」
その場の全員がギョッとした。男性プロヒーローの中でも強面の部類で威圧感が強く、さらには気性が激しい上に愛想が皆無と言っていいエンデヴァーだ。いくら同級生の父親とはいえ、連絡先を交換するというのが驚きである。
「どんな事が有ればエンデヴァーと連絡先交換するのさ!?」
「轟が誘ったんじゃないの!?」
「いや轟じゃなくてエンデヴァーさん経由。
連絡先の交換は…………は、話の流れで」
「話の流れで」
流石にヒーロー殺しの一件で千雨が暗躍してた事が連絡先交換のきっかけとは言えないし、ましてや弟子入りしている事も言えないのである。この場で言ったら轟との仲を更に邪推される上に、自分も弟子入りしたいと言われかねない。
「いやそもそも話す機会ないでしょ。雄英入る前の話?」
「いや、エンデヴァーさんに体育祭の準決勝後に声をかけられてな」
「……そういえば体育祭に来てたっけね、エンデヴァー」
「なるほど、そこで連絡先を貰ったのですね」
嘘は言っていない。連絡先の交換をしたのは職場体験後だが、体育祭でエンデヴァーに声をかけられたのは事実である。無事に体育祭でエンデヴァーから連絡先をもらったのだと誤認してくれたようだ。
「だとしても、謎が深まっただけのような……?」
「長谷川は秘密主義だから、大体ハッキリ言わないんだよね。入学当初なんか常闇以外近付けようとしてなかったし」
「うん。あの頃は敬語で冷たかった」
「そうだったのですか?」
塩崎が意外そうにしながらA組女子たちに訊ねた。
体育祭の序盤では涼しげな表情で確実に勝ちあがる特別入学枠に相応しい強者であり、同時に本選トーナメント準決勝での荒々しくも気高く熱い思いを秘めているというのがB組の千雨に対する印象だ。
敬語で冷たく人を近付けないというのは想像出来ないものであった。
「最初の戦闘訓練や委員長決めの時に千雨ちゃんの大人びたところは分かっていたから、人付き合いが苦手なんだと思ってたわ」
「でもUSJ事件から今の口調で話すようになって、個性についても話してくれたし」
「体育祭じゃああの大活躍だったもんねー」
「……ニヤニヤしてんじゃねぇよ」
苦々し気な表情で文句を言う千雨だが、USJ事件が今のように仲を深める契機だったのだというのが拳藤たちB組にもよく分かった。
「それより話戻すぞ。
エンデヴァーさんから夏休み前に『優秀なヒーロー候補生だから様々な機会を与えたい』ってことで、I・アイランドのエキスポプレオープンにエンデヴァー代理で向かう轟の付き添いという形で誘われた」
「そういえば千雨さんもエンデヴァーから指名されてましたものね。そこまで期待をかけられているのですか」
「体育祭で目立ったらそういう事もあるんだな……」
体育祭で目立ったからこそエンデヴァーに目に掛けられたのは否定できないが、目立てば必ずしもこのような機会に恵まれるという訳ではない。
「I・アイランドの付き添いに誘われたのは私に目を掛けてくれてる以上に、轟とクラスメイトの女子である事と、轟との体育祭での試合が理由だろうがな」
「そうなん?」
「もともと面会予定だった博士が体育祭で私と轟の試合を気に入ってたんだよ。あと、エンデヴァーさんは轟にデカい期待かけてるから、I・アイランドのレセプションパーティーっつー世界のVIPが集まる社交場にヒーロー志望として顔出しし始めたばかりの跡取り息子を一人で行かせるのは色々と不安だったんだろ。サイドキックを同行させるほどの事ではないけど信頼出来る付き添いが望ましいっつってたし。
同い年の女子が付き添いとして居れば遠回しな婚約の申し出とかハニトラやら変な絡みをされずに済むし、話しかけにくいだろ?
つまり、私は虫よけを兼ねた付き添いに丁度良かったってこと。私にとっても良い経験になったしな。だからデートでも何でもない」
「……マジであの旅行に恋愛のれの字もないとは……」
「そんなつまらない事言わないでよー!もしかしたら、轟くんが千雨ちゃんと仲良くなりたいのをエンデヴァーが知っててお節介焼いたって理由かもしれないじゃん!」
「葉隠さん、流石にそれは無理があるのでは……?」
「エンデヴァーがそんなお節介焼くとか想像出来ないっつーか、したくないんだけど」
葉隠の言葉にエンデヴァーがそんな事をするのかと想像出来ない面々が首を横にふる。
実際には葉隠の想像が割と当たっていた。
「エンデヴァーってウラメシくないの?威圧感がすごいし」
「ウラメシ?」
「ああ、『こわい』って意味」
柳の独特な言い回しを拳藤が訳す。B組も中々に個性的な生徒が集まっているようである。
「そうか?まぁ活動見てると怖いかもな、人を寄せ付けねぇし。でも普段は冷静沈着で静かだし、そんな怖くねぇぞ」
「静か?」
「静かなの?」
「むしろサイドキックの人たちの方が熱血!気合い!って感じだな。炎のサイドキッカーズって呼び名通り。
エンデヴァーさんは流石は史上最多記録持ちって言うべきなのか、事件事故の解決に関しちゃ百戦錬磨。瞬時に状況把握するし、視野は広いし、個性の扱いは繊細だし、個性抜きの体術も強い。……ファンサがほぼ皆無だけど。
メディアや世間はオールマイト一強で他は有象無象だなんてよく言ってるが、エンデヴァーさんは凄い人だよ」
どこまでも努力し続けるあの姿勢は千雨にとって尊敬出来るものだ。
穏やかな表情でエンデヴァーを評価する千雨に、メディアと実際は違うものかと納得した。
「話戻すけど、轟は無いの?」
「無い。まぁ他の奴よりかは仲良いけど、それだけだな。
そもそも、あいつのアレは恋とは違うだろ。姉にくっつく弟みたいな感じだし、恋というにはなんつーか……純粋すぎる」
ネギが神楽坂になついていたような、家族に向けるような純粋な好意と信頼。嬉しくもむず痒いほどにピュアなものだ。
「姉にくっつく弟……」
「弟かー」
「まぁそう見えなくもないけど」
「確かに、ウチの弟も似たようなところがあるわね……」
弟という認識である以上、完全に恋愛対象外の扱いである。
しかしそんな千雨の評価に対して芦戸は高らかに異議を唱えた。
「そんなはず無いでしょ!千雨ちゃんと一番近いあの二人で!そんな恋愛感情ゼロとか!無いでしょ!
真っ赤になってたじゃん!」
「現実を見ろ、芦戸」
騒ぐ芦戸に対して、これで解放されるなと千雨は安心してチョコレートをひとつまみ口にする。
「わかった!告白されたことあるんでしょ!?」
「んぐっ!?」
芦戸の思わぬ言葉により、千雨は喉にチョコレートを詰まらせかけた。その動揺を周囲が見逃すはずもなく。
「あるんだ」
「あるのね」
「まぁ……!」
恋バナ、続行。
「どんな人!?イケメン!?年上!?」
「いや振った、振ったから!」
「もったいないー!」
「もったいなくねぇよ!つーか、お前らだって告白された事くらい……は……」
その言葉で全員が視線をそらしたため、千雨は最後まで言葉が続かなかった。
「……いや、嘘だろ?女子中で出会いがそもそも少ないって理由ならともかく、大半は共学だから仲の良い男子くらいいるもんだろ?違うのか?」
「中二の半ばあたりで雄英に受験するって噂が広がって……特に何もなかった」
「私はそもそも男子とそんなに仲良くなかったわ」
「受験勉強に専念して疎遠になったから」
「恋愛対象ってのがまず居なかった」
「ん」
千雨の何気ないひとことで全員の状況が判明した。雄英に受験、それもヒーロー科に合格したともなれば、卒業式などで届かない思いを伝えるものもいなかったのだろう。国内最難関のヒーロー科、全国トップクラスの実力の持ち主。そんな女子に告白するなど、途方もない勇気がなければ無理だろう。
「それで、何で振っちゃったの?」
「……ガキは趣味じゃねーから」
千雨は振った時の言葉をそのまま言った。流石にべらべらとネギについて喋るつもりはないが、振った理由くらいの最低限は言わねばこうした相手は納得しないのである。
「年下はアウトなのね」
「いやこれ中身の可能性もあるでしょ」
「あー、確かにガキっぽい男子と付き合うってあんまり考えられないかも」
年頃の女子高生らしくと言うべきか、子供っぽい男子よりも大人びた人との恋に心惹かれるのである。
「でも常闇みたいなのがタイプってことだから、つまり……」
「冷静沈着、紳士、優しくて度胸もあって、個性も強くて、熱い思いも持ってて、ギャップもあって、大人びた人が好み……」
「……要求レベル高くない?」
「常闇ちゃんが合致してるのが逆にすごいわ」
「轟くんも合致してるんじゃない?」
「轟はぐいぐい距離を詰めてくるから嫌だ」
「ワガママか!」
「そもそも私に恋愛を求めんな、私は恋なんざする気がねぇ」
「この中で一番恋愛しそうなのにぃ~!」
「期待するだけ無駄だっつーの」
フンと鼻で笑う千雨はどこまでもドライであった。
「つーか、普段一緒にいるからって理由なら、麗日も緑谷と飯田と普段一緒にいるだろ。恋の可能性あるんじゃねぇか?」
「ふぇあっ!?」
突然恋の話題を振られたことで、期末試験で青山に緑谷のことが好きなのかと言われたことを思い出して真っ赤になって慌てる麗日。それを恋バナに飢えてる葉隠と芦戸がターゲットを千雨から麗日に変えて詰め寄る。
「おやおや~?そんなに慌てちゃって~!どっち?どっちかなぁ~?」
「ほらほら、本当のこと吐いちゃいなよ……恋、してるんだろ?」
「前から言ってるけど、ほんまにそういうんじゃないって!」
ニヤニヤと楽しそうに詰め寄る葉隠と芦戸から出た恋という単語に、緑谷の顔を思い出してはそれをかき消そうと手をブンブン振る。
「ほらな、こういう反応こそが恋してる奴の反応だ。私にゃないだろ」
「千雨ちゃん!!」
千雨が恋バナをする気が無いから押しつけたのだと分かった麗日が真っ赤な顔のまま千雨を恨めし気に見る。
そんな麗日を横目に千雨は飯田が恋人になるならばという仮定の話をしはじめた。
「飯田なら良家の坊っちゃんで誠実と真面目を形にしたような奴だし、浮気はしないしきちんと交際するだろ。それに困ってる奴を放っておけないし、クラスでも委員長として率先して行動するし。
多少融通のきかない所もあるけど、そこは誘導してやれば大丈夫だろ。女の扱いについてもリードしてやるもんだと教えれば案外スムーズにいくんじゃねぇか?」
「……そう言われてみると、ちょっと良いような……」
「まぁ頼りになるのはなるよね、クラス委員長だし」
「長谷川が言うように誘導してなんとかなればいいけど……正直、真面目すぎて手をつなぐまで何年もかかりそう」
芦戸の言葉にA組女子たちが頷き、それに拳藤は冗談だろと笑った。
「アハハッ!いや流石にそんな訳ないだろ!……え、マジで?」
「飯田くんは純粋ハイパー真面目だから」
真面目な顔で頷いたA組女子たち。千雨の評価を聞いた上で飯田は有りか無しかと言われるとギリギリ無しという微妙な判定となった。
そして話はそのまま、クラスの男子を恋人にするならという話へと変わっていった。
「それじゃあ緑谷は?長谷川の評価気になる」
「っ!」
芦戸が千雨にそう訊ねたのと同時に、麗日は必死に高まる動悸に耐える。一方で千雨は眉間に皺を寄せて嫌そうな顔をした。
「緑谷は個人的に腹立つからなんとも言いにくいんだが」
「あ、そういえば今日なんか怒ってたっけ」
「今まではそうでもなかったし、むしろまぁ……なんだ、ある程度の評価はしてたぜ?
見た目に似合わず向こう見ずな無茶をしてでも危機に対して逃げたり諦めたりせずに立ち向かおうとする所とか、あいつの持つ人を救けようと思う心の強さや分け隔てない優しさなんかをな」
「ああ……私はクラス違うからよくわかんないんだけど、なんとなく分かるな。
体育祭じゃ地雷使った大胆な戦法を使ったり、かと思えばノーガードの殴り合いしたり、すごい無茶して戦って。かと思えば廊下とか食堂とかで見かけると体育祭とは真逆の気弱っつーか優しそうな印象なんだよな」
千雨の評価に確かにと頷く拳藤。麗日も何か言いたそうにしているが、うまく言葉に出来そうになくて「うー……」と唸る。そんな麗日の代わりに蛙吹が口を開いた。
「そうねぇ……私から見た緑谷ちゃんは……すごく努力家だと思うわ。日々感じる全てをヒーローになるために活かそうとしているわ。失敗しても、その失敗も糧にするような」
「……うん。デクくんを見てると、私ももっとがんばろうって思えるよ!」
蛙吹の言葉に続けるようにして話す麗日。まるで自分のことのように嬉しそうにしている麗日の笑顔を見て、拳藤はニッと笑みを浮かべた。
「周りにそういう気持ちを思い起こさせるって、いいね」
「うん!」
「ところで、千雨ちゃんは緑谷ちゃんの何に怒ってたの?」
「……あいつの善意でお節介焼きすぎる所がちょっとな。改善出来そうにもないならやめさせようと思って。
ま、私にキレられて考えを簡単に曲げたらそれはそれで意志薄弱で腹立つから、そこで考えを曲げないって言ったことは評価する。が、それはそれで私の忠告無視してて腹立たしい」
「えーっと……考えを曲げても曲げなくても腹立つってそれ矛盾してない……?」
「長谷川だからなぁー……」
「複雑な御心ですのね」
「ん」
飯田へされた客観的な評価とは逆に私情が大きく影響している緑谷の評価に、馬が合わないんだなと拳藤たちは納得した。
そんな話をしていたところで芦戸が付け加えた。
「あ、あと緑谷はすんごくオールマイトオタク」
「彼女のデートと、オールマイトの握手会だったらオールマイト取りそう!」
「容易に想像できますわね」
「むしろ、デート先がオールマイトの握手会だろ」
「確かに」
「え?オールマイトと学校で会えるのに……?」
首を傾げる柳に芦戸が深く頷く。それが緑谷という男である、と。誰一人として否定できず、容易に想像出来る。それほどまでのオールマイトオタクであるのだ。
合宿初日の魔獣の森の前にバスの中でオールマイト関係のマニアックすぎるクイズを一般教養から少し外しただけだよと言わんばかりの態度で出題したほどである。
「彼氏としては無い」
「ん」
バッサリと柳が言い切り、小大が頷く。それに対して麗日は安心するような、歯がゆいような、なんとも言えない微妙な表情を浮かべた。
「個人的には緑谷よりまだ爆豪の方が良いかな」
「うそぉ!あれこそ無いでしょ!」
千雨の言葉に耳郎がはっきりと言い放った。
「爆豪は確かに成績優秀で将来有望……だけど、あの性格じゃん」
「まぁな。プライドが高過ぎるし、短気だし、誰彼構わず暴言吐くし、暴力的なところはクソだし、中身が小学生のガキだし。
素直に褒められるところなんざ顔立ちと成績くらいだ」
「けちょんけちょんに言うね……」
「ん」
「けど、考えとか価値観がハッキリしてるし、根っからの悪い奴じゃねぇからな。
もう少しあいつ自身が大人になって視野広げて多少なりとも処世術身に付けて丸くなれば、周囲からの評価もかわるんじゃねぇか?」
「丸くなる爆豪くんて……それ爆豪くんなん?」
「まぁ、低俗な暴言だけでも直して欲しいですわね」
八百万の低俗という言葉で、その場の全員の脳裏に同じ人物が思い浮かんだ。そして口を揃える。
「峰田よりはマシだけど」
「ん」
全員共通して峰田が女の敵であることに、みんな顔を見合わせて吹き出す。
B組は峰田の覗き被害にあっていないが、それでも入浴時間の変更が峰田が覗き行為を未遂とはいえしたからと知って、蛇蝎の如く嫌っていた。被害の有無を問わず、女の敵は許されないのだ。
「峰田に比べたら、誰だってマシだよ~!」
「だよねぇ~」
「あ、そういえばB組に峰田みたいなのっているの?」
「いないいない。ウチの男どもはわりと硬派だよ。物間は……ちょっと硬派とは違うけど」
「物間は……」
「ん」
「……物間だからなー……」
「ん」
柳が説明になっていない説明をした。B組ではA組への対抗心を拗らせて嫌味を言うあの状態でも、そのまま物間であるとして受け入れられている。A組を敵視している物間がいるからこそ、B組の対抗心に火をつけて団結力を高めることが出来るのだろう。余計な火種を持ち込む存在でもあるが、やる気を起こさせ団結の要にもなる存在であった。
その後も女子一同で男子に対する評価を一通り話したところで、柳がジッと千雨を見る。
「どうかしたか?」
「長谷川と拳藤ってちょっと似てるなと思って。髪色もなんかちょっと近いし、男勝りの頼れる姉御肌だし、話してても似てるなって」
「ん」
「確かに」
「そうか?」
「似てないと思うんだけど」
柳の言葉に本人たちは不思議そうな顔をしていた。
髪色が似ていると呼べなくもないが、千雨の方はオレンジと言うには淡くて黄味がかったピンクであり、拳藤の方は鮮やかなオレンジだ。また、今は風呂上りで髪をおろしているとはいえ、千雨の方が長い。
性格に関しても、千雨は拳藤の方が自身より明るく爽やかで快活だと思っており、拳藤は千雨の方が自身より威勢よくてカリスマ性があると思っていた。
「お二人とも大変しっかりしていらっしゃいますし、似ていらっしゃるかと」
「二人の事を知ってるヤオモモが言うと説得力あるかも」
「えー、じゃあ拳藤さんもモテるんじゃない?」
「へっ!?いやいや無いって!」
目を丸くしてから否定する拳藤に、小大も「ん」と頷いた。
「B組で一番カッコいいのは一佳だよ」
「確かに。拳藤さんの一言でクラスがビシッとまとまりますしね。誰にも公平で、厳しく、それでいて温かい……中々出来ることではありませんわ」
「ええ。私も職場体験の時にさりげなくフォローしてくださいましたわ。拳藤さんがご一緒でなかったら、もっと落ち込んでいたかもしれません」
「いやあん時はお互い様だって。つーかやめて、テレんじゃん」
小大、塩崎、八百万から褒められて全員から注目されて、気恥ずかしそうにする拳藤。
「本当は告白されたことあるんじゃない?」
「無い無い!そういうのに縁なかったし!」
「あ、でも後輩とかから尊敬されてそうだよね!」
「わかる!私も中学の時に頼りになって尊敬してる先輩いたっけ」
きゃあきゃあと盛り上がる面々の中、話題の中心に据えられて複雑そうな顔をする拳藤と、それに対してお疲れ様と言わんばかりの微笑を浮かべている千雨。
千雨の表情から、根掘り葉掘り聞かれるのが嫌で話題を麗日に逸らしてそのままクラスの男子への彼氏にするのに有りか無しかの話に持っていったのかと拳藤は納得し、同じように話題を逸らそうと拳藤はチラリと八百万を見た。
「それを言うなら、八百万だって男女問わずにモテるでしょ」
「わ、私ですか!?」
「私と一緒にウワバミさんのところでCM出演したんだし、登下校の時や休日に声掛けられたりしてるんじゃない?」
「確かに!」
「そ、そのような事はありませんわっ!」
「ヤオモモ、美人で才女で文武両道のお嬢様だもんねぇ」
無事に話題が八百万に移りみんなに話題提供する犠牲者が増えたところで、拳藤と千雨は黙ってうなずき合う。
これは必要な犠牲だったのだと。全員が自分以外の話を聞いて一喜一憂したいのだからどうせ同じ目にあっていた、と。
周囲に似てると言われたのが何となく分かった気がした二人だった。
その後もA組女子の部屋で行われている女子会はB組で途中参加の角取、取蔭、小森も加わり、盛り上がっていく。途中で芦戸が補習の時間になって涙ながらの途中退席をしたり、外から大きな爆発音が聞こえたり先生たちの声もしたが、男子たちが怒られているのだろう。
ヒーロー志望でも、女の子。時に辛辣に、時に愛嬌に満ちて、尽きる事のない楽しい女子会は続くのだった。
その同時刻、すぐそばまで闇が迫っていることに気付くことなく。
昼間の太陽の熱がすっかりさめて涼しげな風が木立を吹き抜けて枝葉を揺らす。
僅かな月光のみが照らす闇夜の中で煌々と外灯が照らされている山荘は、遠くから見るとそこだけが明るかった。
山荘とその周囲を一望出来る小高い崖上に真夜中にも関わらず人影が四つ。
「ああ、うずうずする……!いるんだろ!?なぁ!?俺ァ早く本気の眼で殺し合いをしてぇんだよ!」
「私も早くお友達になりたいです」
「まだ尚早。それに、派手なことはしなくていいって言ってなかった?」
「ああ、アイツ急にボス面始めやがってな」
ボス面という言葉で、四人の脳裏には一人の白髪の男が浮かんでいた。いくつもの手の形をした装飾を付けた痩身で猫背の男。彼らを集めた男。
ヒーロー殺し・ステインが所属していたという敵連合のリーダーを。
「今回はあくまで狼煙だ。
虚に塗れた英雄たちが、地に堕ちる。
その輝かしい未来の為のな」
隠れるような事すらせずに平和を享受している者たちのいる山荘を見ながら、わざとらしく仰々しい言葉を焼けただれた肌をさらす黒髪の男が吐いた。
役者のような言葉遣い。しかしそこには確かに、贋物の英雄と社会への尽きぬ悪意が宿っていた。
「ていうか、これ嫌。可愛くないです」
「裏のデザイナー・開発者が設計したんでしょ。見た目はともかく、理には適ってるハズだよ」
「そんなこと聞いてないです。可愛くないって話です。
お友達になりにいくのに可愛くないなんて嫌です」
四人の中にいるカーディガンにセーラー服の少女と学ランの少年は、学生服の他に怪しげな装備を身に付けていた。文句を言う少女は口元を覆うゴツいマスクにネックウォーマーのようなものと注射筒のようなものが左右に三つずつ。
少年はガスマスクを被っているため、余計に異様だった。
そんな二人の横で、黒いマントに身を包んだ男が狂ったように叫んだ。
「どうでもいいから早くしろ!ワクワクが止まんねぇんだよ!目と鼻の先に相手が居るってのに、戦いをお預けされてるんだぞ、こっちは!」
「黙ってろイカレ野郎共。まだだ……決行は……」
焼けただれた肌をさらす黒髪の男がマントの男を制する。
「十人全員そろってからだ」
四人の後ろから、三人の人がやってくる。これで七人。
「威勢だけのチンピラをいくら集めたところでリスクが増えるだけだ。やるなら経験豊富な少数精鋭。
まずは思い知らせろ……てめぇらの平穏は、俺たちの掌の上だということを」
平和の裏側で蠢く闇を、欠けていく月だけが見ていた。
敵のシーンがほぼそのままになりそうだった(し、短すぎる)のでまとめて突っ込みました。
来年も!よろしくお願いいたします!