ひねくれ魔法少女と英雄学校   作:安達武

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今回はクラスメイトのターンです。ちう様もちょっとだけ出ます。


Reckless Plan

千雨がエンデヴァー事務所で護衛をつけてもらった翌日の午後。

襲撃の夜から2日が経過したその日、入院していた緑谷が運び込まれた病室で目を覚ました。

マスキュラーを倒すために100%を使った右腕は千雨が治癒した上に、火傷や擦り傷などの治癒もしてくれていた。とはいえ左腕の骨折はそう簡単に治るものではない。また、爆豪が拐われたことへの精神的なショックもあって高熱に魘され、その間にリカバリーガールが治癒をかけ、その回復のための疲労でも眠っていたのだが、今は何一つ意識になかった。

身体のあちこちを包帯で巻かれて左腕はギプスで固定されている。

 

緑谷が視線を動かすと、ベッドサイドのチェストに櫛切りにされたリンゴが盛られた皿があり、そばには見慣れた母の字で『起きたら食べて電話して下さい』と書かれたメモがある。

 

目覚めたばかりで色々と受け止めきれていない緑谷はぼうっとした眼差しでそれを見ていた。

すると、聞き慣れた声が聞こえた。

 

「あー緑谷!目ぇ覚めてんじゃん」

「え?」

「テレビ見たか!?学校いまマスコミやべーぞ」

「春の時の比じゃねー」

「メロンあるぞ、皆で買ったんだ!デカメロン!」

 

部屋を覗いて緑谷が起きているのに気付いた上鳴の声につられてか、ゾロゾロとA組の面々が緑谷の見舞いにやってきた。A組みんなで来てくれたのかと訊ねる緑谷に飯田が答える。

 

「耳郎くん葉隠くん、それとB組の生徒のうち敵のガスによる攻撃を受けたのを長谷川くんが治療したものの、全員大事をとって入院している。耳郎くんたち二人もB組も、昨日丁度意識が戻ったそうだ。

そして八百万くんも、頭を酷くやられたのを長谷川くんが治療したが、一応検査入院している。

だから来ているのは……」

「……()()()だよ」

「爆豪いねぇし、長谷川も連絡つかねぇからな」

「ちょっ轟……」

 

目覚めたばかりの緑谷にハッキリと言う轟。それを聞いて緑谷はじわじわと胸の奥から溢れ出てくる気持ちを口にした。

 

「……オールマイトがさ……言ってたんだ。手の届かない場所には救けに行けない……って。

だから、手の届く範囲は必ず救け出すんだ……」

 

合宿前に聞いたことを思い出し、そして襲撃の夜の最後の記憶を思い出し、見上げていた天井が涙で滲む。

 

「僕は……手の届く場所にいた。必ず救けなきゃいけなかった……!僕の"個性"は……その為の"個性"なんだ。

相澤先生の、言った通りになった……」

 

入学初日に行われた"個性"把握テストで言われた「おまえのは一人救けて木偶の坊になるだけ」という言葉。

あの時はただのボール投げだった。しかしその言葉の通りになった。緑谷は情けなさと悔しさで流れる涙ごと、動かせる右腕で顔を隠す。

 

「体……動かなかった……!」

「じゃあ今度は救けよう」

 

悔しさに涙する緑谷に対して何でもない事のように言った切島に、クラスメイトたちは驚いて切島を見た。集まった視線を受けて切島は話し始めた。

 

「実は俺と……轟さ。昨日も来ててよォ……」

 

 

緑谷の見舞いに来る前日。夜間に襲撃のあった合宿所から病院へ移動して手当てを受け、入院を要する生徒以外は朝一番に安全のため家に帰らされた。そんな中、切島は一人で病院に引き返してきていた。

そして病院のロビーに見知ったクラスメイトが居ることに驚き声を上げた。

 

「轟!?何でお前ここにいんの!?」

「お前こそ」

「俺ァ……その……なんつーか……家でジっとしてらんねーっつうか……」

 

切島は首の後ろをかきながら視線を泳がせた。

襲撃の時に切島は補習のため合宿所におり、ブラドキングに止められて襲撃を受けていた仲間たちのもとへと助けに向かうことが出来なかった。そのことを悔やんで、家でじっとしては居られなかったのだ。

 

「…………そっか。俺もだ」

 

轟もまた切島と同じ気持ちだった。襲撃の最後のあの瞬間、轟は爆豪奪還にあと一歩及ばず目の前で拐われたことがずっと心に残っていたのである。

その後、二人で入院している葉隠、耳郎、八百万、緑谷の病室を見舞っていたところ、オールマイトと警察が額に包帯を巻いている八百万と話しているところに遭遇した。

 

「B組の泡瀬さんに協力頂き、敵の一人に発信機を取り付けました。

これがその信号を受信するデバイスです。捜査にお使い下さい」

「……期末試験の前、相澤くんは君を『咄嗟の判断力に欠ける』と評していた。

だがこれは素晴らしい成長だ!ありがとう、八百万少女!」

「級友の爆豪さんと親友である千雨さんの危機に……こんな形でしか協力できず、悔しいです」

「その気持ちこそ君がヒーローたりうる証だよ。

後は私たちに任せなさい!」

 

オールマイトが力強くそう言って警察と共に去っていく。それを聞いていた二人は考えたのだ。

 

その受信デバイスを八百万につくってもらおう、と。

 

その作戦を聞いた飯田は保須で飯田自身が犯した出来事を思い出して声を荒げた。

 

「オールマイトの仰る通りだ。プロに任せるべき案件だ!

生徒(おれたち)の出ていい舞台ではないんだ、馬鹿者!!」

「んなもんわかってるよ!!でもさァ!

それでも俺ァ、何も出来なかったんだよ!ダチが狙われてるって聞いても!なんっっも、出来なかった!!しなかった!!

クラスの奴らが倒れてる時も!ダチが拐われた時も!その後も!俺は、長谷川みてぇに役に立つなんて出来なかったんだ!

無力だったんだよ、俺は!!!」

 

あの時、切島は嫌というほどに突き付けられたのだ。

襲撃に何も出来ずに守られている自分を置いてきぼりにして、千雨は動き続けていた。プロヒーローの手助けをして、クラスメイトやB組を救けて、狙われているというのにも関わらず最善最良の結果を求めて。脅威が過ぎ去った後も、休まることなく。

クラスメイトとして同じ苦境、同じ訓練を乗り越えてきた仲間。その中でただ一人、何歩も何歩も先に駆け抜けているのを思い知らされた。

恐怖という暗闇の中で千雨は強い光だった。強すぎる光だからこそ――――切島の内側にあるものを照らしてしまったのだ。

それまで千雨に感じていた『凄ェ奴』なんてものではなく、その彼我の差、『己の無力さ』を。

 

「ここで動けなきゃ俺ァ、ヒーローでも男でもなくなっちまうんだよ!」

 

その切島の心からの叫びは、この場にいるクラスメイトたちにもよく分かるものだった。

クラスメイトたちも千雨との差を強く感じていたのだから。

 

「……切島、落ち着けよ。自分に何も出来なくて悔しい気持ちは俺だってわかるし、こだわりもわかる。でも、今回はさ……」

「飯田ちゃんが正しいわ」

「飯田が、皆が正しいよ!でも!なァ緑谷!!

まだ手は届くんだよ!

救けに行けるんだよ!」

 

切島から提示された、まだ手元に残っている可能性に緑谷はベッドから体を起こして切島を見る。その顔に僅かな迷いを滲ませつつも、悔しさで流れていた涙は乾いていた。

 

「……えっと……つまりヤオモモから発信機のヤツ貰って、それ辿って……自分らで爆豪の救出に行くってこと……!?」

 

突拍子も無さすぎる切島の計画に芦戸が自身の言葉で話を整理した。それに轟が頷きながら補足をする。

 

「敵は俺らを殺害対象と言い、爆豪は殺さず攫った。生かされるだろうが、殺されないとも言い切れねぇ。

俺と切島は行く」

「ふっ―――ふざけるのも大概にしたまえ!」

「まて、落ち着け」

 

爆豪の安否も分からず、さらには自分たちが殺害対象であるにも関わらず行くと言いきった轟に対して激昂する飯田を、障子が制止した。

 

「切島の『何も出来なかった』悔しさも、轟の『眼前で奪われた』悔しさもわかる。

俺だって悔しい。……だが、これは感情で動いていい話じゃない」

「オールマイトに任せようよ……戦闘許可は解除されてるし」

「青山の言う通りだ。

そして話の途中だが、俺からも一つ……全員に伝えなければならない事がある。長谷川のことだ」

「!」

「長谷川くんの……!?」

 

この場に居ない上に連絡のつかない千雨のことと聞いて、全員の視線が常闇に集まった。

 

「今朝、長谷川から俺に連絡が来た。どこにいるかは言えないが、プロヒーローに保護および護衛されているそうだ」

「保護に護衛……」

「長谷川は拉致を免れたとはいえ、爆豪同様に狙われていたからな。

その長谷川から皆への伝言がある」

 

静まり返った病室で常闇はポケットからスマホを取り出し、千雨から送られてきたメッセージを読み上げる。

 

「『A組全員へ。学校、警察、ヒーロー、家族、および社会の全方位に大迷惑だから勝手に動くな。各自退院したら自宅待機していろ』」

 

それはまさしく、勝手に動こうとしていた切島と轟に向けているものだった。千雨の伝言に切島はムッと顔をしかめる。迷惑をかけるなんて理由では引き下がれないのだろう。そんな切島を無視して常闇は言葉を続けた。

 

「『でもだのだってだのと、見苦しい言い訳はするなよ。お前らがやろうとしてることは無免許者による公務執行妨害に繋がる。良くて停学、悪けりゃ退学。除籍処分もあり得る。前科が付く可能性もだ。

これからも雄英でヒーローを目指したいのなら()()()()()()()()()()()は理解しておけ』」

 

スマホ片手に伝言を読み上げていく常闇。その内容に誰かが息を呑んだ。

千雨の伝言は爆豪の救出に行きたい切島たちへの、単なる脅しでも罵倒でも感情の叫びでもない。

ここでA組の生徒が悔しさと救けたいという感情のまま動いた場合に()()()()()()()()()()()()()()をしていた。

 

「『そもそも、爆豪の救出をしたいと思っても、それは無免許で未成年で学生のお前らがしなくちゃならない事じゃねぇ。

私もお前らも本物の敵と戦った経験は確かにある。だが、今回は()()()()とはワケが違う。自己防衛の範囲でもなけりゃ、緊急時の一般人でもないし、私有地でもねぇ。それにイレイザーヘッドの戦闘許可も解除されてる。

それに、お前らが怪我するとか将来どうなるかだけじゃねぇ。勝手に動いて一般人やプロの仕事に何かがあってからじゃ遅い。

爆豪と私のことは大人を信じて待て』

……以上だ。俺も、長谷川の意見に同意だ。どれほど悔しくとも、救けに行きたくとも、資格の無い今の俺たちには動いていい大義名分は無い」

 

USJでは自己防衛のため、I・アイランドでは緊急時のため、林間合宿では私有地で戦闘許可があったため。これまでは合法となる範囲、目を瞑ってもらえる範囲での活動だった。

しかし、今は違う。襲撃の現場から被害者として救助された無免許の未成年であり、爆豪の拉致は警察やプロヒーローたちが活動する事件として扱われている。

勝手な行動をとり現場に赴いて許される状況ではない。それは間違いようもなく、違法行為なのだ。

保須やI・アイランドで千雨が怒られないように動いてくれた事を知っている一部のクラスメイトは尚更黙るしかない。

 

「皆、爆豪ちゃんが攫われてショックなのよ。でも、冷静になりましょう。

どれほど正当な感情であろうと、また戦闘を行うというのなら――――ルールを破るというのなら、その行為は敵のそれと同じなのよ」

 

『敵のそれと同じ』という蛙吹の言葉に、全員何も言えず病室は静まり返った。千雨の伝言も含めて、全員が避けていた言葉をハッキリと言ったからだ。

"個性"を許可なく使用し人々に害をなす敵を捕らえるのがヒーローの仕事。そんなヒーローを目指している自分たちが敵と同じ行動をしていい筈がない。

たとえ、どれだけ悔しくとも。どれだけ救けに行きたくとも。切島の気持ちが痛いほど分かっていても。

 

そんな重苦しい空気は、緑谷の診察に医者が来たことでかき消され、見舞いに来ていた面々は部屋を後にしていく。

その中で切島は声をひそめて緑谷に話した。

 

「八百万には昨日話をした。行くなら即行……今晩だ。

重傷のおめーが動けるかは知らねぇ。それでもおめーを誘ってんのは、おめーが一番悔しいと思うからだ。

今晩……病院前で待つ」

 

それだけ伝えて切島もまた緑谷の病室を後にし、緑谷も医者に連れられて整形外科の診察室へと移動していく。

 

その場にいた全員が気付いていなかった。黄色くて小さいネズミに似た存在が彼らのそばに居たことを。

 

 

 

同時刻。

今回の事件の対策本部が設置されている警察庁へエンデヴァーと共に車で移動している千雨は後部座席で電子精霊と共有していた聴覚情報に下唇を軽く噛む。

 

「……あの問題児ども……」

「どうかしたか?」

「ああいえ……これからの事を考えてて」

 

千雨の前の助手席に座っているエンデヴァーになんでもないと誤魔化した千雨。入院することとなった四名含め、クラスメイトたちの安全を心配して電子精霊を一体だけ病院に忍ばせておいたのだが、とんでもない情報を得てしまって頭痛を覚える。

実は千雨が常闇に伝えておいた伝言は『バカなことをしようとする奴が居たらそれを阻止するために伝えてほしい』というメッセージと共に常闇へ送っておいたのだ。まさか本当に非現実的で杜撰で無謀な計画を立てているとは思っていなかったのである。

 

切島と轟。そして誘われている緑谷と計画の要である八百万。動くとしたらこの四名だ。

まず切島(バカレッド)は本人の発言通り爆豪救出のために行動する方向に振り切れているのは確定。USJの時からなんとなく察していたが、言い逃れ出来ないまでに熱血単細胞の問題児である。

轟は切島よりも日頃から冷静かつ判断力も高いのだが、一度やると決めたら曲げない頑固な部分があるため、切島と行動すると決めたのを無しにはしないだろう。飯田やクラスメイトたちが改めて二人を止めるだろうが、絶対にこの二人は意思を曲げない筈だ。

緑谷は切島が最後言っていた通り、今回の爆豪拉致に対して一番後悔と責任を感じている。切島の無謀な誘いに乗るのは火を見るよりあきらか。

とはいえ、いくら切島、轟、緑谷の三人がやる気であっても、発信器の受信デバイスを創れる八百万が手を貸さなければ切島たちの無謀な計画は実行不可能となる。八百万ならば切島の計画を理性的に否定してくれるだろう。

それで計画が実行できず切島たちに未練や悔恨が残ったとしても、身勝手に動けないのが正しいのだ。その悔しさを覆せない違法行為で晴らしてはいけない。

 

だが、もしも。もしも、八百万が三人に説得させられるなどで手を貸し、彼らが動いてしまった場合。

 

「その場合は塚内さんが説明してくれるであろう作戦内容次第。

……ひとまず継続とバカレッドのGPS……あとはデータ更新に見せかけて仕込みをするとして……後先ちゃんと考えてるとは思えねぇし……」

 

千雨はぶつぶつと時々呟きながらあらゆる可能性からすべき事を決めてスマホを操作して電子精霊たちに命令を下していく。

その間にも千雨たちを乗せた車は目的地である警察庁に近付いていった。

 




ちう様の行動がクラスメイトの心に深く突き刺さって、その反動で切島が決断してしまいました。これは問題児。
そしてバッチリしっかり盗聴していたちう様。クラスメイトたちの安全や回復などを気にして電子精霊を忍ばせていたのに、トンデモ計画を聞いて暗躍する仕事が増えてるよ!ちう様、頑張れ!

茶々丸「ところで、千雨さんの親友枠(私の独占枠)を侵害された気がするのですが?」
……キノセイダヨ!

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メッセージで何人かから質問いただいてますが、物語の展開上で明かせないものがあるのと、メッセージというクローズドな場所で答えるのはどうなのかと思い、今後は返信しないようにします。マシュマロやTwitterなら過去回答が誰でも見れて質問被りもないので。
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すまんな!!!!

匿名でのメッセージはこちらで受け付けてます。
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