しまった!一夏は一瞬そう焦ったが、直ぐに冷静さを取り戻し、艦の指揮を取る。
「面舵一杯‼180度完全回頭を確認の後、第三戦速!長門の横に滑り込め!」
それを聞いた高瀬大尉は驚きを隠せないまま一夏の指揮のもと回頭する艦の艦橋で詰め寄った。
「艦長‼何をしてるんですか‼」
「本艦隊の任務は山本長官が乗艦されている戦艦長門の護衛だ!敵の魚雷を受けてでも守るんだよ!」
それを聞いて放心状態の高瀬大尉をよそに一夏は通信要員に指事を出す。
「第ニ十八駆逐隊全艦に打電!『我、長門付近ニ敵潜水艦ヲ発見ス。本艦は長門ノ護衛ニ入ル、至急敵潜水艦ニハチノマイヲ実行セヨ』だ!」
それが打電し終わると、島風の艦橋から長門の中央部、弾薬庫付近に向かって長門の左舷7000m付近から三本の魚雷が向かうのが見えた。一夏はヤバイ!と感じとると更に無茶な指事をした。
「最大戦速!機関が壊れてもいい!全速力で長門の横に滑り込みせろ!!艦を盾にしてでも長門を守れッ!!」
それを聞いた操舵者の伊川三治(いかわ さんじ)曹長が一夏に意見した。
「艦長!それではこの艦から多大な犠牲が出ます!」
それを聞いた一夏はそうかもしれないと考え直し、新たに指揮を出した。
「駆逐隊朝潮に救助を頼め!総員退艦!」
そして総員退艦という言葉を聞いて放心状態から回復した高瀬大尉が質問してきた。
「それでは艦を動かす者が居なくなりますよ!」
「私がいる。なぁ~に、艦は動かせるしいざとなれば海に飛び込んで退艦するさ」
「しかし!?」
高瀬大尉は珍しく食いついてきた。
「命令だ。高瀬大尉、退艦して他の乗組員を指揮せよ」
「クソッ…わかりました。これより本官は退艦、他乗組員の指揮を執ります。…死なんで下さいよ、艦長」
それを聞いて高瀬大尉は渋々ながら引き下がってくれた。
「…勿論死ぬつもりは無い。生き残る為に行くさ…」
一夏は去り行く高瀬大尉の背中に向けそう呟いた。
それから最大戦速で進んでいた島風に朝潮が横付けし、乗組員達が退艦すると一夏は艦の舵を自ら握り、長門の横っ腹に滑り込んだ。
すると直ぐに島風の左舷に三本魚雷が命中した。そして島風は魚雷が命中した左舷に大きく傾き、転覆してみまったのだった。そしてその数秒後、艦中央部から真っ二つに折れて沈んでいった。
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これはあの海戦の後の話だが、一夏は捜索に来た駆逐艦夕暮に回収されたらしい。そして敵潜水艦はというと長門の攻撃を自分の艦を盾にして守った島風に恐怖を感じ、島風の沈没後直ぐに撤退していった。