声のした方へ振り返ると、そこには背の高い女生徒さんがいました。
「えっと貴方は・・・・・・」
「龍宮 真名。好きに呼ぶといいよ」
「あ、はい。では真名さんと」
面と向かっては言いませんが、朝廊下から教室内を見た時に結構最初から目に付いていました。
だって、正直中学生とは思えない位大人びて見えましたから。
「ああ、それでいいよ。というわけで近衛、八神は連れて行くよ」
私がそう名前を呼ぶと真名さんは私の背を軽く手押し、木乃香さんに了承を得ました。
「あ、うん。真名ちゃん、ルークの事お願いな。それと・・・・・・」
木乃香さんは言葉を濁らせ、そしてやや蹲ります。
何か言い辛い事でもあるのでしょうか。
「ん?なんだい」
「せっちゃんによろしゅう言うといてな。じゃ、二人ともおやすみな」
せっちゃん。木乃香さんのご友人の名前でしょうか。
というか別に真名さんに伝言を頼むような事をしなくても、ご自分で言葉を伝えればよろしい様な気もします。
もしかしたらそのせっちゃんと言う方と何かあったのでしょうか。まあ、初対面の私が気にしても仕方が無い事でしょう。
木乃香さんと別れて、私たちは寮へと向かいました。
その途中、私は真名さんにちょっとした事を聞かれました。
「八神、君は何か武道でもしているのかい?」
「えっ!―――えぇ、まあちょっとした護身術の様なものを嗜んでいますが・・・・・・・」
その質問自体にちょっと驚いた。一応剣術を始め、ストライクアーツや古武術を少々嗜んでいます。
というかどうして分かったのでしょうか。
「やはりか。君の一挙手一投足に武道をしている人間特有の動作を感じてね。多分気づいたのは私だけじゃないと思うよ」
「――――――」
まさか日常の動作だけで知覚されるとは思っても見ませんでした。
中学生とはいえ侮れません。さすがはなのはさんやはやてさんの出身世界だけはありますね。
「明日から大変かもしれないよ。この学園には結構武闘派が多いからね。今日も古菲が勝負を仕掛けようとウズウズしていたよ。さすがに初日はやめておけと窘めたがね」
「争いは嫌いです・・・・・・どうにかして回避できませんかね」
「戦略的撤退も一つの手だが、もしくは二度と向かってこない様に完膚なきまでに叩き潰すのもありかな」
命を取り合うような争いではないにしても誰かを、ましてやクラスメイトを傷つけるなんてしたくありません。
これは明日から戦略的撤退として走り回らなければなりませんね。
平穏に送る事が出来ないかもしれなくなった明日からの生活に涙しある程度の諦めもついた頃、私たちは寮の部屋に着きました。
「じゃあ、お邪魔します」
そう一言断って部屋に入ろうとしたその時、真名さんは私の肩に手を置いて言いました。
「おいおい、これからは君の帰る部屋でもあるんだぞ?」
「・・・・・・ただいまです」
「ああ、おかえり」
何だか気恥ずかしくなりますね。
室内に入ると、先に帰っていたのでしょうかもう一人のルームメイトの姿がありました。
「刹那、帰っていたのか。八神、彼女がこの部屋のもう一人の住人で桜咲 刹那だよ」
「ルクレール・八神です。宜しくお願いします、桜咲さん」
もう一人の先住人である桜咲さんに対して、私は畏まって挨拶をしました。
それに対して桜咲さんは無言で軽くお辞儀を返してくれました。
「あの、桜咲さん何かあったんでしょうか?」
私は小声で真名さんに尋ねました。
「いや、気にしなくていいよ。刹那はいつもあんな感じだからね。それと今から野暮用があってね、それに対して神経が高ぶっているんだよ」
「もう夜ですよ?こんな時間に桜咲さん何処に行かれるんですか?」
「ちょっとした学園内の見回りのバイトだよ」
学園の見回りバイト。その言葉に私はある疑問が浮かびました。
本来見回り等はその為に雇われた警備の者がする事だと私は思っています。
それを何故かこの学園では在学中の生徒を雇ってさせている。
本来は教育機関では生徒の安全を第一と考えるのが普通だと私の知識の中にはあります。
ですがこの学園ではもしかしたら何らかの危険が伴う可能性のある見回りを生徒にさせている。
その事が私の中で妙に引っかかります。
「見回りですか?夜に女の子だけでですか?危ないですよ」
「大丈夫だよ。こう見えても私も刹那も学園内に結構いる武闘派の一人なんだ」
「ですが・・・・・・」
「心配は無用だよ。それより、これからちょっと刹那と今日の見回りについて打ち合わせがある。良かったらその間にシャワーでも浴びたらどうだい?多分その間に準備を済ませて出て行ってると思うから、先に寝ていてくれても構わないよ」
「分かりました。でも、気をつけて下さいね」
これ以上の心配は逆に非礼になると思い、くれぐれもとだけ告げて私は洗面所が併設された脱衣所へと入ってドアを閉めました。
私が脱衣所へ入るとほぼ同時に、外の二人は話を始めます。
それを待っていた私は、息を殺し気配を殺してドア越しに二人の会話を盗み聞きし始めました。
「―――侵入―――西―――術師―――式―――」
ドア越しの為、殆ど聞こえませんが何やら興味深い単語が耳に入りました。
この世界の魔法を調査する為に来た私にとってこの事は好都合です。
そのまま息を殺していると、二人が部屋から出たであろう物音が聞こえ、私は脱衣所のドアを開けました。
案の定、二人の姿は既にありませんでした。
さて、こちらも調査開始と行きましょうか。
まずは二人の後を追う事が先決です。ですが、二人が何処に行ったのかは皆目検討もつきません
とりあえずは周辺の魔力反応を探ってみる事にします。
という訳で私は部屋から出て広範囲を見渡せる場所、寮の屋上に行く事にします。
「―――ステルス起動」
私は屋上に上がると、まずは自分の魔力反応を抑制する非索敵魔法を起動しました。
どういった物かはまだあまり分かっていませんが、この世界のこの周辺の魔法使いに私の存在が知られては調査任務がやり難くなるかもしれません。
用心に越した事は無いでしょう。
「
二人から発せられていた気のパターンは既にデータとして得ています。後はこの索敵で見つければ・・・・・・いました。
学園外れの森近く。二人揃って夜道を駆けています。
大体の位置は掴めましたし、そろそろ私も追いかけるとしましょうか。
――――――――――――
「斬空閃―――ッ!」
私は鬼を斬り捨てる。
「これで終わりっと」
乾いた破裂音が夜の森に鳴り響く。真名の方も片付いたようだ。
「大したこと無かったな」
真名が軽口を叩く。彼女としては仕事があればあるほど給金が増えるので今日の様な襲撃は寧ろ大歓迎といった所だろう。
「ああ、だが近頃は頻繁に襲撃モドキが起きている。此方の戦力を測っているのか、ただの挑発行為なのかは知らんが…怪しいな」
「刹那としては心配だもんな。大切なお嬢様が狙われているかもと気が気じゃないんだろう?」
「当たり前だ!私の全てはお嬢様の安全を守る事だ!」
「分かってるよ、すまなかった」
真名の言葉についつい熱くなってしまった。私には冷静さが掛けているようだ。精進しよう。
周囲に敵の気配が無いのを確認し、私達は森の外へと足を進める。
その途中、真名があの転校生の話を振ってきた。
「八神、お前の態度にちょっと引いてたぞ。折角同居人として挨拶してるんだ、仕事前だったとはいえもう少し愛想良く出来ないのか?」
「――――――」
仕事前に私たちの部屋にやってきたあの少女の姿を思い出す。
畏まって私に対して挨拶をしていた。
仕事前で神経が高ぶっていたとはいえ、あの態度は失礼にあたる。明日にでも一言謝っておこう。
だがそれよりもあの少女の事で少々気になる所がいくつかあった。
中途半端な時期に転入してきた事は勿論、動作の一つ一つに見え隠れする武道の痕跡、そして極めつけは私達と同室にされた事だ。
もし私達側の人間なら学園長からなんらかの通達があるはずだ。そうじゃないとしてもただの一般人ではないだろう。
油断は禁物だな。西からの刺客の可能性も否めない。
もしそうでありお嬢様を狙うのであれば容赦はしない。
「おい刹那、目を細めて一体何物騒な事考えて――――――っ!」
考え込んでいた私に声を掛けた真名が突然、視線を学園の方へと向けた。
「どうした真名、敵が残っていたのか?」
「いや、誰かの視線を感じたんだ」
「視線?学園長先生の遠見の魔法じゃないのか」
「いや違うな。魔力は巧妙なまで隠されていたしだったし遠見とは違う異質な魔力の流れを感じたんだ」
察知能力に長けた真名が巧妙と言うほどの魔力隠蔽能力に長けた術者は学園の魔法先生でも数えるほどは居ない。
そして異質な魔力の流れ。何だ、まさか西の術者が入り込んでいるのか?
「一応それは魔法先生達に報告しておいた方がいいな。とりあえず、皆に合流しよう」
「ああ、そうだな」
そういって私と真名は再び歩き出した。
――――――――――――
油断しました。まさかステルスを掛けているにも係わらず此方の魔法を察知する事が出来るなんて。
咄嗟に視線の先に待機させていた
それにしても、真名さんの察知能力もですが特に刹那さんの使っていた剣術には驚きましたね。
あの魔力生命体らしきものを切り払う効果を持った特殊な剣術。こちらも並行して調べていくことにしましょうか。
まだここに来て一日目なのに着々とデータが集まっていきますね。
これも日頃多少酷い目にあっている分、運がついて回っているのでしょうか。
真名さん、刹那さん。
すいませんが私の任務の為の調査対象になって貰いますよ。
さあ、私にドンドンこの世界の魔法を見せてくださいね。