私は真っ直ぐ続く廊下を、案内役のしずな先生と共に歩いている。
時期は10月半ば。転入生が入ってくるにしては微妙な時期だ。
何故私がこの季節に転入してきたのか。それは私の仕事の為のものだ。
何を隠そう、私はこの世界の人間ではない。
私の正体は第一管理世界ミッドチルダにおいて設立された次元管理局の嘱託魔導師である。
私がこの世界に来た理由は、本来魔法文明の存在しないはずである第97管理外世界でその存在が確認された未知の魔法の調査分析だ。
その為に私はこの世界の現地協力員の伝手でその未知の魔法の痕跡が多く残るこの学園都市で女子中学生として転入する事となった。
そう。女子中学生として転入する事になったのだ。
別に今更学生として転入しなくてはならない事に問題がある訳じゃない。
というか私の年齢ではこの世界、現地国名【日本】ではまだ義務教育期間なので学生として転入する事に対しては問題ない。
なら何が問題なのかと…「着きましたよ」…あ。
いつの間にか私が転入する筈の教室まで着いてしまっていた。
教室の入り口上部には【2-A】という札が付けられていた。
私は教室の戸に嵌め込まれたガラス窓から中を伺う。
当たり前だが、教室内には学年相応と思われる女生徒達ばかりがワイワイガヤガヤと騒いでいた。
いや、一部学年相応に見えない人もいるが…。
「あら、緊張しているのかしら?大丈夫よ、皆明るくて良い子達ばかりだから」
教室内を伺っていた私を、しずな先生は少々的外れ気味に励ます。
しずな先生は私の顔を窺ってから私の肩に手を当てて、促す様に押しながら教室の戸を開けた。
しずな先生が教室に入った事に対して中の女生徒達は慌てながら席に着く。
勿論その時、先生と共に入ってきた見知らぬ存在である私に対して見入る様な視線を送る事は忘れずに。
「皆さん、転入生を紹介します。では、自己紹介を」
しずな先生は私にそう話を振り、耳元で私しか聞こえないであろう程度の小声で「頑張って」と言った。
シンッとする教室内。そして私へと集まる視線。
私は小さく静かに深呼吸をし、意を決して口を開いた。
「は、はじめまして。ルクレール・八神です。歳の近い人達にはルークと呼ばれています……よ、宜しくお願いします」
そう言って私は深くお辞儀をする。
何も反応が無かった。ちょっと声が上擦ってしまったし自分としても思っていたより声が出ていなかった様に思える。
もう一回言わなきゃ駄目かな?そうだったら嫌だな。実際、こんな大勢の人の前で自己紹介をするなんてあまり例が無い。
正直、少し気恥ずか「か…」―――え?
「「「可愛ーーーいぃ!!!!」」」
へっ?
教室に響き渡り、尚且つ窓ガラスが僅かに振動を起こす程の声量で彼女達は口を揃えたかのようにそう叫んだ。
「何処から来たのー?」
「八神って事はもしかしてハーフ?」
女生徒達は席を立ち、呆気に取られる私を取り囲むようにして口々に疑問をぶつけてきた。
「お止めなさい皆さん!八神さんが困っているでしょう!」
「えー?いいじゃんいいんちょー」
【いいんちょー】と呼ばれた人がクラスの皆を諌める。
諌められた当人たちもある程度不満は残る様だが口答えしつつも私の周りから引いていった。
何となくだけど友好的ではあると見ていいのだろうか。
まあ、唯一の問題さえ露見しなければ話だが。
こうやって女生徒達と学園生活を送るに当たってこの問題だけはどうしても彼女たちには知られる訳にはいかない。
もし知られるような事があれば、それは即ち調査が失敗に終わる事は元より私個人に対して甚大なる被害があるだろう。
そうなれば私は破滅だ・・・。
その問題とは私が・・・いや・・・
僕が実は男だという事を。